Dragon maze~Wild in Blood 2~

まりの

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火龍の章 後編

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「また会えましたね、カイ・リーズ」
 長身、黒い長髪、白い肌に薄青の目。気味が悪いくらいにウォレスさんにそっくりなその顔。ロン。
「……オレは……会いたく無かったけどな」
 う~ん、何かまたちょっと計算が狂ってきた。動けるようにはなって来たけど、流石に今こいつを相手にするのはちょっとなぁ。どれだけ強いか知ってるだけに厳しい。
「あ、大丈夫ですよ。そいつは今動けませんから」
 得意げに男の方がロンに言った。こらこら、お前は何もしてないだろ。
「まあいいでしょう。どうせ私はこちらのネコさんにも用がありましたから。手間が省けました。しかし、自信満々に言っていたわりにG・A・N・Pの追手の来るのが少々早すぎるでは無いですか。だから予告などというお遊びも大概にしておきなさいと忠告して差し上げたのに。で? あれは手に入ったのでしょうね?」
 ロンに尋ねられ、女の方が気まずそうに言う。
「……持っていませんでした」
 ロンの表情が一気に厳しくなった。
「これは考え直さねばなりませんね。やはりあなた方を連れて行くのは……」
「ま、待ってください!」
「ほら、ちゃんともう一つのお宝は用意しました!」
 サラマンダーは二人とも大慌てだ。何だ? このやりとり。
 連れて行くって……そうか、こいつらは『選ばれて』ないんだ。きっと、手柄をたてればあの印をもらえると思ったのだな。少しだけ形が見えてきたぞ。
 だが、ここで事態が一変した。
 ロンの視界を遮るように立っていた男の方が、やや誇らしげに横に退く。
 薄青の目が、ベッドの上のフェイの姿を確かめた途端、大きく見開かれた。
「フェイ!」
 慌てて駆け寄って手首の戒めを解く表情が、口惜しいくらいウォレスさんそっくりだ。冷たい無表情な白い顔に突然人間らしい感情が通ったように。
 ロンはぐったりと力の抜けたフェイの裸体に自分のコートを脱いで掛け、抱きしめた。
「大丈夫か? ああ、可哀想に……なんという酷い事を」
「……だい……じょうぶ……」
 ぼうっとしたフェイの目には、奴は誰に映っているんだろう。
「待ってなさい」
 もう一度、そっと壊れ物でも扱うようにフェイを横たえて、ロンが立ち上がる。
 サラマンダーの二人に向き直ったロンの低い声は、心持ち震えていた。
「これはどういうことです? 大切なフェイを……随分な扱いではありませんか」
 ただでさえ大きなロンの体が、一層大きく見える。
 すごく怒ってる?
 表情はそんなに変わってないが、ぐるる……と低く獣の唸り声が聞える。長い髪が逆立つほどの怒り。息が止まりそうな捕食獣の殺気が部屋にたちこめはじめた。
 フェイの事はこいつがやらせたんじゃないのか? なんでそんなに怒ってる?
「逆鱗に触れる、という言葉を知っていますか?」
「……あの……」
 一歩踏み出したロンの只ならぬ気迫に、男の方が後ずさる。
「私は解除コードが欲しかっただけだ。誰もフェイをこのように辱めろと言っていない。失敗した上、最もやってはいけない事をしましたね」
「な、何もしてませんよ! 触りもしてません」
「聞きたくも無い!」
 姿さえ見えないほどのスピードでロンが動いたと思うと、次の瞬間にはサラマンダーの男の方の首から血が飛沫いた。
「イアっ!!」
 女の方が慌てて駆け寄る。馬鹿、行くな! お前も……。
 広がっていく血溜まりの中で、イアの体がぴくぴく痙攣している。確実に頚動脈を掻き切られてるな。たぶん、もうそう長くない。
「なぜ!? 約束が違うじゃない! よくも弟を!」
 泣き叫ぶような女の声とは対照的に、ロンの目はどこまでも冷めている。
「約束? そんな物をした覚えは無い。君達が勝手にやった事だ」
「だからってそこまでする事無いだろ!」
 オレは思わず割って入った。毒の影響はもうほとんど抜けたみたいだ。すんなりとはいかないが、なんとか立ち上がれた。
 アイスブルーの冷たい目が、今度はオレを捉えた。
「君はどこまでも首を突っ込みますね。カイ・リーズ」
 突き刺さるような殺気と唸り声。さっきのイアの血のついた爪を軽く振って、ロンがゆっくりとオレの方に歩いてきた。
「カイ……!」
 フェイが起き上がろうとしたが、ふらついてベッドから滑り落ちたのが視界の端に見えた。
「おい、ミアとかいったな。弟みたいになりたくなかったら、フェイを連れて離れてろ」
 サラマンダーの女に言うと、彼女は素直に頷いた。ロンの問答無用の殺気を感じたらしい。
 くう、まだちょっとふらつく。でも、こうなったらやるしか……。
「なあ、教えてくれ。フェイを誘拐させたのはお前じゃないのか?」
 オレは一応ロンに問うてみた。
「答える必要がありますか?」
「あるね。オレはフェイを取り戻しにきただけだ。オレだって正直、フェイを酷い目に遭わせたその男を殺してやろうと思った。本当にやるとは思わなかったがな。だが、もしこれが元々はお前が命令してやらせた事なのなら、オレはその男以上にお前を許せない」
 自分でも何言ってるかわからなくなってきたけど、ロンも少し頭に上ってた血が引いたみたいだ。やや、落ち着きを取り戻したかに見えた。
 吐き捨てるようにロンが言う。
「私がこのような事を命令するものですか。折角の能力を無駄にするこの下衆な輩を、私の楽園に連れて行く気など端から無かった。だが、理想を完成させるにはフェイに託された解除コードがどうしても必要。だから取引に応じただけ。それを……」
「解除コード? あのワケのわからない言葉が並んでるやつ?」
 オレが尋ねると、ロンの表情が変わった。
「知っているのですか?」
「ちらっと見たけど覚えちゃいないし、今どこにあるのかは知らない」
 本当にどこにあるのか知らない。フェイは知ってるかも知れないし、たぶんウォレスさんがどこかに隠したのだと思うけど、彼の研究室にも部屋にも無かった。名前を出すと今度は彼にも危険が及ぶ。あれはそんなに大事な物だったのか。
 それにしても、ロンは何でこんなにフェイを大事にするんだろう。フェイはコイツのことを知らないって言ってたのに。オレにはその方が大きな謎だよ。
「……知らないなら君に用は無い。やはり消えていただきましょう。目障りだ」
 目障りって。えらい言われようだな。考えてみたら別にオレ、何もしてないんだけど。ひょっとして何か? オレがフェイと一緒にいるのが気にくわないのか?
 こいつは逃れようが無さそうだな。やっぱ、やるしかないか。

 喰うか喰われるかの緊迫した空気がたちこめる中、黒い狼がオレに牙を剥いた。

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