Dragon maze~Wild in Blood 2~

まりの

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星龍の章 第一部

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 なるほどな。これで体は成長させる事が出来ても、どうやって自我を持たせる事が出来たのかという謎は解けた。
 端から別人なんだ、中身は。じゃあ、一体移植された脳は誰のなんだ?
 それにもう一度手術って? 体が合わなかったのかな。だからロンはあんなに苦しんでたわけ? でも今度は誰に移す気だったんだ?
 オレが考えこんでいると、横から声が聞こえてハッとした。
「ひょっとして、こちらってウォレス博士じゃ……そういえば、オペの時も誰かに似ていると思っていたのですが」
 こらこら、せっかく眠ってるのに近づくな。そうだった、その道じゃ有名人なんだった。だったら顔を見せる必用無かったじゃん。オレってお馬鹿。起こしそうなんで慌てて部屋を出た。
「博士はどうなさったんですの? ご病気?」
「その……事故で記憶が無いんです。今は一歳児くらいかな」
「まあ、それはお気の毒に」
 ドアの外でDrアルブレヒトと話していると、慌てて女医さんが飛んできた。
「ちょっと! まだ安静が必要な患者を起こさないでちょうだいね」
「ゴメン。ちょっと用があったんだよ」
「なに? デリアにディーンを手術させる気じゃないでしょうね?」
「ち、違う違う! 恐ろしい事言うなよ先生」
 そういえばDrアルブレヒトは外科医だった。
「あら、手術が必要なら遠慮なさらず。脳は専門ですわよ」
 その手を見せるなって。なんかちっこいノコギリがきゅいーんっていってるし。
「断固遠慮します。ドリル一本触れないで下さい。ささ、あちらで話の続きを」
 こいつは、とんでもない重要参考人のお出ましだぞ。
 本部長にも相談して、Drアルブレヒトをしばらく本部内に保護する事になったのはいいが……一応ノーマルタイプの人間だし、半分だけだけど……大丈夫かな。

「カイ、大事な話があるんだ」
 久々に外回りに出て、さっさと仕事を済ませた後フェイがオレに声を掛けてきた。
 やっぱルイよりフェイが横にいる方が落ち着く。仕事は非合法のA・Hを不当就労させていた店主に話を聞くだけの簡単なものだったのですぐに終わった。
「何? 大事な話って」
「うん、なかなか本部内じゃ言えなくて。クーロンから帰った後、ずっと気になってたんだけど、あの解除コードってやつ」
「ああ。やっぱお前が持ってるのか?」
「ううん、僕はディーンに渡したから。あのカードが今どこにあるか知らない。ひょっとしたら処分したかも。でも一つだけ思い当たる事があって」
 フェイは一応周囲を見渡した。この頃、どこで監視されてるかわからないからな。
「耳かして」
 うひゃっ。すごい近いんだけど。息かかるぅ。うれしくすぐったいぞぅ。
「事故の前日にディーンの端末を預かってる。今は僕の部屋の秘密の引き出しの中。ひょっとしたらその中に答えがあるかも」
「ありえるな」
「この後、一度部屋に来てくれる? 端末にロックが掛かっててアクセス出来ないんだ。だから確かめようが無くて」
「いいけど」
 あ、もう離れちゃうのか。でも来てって……ええっ。いいのっ?
「部屋ってお前の?」
「うん。持ち出すのも何か怖くてさ」
 行く行くぅ。そういやオレ、見たこと無いし、フェイの部屋って。
「ところで秘密の引き出しって何?」
「へへ、内緒。だから秘密なの」
 そんなわけで、本部には仕事の報告だけして、少し帰りが遅くなるかもと言い残し、ルイを医療センターに置いてフェイの部屋に来たのだが……。
 成程、散らかっているのは嫌だと言ってたのが大変良くわかる綺麗な部屋だな。
 ってか……なんて殺風景な部屋なんだ。ここは病室か? ベッド以外何も無いじゃないかっ! しかもシーツもカーテンも全部白。色気もなんもあったもんじゃねぇ。
「なんちゅうか……生活感の無い部屋だな」
「クローゼットには服とか色々入ってるよ」
「そういう問題じゃなくて、こう、寂しくね? 花瓶に花の一輪でも挿すとかさ、可愛いクッション置いてみるとか、カーテンを水玉にするとか」
 思わずこぼすと、フェイは首を傾げる。
「女の子ってそういう部屋に住んでるものなの?」
「まぁ、大概は。いいけどさ、本人がこれでいいんなら……」
 ルイがオレの部屋の方に来たがるのもわかった。落ち着かないわな、これじゃ。
「それは置いといて、秘密の引き出しってどこ?」
「えっと、カイ、ちょっとあっち向いててね。僕が出すから」
 仮にも女の子のお部屋なので、言われるまま後ろを向く。
 お、クローゼット開けてるな。何が入ってるんだろうな。気になるぅ。見ちゃおう。
 ……中も色気ねぇ。仕方ないか、男物の服ばっかだし。でも引き出しってのは……。
「やだ、なんで見てるの」
「いいじゃないか」
 あ、これが秘密の引き出し? こんなのを鍵かけて隠してたのか?
「秘密も何も、別に隠すほどの物じゃないじゃん」
「……笑わないの?」
「笑わないよ。出しといてやらないと可哀想だぞ」
 引き出しには赤いリボンのついたちょっとくたびれたテディベアが入っていた。他にも幾つかのぬいぐるみ。
 七歳から仕事をしてるって言ってたな。博士が死んだのがフェイがまだ九歳の時だ。この部屋で、そんな子供がこのテディベアを抱きしめて一人眠ってたんだと思うと、ちょっと胸が痛くなる。男として生きてきたから、こうやってずっと隠して……。
「もう隠す必用も無くなったんだ。誰も笑ったりしないから、出しといてやりな」
「そうだね」
 小さな端末はクマの下に隠してあった。
「これなんだけど」
 ディーンはあの事故の前日にフェイに渡した……やっぱり本人にも何か予感があったのかもな。しかも研究室のコンピューターでは無く、個人の端末を使ってってのは、重要性を認識していたからだろう。
 立ち上げると、フェイが言ったとおりアクセスロックが掛かっていた。
「パスワードがわからないな」
「確かめようが無いし……」
「何か思い当たる言葉とか無いのか?」
 尋ねてもフェイは首を振るだけ。
「誕生日とか色々入れてみたけどダメだった」
「でも多分、お前に渡したんだからお前がわかる言葉だと思うぞ」
「思い当たるところは色々試したよ」
 う~ん、オレが彼なら何てパスワードにするだろう。その辺で考えてみよう。
『フェイ』ダメだな。そんな単純じゃないな。その後、格闘すること三十分。
「ええい、これでどうだ!」
 もう何も思いつかなかったので、ヤケクソで適当に入れてみた。それが正解だった。
「あ、ロック外れた」
「わぁ、すごい! なんて入れたの?」
「……愛してる(Iloveyou)」
「……」
 あのう、オオカミさん。こりゃなかろう? 結構お茶目さんだったんだな、あんた。まあ、仮にこれがロンに渡っててもそう簡単に外せんな。わざとなのか?
「この足跡のアイコン可愛いね」
 あらホント。イヌの足跡? いや、オオカミなのかな。意外と可愛い系だった? フェイの反応を見越して? とりあえずここを押してみよう。ぽちっ。
 開いたのはテキストのページ。
Q,
『Dracoegressiarca.
 第一解除コード Mb/ヒト・カモノハシ・ウシ・イヌ。
 2n/ネコ・モルモット・チンパンジー。
 第二解除コード alternation/子の父と母ともう一人の名前。
 最終解除コード 逆さの王冠。そして私は何?』

 ビンゴ。やっぱここに移したんだ。

A,
『竜は方舟を出た。なぜラテン語か? 竜は仕事上この言葉を使う人物だから。
 第一解除コード
 Mbはゲノムサイズ。ヒト3038カモノハシ2992ウシ3000イヌ2400
 2nは染色体数。ネコ38モルモット64チンパンジー24
 統合すると3038299230002400386424になる。
 第二解除コード
 alternationは交互性。それぞれの名を一文字……&$……#****……』

「あれ、途中までしか答えが無い。ファイルが壊れてる」
「本当だ。どうしよう」
 チチッと小さな音がした。違うプログラムが立ち上がる音。
「何だ? 何もしてないのに……」
 次の瞬間、いきなり勝手に違うファイルが立ち上がった。音声ファイルだ。
「これは……」

 語ること無く失った言葉を、ディーン・ウォレスの声は語り始めた。
 それは遺言になるはずだった言葉だった。
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