Dragon maze~Wild in Blood 2~

まりの

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星龍の章 第三部

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「ミカさん……ですよね?」
「そうよ。驚いた?」
 驚きますとも。
 だっていないし。パネルが声にあわせてチカチカしただけで。
「えっと、ひょっとしなくてもこの機械の中?」
「そういうこと。私、今はここを制御しているコンピューターのシステムの一部なの」
 なんちゅうか、予想外すぎて言葉も思いつかない。
 自分ごとここを封鎖したとは聞いたけど……まさかこういう形だとは。
「私はいるわよ。意識だけだけど。体はもう死んじゃったから」
 え? ものすごいコト言ってない?
「死んだって……」
「父を水槽から出した奴らに襲われたの。最初、あいつらはロンがダメならルイでもルーでも無く、私を父の容れ物にしようとしていたの。でも絶対にイヤだって抵抗したから……完全に死んでしまう前に、レイに頼んでこんな形にしてもらったのよ」
 さらっと言ってますけど、大変なことになってるじゃないか! そりゃ、メッセージでも送るしか、ミカさんが外に意思を伝える手段は無いな。
「私がもう死んでるなんて父は知らない。だから眠ってもらったの。こんな姿を見せたくなかったから……ごめんなさいね、連れてきてもらって」
「博士はあなたをここから解放しなきゃって言ってたけど……無理だったのか」
 うーん、こりゃまたなんともし難い状況だなぁ。上の部屋も大概なもんだったけど、こいつは、違う意味で超びっくりな展開だぜ?
「でも、私が大事に育てたルーがこんなことになるなら、いっそ私がなってたほうが良かったと後悔もしてるわ」
「それはルーが自分で選んだことだ。ロンのために」
「そうね……あの子なら躊躇いもせずにやるわ。優しすぎる子だから」
 優しすぎる、か。そうだな、自分の命より子供のことを考える。でも、これはきっと母親なら誰でもそうなんじゃないだろうか。なかなか出来ることじゃないけどさ。
 アークといい、ここといい、ホント皆どうかしてる。後悔してるなんて言う壁に向かって、普通に喋っている自分もどうかしてるけどな。もうこれから先、何があってもオレって大丈夫かも。
「色々と試すようなことばかりで悪かったわ」
「いえ、面白かったと言え無くもなかったし。でもすみませんね、狼さんじゃ無くて、代わりにこんなちっぽけなネコが来て」
「あら。私はずっとあなたが来てくれると思ってたわ。日本の時から。ルーもそうよ。だからあなたにルイを預けたんじゃない」
「え?」
 なんか信じられないことが聞こえたけど? 
「あなたの行動は全て見てたって言ったでしょ?」
「え……」
 ドキドキ。どこまで見られていたんだろう。今やコンピューターのシステムになっちゃってる相手に、プライバシーの侵害だとか、そんなこと言ってもダメだよな。
 もう開き直りしかない。とにかく先に進もう。
「竜は連れてきた。これからどうすればいい?」
「もういいって父も言ったわよね。でもけじめもつけなきゃって。意味わかる?」
 悪かったとか言いつつ、まだ試すのかよ……とツッコミは入れなかった。
「博士はあなたを助けたら死ぬ気だったんじゃないんですか?」
「たぶんね。でもただ死んでも、状況は悪くなることはあっても意味は無いわ。だからと言って外に戻って、反社会的行動を取ったと警察や政府に捕まったりすれば、正体がバレるだけじゃなく、集められたA・H達にとっても不幸な未来が待っているだけ」
 言われてみれば確かにそうだ。
「じゃあ、どうすれば?」
 答えを請うたオレに、ミカさんはやや楽し気に言う。
「ここを封鎖しておいて、今更言うのも何だけど、派手に終わらせましょうよ。これ以上誰も傷つかないように。『今世紀最高の科学者キリシマ博士』という幻想も壊さない形でね」
「は?」
「最初、父を水槽から出した奴らは、地上のドームじゃなく宇宙に行くつもりだった。本当に誰の手も届かない所に父の理想の国を作る気だったのよ。やり方は間違っていたかもしれないけど、そう悪いことでは無いわ。私もA・Hだったからわかる。でもね、思ったの。バイオテクノロジーの申し子みたいなA・Hだって、この地球上の生き物よ。先程見たでしょ? 水槽の中の生き物達を。A・Hは彼等と同じ大地や海の記憶を、その血の中に持っているのよ。人の手によるものだとしても、進化の上にいる生き物。まだ生まれて百年も経っていない、進化の長い歴史の中では赤ん坊なのよ。だからこの地球から離れるのはまだ早いって。だから私はこの船を動かせないようロックをかけた」
「……あのぅ、ものすごーく基本的なことをお聞きしてよろしいでしょうか?」
「何かしら?」
「これって、宇宙に行けるワケ? ひょっとして船って宇宙船の事?」
「そうよ」
 すごくあっさり答えられた。多分、オレ情け無い顔してると思う、今。
「もう一つ」
「いくらでもどうぞ」
「あなたもA・Hだったの? 色々と調べさせてもらったけどミカ・キリシマ博士はノーマルだったはずだけど」
 十代半ばで生物・遺伝子工学の博士号をとった東洋の超天才少女。だが彼女にはいつもおまけがついていた。『さすがキリシマ博士の娘』……。ほぼ時を同じくして、北米大陸の北の果ての寒村で生まれたもう一人の天才少年が注目を集め始めていた頃、わずか十六歳で彼女は学会から姿を消した。行方不明という形で。それは表向きの話で、研究所で生まれたA・Hとはいえ、ミカさんの妹である幼かったフェイとルーに対して父が行った行為……「いいとこどり」を許せなかった彼女がルーを連れて逃げたというのが本当のところだとディーンに聞いた。だが、博士と奥さんとの間に普通に生まれた彼女はA・Hでは無くノーマルの人間だったはずだ。
「自分で後天的A・Hになったのよ。ウォレス博士の人体再改造の技術を使って」
「……そういう事ですか」
 まったく、皆ホントにどうかしてるってば。医局の先生あたりに「もっと自分を大事にしなさい!」って叱られるよ。キリシマ博士は知ってたのかな。
「ちなみに父は知らなかったわよ。だから最終のコードにしたの」
 あんたは人の心まで読めるんですか? そうツッコミたいのもぐっと我慢。
「ってことは……例えじゃなくて、本当にハーピィだったんだ」
「そう。*オウギワシ。レイもそうだったけど猛禽の目は便利よ。モニタールームを見たでしょ? 私達にはあのモニターでも大きいほどよ」
 まあな。あの尋常でない数のモニターを、普通の目では監視出来ないわな。
「ついでに告白しちゃうと、ここ三年程は基礎を築いたレイに替わって私が闇市場を仕切っていた。G・A・N・Pにしてみれば敵だけど。それでもいい?」
「もういいよ、何でも。言い換えればあなたがいなくなった今、闇市場はもうほぼ存在しないってことだろ? 敵でもないよ。その派手な終わらせかたってやつ? やっちゃおうじゃないか」
「じゃあ、意見は一致したわね。最後までお付き合いいただけるかしら? ネコさん」
「イヤって言っても問答無用でしょ?」
「うふふ」
 うわ、何その意地悪な笑い声。ってか、あんたホントに機械なのか? そこいらの人よりよっぽど人間っぽいリアクションなんですが。
「じゃあ、早速始めちゃいましょう。父が目を覚ます前に」
 うーん。本当に眠らせたままでいいのかなと思わなくも無いけど、もうなんでもいいや。どうやって事態を収拾していいかなんてオレは思いつかない。これ以上誰も傷つかないって言うんなら、それしか無いじゃないか。
 キリシマ博士の幻想を壊さない形ってのがまたいいよな。
「じゃあ、まずルーの体を椅子に座らせて。ベルトできっちり固定してね」
「はい」
 オレはミカさんの声に従ってみる。
 中に竜の入っているお姫様は、ベルトを締めてもまだ起きない。幸せだな、可愛い顔して眠ったままでさ。
「次に操縦席を見て。パネルにくぼみがあるでしょ? そこにあの箱……スイッチを置いてみて。きっちり収まるはずだから」
 これまた素直に従う。
 カチッと音がして、銀色のスイッチはきっちり収まった。
「第二解除コードを打ち込んでみて」
 え? いいの?
「……あっさり言いますけど、ホントにいいんですか?」
 何かイヤな予感するんだけど。一つ目でもあれだけ劇的なことが起きたのに、今度はどんなことが起こるんだろう。
 何を解除するんだ? こういうのって、多分二番目三番目の方が重大なものって相場が決まってるよな。うぅ、ドキドキするぅ。
 オレが少し躊躇っていると……。
「あら、わからないのかしら?」
 ミカさんの声にまた、ムッ。これがいけなかった。
「わかってますよ。Deen、Lue、Feyを交互に……d・l・f・e・u・e・e・e・y・n」
 スイッチにコードを打ち込む。
 カチカチカチ。
「正解」
 そのミカさんの声と同時に、アラームが響き渡り、照明が不規則に点滅しはじめた。
 な、何っ?
 ガコン。何かものすごい衝撃が。
 モニターに、あちこちの隔壁が閉まって、外にくっついていた岩や海草、出っ張りの部分が海に落ちていくのが映っている。銀色に輝く本体の一部も。
 小刻みな振動と、アラームはどのくらい続いたろうか。

『全隔壁閉鎖。システムオールグリーン。出力準備現在七十パーセント』

 なんかミカさんの声じゃない機械の音声が響いてますけど?
「えっとぉ……」
 何か知らんが、これ、とんでもない事になってないか? 今、解除したのって……

『九十パーセント』

 何の出力が?

『準備完了。一分後に秒読みを開始します。危険ですので総員定位置について下さい。衝撃に備え、ベルト着用の上……』

 危険とか言ってますけど? 衝撃に備えてって?
「総員とか言ってるけど、誰もいないわ。まあお約束みたいなものよ」
「ミカさん? ものすごい長閑に言わないでくださいよ。秒読みって……」
「今から飛ぶから。宇宙に向けて。あなたも早く座って」
 ちょっと待てぃ!
 これは計算外だったぞ。なんで? 確かに派手だけど! 派手すぎるだろ。
 それに、竜は一人で行くんじゃ無いのかよ!
 何があっても大丈夫だなんて嘘です! こんなのってあるかよ?!
 やっぱ二番目も凄すぎるじゃないか~~!
「とにかく座って。危ないわ」
 ごぉおお……って、ものすごい音してるし。多分、推進エンジンに点火した音。
 ついに秒読みが開始された。

 『秒読み開始。30・29・28……』

「あの、ミカさん? オレも行くんですか?」

 『15・14・13・12……』

「もう出られないもの」

 『5・4・3』

「うっそおおおおおおおおおおぉ――――!!」

 『1・Goodluck!』

 グッドラックって言われてもっ!
 嫌だああああぁ!
 フェイ――――っ!!
 生まれて初めて味わう、何とも言いようの無い感覚。
 でっかい手に全身をぐっと押さえつけられるみたいな重さを感じ、キーンと耳が痛くなって、頭が真っ白になった。

 




*オウギワシ(Harpiaharpyja)
タカ目タカ科オウギワシ属。英語名はHarpyEagle
メキシコからアルゼンチン北部にかけて生息。
大型で、猛禽類最強の握力をもつ。視力・聴力もずば抜けている
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