Dragon maze~Wild in Blood 2~

まりの

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星龍の章 第三部

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 2133年 ガラパゴス諸島

 オレ達が辿り着いたのは、旧エクアドルのガラパゴス諸島にあるピンタ島。
 旧世紀からこのガラパゴス諸島一帯は、独自の進化を遂げた動植物を保護するため上陸に制限がある。本当はもっと島の北の方に行きたかったのだが、昔から空港のある東の端にとりあえず降りた。軽く食事も仮眠もとったので体調もいい。
「ボクもぉ! ボクも行くのっ!」
 ルイが思いきり駄々を捏ねたが、流石にこの先は小さな子供を連れて行くわけにはいかない。南米支部長に預かってもらう事にした。ごめんな、ルイ。
 そして、予想以上に大活躍した本部長アイザック・シモンズ氏ともここでお別れ。
「カイ、クビの件だが保留にしてあるから。ちゃんと帰って来い」
「……はい」
 空港で皆と別れ、ここからはオレとフェイ、そしてルーの三人だけ。
 一番アークに近いと思われる場所まで海を回って船で行く。そんなに大きい島でもないし、わりと平坦な地形なので内陸を行っても良かったのだが、本部長の計らいで南米支部に船を用意してもらった。
 船で移動する間、流れる景色に見惚れる。この辺りは野生動物の宝庫だ。青く美しい海に海獣や海鳥がいっぱい。昨日見た荒野と全く違って、オレにはここのほうがよっぽど楽園に見える。
 船の中でもフェイとルーは黙ったまま。同じ顔の二人に挟まれてオレはなんとなく気まずい。
 きっと、二人とも何を話していいのかもわからないんだろうな。互いに、たまに目が合ってもすぐに逸らしてしまう。見かねて思わずオレもちょっぴりお節介。
「あんた、フェイに何か言う事ないのかよ」
 ルー=博士に言うと、俯いたまま面白く無さげに返って来る。
「今更何も言えた立場ではありませんから……」
「僕も何も聞きたく無いよ」
 フェイもぷいっと横を向いて吐き捨てただけ。
 むむぅ。二人共、思った以上に頑固だ。やっぱ親子だな、そっくりだぞ性格。
 気まずい二人に挟まれたまま島の北端に到着した。
「この辺りでいい?」
 フェイが船を止めてオレに確かめる。
「いいんじゃないかな」
 いかにも火山活動で出来ましたという岩場に降りることにした。出迎えてくれたのは、アシカや軍艦鳥、ガルなどの海獣や鳥だけ。
 ひょい、と身軽に船から飛び降りたフェイに比べ、イマイチ体に慣れていないのか、ルーの方は躊躇いがち。仕方なくオレが抱っこで降ろしてやる。おお、触り心地はやっぱこっちの方が女の子って感じだな。あ、かなり胸でかいぞ……って、中身おっさんなんだよな。ううっ、フェイがこっち睨んでるぅ。
「そんな怖い目で見るなよフェイ。仕方ないだろ」
「何も言ってないじゃない」
 うそ。怒ってるもん。案外嫉妬深いのな、お前。そういうとこ可愛いけど。
 ちょっと高めの岩の上に上がると、海が遠くまで見渡せた。
 早速ポケットからメモと荒野で渡された箱を取り出す。
 気になっていた事があった。それを立証するためルー……博士にあの暗号を聞かせる。
「Mb、ヒト、カモノハシ、ウシ、イヌ。2n、ネコ、モルモット、チンパンジー」
 フェイがいいの? という目でオレを見たが、軽くウインクで返しておいた。
「Mbは……ゲノムサイズですね。ヒトが3038、カモノハシ2992、ウシ3000、イヌ2400……2nは染色体の数。ネコが38、モルモットは64、チンパンジーは24」
 さすが。ぱっと聞いただけでわかるんだ。だったら、これは博士と一緒に解除してもいいってことだよな。
 あのルーの口からこんなのがすらすら出てくると、やはり別物だという実感が改めて湧く。それはフェイも同じだったようだ。
「やっぱりもうルーじゃないんだ……」
 ちょっと可哀想になって、オレがその手を握ると、フェイは哀しい目で、それでも口元に微かに笑みを浮かべた。抱きしめてやりたかったけど、父親いるし。
「さて、ショーでも始めますかね」
 観客は野生動物さん達だけだけどな。
「では、ルー……いや博士、第一の封印を解こうか」
「本当にいいのですか?」
「だって方舟って海の底だろ? どうせ行くんだし、泳げないもんオレ」
 何だよフェイその呆れた目は。正直に言っただけだろ。オレ、ネコなんだぞ、泳げるか。
 例の銀色の箱を開けると、中には幾つものキーが並んでいる。端末なんだな、やっぱ。
 だが……
「あれ? アルファベットだけで数字のキーが無いんだけど?」
 うそーん。これじゃぁ、数字だけの第一解除コードが打ち込めないじゃないか。そもそも答えが違っていた? オオカミさん、天才でも間違うんだな。これって早くも挫折?
 いや、待て。端末に数字のキーが無いのは想定外で、ここまで来ないとわからなかった。それに天下のキリシマ博士の出した答えとも一致している。ということは、ここまでは正解だろう。まだその先があったってことだけで。多分、この場にディーンがいたら、この端末でも即対応出来ただろう方法があるはずなのだ。人間が思いつくことだ、オレにだってわかるはず。考えろ……。
「数字をアルファベットに置き換えるといいんだろうな。だがどういう風に変換するかだ」
 オレが考えこんだその時。
「方法は色々あると思いますが、ミカの性格を考えたら、コンピューターのプログラムのような関数で変換するというより、0をAとして、26進数で考える方が自然かもしれませんね」
 フェイの声がした。いや、フェイでなくルー……博士だ。
 なるほど。ミカさん、ディーン、そして博士も全員同じ分野の学者だ。考え方は似ているだろう。とすれば、恐らくそれで間違いない。
「えーと、じゃあ……3038・2992・3000・2400・38・64・24は……」
 メモの横に変換したアルファベットを書き込んでみる。
「DQDI CJJC DAAA CEAA CI GE CEでいいのかな?」
 特に単語としての意味は無さそうではあるものの、そもそも人にわからないようにするのが暗号ってものだ。
 ルーも頷いている。これで合っていると信じてやってみるよか無いな。
「じゃあオレが打つから、フェイ読んで」
 オレはメモをフェイに渡した。
「えっと……いい?」
「おう」
 端末にオレがスタンバイすると、フェイがゆっくりと読み上げ始める。
「DQDICJJCDAAACEAA……」
 カチ・カチ・カチ。
 しーん。
 打ち込み終わっても、すぐに劇的な変化は見られなかった。
「何も起きないね」
「打ち間違って無いと思うんだけど……」
 しばらくの沈黙の後、突然地面が地響きを立てて激しく揺れた。アシカ達が驚いて海に飛び込み、鳥達は一斉に飛び立った。
「地震?」
 でもそれもつかの間。
 またしーん。
「ありゃ?」
 何も起きない?
 うそ~ん。そんなハズは……いや、何だこの変な気配。
「海の中から変な音がするよ」
 フェイが腕にすがりついた。
 ごぼごぼごぼ……オレにも音が聞え始めた。海面の一部に変な波がたってる。少しづつ海が盛り上がっていくのがわかる。
「カイ……!」
「大丈夫だよ、フェイ」
 そうは言ったけど、オレもちょっと心配になってきた。良かったのかな、ホント。気がつけばフェイと抱き合ってた。父ちゃんいようがもう関係ないし!
 ざあぁああああ。
 ものすごい音と水しぶきを上げて、巨大なものが浮上してきた。
 何百メートルあるんだろう。ドームほどでは無いが、こんな馬鹿でかいものが海の中にあったなんて信じられないほどの大きさ。G・A・N・P本部の建物よりでかいぞ。
「ひぇえええ! でかっ!」
「自分が呼んだんでしょ」
 同じ声で同時に言うな。
 完全に姿を現したものは、所々に金属っぽい物も見えてるが一見巨大な岩の塊に見えた。目の前に一つの島が出来たみたいだ。
「こ、これが方舟?」
 妙に冷静にルー=博士が説明する。
「そうです。海底のその地下に何年もかけて造られた船。世界中のトップレベルの技術を集める事の出来た闇市場だからこそ造れたものです。非常時にはこうやって本体ごと移動出来るようにね。中に地球上のあらゆる生き物の命の種を保管してある、文字通りの方舟」
「……」
 闇市場ってただの利益だけを求める小悪党だとは思ってなかったけど、やることがハンパねえな。もう笑っちゃうしかないんだけど。
 数分後。動きが止まったのを見ると、これで第一解除コードの役目は終わった様だ。
「んじゃ、ちょっくら中見に行って来るわ」
「カイ?」
「フェイ、お前は皆の所に戻れ。ルイを頼む」
「でも……!」
「今度は絶対ついて来るなよ。お前に何かあったらオレもその場で死ぬからな」
 自分でも凄いコト言ってるなぁとちょっと呆れる。でも本気。
 フェイの両腕がオレの首に回った。強く力を入れると折れてしまいそうな細い腰。その感触を忘れないように抱きしめる。ごめんな、お父さん、見ないフリしてて。
「カイ、絶対帰ってくる?」
 その首を傾げるとこ、ホント好きだよ。黒い大きな目も柔らかい髪も、何もかも。
「当たり前じゃないか」
「絶対、ぜったい?」
「ああ絶対」
 フェイはまだ何か言いたそうだったが、オレはその唇をふさいでやった。唇で。
 長いキスの後、フェイは自分のピアスを外してオレの服の襟にくっつけた。
「おまもり」
 そうだな。こいつは凄いおまもりだ。これをつけてたら絶対に帰って来られるんだもんな。
「危ないからすぐに離れるんだぞ、いいな?」
「うん。カイ、気をつけて。信じてるから。スキだよホントに」
 いい子だ、フェイ。オレもスキだよ。愛してる。ホントのホントに。
 もう一度キスして、ルーの方を振り返ると、ちょっと憮然とした顔で立っていた。面白くないよな、父親としちゃ。
「フェイ、本当にすまなかった……」
 ルーの声、ルーの姿で博士が小さく呟いた。
「父さん……」
 これが、親子の最後の会話だった。
 何かがオレのこめかみをかすめて行った気がした。
「あ……」
 次の瞬間、ルーが小さく声を上げた後その場に崩れた。
「おい!」
 オレは慌てて走り寄ってルーを抱き起こす。ぱっと見、目立った外傷は無い。狙撃されたわけでは無さそうだ。
 息はしている。心音もある。だが意識は無いみたいだ。よく見ると肩の辺りに小さく服に穴が開いている。傷は小さな虫刺されくらい。麻酔針?
『眠ってもらっただけ。大丈夫』
 遠く、不思議な響きの女性の声。
「え?」
 方舟の一部が開き、白い長細いものがするすると飛び出した。それはすぐ近くまで伸びてきて、緩やかなアーチを描く橋になった。幅は一メートルほど。
 これ、渡れってコト?
 そこで再び声が聞こえてきた。
『竜を連れてきて』
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