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火龍の章 前編
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しおりを挟む朝。オレ、フェイ、ルイの三人一緒に出勤。
あ~眠い。堪えていても大きな欠伸が出る。そんなオレにフェイは少し申し訳なさそうに言う。
「……ごめんね、結局ベッド占領しちゃって」
「いいよ。どうせ夜は寝ずに警護するのが仕事だったんだから」
……眠れなかったのはそれだけじゃ無いんだけどな。
「今日はボクも起きてるぅ!」
ルイ、一番最初に寝て、朝まで一度も起きなかった奴が言うな。オネショをしてないかヒヤヒヤしたぞ。
「そうだ、フェイいつの間にピアスなんか。知らなかった」
「あ、これ? 随分前から穴は開いてるんだけど、仕事の時は耳使うでしょ? だから外してただけだよ。普段はいつもつけてるよ」
「そうなんだ。じゃあもっと可愛いのをつければいいのに」
「これ、ディーンのだから」
「……」
今朝方の事が思い出されて、オレは少し胸の奥がちくっとした。
形見じゃないけど、そうやっていつも身につけてるんだ……ってか、ウォレスさんがピアスしてたって、その方がビックリだけどな。想像がつかないんだけど。
「カイ、今度もっと可愛いの買ってよ」
「自分で買え」
「ケチ」
お前は人の気も知らないで……。
さて、喋りながらオレ達は本部の正面ゲートに到着。
海関係の事件に対応するため、また警備を厳しくするためもあって、G・A・N・P本部は海の上に建っている。陸側から入るには一本道の橋を渡って行くしかない。隊員の宿舎はすぐ対岸にあるとはいえ、歩くと結構長いんだ、これが。
「フェイはまだ休暇扱いになってるけど、建物内にいりゃ人目もあるし安全だろ。今晩の事もあるから、オレも二・三時間仮眠もらうよ」
「じゃあ僕はその間、医療センターの方に行ってもいいかな?」
「あそこも警備が厳重だから大丈夫だろ。傍にいてあげな」
「ボクもぉ」
「そうだな。ルイ隊員、オレが寝ている間は君に警護を任せよう。静かにな」
「りょうかいしましたぁ!」
そんなやり取りの後、オペレーションルームに顔を出してから、二人を医療センターの奥に送り届ける。オレは医局の隅っこの方で仮眠を取る事にした。
「カイ、なんでここで寝るの?」
すっかり馴染みになってしまった女医さんに呆れられた。
「いいだろ、ベッド空いてんだし。あの男らしいお姫様を悪党からお守りするのがオレの仕事なの。今、ルイとICUにいるから、ここからなら様子わかるし、近いし」
「あんたもなかなか辛い立場だわね」
この人は察しがいいのか、悪いのか。ってか、オレがフェイのことを意識してるのって、そんなに見え見えなのかな……。
「……別に辛くなんか無いよ。じゃ、おやすみ」
その気になったらネコは寝つきはとてもいいのだ。
二時間ほど眠っていただろうか。医局の中が少し賑やかになった気がして目が覚めた。
「何かあったんっすか?」
オレは慌てて出て行きかける女医さんに訊いてみる。
「今、ICUから送られてきているデータに異変が……ディーンよ」
「えっ?」
いい方なのか悪い方なのかはわからないけど、オレも先生の後に続いた。あの部屋にはフェイとルイもいるし、仮眠もとったから様子を見に行かないと。
意識が戻ったのならいいのに。でもひょっとして……そんな期待も不安もドアが開いて静まり返った部屋が一瞬で消し去った。
まだ心のどこかに罪悪感が残っていて、ここで身動きもしないウォレスさんの顔を見るのが辛くて、オレは滅多に来なかったのだが、最後に見た時となんら変わりはない。その目が開くことも口が動くことも……ただ部屋の中に微かに規則正しく響く、生命維持装置の呼吸の音と心拍に合わせたぴっ、ぴっという小さな電子音だけ。
先生は首を傾げている。
「おかしいわね、脳波に大きな変化があったのに。ま、バイタルも安定してるから大丈夫ね」
良かった。悪い方では無かったんだな。
あれ? フェイとルイは?
「先生、フェイ達、ここを出ました?」
「いいえ。出たらわかるはず……あら、そういえば何処に?」
ここも、他の部屋もカメラで二十四時間体制で監視されてるから、ICUの映像は医局のモニターに常に映っている。いつも誰かが見ているからと、オレも安心して寝てたんだが……。
その時、微かにかさっと音が聞えた。救命ポッドの下から?
オレがコードやらチューブが沢山絡まった隙間を覗き込むと、なにやら白い塊がもぞもぞ動いていた。大きな袋?
「……んーんー」
くぐもった声。布の袋に何か……ってか、生き物が入っている。
引きずり出して縛ってあった袋の口を開けると―――。
「ルイ!」
そこには口にテープを貼られて包帯でぐるぐる巻きにされたルイが押し込められていた。
慌てて引っ張り出して、戒めを解き、口のテープを剥がしてやると、ルイは大声で泣き始めた。
「ルイどうした?! 何があった?」
「あうあうあう~!」
とにかく落ち着かせなきゃ。ぎゅっと抱いてやると、ルイの泣き声が少し小さくなった。
「うっうっ……ママ……ママがっ!」
「ママがどうした? 何処へ行った?」
「つれてかれたっ!」
「ええっ!?」
連れて行かれたって……サラマンダーが来たのか! まさかこんな所に!
「どんな奴だ? 顔見たか?」
オレにしがみついて泣きながらだが、ルイは答える。
「めがね、とられた。おかお、わからなかった。でもおねえさんたち」
「お姉さん達? 何人もいたのか?」
「ふたり。せんせーとおんなじ色のお服」
ナースか医師にでも化けてたのか。
「いつだ?」
「すぐさっき」
廊下では誰ともすれ違ってないぞ? どういうことだ?
ルイを女医さんに預けて、オレは慌てて部屋を飛び出した。
くそ、暢気に寝てるんじゃなかった!
一緒に来ていれば……そんな後悔をしても仕方が無いので、すぐにオペレーションルームに連絡を入れ、本部の敷地内、出入りのゲートも全て封鎖してもらった。そもそもいつもより警備を厚くしていた中だ。時間的にみてもまだそう遠くには行けないはずだ。
とにかく医療センター内をくまなく探した。だがフェイは見つからない。片っ端から訊いて回ったが、すれ違った者はおろか、怪しい者を見たものも誰もいない。
「フェイ! どこだ?」
オレはもうそれこそ一秒も止まることなく探し続けた。
敷地内はおろか、本部の近辺も待機中の隊員、職員総動員で一斉に捜索が開始された。全監視カメラもすぐに解析班が録画をチェック。だが目立った異常は見つからない。
まさに忽然と消えたという感じだ。何なんだよ、コレ!
タイプDの隊員がかき集められて、残ったニオイを捜索すると共に、ルイの口に貼られていた粘着テープと包帯を研究班が解析中だ。
くたくたになるまで探して、手掛かりすらも掴めず、気がつけば、オレの足はふらふらとICUに戻っていた。
そういえばあの時、脳波に変化があったって……ウォレスさん、教えてくれてたんだな、大変だって。意識も無いはずなのに、それでも……。
オレは動けるし、喋れるし、見えるのに何も出来なかったなんて。ホント情けない。
「すみません……」
勿論返事は無い。
フェイが消えた。オレは守れなかった――――。
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