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星龍の章 第二部
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「じゃ、行こうか」
「どこへ?」
「方舟。ってか、まずは一番目を解除してみようぜ。そのロックをかけた誰かさんも一番目は解除していいと言ってるみたいだし」
オレの勘が正しければだがな。
「来てくれるんだろ、あっちから。近くまでは行かなきゃいけないだろうけど」
「……カイ・リーズ。君は一体……」
おう、こいつも正解みたいだな。これまたあてずっぽうなのは秘密。
「正直、もういいと思うんだ。あんたがここで納得しておいてくれるんなら。あの印の事さえ無きゃ悪い話だと思わない。オレだってA・Hだからね。それにG・A・N・Pに長いこといるから、酷い目に遭って来た奴らを嫌というほど見てきたし。でもこんな風に隔離してしまわなくても、グレートクーロンみたいに共存の道もあると思う。それにさ、ある人が言ってたよ。理想なんてのは人に与えられる物じゃないって。オレもそう思うよ。あんたにとって、ここの多くのA・Hにとって理想でも、残された者にとってはそうとは限らない。新しい悲劇を生むだけだ」
「……」
「ま、これで言いたい事は大体言わせてもらったからさ。ここまで来たら、何がしたかったのか最後まで見たいじゃん。これが、本音」
ルーの顔に微かに笑みが浮かんだ。
「面白い男ですね、君は」
「そう? ではそちらの言いたいことをどうぞ」
ルー……博士は少し遠い目で一つため息をついた。
「君では無いが、正直に言うと、私ももうこれでいいと思う。他の者はどう思っているかはわかりませんが……。だがどうしても第一解除コードだけでいいから知りたい。ミカは自分ごとあそこを封鎖してしまったのです。解放してやらないと」
そ、そいつは大変じゃないか! 一人で守ってるっていうより、閉じ込められてるって事? 助けに行かないとマズくね?
「何で早く言わなかったんだよ?」
「言う機会が無かったので」
「……うん、まあな」
解除コードを欲しがってたのはそういう事情もあったのか。だが、クーロンの地点で渡してたら、それはそれでマズかったし……。
ここでオレは荒野で渡された最後のメッセージのカードをルーに見せた。
「こんなのを渡されてさ、このまま終われないだろ?」
「一人で行かねばならない……ですか。これがミカの意思なら、叶えてやらなければいけないと思います。けじめをつけろという事ですね」
けじめ、か。その結果は見えてるけど今は考えない事にした。
「意見は一致した。じゃあ一緒に行こう。最後の姫君を解放しに。けじめをつけに」
「ええ」
お茶の時間は終わり。オレとルーが立ち上がったのは同時だった。
「あ、そうそう。あんたをアークから出した奴らは今どこ? そいつ等に邪魔されたく無いからさ。たとえあんた一人がけじめつけるつもりでも、きっと他の奴等はそうはいかないぜ? ミカさんもそれを恐れてこんな手の込んだ細工をしたんだろ?」
声を出さずにルー……博士が頷いた。
ふふん、って事は近くにいるって事だな。
「フェイ、聞えるか?」
隣の部屋にいるフェイや本部長の耳なら、話の一部始終が聞えていたと思う。それを知っててわざわざ離れた所で無く、壁一枚隔てただけの所に彼等を置いてたんだろう。
「ひと暴れしようかな。ここはA・Hだけの国なんだろ? ノーマルの人間がいちゃおかしいもんな」
オレがそう意気込んでドアを開けると……。
なんじゃこりゃ?
累々と人が倒れてますが? 白衣の学者風の男数人に、表でかかって来たみたいな戦闘タイプのA・Hも何人か。全部で二十人くらい。その中に涼しい顔をしてフェイ達が立っていた。
「ゴメン、本部長と二人でもうのしちゃった。いきなり襲ってきたし」
おお~い。オレの出番は?
「ボクもおてつだいしたぉ」
ルイまで……人が深刻な話をしてる間にこんな事やってたのかよ? う~不完全燃焼。
「ま、まあいい。無事で何より。こいつらで間違い無い?」
一応ルーってか博士に訊くと、こちらも目を丸くして驚きながらも頷いた。
「……強かったんですね、フェイ」
「あんた、自分で作っといて知らなかったの? あいつに蹴られたら骨、折れるよ。もう少しお上品にするよう言ってやって」
一気に緊張感台無しだし。
何となく釈然とはしないが、これであっけなくバックは気にしなくて良くなった。
その後、ちょこっと打ち合わせして皆で建物から出た。
同じ顔の二人とそのご一行に、すれ違う者は皆無言で道を開ける。
「何処へ行かれるのですか?」
来てすぐに引っ掻いてやったドーベルマンだけが追いかけてきて訊いた。
喋るなと言っておいたので、ルーは黙っている。代わりにフェイが答える。服は先程交換してもらった。
「大事な用があるので少し出かけます。その間、ここで争い事が無い様に見張っててくださいね」
フェイににっこり微笑まれて、ワン公は嬉しそうだ。やっぱ、ルーとフェイの区別はついてないみたいだな。根は真面目そうな奴だ。そうだ、こいつらにお願いしよう。
「さっきはすまなかったな。会議場の奥にこのお方を困らせてたノーマルの悪党が何人かひっくり返ってるからさ、見張っといてくれよ。後でG・A・N・Pが引き取りに来てくれる」
「え、ええ……」
オレが優しく言うと、ワン公は微妙な表情ながらも頷いた。
「それから、これ」
オレが目で合図すると、ルイがシールの入った袋を差し出し、フェイがいかにもルーのように説明する。
「蛇の印は危険なのです。先程倒した者達が仕掛けをしていたので。危なそうな場所にある者を優先して、印の上に貼る様に、あなたが皆に配ってくれませんか? 足りない分は後で届けます」
フェイ、上手い上手い。ほら、ワン公、なんか目がキラキラしちゃってるぞ。こういうタイプは自分に頼み事をされるとたまんないんだよ。
「お任せください!」
力強く犬のA・Hは頷いた。
よしっと。これでここもとりあえず安心だし。
また荒野を飛行機まで逆戻り。なんとなく日も暮れてきた。南半球は晩春。ここまで端っこにくると日が長いなんてもんじゃない。だからもう相当遅い時間のはずなんだけどまだ明るい。
ルイは本部長に抱っこされて寝てしまった。色々がんばったもんな、お疲れだ。オレの両脇には同じ顔した女の子(?)二人。
皆、無言。ごおおっと吹き抜ける風の音だけが耳につく。
「もう少し近くでも良かったのに」
今更言っても仕方ないとはいえなぁ……。
そういや、あの人も歩いてどこまでいったんだろうな。荒野の王冠は。ま、どうでもいいけど。
そして変なご一行は、変な沈黙を守ったまま風の大地を後にして、飛行機で軽く見積もっても六千三百キロは移動した。往復だから……パイロットご苦労様。天下のG・A・N・P本部長をここまでこき使った奴は後にも先にも多分オレだけだろうな。
「どこへ?」
「方舟。ってか、まずは一番目を解除してみようぜ。そのロックをかけた誰かさんも一番目は解除していいと言ってるみたいだし」
オレの勘が正しければだがな。
「来てくれるんだろ、あっちから。近くまでは行かなきゃいけないだろうけど」
「……カイ・リーズ。君は一体……」
おう、こいつも正解みたいだな。これまたあてずっぽうなのは秘密。
「正直、もういいと思うんだ。あんたがここで納得しておいてくれるんなら。あの印の事さえ無きゃ悪い話だと思わない。オレだってA・Hだからね。それにG・A・N・Pに長いこといるから、酷い目に遭って来た奴らを嫌というほど見てきたし。でもこんな風に隔離してしまわなくても、グレートクーロンみたいに共存の道もあると思う。それにさ、ある人が言ってたよ。理想なんてのは人に与えられる物じゃないって。オレもそう思うよ。あんたにとって、ここの多くのA・Hにとって理想でも、残された者にとってはそうとは限らない。新しい悲劇を生むだけだ」
「……」
「ま、これで言いたい事は大体言わせてもらったからさ。ここまで来たら、何がしたかったのか最後まで見たいじゃん。これが、本音」
ルーの顔に微かに笑みが浮かんだ。
「面白い男ですね、君は」
「そう? ではそちらの言いたいことをどうぞ」
ルー……博士は少し遠い目で一つため息をついた。
「君では無いが、正直に言うと、私ももうこれでいいと思う。他の者はどう思っているかはわかりませんが……。だがどうしても第一解除コードだけでいいから知りたい。ミカは自分ごとあそこを封鎖してしまったのです。解放してやらないと」
そ、そいつは大変じゃないか! 一人で守ってるっていうより、閉じ込められてるって事? 助けに行かないとマズくね?
「何で早く言わなかったんだよ?」
「言う機会が無かったので」
「……うん、まあな」
解除コードを欲しがってたのはそういう事情もあったのか。だが、クーロンの地点で渡してたら、それはそれでマズかったし……。
ここでオレは荒野で渡された最後のメッセージのカードをルーに見せた。
「こんなのを渡されてさ、このまま終われないだろ?」
「一人で行かねばならない……ですか。これがミカの意思なら、叶えてやらなければいけないと思います。けじめをつけろという事ですね」
けじめ、か。その結果は見えてるけど今は考えない事にした。
「意見は一致した。じゃあ一緒に行こう。最後の姫君を解放しに。けじめをつけに」
「ええ」
お茶の時間は終わり。オレとルーが立ち上がったのは同時だった。
「あ、そうそう。あんたをアークから出した奴らは今どこ? そいつ等に邪魔されたく無いからさ。たとえあんた一人がけじめつけるつもりでも、きっと他の奴等はそうはいかないぜ? ミカさんもそれを恐れてこんな手の込んだ細工をしたんだろ?」
声を出さずにルー……博士が頷いた。
ふふん、って事は近くにいるって事だな。
「フェイ、聞えるか?」
隣の部屋にいるフェイや本部長の耳なら、話の一部始終が聞えていたと思う。それを知っててわざわざ離れた所で無く、壁一枚隔てただけの所に彼等を置いてたんだろう。
「ひと暴れしようかな。ここはA・Hだけの国なんだろ? ノーマルの人間がいちゃおかしいもんな」
オレがそう意気込んでドアを開けると……。
なんじゃこりゃ?
累々と人が倒れてますが? 白衣の学者風の男数人に、表でかかって来たみたいな戦闘タイプのA・Hも何人か。全部で二十人くらい。その中に涼しい顔をしてフェイ達が立っていた。
「ゴメン、本部長と二人でもうのしちゃった。いきなり襲ってきたし」
おお~い。オレの出番は?
「ボクもおてつだいしたぉ」
ルイまで……人が深刻な話をしてる間にこんな事やってたのかよ? う~不完全燃焼。
「ま、まあいい。無事で何より。こいつらで間違い無い?」
一応ルーってか博士に訊くと、こちらも目を丸くして驚きながらも頷いた。
「……強かったんですね、フェイ」
「あんた、自分で作っといて知らなかったの? あいつに蹴られたら骨、折れるよ。もう少しお上品にするよう言ってやって」
一気に緊張感台無しだし。
何となく釈然とはしないが、これであっけなくバックは気にしなくて良くなった。
その後、ちょこっと打ち合わせして皆で建物から出た。
同じ顔の二人とそのご一行に、すれ違う者は皆無言で道を開ける。
「何処へ行かれるのですか?」
来てすぐに引っ掻いてやったドーベルマンだけが追いかけてきて訊いた。
喋るなと言っておいたので、ルーは黙っている。代わりにフェイが答える。服は先程交換してもらった。
「大事な用があるので少し出かけます。その間、ここで争い事が無い様に見張っててくださいね」
フェイににっこり微笑まれて、ワン公は嬉しそうだ。やっぱ、ルーとフェイの区別はついてないみたいだな。根は真面目そうな奴だ。そうだ、こいつらにお願いしよう。
「さっきはすまなかったな。会議場の奥にこのお方を困らせてたノーマルの悪党が何人かひっくり返ってるからさ、見張っといてくれよ。後でG・A・N・Pが引き取りに来てくれる」
「え、ええ……」
オレが優しく言うと、ワン公は微妙な表情ながらも頷いた。
「それから、これ」
オレが目で合図すると、ルイがシールの入った袋を差し出し、フェイがいかにもルーのように説明する。
「蛇の印は危険なのです。先程倒した者達が仕掛けをしていたので。危なそうな場所にある者を優先して、印の上に貼る様に、あなたが皆に配ってくれませんか? 足りない分は後で届けます」
フェイ、上手い上手い。ほら、ワン公、なんか目がキラキラしちゃってるぞ。こういうタイプは自分に頼み事をされるとたまんないんだよ。
「お任せください!」
力強く犬のA・Hは頷いた。
よしっと。これでここもとりあえず安心だし。
また荒野を飛行機まで逆戻り。なんとなく日も暮れてきた。南半球は晩春。ここまで端っこにくると日が長いなんてもんじゃない。だからもう相当遅い時間のはずなんだけどまだ明るい。
ルイは本部長に抱っこされて寝てしまった。色々がんばったもんな、お疲れだ。オレの両脇には同じ顔した女の子(?)二人。
皆、無言。ごおおっと吹き抜ける風の音だけが耳につく。
「もう少し近くでも良かったのに」
今更言っても仕方ないとはいえなぁ……。
そういや、あの人も歩いてどこまでいったんだろうな。荒野の王冠は。ま、どうでもいいけど。
そして変なご一行は、変な沈黙を守ったまま風の大地を後にして、飛行機で軽く見積もっても六千三百キロは移動した。往復だから……パイロットご苦労様。天下のG・A・N・P本部長をここまでこき使った奴は後にも先にも多分オレだけだろうな。
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