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続・魔界王立幼稚園ひまわり組特別番外編~子供の一日~
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「どうしよう……」
幼稚園の先生歴十三年、私ココナはものすごく困ったことになりました。
朝起きると、体が小さくなっていたんです! いえ、ミニチュアサイズになったとかそういうのではなく、若返ったというか、幼児化したというか。
この見慣れた小さな子供特有のちんまりした手とかぷくぷくの甲の足の感じからして、三歳児くらいだろうか。
「くっ!」
この魔界の中心ドドイルの宰相閣下兼魔王様の幼馴染兼幼稚園のスミレ組担任教員兼私の旦那様兼娘のパパという何足の草鞋を履いているかわからない、ウリちゃんことウリエノイルさんは私を見て必死に笑いを堪えている。
「ちょっと、笑い事じゃないのよ?」
「笑ってなろおりまちぇん。ココナたんが可愛しゅぎて堪えるのに大変れ」
……そういうウリちゃんも超プリティだわよ。堕天使の堕の部分など全く見えない天使そのもののお子様じゃないの。いつもの口調なのに舌っ足らずなのが可愛すぎて悶えるわ。
はい。私だけで無く、ウリちゃんも幼児化しております。
「一体にゃにが原因れこにょようにゃことに?」
「原因はともかく、これ、幼稚園に行けなくない? 先生が園児と同じ幼児って……しかも年少さんのひまわり組の子達より小さいくらいよ?」
ブラウニーのメイア先生もいるけど、彼女はそういう種族だし。
幸いなことに、私はおチビなりに滑舌はまあまあ良い。園児を見ても女の子は男の子より言葉の発達が早い傾向にあるからだろうか。まあウチの娘みたいに例外はあるにせよ。ウリちゃんは男だし、高位魔族で天使の系統は特に言葉が遅いみたいだし……って、今はそんなことはどうでもいい。
「ごちんぱいにゃく。幼稚園はおやしゅみの日れす」
「ああ、そうだったわ。今日は日曜ね。良かった」
いや、良くはないよ? これ、明日までに戻らなかったら―――。
唯一の救いがウチの三歳の娘リノちゃんを、魔王様の姉上のメルヒノア様がツツルのお城に連れて帰られて、お泊りでいなかったことくらいかしら。
娘より小さいかもしれない両親って。見つからなくてよかった。
「わたくち、魔王たまにしちゅむをお休みさせてもらうようおにぇがいちににゃいと」
執務をお休みするようお願いしないと、ね。ウリちゃん、そもそも日曜まで執務があるというのが問題なのだと気が付いて欲しいものだ。とんだブラック企業の社畜じゃん。
ちょっと待って? 魔王様はご無事なんだろうか。まだ原因はわかっていないけど、昨夜はリノちゃんがいないから久しぶりに三人でサロンで遅くまで喋ってから寝たのよね。で、起きたらこうなってて。一緒にいた三人のうち二人が幼児化しているということは……嫌な予感しかしないよ?
そして、その憂いは一瞬で現実になった。
バーン! と思い切り勢いよく開けられたドア。
「ココナさん! ウリエノイル様! 大変です!」
……エイジ君、いつも言うけどもう少しドアは静かに開けようか。
これ、勇者が魔王城に乗り込んで来るとき、威嚇と称して人間の国で教わったのがクセになったんだって言ってたけど。よく今まで扉に喰われず来てるよね。魔王城のドア、怒ると人を喰うからね?
「魔王様が、魔王様がこんなお姿に……って! こっちもかーい!」
流れるようなノリ突っ込みありがとう。元勇者なエイジ君もなかなかいい感じに魔界の住人に仕上がって来たよね。
無表情のままエイジ君の小脇に抱えられてやって来た黒髪の幼児は、髪こそ長いが非常に既視感のあるお子様だった。そう、私が魔界で初めて見た日のユーリちゃんそのもの。
「魔王様?」
「ちょうらが? ココナしゃんとウリエノイルまれ、ちいしゃくにゃっておりゅとは」
そうだがって……ヤバイ、魔王様が可愛すぎる。また小さい頃のユーリちゃんに会えたみたいで感動すら覚えるわ。
「小さいココナさん、めちゃくちゃ可愛いですね。やっぱ女の子ですね。妹を思い出します」
慌てて入ってきたわりに、エイジ君がのどかに言う。
「魔王様もウリちゃんも超可愛いよ。いや、今はそんなことはいいのよ。どうしたものかしら、これ? 魔王様、何か思い当たることがおありですか?」
「いぁ、私にもわかりゃん。ちかち、エイジはにゃんともにゃくて、私たちらけとうーことは、よりゅあちゅまったときに、にゃにかあったことらけはたちからと思うのら」
ゴメン、聞いた私が悪かった。滑舌の悪さは父子一緒でしたか。
『いや、私にもわからん。しかしエイジは何とも無くて私達だけという事は、夜集まった時に何かあった事だけは確かだと思うのだ』そう仰っておいでですね。
うーん、と幼児三人が腕組して原因になりそうなことを考えるも、思い当たる事が無い。
生温かい目で私達を見ていたエイジ君が遥か上から提案する。
「とにかく、まずは着替えて朝食でも召し上がりながら考えましょうか。お着替えは幸い、リノちゃんの子供服が選びたい放題ですし」
確かに。私とウリちゃんは服がブカブカすぎて洒落にならない。手は出ていないし肩は出てるし、引きずってるし。魔王様はすでにユーリちゃんの小さい時の服をエイジ君が着せたみたいだから自然。
「エイジ君、無駄に冷静ね」
「魔王様だけならまだしも、お二人まで子供になっておいでなので逆に安心したというか」
「何で安心?」
「だってここ、魔界ですし。何があってもおかしくないですから」
……それ、すごくわかるわ。私とウリちゃんも困りこそすれそう慌てなかったのは、ここが魔界だからだろう。何があってもおかしくないって思ってるからね。森の木は人を食べるし、野菜は飛ぶわ踊るわ、歌を口ずさむだけで歌詞を具現化させたり気分のムラで花や槍を降らせちゃう魔王様もおいでなことだし。大人がいきなり幼児になろうとそう驚きはしない。
でも、戻れるのかは心配なのよね。
「うん、リノちゃんがいかにパパ似なのかがよくわかったわ」
「……わたくちも、ユーリたまの服がよかったにょに……」
とにかく大きすぎる服を脱ぎ、丁度この部屋にあった娘の服に着替えた私とウリちゃん。魔王様が孫のように溺愛するリィンノエラのためにせっせと可愛いお洋服を仕立ててくださるものだから、エイジ君が言うように選びたい放題だ。本人は平日は幼稚園のスモックなので袖を通したことも無いドレスもいっぱい。子供はすぐに大きくなるから、おそらく着る機会も無いままサイズが合わなくなるだろう物が、まさかの形で役に立とうとは。
ええ、ウリちゃんにもドレスを着せましてよ。だって絶対似合うと思ったもの。結果はリノちゃんのコピーが出来上がっただけでしたけど。幼児化したら男感ゼロでした、ウチの旦那様。
メルヒノア様が魔王様とウリちゃんで着せ替え人形ごっこをされた気持ちが大変よく理解できました。
「愛しいリノちゃんの服だよ? パパは嬉しいでしょ」
「ちょうれしゅねぇ」
……それで納得するウリちゃんもどうかしているが、ツッコミは入れないでおこう。
幼児はご飯を食べるのも大変だ。
まず椅子によじ登るのに一苦労。魔王城の家具調度はいつもの大人の姿でさえ大きい。魔王様とウリちゃんは飛べるので問題無いけど、私は飛べないからね。
結局猫耳執事のギリムさんに抱っこで座らせていただいた。
ユーリちゃんの時のや、リノちゃんもいるから子供用のカトラリーもあるにはあるが既に大人用でセッティングされていたので仕方が無い。
テーブルからやっと顔が覗く高さなのでホント食べにくいったら。
くぅっ。スープのスプーンですら巨大に感じる。口に入るのと同じくらいこぼれちゃう。
いつもリノちゃんや園児達で見慣れているけれど、子供がこぼすのは仕方ないんだね。
「リンデ……魔王様、ボーボのミルクをお持ちしましょうか?」
朝の深煎りコーヒーも、子供の舌には酷く苦く感じるのか眉を顰めた魔王様にギリムさんが声を掛けている。そういえば、ギリムさんもちっとも驚いていないね。寧ろ嬉しそう。しれっと魔王様の幼名であるリンデルって呼びそうになってるし。
手が小さいから上手く大きなスプーンやフォークを扱えなくて、ぽろぽろこぼすわ、落とすわの幼児三人の顔や手を、手際よく拭いて回ったり時々食べさせつつ、御年四百歳越えの老執事さんはイキイキしておいでだ。
「魔王様やウリエノイル様のこんなに愛らしいお姿を見るのは百数十年ぶり。ココナ様もおいでですし、まだメルヒノア様がおられた頃に戻ったようで、本当に嬉しゅうございますよ。長生きはするものですね」
そうか、こんな感じだったんだね。大変だったろうけどいい思い出なんだね。
とはいえ、和んでばかりもいられまい。
昨夜、サロンで喋っている時に、いつものようにお茶を淹れてくれたのはギリムさんだった。あの場にいたのに彼は幼児化していない。
ギリムさんに聞いてみよう。
「昨夜って何か変わったことがありましたか? 誰か来ていたとか」
「特に変わった事はございませんでしたが……強いて言うならお茶と一緒にお出しした茶菓子が城で作った物ではございませんでしたね」
昨夜のお茶菓子といえば……。
「あの薔薇の花びらの入ったクッキー? 上品でとっても美味しかったよね」
「あのお品はホボルの夜王様から献上されたものでした」
夜王様と言えば、昼間は日光を避けるため幼子のお姿で、夜は老若男女問わず魅了する黒い羽根を持つ美しい青年の姿に戻られる最上級淫魔の王……って!
幼子の姿。幼児化。夜王様は毎日がまさに今の私達の状態なわけで。
「ちょれらー!」
プチ魔王様とミニウリちゃんが声を揃えた。
その直後、一羽の伝書鳥が食卓に舞い降りた。
『魔王様、申し訳ございませぬ。説明書きを添え忘れました。以前、羨ましい、面白そうだと仰っていたので、吾と同じ体験ができる魔法を籠めた菓子を作らせました。効果は一日だけ。陽の光のある昼間は幼子の姿になり、陽が沈むと大人に戻ります。ぜひお楽しみくださいませ。追伸、吾の日頃の苦労をよくお分かりいただけることと思います。決して面白くは無いので、覚悟をお決めになってからお召し上がりいただきますよう』
この声、間違いなく夜王様だわ。
説明をつけ忘れちゃったのか!
いやぁ、追伸の部分は多分に皮肉を感じる。わざとつけ忘れたんじゃないかしら。本人は変身してしまうのが不便で仕方が無いと仰っていたのに、魔王様やウリちゃんが羨ましいとか言っちゃったのを内心根に持っておられたとか? ありえる。あの超プリティな夜王様、ああ見えて魔王様やウリちゃんより年上で先代魔王様に可愛がられておいでだったそうだし。悪戯が好きそうだもの。
「覚悟もにゃにも、もうおちょいわ……」
魔王様が呆れたように舌っ足らずで呟いておいでなのを、伝書鳥は返事と受け取ったらしい。記憶して飛んで行った。
あーあ。絶対夜王様は『大成功!』ってほくそ笑むわよ。
でも夜になったら大人になるのか。良かった。上手く行けばリノちゃんが帰って来るまでにいつものパパとママに戻れる。
戻れるとわかって安心したら、せっかく子供になったんだから楽しまなきゃ損みたいな気になってきたわ。
「魔王様、ウリちゃん、今日は流石にお仕事出来ませんよね?」
「……無理らろうにゃ」
「じゃあ、せっかくなので、一日子供らしく遊びましょう!」
子供らしく遊ぶ。そうは言っても、百三十歳越えの父親二人に、三十過ぎの母親。家庭だけで無く、いつもは子供達のお世話をする幼稚園の園長や職員でもある。遊んでいる子達を見守ることはあっても、自分達が遊ぶ側になると何をすればいいやら。
「にゃにちてあしょびまちゅ?」
ドレス姿なので女の子にしか見えないウリちゃんが困ったように言う。
「……にゃにも思いちゅかん」
魔王様、小さくなっても無表情なんだね。それもおすましさんみたいで可愛いけど。
確かにお絵描きも、おもちゃもなんか違うのよね。幼稚園の子達は棒切れや紐の一本でもあれば、いや、何もなくても物語を作ったり、遊びを思いついて楽しそうにしている。そう思うと、子供の想像力って素晴らしい。
私達も昔は子供だったはずなのに、体が大きくなって知識も増えた半面、何かを失ってしまったのかもしれないね。
「とりあえずお散歩でもしましょ」
お城の中だけでも相当な運動量だと思うのよね。
子供の目線で見る世界は、いつもの見慣れた風景も全く違って見える。足の長さも違うから歩幅がちまちま。廊下ですら果てしなく感じる。天井など遥か上空だ。何だか新鮮。
しかしここは魔王城。闇雲に歩き回ったら確実に迷子になる。迷い込んだが最後、数年戻らない者も多数いるし、中には二度と戻らなかった者もいる。地下などは階段の位置や間取りが刻々と変わっているものだから、魔王様やウリちゃんですら子供の頃何日か迷子になったことがあるらしい。なのでメインの廊下からは外れてはいけない。
「はぐれたら困るにょれ、手をちゅないで行きまちょう」
ウリちゃんが私の手を掴んだ反対側では、魔王様も私の手を握っている。
「あ、魔王たま、ウチの奥たんと手をちゅなぐのはやめてくだちゃいまちぇ」
おチビが奥さんとか関係ないと思うよ、ウリちゃん。
「仲間外れは駄目よ? 今日はちっちゃい子同士仲良くしないと」
「ちょうらじょ。にゃかよくちにゃいと」
……魔王様、勝ち誇ったかのように肯定しながら繋いだ手に力を籠められましたが、この状態、もし大人だったら確かにマズいと思うんですよね。ウリちゃんの方が正しいのかもしれない。
というわけで、ブーブー文句を言う男子は無視して強制順番チェンジ。ウリちゃんを挟んで三人でお手てを繋いで歩きます。これで問題無いはず。
だが男子はわざと繋いだ手をブンブン大きく振ったり肩をぶつけ合っている。もう、この幼馴染二人、仲がいいのか悪いのか。行動まですっかりお子様になってるじゃない。
「あ、そうだ。せっかく子供になったんだから、アレで進みましょう」
「アレ?」
紐を調達して、今度は前後一列に並んで進みましょう。幼稚園の子達がいつもルウラ発着所と園を行き来するときに迷子防止のためにやる『電車ごっこ』。先頭の車掌さんは魔王様です。
ちなみに魔界に電車は走っていない。子供たちは列車など見たことは無いので『ムカデごっこ』でも良かったのだけど、魔界のムカデは十メートルくらいある巨大で狂暴な魔物だ。あまり良い印象は無い。そして初代車掌のユーリちゃんの頃から「がたんごとん、しゅっぽっぽ」と言いながら進むのが慣習になっているので『電車ごっこ』なのだ。これとて人間界を知っている身からしたら、SLじゃあるまいし電車は「しゅっぽっぽ」などと音はしないし、車掌じゃなく運転手だというツッコミもあるものの、そこは目を瞑ろう。そもそも教えたのは過去の自分だ。
「……ぽ……ぽっぽぉ……」
「魔王たま、声がちいしゃいれす!」
ウリちゃんは厳しいですが、中身は大人。恥ずかしさは消えないよね。声が小さくても魔王様のぽっぽーはかなりレアだよ。可愛すぎて悶えたよ。
「がたんごとん、がたんごとん」
「ちゅっちゅっぽっぽ」
三人で言いながら進むうちに楽しくなってきた。
私達の事情を知らないお城の人達は、突然小さくなった私達に目を丸くして驚いている。幼稚園の子達を装うには、魔王の血族にしか許されない黒髪でバレバレだ。中にはギリムさん同様、長く務める使用人もいて、リアルに魔王様とウリちゃんの幼少期を知っている人もいるだろうしね。
厨房の前を通った時、料理長が驚いて声を掛けて来た。
「ま、魔王様? 宰相閣下? それにココナ様ですよね?」
「うむ。今日らけは子供なのら。気にしゅるな」
「は、はあ。お気をつけて……」
魔王様に気にするなと言われても困りますよね。
超低速運転の電車の後ろから、料理長の声が飛んでくる。
「お三方の昼のお食事はお子様ランチでご用意しておきますね」
「たのんだじょ」
……いいんだね、お子様ランチで。私も楽しみではありますけど。ウリちゃんも嬉しそう。
最終的には幼稚園にでも行こうと進んでいると、お馴染みの作業着と麦藁帽に着替えたエイジ君が前方からやって来た。朝以来だね。
「おや、可愛らしい行列ですね。どこ行きの電車ですか?」
「終着駅は幼稚園? でもまだ未定」
私がそう答えると、エイジ君は素敵な提案をしてくれた。
「先に畑の島へ来ませんか? 丁度ぶつぶつコーンが収穫時です。一緒にもいでみようと呼びに来たんですよ」
わあ、面白そう! トウモロコシ大好き! ウリちゃんも魔王様も大好物だよね。
そんなわけで、畑の島に行くことに。電車だとなかなか辿り着きそうにないので、ここからは飛行機に変身です。魔王様とちっちゃい羽根を出したウリちゃんは自力で、私はエイジ君に掴まって飛んでいきます。
いつもはそう遠いと思わなかった小さな島も、自分が小さいと遥か彼方。それにものすごく広く感じる。園児達はいつも並んで普通に歩いて行くけど、子供達って大人が思ってる以上に体力があるのね。魔族でも庶民は丈夫なのだろうか。だけどかなり頑張ってると思う。そりゃ畑に行った日は何人もくたびれてお昼寝しちゃうわ。今後ちょっと考えなきゃね。
島に着くと、お馴染みの笑い声が出迎えてくれる。畑の番人笑いジラソレと歓喜ヴェレット。
「わーっはははははー! おい、どうした。ちっせえな?」
「オホホホ。あら、皆さま今日は可愛らしいこと」
「私達、魔法のお菓子でで夜王様みたいになっちゃったのよ。夜になったら戻るよ」
「わはははっ、そりゃ面白いぜ。じゃあせっかくだから子供しか出来ねぇことを楽しまないとな! ははっ」
口は悪いがジラソレはいい事を言う。子供しか出来ないことか。そうだね、楽しまないと。
ジラソレと同じニコニコ顔のエイジ君に案内されて、幼稚園の菜園とは反対側のトウモロコシ畑に。
魔界のトウモロコシは粒が蛍光緑な以外、味は人間界のと同じ。薄い皮に包まれた長細い実も髭もほぼ見慣れた姿なのだが……。
「ブツブツ……ふん、どうせ食うんだろ、まあ甘いんだけどさ……」
「鳥につつかれるよりいいけどさ、ブツブツ」
ううっ。ぶつぶつコーン、小さな声でものすごくブツブツ呟いてる。しかも愚痴―――これ、野菜なのかな? ジラソレ達みたいに植物魔人なんじゃ?
「ココナたん、にゃんかこあいれすね……」
コーン大好きのウリちゃんはかなり怯えている。毎度食べていても実際成っているのを見るのは彼ですら初めてらしい。魔王様もちょっと引き気味。
トウモロコシは背が高い。何本も植えられた中にいると、まるで巨木の生い茂る森の中にでもいるかのような気になる。
「まあ気にせずもいじゃってください。茎から離れると黙ります」
元勇者な農業大臣は慣れたもの。大きそうなのを手際よく片手でもぐと、私達に見せてくれた。確かに黙ってしまえばただの野菜だ。
「魔王様、これなんか美味しそうですよ。こう、下に向けて引っ張ります」
「うむ。やってみゆ」
エイジ君は片手でもいでいたコーンも、三歳児クラスのおチビさんには巨大。ブツブツ愚痴をこぼす実を、両手でジタバタしながらやっと採って、聖剣でもかざすように持った魔王様は、ものすごく満足気。珍しく笑顔だ。
ああ、その顔。ユーリちゃんが初めて走りきゅうりを収穫した時を思い出すわ。
「わたくちも」
ウリちゃんもドレスで動きにくいなりに、格闘の末一本ゲット。いつも微笑み標準装備だけど、採った実を私に見せながら、得意げににこーっと弾けるように笑う顔は新鮮だね。そんな笑顔だとますますリノちゃんとそっくり。
何だろう、皆中身は大人なはずなのに、精神面までこの小さい体に引っ張られてるような。だんだん子供らしくなってきちゃった。
私も採らせてもらったけど、ぽきって実が茎から離れた瞬間の達成感半が端ないわ。ちょっぴり『黙らせた=殺した』という罪悪感が無きにしもあらずだけども。まあ、そもそも食べるということは命をいただく事だ。魚も肉も野菜も、全て生きていたもの。その命をいただくということを忘れてはいけないと、お給食の時にいつも子供達にも教えている。だから喋ろうが呟いていようがこのコーンも同じ。その命を無駄にせず美味しくいただくからね。
とはいえ、ぶつぶつコーンは幼稚園の菜園では植えないことにしよう。トウモロコシ好きの園児にトラウマを植え付けかねない―――。
面白くなってその後も幾つか収穫したものの、おチビの体では一人二本ずつ持つのが精いっぱい。エイジ君に何本か持ってもらい作業終了。
「わはははー、美味しく料理してもらえよー! ははっ」
ジラソレに葉っぱの手を振って見送られ、畑の島を後にする。
早速厨房で茹でてもらった甘いぶつぶつコーンも添えられたお昼ご飯。約束のお子様ランチでお腹いっぱいになると、思い切り睡魔が襲ってきた。
「にぇむいれすぉ……」
ウリちゃんも大きな欠伸をしてるし、魔王様も目をこすっている。
「おチビちゃん達にはお昼寝が必要みたいですね」
エイジ君が慣れた手つきで私達三人を抱き寄せて言う。とんとん、って優しく背中を叩く手が心地よすぎてふわふわするよ。
えー、もっと遊びたいのに。でも眠さに勝てそうにない。子供達もお昼寝するとき、こんな風に思ってるのかな。ああ、なんだか時間がもったいないなぁって……。
どのくらい時間が経ったのかはわからないけど、目を開けると丁度ウリちゃんと魔王様も目を覚ましたところだった。幼稚園でもいつも不思議なのが、寝付くのも起きるのもなぜか揃う事が多い。一人が目を覚ますと皆起きてくる。私達も同じだったみたい。
エイジ君かギリムさんが運んでくれたのか、いつの間にか私達はベッドの上で並んで寝ていた。魔王様のお部屋のベッドのようだ。
時計を見ると午後二時過ぎくらい。まだまだ陽は沈まないからお子様体験は続くね。
「幼稚園に行く?」
「いいれしゅね」
なんだかすっかり、体だけじゃなくて心まで子供になっちゃったみたいなウリちゃんと魔王様が頷いたので、もう一度電車ごっこで幼稚園になっている大広間を目指す。
高い高い窓から石造りの薄暗い廊下に差し込む午後の光に埃がキラキラするの、遠くから微かに聞こえる人の声、自分達の足音。そんないつもは何とも思わない些細なことも新鮮に映るのが不思議。それに時間の流れがものすごくゆっくりに感じる。
「三時になったらおやつをお持ちしますね」
廊下ですれ違ったギリムさんが白い猫尻尾を揺らして言う声も嬉しい。
いつもは子供達の笑い声や歌声で賑やかな幼稚園は今日は静か。
「滑り台まで競争!」
そう言ってややフライング気味に私が走り出すと、負けず嫌いの二人も慌てて走る。
「まちぇー!」
ウリちゃんがすごい勢いで追いついて来る。一番出遅れた魔王様も一生懸命。あと少しでゴールの滑り台というところで……。
「あっ」
魔王様が派手に転んだ。幼児は手足が短くて頭が重い。思い切り顔からこけたような。
しばらく起き上がらなくて心配になったけど、もそもそと身を起こした魔王様の口がへの字になっている。痛かったよね。泣いちゃうかな?
でも魔王様は泣かなかった。
「えらいね、泣かなかったね」
つい園児に対するのと同じように言っちゃったけど、中身は魔王様なんだよね。
「子供じゃにゃいからにゃかにゃい」
……どう見てもちっちゃい子に子供じゃないからって言われても説得力は無い。
その後、滑り台を順番に滑ってみたり、砂場で遊んでみたり。だが大人の理性が邪魔をしてイマイチ盛り上がりに欠ける。
「そうだ、お歌でも唄ってみます?」
えー? と不服の声も上がったのは、やはり気恥ずかしさみたいなのが残ってるんだろうね。
それでも私がオルガンに向かうと、ワクワクした顔で二人もついてくる。
いつもは小ぶりだと思っていたオルガンがとてつもなく大きく思える。これ、手が小さいから上手く弾けるかな? それ以前に足踏みオルガンなので座るとペダルに足が届かない。立ったままだと鍵盤が目より高いから見えない。
「わたくちがあちを動かしまちゅぉ。ココナたんはいしゅに乗って弾くれす」
ウリちゃんがペダルを動かしてくれるから、私に椅子に乗れと言っている。ではお言葉に甘えまして。
共同作業でオルガンが音をたて始めた。手は小さくても毎日弾いているから身についている。案外普通に弾けるものだ。人間界だったらこのくらいの歳でピアノを習い始める子もいるからね。
「ココナたん上手」
「だって先生だもの」
チューリップを弾くと、一人手の空いている魔王様が恥ずかしそうにだが歌を口ずさみはじめた。
「しゃーいた、しゃいたー」
あらなんて可愛いお声! 発音はともかく上手だね、魔王様。音階がしっかりしてる。
負けずにペダルを踏み踏みウリちゃんも歌いはじめる。こっちも高くて可愛い声だね。
……ん? なぜ教室にお花が咲いてる?
「あーか、ちーろ、きいろー」
赤いチューリップがぽこん、白い花もぴこん、黄色いのもぱこん。次々現れるお花達。
そうだった! 魔王様が歌うと歌詞が具現化しちゃうんだったぁ! ドドイル国家を歌われた時、歌詞に出てくる黒い翼を持つ巨大な馬がお城を走り回って大変だったこともある。よって魔王様には歌唱禁止令が出ているくらいだ。お遊戯会の職員の出し物にも園長は参加できない。だから余計に歌ってみたかったんだろうけど……無駄に強力な魔力は小さくなっても健在だったもよう。
でもまあいいか。チューリップがいっぱい咲いたところで害は無い。歌詞の通りどの花を見ても綺麗なだけだ。多分明日、園児達が登園してくる頃には消えるだろう。
ご機嫌なので次にちょうちょも弾いてみたら、幼稚園の中は更に菜の花も咲いて、お花畑にちょうちょのひらひら舞うメルヘンワールドと化した。桜も咲いてるよ。
「おやおや。これは素敵ですな」
三時のおやつを持って来てくれたギリムさんとエイジ君も気に入ってくれたみたい。
幼稚園でお花見をしながら、皆で一緒におやつタイム。
お昼は小さなお皿の料理でお腹いっぱいになって昼寝した。その後まだ一時間ほどしか歩いたり走りったり歌ったりしてないのに、小さな体はお腹が空くのね。そもそも胃が小さいので一度に量を食べられない上、寝ている間も体が成長しようとエネルギーをいっぱい使うからかもしれない。子供達に間食が必要なのも頷けるわ。今度からリノちゃんにご飯が食べられなくなるからおやつはダメって言わないようにしなきゃ。
それにしても、このおやつのチョイス、ほんの少しギリムさんに物申したい。
「クッキー……」
私達、クッキーを食べてこんなことになっちゃったんですけど?
魔王様とウリちゃんも同じ考えなのか、なかなかクッキーには手が伸びないみたい。さっきから一緒に出されたミルクしか飲んでないよね。
「大丈夫ですよ。これはこの城の厨房で焼いたものですから。魔法はかかっておりません」
苦笑いのギリムさんに言われて、やっと食べ始めた私達でした。
あ、さくさく素朴で美味しいや。
ミルクで口の周りに白いお髭が生えちゃった魔王さまをハンカチで拭きながら、エイジ君が困ったことを言い始めた。
「ああ、魔王様もウリエノイル様もココナさんも本当に可愛いですね。でもこれが夜になったら戻っちゃうなんて勿体無いです。このままだといいのに」
勿体無いって。地味にいつもよりこっちの方がいいと言われてる? 特にエイジ君の視線、魔王様に向いてるよね。
「だけどずっとこのままだと困るじゃない。私も幼稚園の先生が出来ないし、リノちゃんのママがこんなに小さいと困るもの。魔王様やウリちゃんも国のお仕事が溜まっちゃうし」
私がそう言うと、横で魔王様とウリちゃんも激しく頷いていた。
「エイジもこーにゃってみちゃらしょんなこと言えんじょ」
こうなってみたらそんなことは言えんぞ、だそうです。楽しいこともありますが、困ることもいっぱいあるものね。
それでもポジティブなエイジ君は笑顔で答えます。
「オレもちょっと子供に戻ってみたかったかもしれませんね」
ふふーん。いいこと聞いちゃったかも。きっと小さいエイジ君もすごく可愛かったと思うのよね。今日はとっても親切にお世話してくれたから、ぜひとも反対になったら私達でお世話してあげたいものだ。
いろんな種族のいる魔界においても、どんな子でも小さい子は可愛い。しかしこういっちゃなんだが、個人的には日本人の小さい子の可愛さは格別だと思うのだ。犬でも洋犬の子犬よりも柴犬の子犬が最強に可愛いと思うのと同じ? あくまで日本出身の元人間の多分に偏見も籠った個人的意見ですが。絶対子供好きの魔王様なんて、チビエイジ君にメロメロになると思うのよね。見て見たいわぁ。
そんなことを考えていたら、今度はギリムさんから不穏な一言が。
「まだ残っておりますよ、夜王様のクッキー」
「えっ……」
そ、そうなんだ。結構沢山送って来たんですね、夜王様……。
その後、ユーリちゃんにもう一度小さい頃に戻って欲しいとか、いっそギリムさんを四百年近く前に戻しちゃおうとか色々言いつつおやつタイムを終了し、残りの時間をエイジ君達と幼稚園の園庭でそれこそ童心に帰って遊んだ。
鬼ごっこにかくれんぼ、だるまさんがころんだ。
幼稚園になっている大広間の高い窓から差し込む陽がオレンジに染まり始めた。
ああ、もうすぐ陽がくれちゃう。
大人に戻らなきゃ困るけど、この楽しい時間が終わっちゃうのがちょっぴり名残惜しいというか。
「夜王よ、おもちろいじゃにゃいか……」
ちっちゃな魔王様が宙を見上げながら呟いたとき。
「たらいまー」
リノちゃんの声だ! もうツツルから転移陣で帰って来ちゃったんだわ。
私もウリちゃんもお勤めする幼稚園の壁には、インターホン的な自分達の居住区と直通の魔法回路が引いてある。音声のみではあるものの、これがあったおかげで私はリノちゃんがまだ幼稚園の年齢になる前も育休無しで出勤出来ていたのだ。
「パパー? ママー?」
探してるなぁ。でも今姿を現すわけにはいかないし……。
「どこかにゃ? まおーたまのところ?」
あっ、インターホンの声が遠くなった。部屋から出たみたい。
「私が先に行ってリィンノエラ様のお相手をしてきましょう。お三方は元のお姿に戻られてからお越しください」
ギリムさんが気を利かせて先にリノちゃんのところに行ってくれた。
窓の外は最後の陽の名残の色。もう間もなく日が暮れる。
「もうすぐ戻れるわ」
だが私達は忘れていた。今、この幼児の体に見合った服を着ているという事を。揃って九十センチから一メートルの間くらいの身長だが、いつもは一番チビの私で百五十五センチ、ウリちゃんで百八十無いくらい、魔王様に至っては百九十くらいある長身。しかも細マッチョ。
さて。体が元に戻ったらどうなるでしょうか?
そして陽が暮れた―――。
「ぐっ!」
「きゃあ!」
「く、苦しい」
手が、足が、髪が伸びる。そしてボタンは飛び、布はビリビリと音を立て……。
魔王様は、昔人間界で見たアニメのナントカ神拳の使い手の人みたいな服の飛び散りよう。
私はゆったりしていた上にやや伸びる布が幸いしてか、ボタンが飛んだ以外は、袖口が食い込みつつもまあ何とか原型をとどめている。しかし超ミニワンピだ。これは恥ずかしい。
「と、とりあえずこれを!」
エイジ君が真っ赤になりながら、園の備品のバスタオルを持ってきてくれて私に掛けてくれた。
そして私同様、ちょっぴり伸縮性のある生地のゆったり目レース付きドレスを着ていたウリちゃんは……。
「ウ、ウリエノイル……っ!」
魔王様が幼馴染の姿を見て倒れそうだ。
これは見てはいけないやつだー! 細いから私と同じように破れずに原型を留めっちゃってて、しかも丈がおへそまでしかない! もう悲劇というより惨劇です! いっそ魔王様みたいに派手に服が破れてほぼ裸の方が良かったかもしれない。
ちなみに皆、下着は伸びるので何とか無事でしたよ。
「み、見ないでくださいませっ!」
脱ぎたいが、みっちり食い込んで苦戦中のウリちゃん。エイジ君が何か羽織れる物を探しに行ってくれたけど間に合わず……。
大広間のドアが開き、顔を覗かせたのは目に入れても痛くないほど愛しい娘。待ちきれずに来ちゃったみたいだ。
「パ……パパ?」
リノちゃんは見てしまった。パパのとんでもない姿を。
「にゃんかいやーっ!」
「リノちゃん!」
走って行った娘を追いかけることも出来ず、パパは変態な格好のまま崩れ落ちた。
こうして、一日幼児体験はとんでもない幕引きと相成った。
『吾の日頃の苦労をよくお分かりいただけることと思います。決して面白くは無いので―――』
「夜王様の苦労がものすごくわかりました」
いつも夜王様が引きずるほど長いブカブカの衣装を着ておいでな意味がわかったわ。
「……確かに面白くは無いな」
魔王様もしみじみと仰っている。
そして壁際で膝を抱えて黒い瘴気を立ち昇らせている堕天使様は、一番よくお分かりになったようだ。
「二度と御免でございますよ……」
ドレス姿のちっちゃいウリちゃん、可愛かったんだけどなぁ。
まあ、戻れたんだから良しにしようよ。
でも、子供の目線で見る世界は新鮮で楽しかった。貴重な体験だったと思うよ。
昔は私達も幼い子供だった。すっかり忘れていた大事なことをいっぱい思い出させてくれたと思う。
ふふ、魔法のクッキー、まだあるそうだし。
また楽しい事があるかもよ?
幼稚園の先生歴十三年、私ココナはものすごく困ったことになりました。
朝起きると、体が小さくなっていたんです! いえ、ミニチュアサイズになったとかそういうのではなく、若返ったというか、幼児化したというか。
この見慣れた小さな子供特有のちんまりした手とかぷくぷくの甲の足の感じからして、三歳児くらいだろうか。
「くっ!」
この魔界の中心ドドイルの宰相閣下兼魔王様の幼馴染兼幼稚園のスミレ組担任教員兼私の旦那様兼娘のパパという何足の草鞋を履いているかわからない、ウリちゃんことウリエノイルさんは私を見て必死に笑いを堪えている。
「ちょっと、笑い事じゃないのよ?」
「笑ってなろおりまちぇん。ココナたんが可愛しゅぎて堪えるのに大変れ」
……そういうウリちゃんも超プリティだわよ。堕天使の堕の部分など全く見えない天使そのもののお子様じゃないの。いつもの口調なのに舌っ足らずなのが可愛すぎて悶えるわ。
はい。私だけで無く、ウリちゃんも幼児化しております。
「一体にゃにが原因れこにょようにゃことに?」
「原因はともかく、これ、幼稚園に行けなくない? 先生が園児と同じ幼児って……しかも年少さんのひまわり組の子達より小さいくらいよ?」
ブラウニーのメイア先生もいるけど、彼女はそういう種族だし。
幸いなことに、私はおチビなりに滑舌はまあまあ良い。園児を見ても女の子は男の子より言葉の発達が早い傾向にあるからだろうか。まあウチの娘みたいに例外はあるにせよ。ウリちゃんは男だし、高位魔族で天使の系統は特に言葉が遅いみたいだし……って、今はそんなことはどうでもいい。
「ごちんぱいにゃく。幼稚園はおやしゅみの日れす」
「ああ、そうだったわ。今日は日曜ね。良かった」
いや、良くはないよ? これ、明日までに戻らなかったら―――。
唯一の救いがウチの三歳の娘リノちゃんを、魔王様の姉上のメルヒノア様がツツルのお城に連れて帰られて、お泊りでいなかったことくらいかしら。
娘より小さいかもしれない両親って。見つからなくてよかった。
「わたくち、魔王たまにしちゅむをお休みさせてもらうようおにぇがいちににゃいと」
執務をお休みするようお願いしないと、ね。ウリちゃん、そもそも日曜まで執務があるというのが問題なのだと気が付いて欲しいものだ。とんだブラック企業の社畜じゃん。
ちょっと待って? 魔王様はご無事なんだろうか。まだ原因はわかっていないけど、昨夜はリノちゃんがいないから久しぶりに三人でサロンで遅くまで喋ってから寝たのよね。で、起きたらこうなってて。一緒にいた三人のうち二人が幼児化しているということは……嫌な予感しかしないよ?
そして、その憂いは一瞬で現実になった。
バーン! と思い切り勢いよく開けられたドア。
「ココナさん! ウリエノイル様! 大変です!」
……エイジ君、いつも言うけどもう少しドアは静かに開けようか。
これ、勇者が魔王城に乗り込んで来るとき、威嚇と称して人間の国で教わったのがクセになったんだって言ってたけど。よく今まで扉に喰われず来てるよね。魔王城のドア、怒ると人を喰うからね?
「魔王様が、魔王様がこんなお姿に……って! こっちもかーい!」
流れるようなノリ突っ込みありがとう。元勇者なエイジ君もなかなかいい感じに魔界の住人に仕上がって来たよね。
無表情のままエイジ君の小脇に抱えられてやって来た黒髪の幼児は、髪こそ長いが非常に既視感のあるお子様だった。そう、私が魔界で初めて見た日のユーリちゃんそのもの。
「魔王様?」
「ちょうらが? ココナしゃんとウリエノイルまれ、ちいしゃくにゃっておりゅとは」
そうだがって……ヤバイ、魔王様が可愛すぎる。また小さい頃のユーリちゃんに会えたみたいで感動すら覚えるわ。
「小さいココナさん、めちゃくちゃ可愛いですね。やっぱ女の子ですね。妹を思い出します」
慌てて入ってきたわりに、エイジ君がのどかに言う。
「魔王様もウリちゃんも超可愛いよ。いや、今はそんなことはいいのよ。どうしたものかしら、これ? 魔王様、何か思い当たることがおありですか?」
「いぁ、私にもわかりゃん。ちかち、エイジはにゃんともにゃくて、私たちらけとうーことは、よりゅあちゅまったときに、にゃにかあったことらけはたちからと思うのら」
ゴメン、聞いた私が悪かった。滑舌の悪さは父子一緒でしたか。
『いや、私にもわからん。しかしエイジは何とも無くて私達だけという事は、夜集まった時に何かあった事だけは確かだと思うのだ』そう仰っておいでですね。
うーん、と幼児三人が腕組して原因になりそうなことを考えるも、思い当たる事が無い。
生温かい目で私達を見ていたエイジ君が遥か上から提案する。
「とにかく、まずは着替えて朝食でも召し上がりながら考えましょうか。お着替えは幸い、リノちゃんの子供服が選びたい放題ですし」
確かに。私とウリちゃんは服がブカブカすぎて洒落にならない。手は出ていないし肩は出てるし、引きずってるし。魔王様はすでにユーリちゃんの小さい時の服をエイジ君が着せたみたいだから自然。
「エイジ君、無駄に冷静ね」
「魔王様だけならまだしも、お二人まで子供になっておいでなので逆に安心したというか」
「何で安心?」
「だってここ、魔界ですし。何があってもおかしくないですから」
……それ、すごくわかるわ。私とウリちゃんも困りこそすれそう慌てなかったのは、ここが魔界だからだろう。何があってもおかしくないって思ってるからね。森の木は人を食べるし、野菜は飛ぶわ踊るわ、歌を口ずさむだけで歌詞を具現化させたり気分のムラで花や槍を降らせちゃう魔王様もおいでなことだし。大人がいきなり幼児になろうとそう驚きはしない。
でも、戻れるのかは心配なのよね。
「うん、リノちゃんがいかにパパ似なのかがよくわかったわ」
「……わたくちも、ユーリたまの服がよかったにょに……」
とにかく大きすぎる服を脱ぎ、丁度この部屋にあった娘の服に着替えた私とウリちゃん。魔王様が孫のように溺愛するリィンノエラのためにせっせと可愛いお洋服を仕立ててくださるものだから、エイジ君が言うように選びたい放題だ。本人は平日は幼稚園のスモックなので袖を通したことも無いドレスもいっぱい。子供はすぐに大きくなるから、おそらく着る機会も無いままサイズが合わなくなるだろう物が、まさかの形で役に立とうとは。
ええ、ウリちゃんにもドレスを着せましてよ。だって絶対似合うと思ったもの。結果はリノちゃんのコピーが出来上がっただけでしたけど。幼児化したら男感ゼロでした、ウチの旦那様。
メルヒノア様が魔王様とウリちゃんで着せ替え人形ごっこをされた気持ちが大変よく理解できました。
「愛しいリノちゃんの服だよ? パパは嬉しいでしょ」
「ちょうれしゅねぇ」
……それで納得するウリちゃんもどうかしているが、ツッコミは入れないでおこう。
幼児はご飯を食べるのも大変だ。
まず椅子によじ登るのに一苦労。魔王城の家具調度はいつもの大人の姿でさえ大きい。魔王様とウリちゃんは飛べるので問題無いけど、私は飛べないからね。
結局猫耳執事のギリムさんに抱っこで座らせていただいた。
ユーリちゃんの時のや、リノちゃんもいるから子供用のカトラリーもあるにはあるが既に大人用でセッティングされていたので仕方が無い。
テーブルからやっと顔が覗く高さなのでホント食べにくいったら。
くぅっ。スープのスプーンですら巨大に感じる。口に入るのと同じくらいこぼれちゃう。
いつもリノちゃんや園児達で見慣れているけれど、子供がこぼすのは仕方ないんだね。
「リンデ……魔王様、ボーボのミルクをお持ちしましょうか?」
朝の深煎りコーヒーも、子供の舌には酷く苦く感じるのか眉を顰めた魔王様にギリムさんが声を掛けている。そういえば、ギリムさんもちっとも驚いていないね。寧ろ嬉しそう。しれっと魔王様の幼名であるリンデルって呼びそうになってるし。
手が小さいから上手く大きなスプーンやフォークを扱えなくて、ぽろぽろこぼすわ、落とすわの幼児三人の顔や手を、手際よく拭いて回ったり時々食べさせつつ、御年四百歳越えの老執事さんはイキイキしておいでだ。
「魔王様やウリエノイル様のこんなに愛らしいお姿を見るのは百数十年ぶり。ココナ様もおいでですし、まだメルヒノア様がおられた頃に戻ったようで、本当に嬉しゅうございますよ。長生きはするものですね」
そうか、こんな感じだったんだね。大変だったろうけどいい思い出なんだね。
とはいえ、和んでばかりもいられまい。
昨夜、サロンで喋っている時に、いつものようにお茶を淹れてくれたのはギリムさんだった。あの場にいたのに彼は幼児化していない。
ギリムさんに聞いてみよう。
「昨夜って何か変わったことがありましたか? 誰か来ていたとか」
「特に変わった事はございませんでしたが……強いて言うならお茶と一緒にお出しした茶菓子が城で作った物ではございませんでしたね」
昨夜のお茶菓子といえば……。
「あの薔薇の花びらの入ったクッキー? 上品でとっても美味しかったよね」
「あのお品はホボルの夜王様から献上されたものでした」
夜王様と言えば、昼間は日光を避けるため幼子のお姿で、夜は老若男女問わず魅了する黒い羽根を持つ美しい青年の姿に戻られる最上級淫魔の王……って!
幼子の姿。幼児化。夜王様は毎日がまさに今の私達の状態なわけで。
「ちょれらー!」
プチ魔王様とミニウリちゃんが声を揃えた。
その直後、一羽の伝書鳥が食卓に舞い降りた。
『魔王様、申し訳ございませぬ。説明書きを添え忘れました。以前、羨ましい、面白そうだと仰っていたので、吾と同じ体験ができる魔法を籠めた菓子を作らせました。効果は一日だけ。陽の光のある昼間は幼子の姿になり、陽が沈むと大人に戻ります。ぜひお楽しみくださいませ。追伸、吾の日頃の苦労をよくお分かりいただけることと思います。決して面白くは無いので、覚悟をお決めになってからお召し上がりいただきますよう』
この声、間違いなく夜王様だわ。
説明をつけ忘れちゃったのか!
いやぁ、追伸の部分は多分に皮肉を感じる。わざとつけ忘れたんじゃないかしら。本人は変身してしまうのが不便で仕方が無いと仰っていたのに、魔王様やウリちゃんが羨ましいとか言っちゃったのを内心根に持っておられたとか? ありえる。あの超プリティな夜王様、ああ見えて魔王様やウリちゃんより年上で先代魔王様に可愛がられておいでだったそうだし。悪戯が好きそうだもの。
「覚悟もにゃにも、もうおちょいわ……」
魔王様が呆れたように舌っ足らずで呟いておいでなのを、伝書鳥は返事と受け取ったらしい。記憶して飛んで行った。
あーあ。絶対夜王様は『大成功!』ってほくそ笑むわよ。
でも夜になったら大人になるのか。良かった。上手く行けばリノちゃんが帰って来るまでにいつものパパとママに戻れる。
戻れるとわかって安心したら、せっかく子供になったんだから楽しまなきゃ損みたいな気になってきたわ。
「魔王様、ウリちゃん、今日は流石にお仕事出来ませんよね?」
「……無理らろうにゃ」
「じゃあ、せっかくなので、一日子供らしく遊びましょう!」
子供らしく遊ぶ。そうは言っても、百三十歳越えの父親二人に、三十過ぎの母親。家庭だけで無く、いつもは子供達のお世話をする幼稚園の園長や職員でもある。遊んでいる子達を見守ることはあっても、自分達が遊ぶ側になると何をすればいいやら。
「にゃにちてあしょびまちゅ?」
ドレス姿なので女の子にしか見えないウリちゃんが困ったように言う。
「……にゃにも思いちゅかん」
魔王様、小さくなっても無表情なんだね。それもおすましさんみたいで可愛いけど。
確かにお絵描きも、おもちゃもなんか違うのよね。幼稚園の子達は棒切れや紐の一本でもあれば、いや、何もなくても物語を作ったり、遊びを思いついて楽しそうにしている。そう思うと、子供の想像力って素晴らしい。
私達も昔は子供だったはずなのに、体が大きくなって知識も増えた半面、何かを失ってしまったのかもしれないね。
「とりあえずお散歩でもしましょ」
お城の中だけでも相当な運動量だと思うのよね。
子供の目線で見る世界は、いつもの見慣れた風景も全く違って見える。足の長さも違うから歩幅がちまちま。廊下ですら果てしなく感じる。天井など遥か上空だ。何だか新鮮。
しかしここは魔王城。闇雲に歩き回ったら確実に迷子になる。迷い込んだが最後、数年戻らない者も多数いるし、中には二度と戻らなかった者もいる。地下などは階段の位置や間取りが刻々と変わっているものだから、魔王様やウリちゃんですら子供の頃何日か迷子になったことがあるらしい。なのでメインの廊下からは外れてはいけない。
「はぐれたら困るにょれ、手をちゅないで行きまちょう」
ウリちゃんが私の手を掴んだ反対側では、魔王様も私の手を握っている。
「あ、魔王たま、ウチの奥たんと手をちゅなぐのはやめてくだちゃいまちぇ」
おチビが奥さんとか関係ないと思うよ、ウリちゃん。
「仲間外れは駄目よ? 今日はちっちゃい子同士仲良くしないと」
「ちょうらじょ。にゃかよくちにゃいと」
……魔王様、勝ち誇ったかのように肯定しながら繋いだ手に力を籠められましたが、この状態、もし大人だったら確かにマズいと思うんですよね。ウリちゃんの方が正しいのかもしれない。
というわけで、ブーブー文句を言う男子は無視して強制順番チェンジ。ウリちゃんを挟んで三人でお手てを繋いで歩きます。これで問題無いはず。
だが男子はわざと繋いだ手をブンブン大きく振ったり肩をぶつけ合っている。もう、この幼馴染二人、仲がいいのか悪いのか。行動まですっかりお子様になってるじゃない。
「あ、そうだ。せっかく子供になったんだから、アレで進みましょう」
「アレ?」
紐を調達して、今度は前後一列に並んで進みましょう。幼稚園の子達がいつもルウラ発着所と園を行き来するときに迷子防止のためにやる『電車ごっこ』。先頭の車掌さんは魔王様です。
ちなみに魔界に電車は走っていない。子供たちは列車など見たことは無いので『ムカデごっこ』でも良かったのだけど、魔界のムカデは十メートルくらいある巨大で狂暴な魔物だ。あまり良い印象は無い。そして初代車掌のユーリちゃんの頃から「がたんごとん、しゅっぽっぽ」と言いながら進むのが慣習になっているので『電車ごっこ』なのだ。これとて人間界を知っている身からしたら、SLじゃあるまいし電車は「しゅっぽっぽ」などと音はしないし、車掌じゃなく運転手だというツッコミもあるものの、そこは目を瞑ろう。そもそも教えたのは過去の自分だ。
「……ぽ……ぽっぽぉ……」
「魔王たま、声がちいしゃいれす!」
ウリちゃんは厳しいですが、中身は大人。恥ずかしさは消えないよね。声が小さくても魔王様のぽっぽーはかなりレアだよ。可愛すぎて悶えたよ。
「がたんごとん、がたんごとん」
「ちゅっちゅっぽっぽ」
三人で言いながら進むうちに楽しくなってきた。
私達の事情を知らないお城の人達は、突然小さくなった私達に目を丸くして驚いている。幼稚園の子達を装うには、魔王の血族にしか許されない黒髪でバレバレだ。中にはギリムさん同様、長く務める使用人もいて、リアルに魔王様とウリちゃんの幼少期を知っている人もいるだろうしね。
厨房の前を通った時、料理長が驚いて声を掛けて来た。
「ま、魔王様? 宰相閣下? それにココナ様ですよね?」
「うむ。今日らけは子供なのら。気にしゅるな」
「は、はあ。お気をつけて……」
魔王様に気にするなと言われても困りますよね。
超低速運転の電車の後ろから、料理長の声が飛んでくる。
「お三方の昼のお食事はお子様ランチでご用意しておきますね」
「たのんだじょ」
……いいんだね、お子様ランチで。私も楽しみではありますけど。ウリちゃんも嬉しそう。
最終的には幼稚園にでも行こうと進んでいると、お馴染みの作業着と麦藁帽に着替えたエイジ君が前方からやって来た。朝以来だね。
「おや、可愛らしい行列ですね。どこ行きの電車ですか?」
「終着駅は幼稚園? でもまだ未定」
私がそう答えると、エイジ君は素敵な提案をしてくれた。
「先に畑の島へ来ませんか? 丁度ぶつぶつコーンが収穫時です。一緒にもいでみようと呼びに来たんですよ」
わあ、面白そう! トウモロコシ大好き! ウリちゃんも魔王様も大好物だよね。
そんなわけで、畑の島に行くことに。電車だとなかなか辿り着きそうにないので、ここからは飛行機に変身です。魔王様とちっちゃい羽根を出したウリちゃんは自力で、私はエイジ君に掴まって飛んでいきます。
いつもはそう遠いと思わなかった小さな島も、自分が小さいと遥か彼方。それにものすごく広く感じる。園児達はいつも並んで普通に歩いて行くけど、子供達って大人が思ってる以上に体力があるのね。魔族でも庶民は丈夫なのだろうか。だけどかなり頑張ってると思う。そりゃ畑に行った日は何人もくたびれてお昼寝しちゃうわ。今後ちょっと考えなきゃね。
島に着くと、お馴染みの笑い声が出迎えてくれる。畑の番人笑いジラソレと歓喜ヴェレット。
「わーっはははははー! おい、どうした。ちっせえな?」
「オホホホ。あら、皆さま今日は可愛らしいこと」
「私達、魔法のお菓子でで夜王様みたいになっちゃったのよ。夜になったら戻るよ」
「わはははっ、そりゃ面白いぜ。じゃあせっかくだから子供しか出来ねぇことを楽しまないとな! ははっ」
口は悪いがジラソレはいい事を言う。子供しか出来ないことか。そうだね、楽しまないと。
ジラソレと同じニコニコ顔のエイジ君に案内されて、幼稚園の菜園とは反対側のトウモロコシ畑に。
魔界のトウモロコシは粒が蛍光緑な以外、味は人間界のと同じ。薄い皮に包まれた長細い実も髭もほぼ見慣れた姿なのだが……。
「ブツブツ……ふん、どうせ食うんだろ、まあ甘いんだけどさ……」
「鳥につつかれるよりいいけどさ、ブツブツ」
ううっ。ぶつぶつコーン、小さな声でものすごくブツブツ呟いてる。しかも愚痴―――これ、野菜なのかな? ジラソレ達みたいに植物魔人なんじゃ?
「ココナたん、にゃんかこあいれすね……」
コーン大好きのウリちゃんはかなり怯えている。毎度食べていても実際成っているのを見るのは彼ですら初めてらしい。魔王様もちょっと引き気味。
トウモロコシは背が高い。何本も植えられた中にいると、まるで巨木の生い茂る森の中にでもいるかのような気になる。
「まあ気にせずもいじゃってください。茎から離れると黙ります」
元勇者な農業大臣は慣れたもの。大きそうなのを手際よく片手でもぐと、私達に見せてくれた。確かに黙ってしまえばただの野菜だ。
「魔王様、これなんか美味しそうですよ。こう、下に向けて引っ張ります」
「うむ。やってみゆ」
エイジ君は片手でもいでいたコーンも、三歳児クラスのおチビさんには巨大。ブツブツ愚痴をこぼす実を、両手でジタバタしながらやっと採って、聖剣でもかざすように持った魔王様は、ものすごく満足気。珍しく笑顔だ。
ああ、その顔。ユーリちゃんが初めて走りきゅうりを収穫した時を思い出すわ。
「わたくちも」
ウリちゃんもドレスで動きにくいなりに、格闘の末一本ゲット。いつも微笑み標準装備だけど、採った実を私に見せながら、得意げににこーっと弾けるように笑う顔は新鮮だね。そんな笑顔だとますますリノちゃんとそっくり。
何だろう、皆中身は大人なはずなのに、精神面までこの小さい体に引っ張られてるような。だんだん子供らしくなってきちゃった。
私も採らせてもらったけど、ぽきって実が茎から離れた瞬間の達成感半が端ないわ。ちょっぴり『黙らせた=殺した』という罪悪感が無きにしもあらずだけども。まあ、そもそも食べるということは命をいただく事だ。魚も肉も野菜も、全て生きていたもの。その命をいただくということを忘れてはいけないと、お給食の時にいつも子供達にも教えている。だから喋ろうが呟いていようがこのコーンも同じ。その命を無駄にせず美味しくいただくからね。
とはいえ、ぶつぶつコーンは幼稚園の菜園では植えないことにしよう。トウモロコシ好きの園児にトラウマを植え付けかねない―――。
面白くなってその後も幾つか収穫したものの、おチビの体では一人二本ずつ持つのが精いっぱい。エイジ君に何本か持ってもらい作業終了。
「わはははー、美味しく料理してもらえよー! ははっ」
ジラソレに葉っぱの手を振って見送られ、畑の島を後にする。
早速厨房で茹でてもらった甘いぶつぶつコーンも添えられたお昼ご飯。約束のお子様ランチでお腹いっぱいになると、思い切り睡魔が襲ってきた。
「にぇむいれすぉ……」
ウリちゃんも大きな欠伸をしてるし、魔王様も目をこすっている。
「おチビちゃん達にはお昼寝が必要みたいですね」
エイジ君が慣れた手つきで私達三人を抱き寄せて言う。とんとん、って優しく背中を叩く手が心地よすぎてふわふわするよ。
えー、もっと遊びたいのに。でも眠さに勝てそうにない。子供達もお昼寝するとき、こんな風に思ってるのかな。ああ、なんだか時間がもったいないなぁって……。
どのくらい時間が経ったのかはわからないけど、目を開けると丁度ウリちゃんと魔王様も目を覚ましたところだった。幼稚園でもいつも不思議なのが、寝付くのも起きるのもなぜか揃う事が多い。一人が目を覚ますと皆起きてくる。私達も同じだったみたい。
エイジ君かギリムさんが運んでくれたのか、いつの間にか私達はベッドの上で並んで寝ていた。魔王様のお部屋のベッドのようだ。
時計を見ると午後二時過ぎくらい。まだまだ陽は沈まないからお子様体験は続くね。
「幼稚園に行く?」
「いいれしゅね」
なんだかすっかり、体だけじゃなくて心まで子供になっちゃったみたいなウリちゃんと魔王様が頷いたので、もう一度電車ごっこで幼稚園になっている大広間を目指す。
高い高い窓から石造りの薄暗い廊下に差し込む午後の光に埃がキラキラするの、遠くから微かに聞こえる人の声、自分達の足音。そんないつもは何とも思わない些細なことも新鮮に映るのが不思議。それに時間の流れがものすごくゆっくりに感じる。
「三時になったらおやつをお持ちしますね」
廊下ですれ違ったギリムさんが白い猫尻尾を揺らして言う声も嬉しい。
いつもは子供達の笑い声や歌声で賑やかな幼稚園は今日は静か。
「滑り台まで競争!」
そう言ってややフライング気味に私が走り出すと、負けず嫌いの二人も慌てて走る。
「まちぇー!」
ウリちゃんがすごい勢いで追いついて来る。一番出遅れた魔王様も一生懸命。あと少しでゴールの滑り台というところで……。
「あっ」
魔王様が派手に転んだ。幼児は手足が短くて頭が重い。思い切り顔からこけたような。
しばらく起き上がらなくて心配になったけど、もそもそと身を起こした魔王様の口がへの字になっている。痛かったよね。泣いちゃうかな?
でも魔王様は泣かなかった。
「えらいね、泣かなかったね」
つい園児に対するのと同じように言っちゃったけど、中身は魔王様なんだよね。
「子供じゃにゃいからにゃかにゃい」
……どう見てもちっちゃい子に子供じゃないからって言われても説得力は無い。
その後、滑り台を順番に滑ってみたり、砂場で遊んでみたり。だが大人の理性が邪魔をしてイマイチ盛り上がりに欠ける。
「そうだ、お歌でも唄ってみます?」
えー? と不服の声も上がったのは、やはり気恥ずかしさみたいなのが残ってるんだろうね。
それでも私がオルガンに向かうと、ワクワクした顔で二人もついてくる。
いつもは小ぶりだと思っていたオルガンがとてつもなく大きく思える。これ、手が小さいから上手く弾けるかな? それ以前に足踏みオルガンなので座るとペダルに足が届かない。立ったままだと鍵盤が目より高いから見えない。
「わたくちがあちを動かしまちゅぉ。ココナたんはいしゅに乗って弾くれす」
ウリちゃんがペダルを動かしてくれるから、私に椅子に乗れと言っている。ではお言葉に甘えまして。
共同作業でオルガンが音をたて始めた。手は小さくても毎日弾いているから身についている。案外普通に弾けるものだ。人間界だったらこのくらいの歳でピアノを習い始める子もいるからね。
「ココナたん上手」
「だって先生だもの」
チューリップを弾くと、一人手の空いている魔王様が恥ずかしそうにだが歌を口ずさみはじめた。
「しゃーいた、しゃいたー」
あらなんて可愛いお声! 発音はともかく上手だね、魔王様。音階がしっかりしてる。
負けずにペダルを踏み踏みウリちゃんも歌いはじめる。こっちも高くて可愛い声だね。
……ん? なぜ教室にお花が咲いてる?
「あーか、ちーろ、きいろー」
赤いチューリップがぽこん、白い花もぴこん、黄色いのもぱこん。次々現れるお花達。
そうだった! 魔王様が歌うと歌詞が具現化しちゃうんだったぁ! ドドイル国家を歌われた時、歌詞に出てくる黒い翼を持つ巨大な馬がお城を走り回って大変だったこともある。よって魔王様には歌唱禁止令が出ているくらいだ。お遊戯会の職員の出し物にも園長は参加できない。だから余計に歌ってみたかったんだろうけど……無駄に強力な魔力は小さくなっても健在だったもよう。
でもまあいいか。チューリップがいっぱい咲いたところで害は無い。歌詞の通りどの花を見ても綺麗なだけだ。多分明日、園児達が登園してくる頃には消えるだろう。
ご機嫌なので次にちょうちょも弾いてみたら、幼稚園の中は更に菜の花も咲いて、お花畑にちょうちょのひらひら舞うメルヘンワールドと化した。桜も咲いてるよ。
「おやおや。これは素敵ですな」
三時のおやつを持って来てくれたギリムさんとエイジ君も気に入ってくれたみたい。
幼稚園でお花見をしながら、皆で一緒におやつタイム。
お昼は小さなお皿の料理でお腹いっぱいになって昼寝した。その後まだ一時間ほどしか歩いたり走りったり歌ったりしてないのに、小さな体はお腹が空くのね。そもそも胃が小さいので一度に量を食べられない上、寝ている間も体が成長しようとエネルギーをいっぱい使うからかもしれない。子供達に間食が必要なのも頷けるわ。今度からリノちゃんにご飯が食べられなくなるからおやつはダメって言わないようにしなきゃ。
それにしても、このおやつのチョイス、ほんの少しギリムさんに物申したい。
「クッキー……」
私達、クッキーを食べてこんなことになっちゃったんですけど?
魔王様とウリちゃんも同じ考えなのか、なかなかクッキーには手が伸びないみたい。さっきから一緒に出されたミルクしか飲んでないよね。
「大丈夫ですよ。これはこの城の厨房で焼いたものですから。魔法はかかっておりません」
苦笑いのギリムさんに言われて、やっと食べ始めた私達でした。
あ、さくさく素朴で美味しいや。
ミルクで口の周りに白いお髭が生えちゃった魔王さまをハンカチで拭きながら、エイジ君が困ったことを言い始めた。
「ああ、魔王様もウリエノイル様もココナさんも本当に可愛いですね。でもこれが夜になったら戻っちゃうなんて勿体無いです。このままだといいのに」
勿体無いって。地味にいつもよりこっちの方がいいと言われてる? 特にエイジ君の視線、魔王様に向いてるよね。
「だけどずっとこのままだと困るじゃない。私も幼稚園の先生が出来ないし、リノちゃんのママがこんなに小さいと困るもの。魔王様やウリちゃんも国のお仕事が溜まっちゃうし」
私がそう言うと、横で魔王様とウリちゃんも激しく頷いていた。
「エイジもこーにゃってみちゃらしょんなこと言えんじょ」
こうなってみたらそんなことは言えんぞ、だそうです。楽しいこともありますが、困ることもいっぱいあるものね。
それでもポジティブなエイジ君は笑顔で答えます。
「オレもちょっと子供に戻ってみたかったかもしれませんね」
ふふーん。いいこと聞いちゃったかも。きっと小さいエイジ君もすごく可愛かったと思うのよね。今日はとっても親切にお世話してくれたから、ぜひとも反対になったら私達でお世話してあげたいものだ。
いろんな種族のいる魔界においても、どんな子でも小さい子は可愛い。しかしこういっちゃなんだが、個人的には日本人の小さい子の可愛さは格別だと思うのだ。犬でも洋犬の子犬よりも柴犬の子犬が最強に可愛いと思うのと同じ? あくまで日本出身の元人間の多分に偏見も籠った個人的意見ですが。絶対子供好きの魔王様なんて、チビエイジ君にメロメロになると思うのよね。見て見たいわぁ。
そんなことを考えていたら、今度はギリムさんから不穏な一言が。
「まだ残っておりますよ、夜王様のクッキー」
「えっ……」
そ、そうなんだ。結構沢山送って来たんですね、夜王様……。
その後、ユーリちゃんにもう一度小さい頃に戻って欲しいとか、いっそギリムさんを四百年近く前に戻しちゃおうとか色々言いつつおやつタイムを終了し、残りの時間をエイジ君達と幼稚園の園庭でそれこそ童心に帰って遊んだ。
鬼ごっこにかくれんぼ、だるまさんがころんだ。
幼稚園になっている大広間の高い窓から差し込む陽がオレンジに染まり始めた。
ああ、もうすぐ陽がくれちゃう。
大人に戻らなきゃ困るけど、この楽しい時間が終わっちゃうのがちょっぴり名残惜しいというか。
「夜王よ、おもちろいじゃにゃいか……」
ちっちゃな魔王様が宙を見上げながら呟いたとき。
「たらいまー」
リノちゃんの声だ! もうツツルから転移陣で帰って来ちゃったんだわ。
私もウリちゃんもお勤めする幼稚園の壁には、インターホン的な自分達の居住区と直通の魔法回路が引いてある。音声のみではあるものの、これがあったおかげで私はリノちゃんがまだ幼稚園の年齢になる前も育休無しで出勤出来ていたのだ。
「パパー? ママー?」
探してるなぁ。でも今姿を現すわけにはいかないし……。
「どこかにゃ? まおーたまのところ?」
あっ、インターホンの声が遠くなった。部屋から出たみたい。
「私が先に行ってリィンノエラ様のお相手をしてきましょう。お三方は元のお姿に戻られてからお越しください」
ギリムさんが気を利かせて先にリノちゃんのところに行ってくれた。
窓の外は最後の陽の名残の色。もう間もなく日が暮れる。
「もうすぐ戻れるわ」
だが私達は忘れていた。今、この幼児の体に見合った服を着ているという事を。揃って九十センチから一メートルの間くらいの身長だが、いつもは一番チビの私で百五十五センチ、ウリちゃんで百八十無いくらい、魔王様に至っては百九十くらいある長身。しかも細マッチョ。
さて。体が元に戻ったらどうなるでしょうか?
そして陽が暮れた―――。
「ぐっ!」
「きゃあ!」
「く、苦しい」
手が、足が、髪が伸びる。そしてボタンは飛び、布はビリビリと音を立て……。
魔王様は、昔人間界で見たアニメのナントカ神拳の使い手の人みたいな服の飛び散りよう。
私はゆったりしていた上にやや伸びる布が幸いしてか、ボタンが飛んだ以外は、袖口が食い込みつつもまあ何とか原型をとどめている。しかし超ミニワンピだ。これは恥ずかしい。
「と、とりあえずこれを!」
エイジ君が真っ赤になりながら、園の備品のバスタオルを持ってきてくれて私に掛けてくれた。
そして私同様、ちょっぴり伸縮性のある生地のゆったり目レース付きドレスを着ていたウリちゃんは……。
「ウ、ウリエノイル……っ!」
魔王様が幼馴染の姿を見て倒れそうだ。
これは見てはいけないやつだー! 細いから私と同じように破れずに原型を留めっちゃってて、しかも丈がおへそまでしかない! もう悲劇というより惨劇です! いっそ魔王様みたいに派手に服が破れてほぼ裸の方が良かったかもしれない。
ちなみに皆、下着は伸びるので何とか無事でしたよ。
「み、見ないでくださいませっ!」
脱ぎたいが、みっちり食い込んで苦戦中のウリちゃん。エイジ君が何か羽織れる物を探しに行ってくれたけど間に合わず……。
大広間のドアが開き、顔を覗かせたのは目に入れても痛くないほど愛しい娘。待ちきれずに来ちゃったみたいだ。
「パ……パパ?」
リノちゃんは見てしまった。パパのとんでもない姿を。
「にゃんかいやーっ!」
「リノちゃん!」
走って行った娘を追いかけることも出来ず、パパは変態な格好のまま崩れ落ちた。
こうして、一日幼児体験はとんでもない幕引きと相成った。
『吾の日頃の苦労をよくお分かりいただけることと思います。決して面白くは無いので―――』
「夜王様の苦労がものすごくわかりました」
いつも夜王様が引きずるほど長いブカブカの衣装を着ておいでな意味がわかったわ。
「……確かに面白くは無いな」
魔王様もしみじみと仰っている。
そして壁際で膝を抱えて黒い瘴気を立ち昇らせている堕天使様は、一番よくお分かりになったようだ。
「二度と御免でございますよ……」
ドレス姿のちっちゃいウリちゃん、可愛かったんだけどなぁ。
まあ、戻れたんだから良しにしようよ。
でも、子供の目線で見る世界は新鮮で楽しかった。貴重な体験だったと思うよ。
昔は私達も幼い子供だった。すっかり忘れていた大事なことをいっぱい思い出させてくれたと思う。
ふふ、魔法のクッキー、まだあるそうだし。
また楽しい事があるかもよ?
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