「愛想がなく可愛くない」と捨てられた私、最強の竜騎士に拾われる。「その美しさに僕だけが狂わされたい」と、愛の重さでベッドから下ろしてくれない

唯崎りいち

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本編

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「やはり君とは結婚できない。俺の妻になるなら愛想が良くて可愛げがなければいけない」

 夜会の最中に王子が私との婚約を解消しました。

 私を置いて王子は人の輪の中へ消えていきます。

「やっぱり、あんなに愛想がなくては王子の婚約者なんて務まりませんわ」

 夜会に着いてすぐに、「冷たい令嬢」「愛想がない」と言っていた人達が、ほら見たことかと、ヒソヒソ声で囃し立てる。

 私は頭から血の気が引いて倒れてしまいそうな感覚に陥ったけど、倒れない。

 冷たく血が凍って身体が冷えていくのに、私の顔は何も変わらないのは転生前からだ。

 王子の横で笑っていればいいと言われていたけど、私はそれすら出来なかったの……。

 挨拶にくる貴族たちが私を見て気まずそうにしていた様子が思い出される。

 ガサッ

「!」

 夜会会場の外から不審な物音が聞こえた。

 私は、咄嗟に外へ飛び出した。

 心臓の鼓動が激しくなるけれど、物音の方へ気づかれないように近づく。

 冷たい金属が夜会の光を反射する。

 光を直接浴びて、背筋が凍り一瞬目を瞑る。

 一瞬だけだったのに、私の目の前の冷たい金属を纏った主が現れて、私の腕を掴む。

 ドックンと心臓が跳ね上がるけど、やっぱり顔には出ていないのでしょう。

「令嬢、夜会の会場はあちらです。こんなところで何をしているのですか?」

 竜の紋章の騎士が言う。

 竜を操るものの印を持つ鎧は圧倒的な威圧感がある。

 少し棘のある言い方は、私が怪しい人間に見えたかららしい。

「隣国の竜騎士様こそ、何故こんなところにいるのですか?」

 私は内心は竜騎士に怯えていたけれど、愛想のない表情の乏しい顔が、毅然とした表情に見えたのかもしれない。

「隣国より急な書簡があり届けにきたのです。夜会を中断させたくないと思い脇道を通ったばかりにあなたを驚かせてしまったようですね」

 確かに竜騎士は手には書簡を持っている。

「わかりました。私が案内しましょう」

「……夜会の最中にですか……」

 竜騎士は不審思ったようだけど、私は竜騎士の前を歩き出した。

「綺麗だ……」

 竜騎士の呟きが聞こえました。

 夜会の光が美しく、音楽がかすかに聞こえてきます。

 小さく王子の横顔が見えた。

 取り巻きたちと夜会を楽しんでいるようだった。

 本当に綺麗……。

 私は自分がもう戻れない場所の美しさに、ため息を吐くと、目に涙が滲んできました。



 城にいた当直の書記官の所まで竜騎士を案内して様子を伺います。 

「これは陛下へ直接渡す親書です。取次をお願いします」

 本当に隣国の使者だったようだけど、国王陛下への親書が夜会の最中に?

「令嬢、国王陛下への親書ならば、あなたもご一緒された方がいいのでは? 王子の婚約者なのですから」

 書記官はまだ私が王子の婚約者だと思っている。

 無理もないわ。

 婚約破棄されてまだ数十分も経っていないし、ここまで最短距離で来たんだもの、私以外に彼に王子が婚約破棄したと伝える者はいなかったでしょう。



「……と言うわけで、『愛想がなくて可愛くないから』と言う理由で王子に婚約破棄されました」

 私は淡々と事情を説明した。

「そんな! 夜会の最中に婚約破棄だなんて! この国の王子は何を考えているんだ!」

 意外にも私の話を聞いて一番怒ってくれたのは竜騎士だった。

 つられてか書記官も私を慰めてくれる。

「……竜騎士様、そんなに怒っては国王殿下に会うのに支障があるのではありませんか? 私は怒っていませんから、国王殿下の前で親書を渡すお手伝いをしましょうか?」

 竜騎士は兜で頭が覆われていて表情が読めないけど、呆れているような気がした。

「婚約破棄されたばかりで、相手の父親に会うんですよ、あなたは怒るべきだ! 怒るために行きましょう!」

 怒っている竜騎士様に手を引かれて、同じく感化されて怒っている書記官に案内されて、私は国王陛下の元へ行く。

 私の婚約破棄のせいで竜騎士が感情的になって何かトラブルが起こってはと思い同行を申し出ましたが、言わなければよかったかもしれません。

◆◇◆

「国王陛下! 隣国の使者と令嬢をお連れしました」

 書記官が国王に報告しますが、私の存在はそれほど大事ではないでしょう。

「何っ! 令嬢だと!」

 この国王の反応は……最短距離で、婚約破棄が伝わっているようですね。

「令嬢、息子の王子が大変な事をしてしまった。夜会で大勢の前で令嬢に恥をかかせて婚約破棄するなど……すまなかった」

 国王が私を見るなり駆け寄って、床に頭をつけて謝る。

「国王陛下、おやめください!」

 隣国の使者の前だし、書記官にだって国王のこんな姿は見られていいものじゃない。

「許してくれるのか、令嬢!」

「はい。国王陛下、私なんかよりも、隣国の使者様が来られているのですから、優先してください」

 国王は、今、使者に気付いたように、ハッと威厳を取り戻すような態度に切り替える。

 親書は夜会を狙い動いている敵国の者がいるとの警告だった。

 怒っていた竜騎士も国王が私に土下座したことで、怒りが立ち消えたみたいだ。

 国王が土下座するなど、よほどのことで私も驚いたし。

 王子を許すも何も、私のことを好きじゃないなら、結婚してもお互い罰ゲームになるだけだもの。

 夜会の最中でさえなければ、問題にならなかったことだわ……。

 胸に針が刺さったような鋭い痛みが走る。

 私は、いつでも傷付いたとは思うけれど……。

 竜騎士と話し終わって、国王が改めて私を見る。

「夜会で婚約破棄されるなど、令嬢の今後の縁談にも支障が出るだろう。実家にも悪い評判が及ぶ」

「はい、そうですね」

 私も国王も、今後のことはよくわかっている。

「……令嬢の名誉は回復されるべきだ。だが、あんなものでも王子だ。王子の名誉を優先するのがこの国のためなのだ」

「その通りだと思います。せめて実家に迷惑が及ばないように私は家を出ます。国王陛下には私より実家の名誉を優先していただきたいと思います」

 国王が了承しようと口を開く前に——

「国王陛下、ならば令嬢は私がいただきます」

 竜騎士が私を抱き上げます。

「君の綺麗な表情に一目惚れしてしまいました。行く場所がないなら、僕のところにきてください」

 突然のことに私は胸が高鳴るけど、きっと表情は変わっていない。

「それは良かった! 隣国の最強と名高い竜騎士殿になら令嬢を安心して任せられる」

「令嬢は私と浮気していたことにしましょう。王子の夜会での婚約破棄という軽率な行動に説明がつき名誉が守られますし、令嬢は僕から逃げられなくなります」

「!? 竜騎士様、それは……」

 さすがに私も表情が変わるくらい驚いたと思います。

「おお! そこまで令嬢を愛しているとはますます頼もしい! 実家のことはワシに任せて、安心して行きなさい」

 国王は快く見送ってくれるのですが……。

「国王陛下にはお願いがあります。王子の名誉を守るためにもお願いします」

◆◇◆

 夜も更けて夜会の会場の盛り上がりは最高潮に達していた。

「王子様が令嬢との婚約を破棄してから始まったこの夜会は王国史上最高の一夜ですわね」

「あんな無愛想で可愛げがない女が王子の婚約者になっていたのが何かの間違いだったのですわ」

 婚約破棄された令嬢の話題で会場はもちきりだったが、誰もが王子に行動の軽率さに王子への不信感を募らせていた。

 表情が乏しいとはいえ、実務能力に優れた優秀な令嬢だった。

 令嬢の有能さは、気後れして彼女の前では話せなくなる者もいる程だった。

 令嬢を非難する声に包まれながらも、王子は自身への批判の空気も敏感に感じとってイライラを募らせていた。

(俺よりも重んじられる優秀な令嬢など邪魔なだけだ! 愛想よく可愛い人形のような女であればよかったものを!)

 ざわめきが会場を包む。

「あれは!」

 竜が、城の庭園の降り立った。

 竜騎士を有するのは、周辺で最強の国家と名高い隣国のみだった。

 その中でも高貴な紫色の竜は最強の竜騎士のものだという。

「なぜ! 竜が我が城の庭園になどいるのだ!」

 王子が叫ぶ。

 周りのものも、突然の襲撃に混乱する。

 恐怖に音楽隊も演奏をやめる。

 煌々として灯りだけが夜会の華やかさを残して、会場は恐怖と静寂に包まれた。

 庭園に降り立った竜の方を見ると竜騎士に抱えられて、王子に婚約破棄されたばかりの令嬢がいた。

 竜騎士の腕の中でこれ以上ないくらいの美しい輝きを放つ令嬢。

 竜に乗り込んで、竜騎士と飛び立つ。

 まるで国の至宝が盗みだされた感覚が広がる。

 夜会の会場に、令嬢を失ったことへの敗北感が広がる。

 そこに誰かが言う。

「令嬢は隣国の最強の竜騎士と浮気して、国をはめようとしていた大罪人だ! 王子が婚約破棄して国を守ったんだ!」

 敗北を確信していた空気が一変する。

 わーっと歓喜が広がる。

 王子に対しての賞賛が広がる。

 さっきまでの王子に抱かれていた不信感は消えて、王子の有能さへの信頼に変わっていた。

 夜会はまた最高の盛り上がりのなかに戻っていく。

 ただ一人、王子だけを除いて——。

 自分の軽率な婚約破棄が招いた自分への不信感という王国の破滅へのタネを、令嬢が払拭した。

 令嬢に嫉妬していたが、その自分の気持ちさえ認めることが出来なかった。

 自身への悪評も恐れずに王子を守り国を守った令嬢と、自分の差は明らかだ。

 王子は心から敗北を認めて、人知れずに膝から崩れ落ちた。

◆◇◆

 竜の背に乗って飛ぶ経験は初めてだったけど、風が気持ちよかった。

 かなりの高さを高速で飛ぶけれど、竜騎士に強く抱きしめられていたから不安はなかった。

 城の明かりが小さくなっていき、隣国の明かりが見えた時は興奮したけれど表情にでたかはわからない。

 竜騎士の屋敷は竜を着地させるだけあって庭がとても広かった。

 でも、庭だけじゃなく屋敷もかなり大きく、到着すると大勢の使用人に迎えられた。

 魔法の道具で連絡がいっていたらしく、私はメイドに迎えられてあれやこれやと世話をされる。

 寝巻きに着替えさせられると寝室に案内される……。

 夜会の夜のこちらに向かって来てもう真夜中だ。

 私が一人ベッドに腰を下ろしていると、見知らぬ男性が入ってくる。

 金髪の若い男性で、入ってくるなり私を抱きしめる。

「やっぱり君は綺麗だ……。その隙のない美しさに僕だけが狂わされたい」

 声が竜騎士のものだった。

 私は無表情だけど、全身が真っ赤になったように血が熱く駆け巡る。

「僕以外の男にその顔を見られたくない」

 竜騎士にますます強く抱きしめられて指一本も動かせない。

「君は僕を軽蔑するだろうけど、今でなければ逃げられてしまう」

 息をするための隙間から声を届かせる。

「軽蔑は……しないけど……。私の顔なんて、何の変化もなくて面白くありませんよ、竜騎士様。婚約破棄された理由が『無愛想で可愛くない』なんですから」

 竜騎士が私から身体を少し離して私を見つめる。

 息が掛かるくらいに近くて、私はまつ毛を揺らして瞳を逸らした。

「どこが無表情なんだろう。揺れるまつ毛が何よりも多くのことを語ってくれる。抱きしめると伝えわってくる全身の鼓動が君の激しい感情を伝えてくれるのに」

 竜騎士に私の気持ちが伝わってる!

 そう思っただけで、恥ずかしさに身体が締め付けられる。

「恥ずかしがってる君は可愛いね」

 そう言ってますます私を恥ずかしくさせる。

「君の美しさに誰も気付かなくて良かった。最初から最後まで、君の全部を僕のものにできる」

 竜騎士は私の髪に触れてキスすると、足の先までにキスを落としていく。

 私は恥ずかしさと、心地よさに包まれていく。

 竜騎士はその変化を重ねた肌から感じていた。



 翌日、竜騎士は私について色々と聞いてくる。

 私のことを何も知らないのに、国王に宣言してそのまま自分の屋敷に連れて来るなんて……。

 竜騎士の節操のなさに少し笑う。

 竜騎士は私を膝に乗せて抱きしめる。

「君が表情を変えるのは反則級の可愛さだよ。他の男に見つかる前に僕のものに出来て本当に良かった」

 私の顔だけで、竜騎士をここまで魅了できたの……?

「君は、会ってすぐに僕を案内すると言って本当に隣国からの使いなのか確かめようとしましたね? あれは無謀です。どんな危険があったか……」

 それは……。

「当然だと思います。あなたに気づかれるのも計算のうちで、不審な行動があれば近衛騎士団にすぐに伝える方法はありました」

「それだけじゃないでしょう。君は最初から王子を狙う者を探していた。だから、物音にすぐに外に飛び出したんだ。僕の届けた親書より前に、夜会の危険性を知っていた」

 そこまでバレていたなんて……。

「夜会が狙われているかもしれないと気づいたのは偶然です。準備をしている使用人の数がいつもより多い気がしたんです。王子に言っても取り合って貰えず、私には使用人の数を調べる手段もなかったので、一人で警戒していました……」

 竜騎士は震える手で私をもっと強く抱きしめる。

「国王陛下から連絡で、僕と君が竜で飛び立った混乱に乗じて、敵国の間者を捕えたと報告がありました」

「! それは良かったです」

 私はやっと安心して笑えた。

 やっぱり表情の変化は乏しかったと思いますけど。

「ずっと一人で緊張していたんですね。身体が柔らかくなりました」

 竜騎士の私を抱きしめる腕の感覚がさっきよりも強く感じられて、私も赤くなる。

 今度は本当に赤くなっているらしい。

「一人で対処しようなどと無謀です。もう、僕が一生離しませんからね」

 私はますます赤くなるのがわかって、竜騎士の胸に顔を埋めた。

「はい……」

 小さく同意した声が竜騎士に届いたかどうか。



 その日のうちに隣国の竜騎士屋敷に私を取り戻しに王子がやって来た。

 竜騎士は密かに予想していたらしい。

 国のためと言われたら、私は逆らえない。

 けれど、私はもう竜騎士のものになってしまったんです——。

「それでもいい、君はあの国に必要な人だ。俺は一生君のために生きるから戻って来てください」

 王子はそれでもと私に許しを乞うけれど、私を強く抱く竜騎士様の腕からは離れられない。

 私は、この腕の中がいいと願ってしまったから。

「君は婚約破棄されても王子を守った。だから求められたら帰ると思ったんです」

 竜騎士様は私をよく見ている。

「令嬢はあなたの元には帰りません。敵国の間者を僕と王子で捉えた。そういう物語で国同士の同盟は強固になっているのだから、十分でしょう」

 竜騎士に言われて、王子は唇を噛み締めながら帰っていった。

 私は、ずっと毎晩、愛されています。

「君のその顔見られるのは、永遠に僕だけだ。——絶対に逃がさない」

 愛の重さで潰れてしまう程に——。
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