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一章・冒険者・ナナ

わがままのために

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ポーチ一杯の魔障石を持ち、少しだけ揚々とした気持ちで王都への途にある私は遠目に軍の出征する光景を見た。

そうだった、この国は今戦争の真っ只中だったんだ。

僻地で中央とは無縁の暮らしを送っていた私だったが時事は両親がたまに話してたのを聞いて知ってる。
ということは森や平原にも冒険者の姿が見えないのは、傭兵として出征してる人達が多いからか。

私はこの違和感に合点がいった。

今まで人に刃を向けたことはないが、果たして私は戦争だから仕方ないと斬ることが出来るのかな。

剣の道を志した時からいずれ人を斬ることも覚悟していたから、思ったより動揺はしていない。
他の生き物の命を奪う事と基本的に代わりはない。
自分たちの生き残りを懸けて戦う。

何とも言えない気持ちを言葉に出来ない私はまた剣を抱きしめた。


ーーーーーーー


「あの…依頼終わりました…」

王都の人の多さに疲弊しながらたどり着いたギルドで、私はあの笑顔が眩しいお姉さんに報告を行った。

「あら、ナナさん仕事が早いのね。
無事に帰ってきて何よりだわ。
それじゃ早速魔障石を貰える?」

私はお姉さんに促されるままポーチをひっくり返して30個の魔障石を机に広げた。

「まぁ…!
ナナさん凄いのね。
この短時間でこんなに。
でも依頼は3頭だったから3個分の報酬しか出せないのよ。
残りはナナさんが自分で持ってていいわよ。」

当然と言えば当然。
でも今回私は報酬のためというよりは今後お世話になるギルドへの挨拶のつもりだったのでそこは全く気にしていない。

「あ、いえ、私は魔導は使いませんので…。
よろしければタダで構いませんので引き取ってもらえませんか?」

お姉さんを困らせてしまっただろうか。
少し考えるような顔をしている。

「そうねぇ、そういうことなら有り難く引き取らせてもらうわね。
その代わりといっては何だけど、割りの良い仕事が入ったらあなたに取っておくわね。」

お姉さんは目配せをしながら私に微笑んだ。

「有難う御座います。
ちなみに今頂ける報酬で受けられる依頼はどういうのがあります?」

そういえば初め依頼を受けた時は完全にお姉さん任せだったからどういうのがあるのか確認してなかった。

「…今は戦争関連の依頼ばっかりよ
戦局の激しさや出征先の距離で難度はピンキリね。
ナナさん人は斬れて?」

ずっとにこやかにしてたお姉さんだったが流石に話題が話題なので締まった表情を浮かべている。

「斬ったことはありません。
ですが斬らなきゃいけない時は斬る覚悟は出来てます…。」

「分かったわ。
だったらこのメルン地方のある村の奪還作戦とか初めての実戦にはオススメね。
この村ははっきり言えば戦略的にも規模的にもあまり重要視されてない土地なのよ。
敵軍の敗残兵が流れた先でたまたま土地を占拠されたって感じかしらね。
今のところ敵が援軍を送ってる様子もないし、ウチの国も最小人数でしれっと奪い返すつもりのようね。
ナナさんにはその軍の傭兵隊に加わって欲しいんだけど、どうかしら?」

トントン拍子で進む状況に心がまだ着いてこないけど、いずれ通る道ならと私は受ける事にした。

「ちなみにこれって1人で行ってもいいですか?」

「……え!?1人で!?
いやぁ、流石に軍が動く依頼だから厳しいんじゃないかしら。
何より相手は何十人といるから1人でどうにかなる話じゃないわ。」

流石にダメらしい…。

わがまま言うにはやっぱり相応の仕事をしないとダメだな。

今回は大人しく言われた通りにやるしかないようだ。

(人とうまくやれるかなぁ。)

初めての実戦とは裏腹に私の心配は違うところにあった。
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