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星龍の章 第一部
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しおりを挟む一応パパを宣言したんだし、また育児放棄とか言われるのも癪なんで、朝からルイと一緒にいるけど、この頃ルイはいい遊び相手が出来たもんで医療センターに直行。
オレは寝不足だ。もうダメ。前日も違うことで夜更かししたのに、また徹夜になった。
とりあえず、第二解除コードはわかった……と思う。『dlfeueeeyn』
これが答えなのかどうかはわからないけど。もう一人ってのは恐らくフェイの事だと思う。『Fey』この文字を二人に足して、一文字ずつ交互に並べ替えるといいのでは無いかと思った。
竜の正体については、これも色々と調べてみて何となく思い当たる人物が浮上したけど……確かにこれはフェイには言えないかも。オレだってまだ信じたくないし、出来れば違って欲しいと思うので今のところ保留ってことで。
その後は……頭の中ぐるぐる……すっかり思考の迷路で迷子。
だめだ、もう寝る。
「お~き~て~!」
耳元で大声出すなっ!
「ルイ……眠いんだよ、ちょっと寝かせてくれよ……」
「カイさん、起きてください」
額に冷たい硬い感触。ううっ、この声は……ってか何で触ってるんだあんたは。ちょっとちくっとしたぞ。命の危険すら感じて一瞬で目が覚めたが。
「Drアルブレヒト、どうでもいいですがドリルをしまってください」
「あら、失礼。もう、デリアと呼んでくださいとお願いしたのに」
「ではデリアさん。オレ超眠いんですが、何の御用でしょう?」
「本部長がお呼びですわよ」
うへっ! 早く言え、早くっ!
「フェイさんはもう先にお行きになりましたわよ」
この薄情者っ! 寝不足の原因の半分はお前なんだぞ。
大急ぎでオペレーションルームに行くと、尋常じゃない空気が漂っていた。
「カイ、遅いぞ」
本部長にちょっと怒られた。
「すみません。何事です?」
「あれを見たまえ」
そう言って本部長が指差した先は、メインモニター。
「え……? 何?」
そこに映ってたのは、どこかのドーム都市。ここがどうかしたのか?
本部長が説明してくれる。
「南米支部から送ってきてる現在の映像だ。南米大陸の最南端近く、完成間近だったまだ名前もついてないドーム。ここが占拠された」
「占拠? まだ誰も移住してませんよね?」
「表向きはな。建設作業に従事していたA・Hが二十名ほどと、ノーマルタイプの技師・作業員が十五名ほどいた。A・Hだけを残し、残りは強制退去させられた。その他になぜか千名以上の者がいる。おそらく例の船で辿りついたと見られる。現在も少しづつ人は増え続けているらしい。しかも全員がA・Hだ」
「船で……」
じゃあ、ロンの仕業?
「行方が探れなかったのは、船と言っても潜水艇だったからだ。追跡を撒くように複雑なルートでかなりの時間をかけて辿りついたとみられる。問題は皆に例の印があること、そして……」
本部長からオペレーターに指示が飛んで、ぴっ、と画像が切り替わった。
「十分ほど前に全世界に向けて発信された放送だ」
どこかの大きな会議場みたいな所。舞台にぽつんと演台が一つ。その舞台に一人の人物が現れた。
「ああっ!」
何も言わずに見ていたフェイが声をあげた。オレだって叫びそうになったよ。
画面に映ってるのはまさにフェイそのものだったから。
いや、そんな筈は無いから、あれはルーだ。なぜ? なぜ彼女が?
「2056年に第一号が誕生して以来、私達A・Hは八十年近くに渡って様々な分野で社会に貢献してきました。宇宙開拓に旅立った者、極地へのドーム都市の建設、その特殊な能力を生かして人命を救助するものなど……その他にも環境や遺伝子研究の分野において、その技術進歩の一端を担ってまいりました。現在ではほぼ全世界に私達の仲間がおります。しかし、2098年に締結されたガラパゴス条約(環境・遺伝子研究とA・Hの人権に関する基本条項)でその人権が保護されているとはいえ、それは表向きの事。見てください、ここにいる者達を。これが人間と呼べるのでしょうか?」
カメラが切り替わって、会場で話を聞いている者達を映した。どの顔もクーロンで見たような、人間らしい部分も少ない異形のA・H達。
「彼等は好き好んでこのような姿に生れたわけでは無いのです。心無い一部研究者、個人の歪んだ欲望を満たすためだけに生み出された命。しかし、彼等も姿は違えど人間なのです。好奇の眼に晒され、蔑まれ、兵器の一つとして、愛玩用としてしか扱われない彼等にも心があります。人としての知性も感情もあります。それがゆえに哀しい存在と言えなくは無いでしょうか?」
再び戻ったカメラは彼女の表情を映した。少し伏せられた睫毛に哀切に満ちた目。表情、声、何一つ変わっていない。だが、じわじわとこみ上げてくるこの違和感。何だ、この背筋が凍る様な薄気味悪さは。
「姿形は彼等よりもっと人間らしく、また社会的にも受け入れられた恵まれたA・Hも世界中にいます。社会の歯車の一つとして役割を果たし、仕事を持ち、あるものは家庭を持ち、普通の人となんら変わりなく生活している者もいます。その陰で、ここにいる彼等のような存在がある事を忘れて欲しくは無いのです。それを保護するためのG・A・N・Pのような組織もありますが、それでも差し伸べられる手は僅かで、隅々にまで届いてはいないのが現状」
……耳痛いな。その通りだけに効くわな。
「そこで私は今日、ここで宣言いたします。この地を、日の光を浴びることなく、世界の異物として忘れ去られてきたA・H達の楽園とする事を。一切の干渉を受けず、自由に生きられる地にする事を。一つの国家として立ち上がる事を」
「はっ?」
独立宣言……だと? 余りに唐突すぎてオレは言葉を失った。
「国境も無くなった現在において、この様な時代を逆行するような真似は本当ならしたくないのです。ですが、わかって下さい。この道を選ぶより無かったことを。そして私達の理想を阻止しようとする手があれば、戦う準備もあることを」
にっこりと愛らしく微笑んだ顔を最後に、ぷつん、と映像は切れた。
オペレーションルームの全員の目がフェイに集まった。
「あれはフェイじゃないぞ、言っとくけど!」
思わずオレが声をあげた。
「ではあれがルーという娘かね? ルイの母親だという……」
本部長は流石にわかったようで安心したけど、確かに他の奴らは初めて見たら区別付かないわな。
ご丁寧に髪を切ったのかフェイと同じ髪型、二回しか実物を見てないけど、ルーはいつも可愛らしい女の子らしい服を着てたのに、男っぽいパンツにシャツ。わざわざフェイであるかのように見せかけたのには、キリシマ博士の最高傑作と称され、最も完成されたA・Hとして有名であるフェイがA・Hの代表として立つことで、世間にアピールするには充分であることを見越してだろう。
「ルーであることは間違いないと思いますが……これがロンなら納得のいく内容です。でも、あのルーがここまで難しい言葉を使って喋れるとは思えない」
オレが率直な意見を述べると、本部長が答える。
「あの男に台本通りに読まされてるだけでは?」
「いや……もっと違う、嫌な予感がする」
と、自分で言ってから鳥肌がたった。
まさか……まさか! まさか、まさかまさか―――!!
「すみません、確めたい事が……すぐに戻ります!」
オレは本部長への断りもそこそこにオペレーションルームを飛び出した。慌ててフェイもついてくる。
向かったのは医局の病室。
「デリアさん! ちょっと訊きたい事が!」
「何でしょうか?」
ルイ達が不思議そうな顔でこっちを見ている。ごめんな、構ってやれなくて。
「移植する時って、血液型など以外に向き不向きの体はあるのですか?」
「H・K手術から派生した免疫抑制技術で、最近は大概どんな体にも適応させることは可能です。しかし、やはり移植先と元、どちらもより近い関係の方が確実ですね。たとえば親子であるとか、兄弟であるとか。遺伝子レベルの話になりますが」
デリアさんはすんなり答えてくれた。しかしその内容は―――。
「親兄弟か……」
ますます嫌な予感は現実味を帯びてきた。
オレは更に質問する。
「それはノーマルタイプの脳を、A・Hの体に移植する際もでしょうか?」
「むしろそういうケースは、より遺伝的に近しい事が望まれます。卵子提供者や精子の提供者など。A・Hは人間が持っていない器官をもつ体も珍しくはないですから」
淡々と答えるデリアさんの半分だけの表情に救われてる。今すぐにでもわぁっと叫びたくなるのをなんとか堪えられた。
「では、脳を見ただけで、性別とか年齢とかわかるものなのですか?」
「性別まではわかりませんが……年齢や大体の職業はわかりますよ」
「職業までわかるのですか?」
「脳のどの部分が発達しているか……などで。文系なのか、理系なのか、また頭を使う仕事か、体を使う仕事なのかみたいな事がわかりますね」
もっと早く訊いとけば良かった。後悔してももう遅いけど……。
「その……では訊きますが、あなたが手懸けた手術で移植された脳は、どのような人のものだと思いましたか?」
「そうですね。年齢はかなりいっていましたね。少なくとも五十歳以上七十歳未満といったところでしょうか。全体に発達した脳でしたが、頭頂部、および前頭部と側頭部の一部が特に発達していましたので、学者タイプの非常に頭の良い人だったと思われます」
……ああ、神様。いいや、もう神様なんて絶対にいないと思えるよ。
こんな事があっていいのかよ? やっぱり一番考えたくなかった答えに限りなく近づいてる。
「最後の質問です。手術が成功したら、術後どの位で歩いたり喋ったり出来ますか?」
「それぞれのケースにもよりますが、そうですね、先程説明した免疫抑制と同じく、神経や血管を繋ぐ技術がここ数年で驚くほど進みましたので、早ければ三日もあれば。問題なく適応すれば一週間ほどで通常の生活は送れますね」
「あなた以外でも手術は可能ですか?」
「私が連れて行かれた施設の設備ならば、他の医師でも充分に可能ですよ」
時間的にも余裕があるな……くそぅ、何一つ最悪の答えを否定してくれるネタが無い。これで頭の中のパズルにまた一つ重要なピースが填まっちゃったじゃないか。
「ねえ、カイ? 一体何の話を……」
フェイ。お前には絶対に聞かせたくないことだけど、いずれは知る事だもんな。しかも世界中で一番お前に関係のある事だ。
「さっきのあれはルーじゃない。もう違う人間なんだ」
「どういうこと?」
「ロンの時もそうだった。体と中身が違うんだ。別人の脳が移植されてる」
「え……?」
フェイは首を傾げた。その表情がイマイチ変わらなかったのは、まだピンと来ないからだろう。まあ、普通そう簡単に信じられる話じゃないもんな。
「気をしっかり持って聞いてほしい。蛇の印をつけたのも、多くのA・Hを連れ去ったのも、そして、このいきなりの独立宣言をしたのも、ロンの正体も、何もかも……その元凶は、キリシマ博士……リューゾー・キリシマだ」
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