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火龍の章 後編
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オレだって、この前襲われた時から、いつかは戦わなきゃいけないとは覚悟してたけど、もうちょい本調子の時が良かったな。
とりあえず間合いをとる。爪だけならたぶんオレのほうが鋭い。
ロンが先に動いた。
軽く牽制といったカンジでロンが爪を翻す。オレは跳んで躱して、その手を蹴る。よし、思ったより体が動く。
何度か互いに爪を躱し、蹴りも決まらずに間合いは一向に詰まらない。
でも、何か思ったよりロンの動きが鈍い。先程イアをしとめたスピードはどうした?
時々、額を押さえる素振りを見せてるけど、頭痛でもするのかな? まあ、こっちには好都合だけど。
オレは隙を見て思いきりジャンプして、ロンの後ろに回った。一瞬だが背中ががら空きになったところに爪を立てる。こいつはこないだのフェイの分だ!
僅かに避けられてそう深い傷はつくれなかったが、ロンが首に掛けていたネックレスの糸が切れて、ばらばらと貝殻が床に散らばった。
「これは大事な物なのに……!」
知るかよ。男がアクセサリーなんざじゃらじゃらさせてんじゃねえ。
これで火が点いたのか、ロンの動きが少し早くなった。長身から繰り出される攻撃は思った以上に届いてくる。躱したつもりでも、太腿と肩にいつの間にか爪跡が刻まれていた。そんなに深くは無いがジンジン痛い。
どのくらいの間、互いに決定打を与えられずにやり合っていただろうか。それは数分のようにも、もう何時間も経ったようにも思える時間。
突然、ロンが頭を押さえて止まった。よし、今だ!
チャンスと見て、オレは思いきり突っ込んで行ったが、爪が届く前に鳩尾に拳を喰らった。
何? フェイント?
「ぐっ!」
体制を崩した所に、オレは大きな手で喉を掴まれた。ロンはそのまま片手でオレを持ち上げる。こいつ、どんな力だよ!
息が出来ない……足はもう完全に宙に浮いてる。手を引っ掻いてみても離してくれない。じたばたすればするほど余計に苦しい。
オレはそのまま壁に押し付けられた。うう、目が霞んできた……。
「今度こそさようなら、ネコさん」
首筋に息が掛かるほどの距離に長い牙をもつ口が迫る。
噛まれる……そう思い、覚悟を決めてオレは目を閉じた。
ああ、やっぱ猫では狼に勝てないか。
まあいい、こいつはフェイには手を出さないだろうし――――。
ん? 噛み付いてこない?
目を開けると、急にロンがオレを離した。
ロンは両手で頭を抱え込むように押さえて壁に寄り掛かかった。足がふらついてる。
「うぁ……!」
なんか酷く苦しそうだぞ? 顔色真っ青だし。さっきから気にはなってたけど、どこか悪いのか? こいつ。
「くっ……やはり、この体は限界か……忌々しい狼の血が邪魔を……」
よくわからんが、今度こそチャンス!
オレは思いきりロンの顔をめがけて引っ掻きにいった。
顔はガードされたものの、左手に大きな引っ掻き傷はつくってやった。すかさず、開いたわき腹にもざっくりと。
ふん、結構効いただろ。ざまあみやがれ。かなり傷だらけの血だらけになってきたな? オレもだけどな。
「よくも!」
怒ったのか、ロンは牙を剥いて唸っていてもやりかえしては来ない。どうやらマジで動けないようだ。床に膝をついて蹲ったところに、オレが更に攻撃をしかけようとした時。
「やめてっ!!」
フェイの声?
「やめて、おねがい! ロンを傷つけないで!」
走り寄ってロンを庇うように抱きしめたのはルーだった。また一緒に来てたのか。
「どいてくれ。悪いがこっちも命懸けだ。ここで逃がすわけにはいかないんだ」
だがルーは首を振って、手を広げてオレの前に立ちはだかった。
「いや。これ以上ロンと戦うなら、先にルーを殺して」
きっぱりと言い放つルーに、オレもどうしていいかわからない。
「……ルー、もういい、どいていなさい」
ロンが言うも、やっぱりルーは動こうとしない。
「ダメ! ルーは大事な我が子を守る。そのためだったら死んでもいい。さあ、お兄さん、ルーを殺しなさい。早く!」
え? 今なんかすごい事聞えたけど……。
我が子って? ロンもルーの子供なわけ?
『ロンってちっちゃいのだったらしってるけど』
ルイが言ってたな。じゃあ、やっぱりその赤ん坊なのか? 例の超成長剤を使ってここまで大きくなった?
それなら、こいつがウォレスさんに似ている訳がわかる。ロンもルイと同じで、彼の遺伝子を持つ子供なのなら。
でもでも……それじゃ、ここまで人格が出来てるのがおかしい。あれは体は大きくなっても中身は変わらないはず。
「私はロンでは……あぁっ!」
ロンは何か言いかけて、また頭を抱えて身を捩った。相当苦しいみたいだな。
心の中の何かが、いつの間にかオレの爪をひっこめていた。
「ルー……ロンを連れて行きな」
「いいの?」
「カイ・リーズ……後悔しますよ」
「いいよ。オレは女の子に怪我させたりましてや殺すなんて出来ない。そのほうが後悔する。特にフェイと同じ顔をした娘にはね。それに言ったはずだぜ、ロン。オレはフェイを取り戻しに来ただけだって。早く行け、目障りだ」
ちょっとだけ、お返しを言ってやった。
ロンは床に散らばった貝殻に目を落として、一つ拾って握り締めた。大事なもんだって言ってたな、そういや。
「……フェイを頼む……」
オレは、ルーに支えられてふらふらと去っていくロンの後姿をただ見送った。
ホント甘いな、オレも。ここで何とかしときゃ後で苦労しなくても済んだのに――――。
サラマンダーの二人は、その後応援に来た極東支部に引き渡した。弟の方はすでに死んでいたけど……。
詳しい取調べは後としても、応援を待つ間に姉のミアに少々話を聞くことができた。
どうもあの蛇の印をつけて回っていた極小ロボットや、監視カメラ内臓の同型を作ったのはこの姉弟らしい。元々は彼らの家業用に開発した物だという。
最初は頭が良く、協力的な二人をロンも気に入っていた。だが、泥棒家業、しかも派手な手口で世間を騒がせているというのがロンは気にくわなかったらしく、再三注意を受けていたのに聞かなかったために愛想をつかされたのだ。もう一度ご機嫌をとろうとして、今回の事件に至ったわけだが……またしてもやっちまった。
誰にも追いつけない程早く泳げるフェイが、なぜ外に出た時に逃げなかったのかがオレには少し疑問だったのだが、病室に残されたルイやウォレスさんの命を盾にフェイが脅されていた事もわかった。なるほど、二手に別れたのはそういう狙いもあったのか。ホントに頭がいい奴らだ。ロンじゃないが、その頭や能力をもう少し真っ当な道に生かしてくれりゃ良かったのに……。
それにしても、色々と考えるとロンはただの悪党では無さそうだ。その出自も気になるし、一体最終的に何を成そうとしてるのだろうか。それはものすごく大きな事のようにオレには思えるのだ。理想を叶えると言っていたが、それは何なのだろう。
船に乗っていった者達はどこへ行ったのだろう。理想郷ってどこだ?
何より一番気になるのは、何故ロンはフェイのことをあんなに気に掛けてるんだろうって事だ。まるで恋人か親でもあるかのような態度に言葉遣い……意外と根はいい奴かも、とかちょっぴり思ってもみたり。
でも、今はオレも結構やられてるし、これ以上考える気力も無い。とりあえず、解毒してもらってちゃんと着衣も戻ったフェイを連れて、ルイの待つコウさんの所に戻った。
迷うかと思ったけど、少し調子の戻ったフェイの鼻と記憶で黄薬舗に辿り着けた。
「ママっ!」
ルイが涙目で駆け寄ってきた。いい子だったな、お留守番してて。
「よく無事で帰って来た」
コウさんも安心したみたいだ。
「なんとかね。帽子、助かりました」
「しかし……あの時の坊やが女の子だったとはね。長生きすると色々ある。まさかあの兄さんの子供に合わせてもらえるとも思ってなかったしな」
フェイはそれにはちょっと笑っただけで、何も言わずに誤魔化した。
以前に来ているということで、フェイは他の事が気になるようだ。
「街の人達は? カイに少し聞きましたけど……」
「……あまり宜しくない状況だよ。だが皆が皆変わってしまった訳ではない。まだ劇場もがんばっとるし、そのうち収集がつくだろうて。勝手に来て勝手に去る、元々ここはそんな街だ」
コウさんが少し明るく返すのに、フェイも頷いた。
オレはこの街をよく知っているわけじゃないけど、なんとなくそういう逞しさみたいなのはある街だなとは思う。
「G・A・N・Pも一刻も早く船の行方を探ります」
「頼んだよ。こんな所だがまたいつでもおいで。おチビさんもな」
すっかり懐いた様子でルイはコウさんに抱きついた。
「おじいちゃんすき~」
ルイ、良かったな、おじいちゃんまで出来て。
本部への帰りのヘリの中、ルイはすぐにおねむ。黙ったままだったフェイがやっと口を開いたのは、ずいぶん時間が経ってからだった。
「ごめんね……」
「こっちこそ、守るって言ってながら……あの、あいつらに、その……」
「……されてないから、何も。ホントに」
「ならいい」
う~ん、ものすごく間が悪い。おい、ロン、されてないってよ。良かったな。
「……カイ、僕のこと嫌いになったでしょ?」
「なんで?」
「サラマンダーも言ってたじゃない、出来損ないだって……女じゃないって」
気にしてたんだな。だけどそんなので嫌いになったりするかよ。
「そんな事は絶対に無いけど……たとえ、世界中の奴がお前の体を醜いと言ったって、オレの中ではお前が一番綺麗で完璧な女だと思う」
ああああぁ! オレ、何言ってんだろう!? 馬鹿か? うわ~! 引かれるぅ。
そんなうるうるした目で見ないでくれ!
「カイ……」
何か言われる前に、オレはフェイの唇を塞いでやった。馬鹿ついでに、唇で。
フェイは逃げなかった。平手も飛んで来なかった。
ありゃ? 何かちょっといけるかも?
ヘリの操縦士は見てみぬフリだ。たのむ、内緒にしといてくれよ。
「ママ……」
横でルイが動いたので慌てて離れた……のに寝言かよ。タイミングばっちりだな。
その後、何か照れ臭くて、ぎこちな~くお互いに無言のまま戻ったバンコクでは、驚くべき知らせがオレ達を待っていた。
昏睡状態だったウォレスさん意識が戻ったのだ。
それは嬉しい事なのか、更なる悲劇の始まりだったのかはわからない。
火龍の章 END
とりあえず間合いをとる。爪だけならたぶんオレのほうが鋭い。
ロンが先に動いた。
軽く牽制といったカンジでロンが爪を翻す。オレは跳んで躱して、その手を蹴る。よし、思ったより体が動く。
何度か互いに爪を躱し、蹴りも決まらずに間合いは一向に詰まらない。
でも、何か思ったよりロンの動きが鈍い。先程イアをしとめたスピードはどうした?
時々、額を押さえる素振りを見せてるけど、頭痛でもするのかな? まあ、こっちには好都合だけど。
オレは隙を見て思いきりジャンプして、ロンの後ろに回った。一瞬だが背中ががら空きになったところに爪を立てる。こいつはこないだのフェイの分だ!
僅かに避けられてそう深い傷はつくれなかったが、ロンが首に掛けていたネックレスの糸が切れて、ばらばらと貝殻が床に散らばった。
「これは大事な物なのに……!」
知るかよ。男がアクセサリーなんざじゃらじゃらさせてんじゃねえ。
これで火が点いたのか、ロンの動きが少し早くなった。長身から繰り出される攻撃は思った以上に届いてくる。躱したつもりでも、太腿と肩にいつの間にか爪跡が刻まれていた。そんなに深くは無いがジンジン痛い。
どのくらいの間、互いに決定打を与えられずにやり合っていただろうか。それは数分のようにも、もう何時間も経ったようにも思える時間。
突然、ロンが頭を押さえて止まった。よし、今だ!
チャンスと見て、オレは思いきり突っ込んで行ったが、爪が届く前に鳩尾に拳を喰らった。
何? フェイント?
「ぐっ!」
体制を崩した所に、オレは大きな手で喉を掴まれた。ロンはそのまま片手でオレを持ち上げる。こいつ、どんな力だよ!
息が出来ない……足はもう完全に宙に浮いてる。手を引っ掻いてみても離してくれない。じたばたすればするほど余計に苦しい。
オレはそのまま壁に押し付けられた。うう、目が霞んできた……。
「今度こそさようなら、ネコさん」
首筋に息が掛かるほどの距離に長い牙をもつ口が迫る。
噛まれる……そう思い、覚悟を決めてオレは目を閉じた。
ああ、やっぱ猫では狼に勝てないか。
まあいい、こいつはフェイには手を出さないだろうし――――。
ん? 噛み付いてこない?
目を開けると、急にロンがオレを離した。
ロンは両手で頭を抱え込むように押さえて壁に寄り掛かかった。足がふらついてる。
「うぁ……!」
なんか酷く苦しそうだぞ? 顔色真っ青だし。さっきから気にはなってたけど、どこか悪いのか? こいつ。
「くっ……やはり、この体は限界か……忌々しい狼の血が邪魔を……」
よくわからんが、今度こそチャンス!
オレは思いきりロンの顔をめがけて引っ掻きにいった。
顔はガードされたものの、左手に大きな引っ掻き傷はつくってやった。すかさず、開いたわき腹にもざっくりと。
ふん、結構効いただろ。ざまあみやがれ。かなり傷だらけの血だらけになってきたな? オレもだけどな。
「よくも!」
怒ったのか、ロンは牙を剥いて唸っていてもやりかえしては来ない。どうやらマジで動けないようだ。床に膝をついて蹲ったところに、オレが更に攻撃をしかけようとした時。
「やめてっ!!」
フェイの声?
「やめて、おねがい! ロンを傷つけないで!」
走り寄ってロンを庇うように抱きしめたのはルーだった。また一緒に来てたのか。
「どいてくれ。悪いがこっちも命懸けだ。ここで逃がすわけにはいかないんだ」
だがルーは首を振って、手を広げてオレの前に立ちはだかった。
「いや。これ以上ロンと戦うなら、先にルーを殺して」
きっぱりと言い放つルーに、オレもどうしていいかわからない。
「……ルー、もういい、どいていなさい」
ロンが言うも、やっぱりルーは動こうとしない。
「ダメ! ルーは大事な我が子を守る。そのためだったら死んでもいい。さあ、お兄さん、ルーを殺しなさい。早く!」
え? 今なんかすごい事聞えたけど……。
我が子って? ロンもルーの子供なわけ?
『ロンってちっちゃいのだったらしってるけど』
ルイが言ってたな。じゃあ、やっぱりその赤ん坊なのか? 例の超成長剤を使ってここまで大きくなった?
それなら、こいつがウォレスさんに似ている訳がわかる。ロンもルイと同じで、彼の遺伝子を持つ子供なのなら。
でもでも……それじゃ、ここまで人格が出来てるのがおかしい。あれは体は大きくなっても中身は変わらないはず。
「私はロンでは……あぁっ!」
ロンは何か言いかけて、また頭を抱えて身を捩った。相当苦しいみたいだな。
心の中の何かが、いつの間にかオレの爪をひっこめていた。
「ルー……ロンを連れて行きな」
「いいの?」
「カイ・リーズ……後悔しますよ」
「いいよ。オレは女の子に怪我させたりましてや殺すなんて出来ない。そのほうが後悔する。特にフェイと同じ顔をした娘にはね。それに言ったはずだぜ、ロン。オレはフェイを取り戻しに来ただけだって。早く行け、目障りだ」
ちょっとだけ、お返しを言ってやった。
ロンは床に散らばった貝殻に目を落として、一つ拾って握り締めた。大事なもんだって言ってたな、そういや。
「……フェイを頼む……」
オレは、ルーに支えられてふらふらと去っていくロンの後姿をただ見送った。
ホント甘いな、オレも。ここで何とかしときゃ後で苦労しなくても済んだのに――――。
サラマンダーの二人は、その後応援に来た極東支部に引き渡した。弟の方はすでに死んでいたけど……。
詳しい取調べは後としても、応援を待つ間に姉のミアに少々話を聞くことができた。
どうもあの蛇の印をつけて回っていた極小ロボットや、監視カメラ内臓の同型を作ったのはこの姉弟らしい。元々は彼らの家業用に開発した物だという。
最初は頭が良く、協力的な二人をロンも気に入っていた。だが、泥棒家業、しかも派手な手口で世間を騒がせているというのがロンは気にくわなかったらしく、再三注意を受けていたのに聞かなかったために愛想をつかされたのだ。もう一度ご機嫌をとろうとして、今回の事件に至ったわけだが……またしてもやっちまった。
誰にも追いつけない程早く泳げるフェイが、なぜ外に出た時に逃げなかったのかがオレには少し疑問だったのだが、病室に残されたルイやウォレスさんの命を盾にフェイが脅されていた事もわかった。なるほど、二手に別れたのはそういう狙いもあったのか。ホントに頭がいい奴らだ。ロンじゃないが、その頭や能力をもう少し真っ当な道に生かしてくれりゃ良かったのに……。
それにしても、色々と考えるとロンはただの悪党では無さそうだ。その出自も気になるし、一体最終的に何を成そうとしてるのだろうか。それはものすごく大きな事のようにオレには思えるのだ。理想を叶えると言っていたが、それは何なのだろう。
船に乗っていった者達はどこへ行ったのだろう。理想郷ってどこだ?
何より一番気になるのは、何故ロンはフェイのことをあんなに気に掛けてるんだろうって事だ。まるで恋人か親でもあるかのような態度に言葉遣い……意外と根はいい奴かも、とかちょっぴり思ってもみたり。
でも、今はオレも結構やられてるし、これ以上考える気力も無い。とりあえず、解毒してもらってちゃんと着衣も戻ったフェイを連れて、ルイの待つコウさんの所に戻った。
迷うかと思ったけど、少し調子の戻ったフェイの鼻と記憶で黄薬舗に辿り着けた。
「ママっ!」
ルイが涙目で駆け寄ってきた。いい子だったな、お留守番してて。
「よく無事で帰って来た」
コウさんも安心したみたいだ。
「なんとかね。帽子、助かりました」
「しかし……あの時の坊やが女の子だったとはね。長生きすると色々ある。まさかあの兄さんの子供に合わせてもらえるとも思ってなかったしな」
フェイはそれにはちょっと笑っただけで、何も言わずに誤魔化した。
以前に来ているということで、フェイは他の事が気になるようだ。
「街の人達は? カイに少し聞きましたけど……」
「……あまり宜しくない状況だよ。だが皆が皆変わってしまった訳ではない。まだ劇場もがんばっとるし、そのうち収集がつくだろうて。勝手に来て勝手に去る、元々ここはそんな街だ」
コウさんが少し明るく返すのに、フェイも頷いた。
オレはこの街をよく知っているわけじゃないけど、なんとなくそういう逞しさみたいなのはある街だなとは思う。
「G・A・N・Pも一刻も早く船の行方を探ります」
「頼んだよ。こんな所だがまたいつでもおいで。おチビさんもな」
すっかり懐いた様子でルイはコウさんに抱きついた。
「おじいちゃんすき~」
ルイ、良かったな、おじいちゃんまで出来て。
本部への帰りのヘリの中、ルイはすぐにおねむ。黙ったままだったフェイがやっと口を開いたのは、ずいぶん時間が経ってからだった。
「ごめんね……」
「こっちこそ、守るって言ってながら……あの、あいつらに、その……」
「……されてないから、何も。ホントに」
「ならいい」
う~ん、ものすごく間が悪い。おい、ロン、されてないってよ。良かったな。
「……カイ、僕のこと嫌いになったでしょ?」
「なんで?」
「サラマンダーも言ってたじゃない、出来損ないだって……女じゃないって」
気にしてたんだな。だけどそんなので嫌いになったりするかよ。
「そんな事は絶対に無いけど……たとえ、世界中の奴がお前の体を醜いと言ったって、オレの中ではお前が一番綺麗で完璧な女だと思う」
ああああぁ! オレ、何言ってんだろう!? 馬鹿か? うわ~! 引かれるぅ。
そんなうるうるした目で見ないでくれ!
「カイ……」
何か言われる前に、オレはフェイの唇を塞いでやった。馬鹿ついでに、唇で。
フェイは逃げなかった。平手も飛んで来なかった。
ありゃ? 何かちょっといけるかも?
ヘリの操縦士は見てみぬフリだ。たのむ、内緒にしといてくれよ。
「ママ……」
横でルイが動いたので慌てて離れた……のに寝言かよ。タイミングばっちりだな。
その後、何か照れ臭くて、ぎこちな~くお互いに無言のまま戻ったバンコクでは、驚くべき知らせがオレ達を待っていた。
昏睡状態だったウォレスさん意識が戻ったのだ。
それは嬉しい事なのか、更なる悲劇の始まりだったのかはわからない。
火龍の章 END
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