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星龍の章 第三部
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数分後。
なんか異常に体軽いし。重力無い?
モニターには真ん丸の地球。
ふうん、本当に青いんだ。思ってたより綺麗だな――――。
ああ……来ちゃったよ、宇宙に。
「ううっ、酷いじゃないかぁ。オレ、もっとフェイとあんなことやこんなことしたかったのにぃ……折角ルイのパパにもなったのに……」
ここに同じような娘が寝てるけど、中身はおっさんなんだぞ。おっさんと宇宙でずーっと過ごすなんて最悪だぞっ! もう一人いるけど、美女の体はもう無いし。
泣きたい気分。
「絶対帰るって約束したのに……」
海の中くらいなら何とか帰れるよ。でも流石に宇宙からどうやって帰るんだよ?
何にもやる気もなくなって、オレは膝を抱えてぼーっとただモニターを見ている。でも、それもそう長い時間では無かった。
ミカさんの声が言う。
「忘れて無い? まだ最終コードが残ってるわよ。フェイの所に戻るんでしょ」
「へ?」
あ、今何か雲が切れてぱああっとお日様が顔を出した時みたいなカンジした。
「私は告げたはずよ。大地から生まれたものは大地から、海から生まれたものは海からは離れられないって。ここの動物達も地球に戻さなきゃ。そのためにあなたに来てもらったの。だって私、手が無いし。キーを打てないもの」
「あなたシステムの一部なんでしょ? 中からでも何とかならないんですか?」
「ふふ、ならないのよ。作った時はまだ私が生身だったから。それに、こっち側にいるの。切り離しちゃうから、ここ。あなたはモニタールームに戻って。あそこにも丁度そのスイッチが嵌る場所があるから、そこで最終解除コードを打ち込んで。もうわかってるわね? 答え」
「王冠はレイ。逆さにする。あなたはハーピィ」
「おりこうさん。なかなかの男前だし、フェイに返しちゃうの惜しいわね」
「熨斗つけて返してください」
「面白い子。生身のうちに会いたかったわ」
「オレもです」
あのカードの美しい女性が、今はこんな宇宙船のシステムだなんて。勿体無い。思ってたより話しやすい人だし、きっと仲良くなれたのにな。
「あと二回地球の周りを回ったら、元の位置に戻れるわ。その時に切り離して」
「切り離すって……こっちは何処へ行くんですか?」
「さあ。元々は先にA・Hの開拓団が入っている火星に行くつもりだったみたいだけど、あいつらは切り離す事まで計算に入れてなかったみたいだし。私が後からロックかけちゃったから。今ぱっと計算したら太陽か金星の方に向く感じね」
「感じね、って。太陽に向いたら死んじゃうじゃないですか」
「ふふ。私も父も既に死んでるのよ。忘れたの?」
「……そうだけど……」
二人の肉体は確かにもう無い。でも……生きてるって言うのはそれだけじゃないと思う。戻れると聞かされてもイマイチ嬉しくないのは何でだろう。
「翼の蛇ケツアルコアトルは金星になった。この茶番を締めくくるのにぴったりじゃない。手を出したのは妹でなくて娘だったけど。最初、ルーが作った貝殻のネックレスを見ただけで神話に結びつけるなんて悪趣味だと思ってたけど、なんだかんだで完成しちゃったわね、神話が」
死んじゃってる人がこんな人間臭い冗談言うか? 会話も出来る、姿は無くてもいるのがわかるのに……それに、中身が違ったってルーの体は生きている。
ふと気がつくと勝手に涙が出てた。
「優しいのね、あなた。でも私も父もきっとこれが一番幸せな終わりだと思うわ。喧嘩別れして小さかったルーを連れて逃げてから十五年。憎み続けるのももう飽きた。結局娘だもの、私も。目を覚ましたら最後の瞬間まで延々愚痴でも聞いてもらうわ。私が必死で守り続けて来たルーの体も一緒。あの子の心は、大好きなあの人にそっくりの息子の中で生き続ける。これ以上望むこともないじゃない。後はあなたがフェイを幸せにしてやって。この世に生れ落ちた瞬間から、私達は『キリシマ博士の子供』という重荷を背負ってきたの。ここら辺で軽くなってもいいでしょ?」
「……」
オレは返事をしなかった。何も言えなかった。
「さあ、そろそろここを出た方がいいわ。さようなら、カイ・リーズ。フェイをお願いね。あの子を絶対に幸せにするって約束して」
「……約束します」
「それから……」
ミカさんは囁くように小さな小さな声で最後に一言付け足した。
伝言。これは今は内緒にしておこう。心の中にしばらくしまっておく。伝えられる日が来るかわからないけど―――。
オレは来た道をもう一度逆戻り。
上へのエレベーターは帰りの方が怖かったが、今度は一人なので何とかなった。
あの切り離される部分以外は重力があるようだ。人工的に制御されているのかな。感覚が普通に戻った。
知識の方舟を抜け、動物達の通路も駆け足で通り抜ける。
何だかんだ言ってもオレは一人じゃない。ここにはまだ沢山の命がいるんだ。たとえこんな歪んだ形であっても。
「帰ろうな、一緒に」
ちょっと心強くなった気がした。
フェイ、待っててくれるだろ? オレ絶対帰るから!
上の階へのエレベーターは酷く長く感じられたが、きっと気が急いてるからだろう。もうこれから一生乗りたくない。こんな箱。
えっと、どっちだったっけ? もうワケわからなくなって来た。勘だけで走り抜けて、何とかモニタールームに辿りついた。まだ時間に余裕あるのかな?
一面のモニターは全部砂嵐だ。地球のどこの風景も映してない。
「ホントに帰れるのかな……」
また心細くなってきた時。
『聞える? カイ・リーズ』
遠くでミカさんの声がした。
『タイミングを見て合図するわ。今のうちにスイッチをセットしておいて』
はーい。ああ、こんな機械音声でも、人の声を聞くと落ち着くよ。
コンソールに言われたとおりにくぼみがあった。かっちりセットする。
「準備オッケーです」
オレの声、聞こえてるのかな?
沈黙の数分間。
頭の中に色々な顔が浮かんで消えた。色んな出来事も。
これでいいんだよな? 良かったんだよな? 誰も答えてくれないけど……。
『今よ。五秒以内に解除して』
ミカさんの最後の声。
「y・e・r……h・a・r・p・y!」
最終解除コード。まさかこんな形で使うものだなんて、最初に見たときには思いもよらなかった。
ガコン。何かが外れるような音がした。
『切り離し完了。居住スペースおよび推進エンジン部は一分後大気圏に突入します。危険ですので総員体を固定し……』
お約束? の警告音声。
「さようなら、ミカさん。さようなら、キリシマ博士」
ちょっとうるっとしながら、オレが感慨にふけっていたのはそう長い時間では無かった。
ん、待て。体が浮いてきたぞ。
げええええぇっ。しまったぁ。ベルト締めるの忘れてた。ってか、無いじゃんこの部屋って体固定する場所! ミカさんの意地悪ぅ~!
天井なのか床なのかに、オレが貼り付いていたのはどのくらいの時間だろう。その後、ふわっと体が浮いたのも束の間、今度は思いきり床に叩きつけられた。咄嗟に受身は取ったものの、普通の重力の中じゃないから体もいうことをきかなかった。どこかにぶつけたわき腹が強烈に痛い。アバラの一本くらいはいってると思う。
その後、とどめを刺すように、かなりの衝撃があった。おそらく海に落ちたんだと思う。
「いて、てて……」
砂嵐だけを映していた無数のモニターに、再び世界中の景色が戻ってきた。
帰って来たんだ……地球に。
「――――ホント、派手だったよ、ハーピィさんよぉ」
うう、もうヘロヘロのボロボロ。後から知ったのだが、あの動物や博士達の脳は液体の中だから大丈夫だったらしい。オレって一人痛い目に遭ってない?
這うように出口を探す。早くここから出たい。出て、フェイの顔を見るんだ。
実はここからが結構大変だった。オレは一つ大きなミスを犯していた。
「ミカさんに出口を訊くの忘れてた……」
一応入ってきた扉を目指したが、思いきり閉じられてた。そりゃ、宇宙に行けるんだからそう簡単には空気も漏れないように作られている。開閉装置すらわからない。
ああ、体中痛い。息しても激痛。当たり前だな、宇宙に打ち上げられて帰って来たんだから。
へへ、こんな体験したネコって、そうそういないよな。後でフェイとルイに地球は青かったぞって言ってやるんだ……。
相当の時間、方舟の中を彷徨っていたと思う。どうも丸い形してたみたいだから、ひょっとしたらぐるぐる回っていたかもしれない。もうどっちから来てどっちを向いていたのかもわからなくなって来た頃。
あ、水の音がする。外、海なんだから当たり前なんだけど。
手動式のハンドルが付いている扉がある。ハッチ? ここ、開きそうだけど床にあるんだよな。ってことは出られても海の中。うーん、困った。ほとんど泳げないんだって、オレ。
とりあえずハンドルを回してみる。重っ。それに脇が痛い。ものすごく分厚い丸いハッチが少しずつ開き始めた。うへ、やっぱ下海だ……深そう。
それでも早く外に出たい。帰りたい。皆のところに。フェイのところに。
「ま、なるようになるさ」
痛いのを我慢して、思いきり空気を吸い込み飛び込む。
海の中は痛みも忘れられて案外心地よかった。
でもなぁ……ここって、ひょっとしてど真ん中? 見上げると馬鹿でかい丸い物体が果てしなく光を遮っている。カーテンみたいに青い光が差しているのは遥か彼方。あそこまで行かなきゃいけないのか……。
オレは頭の上の方舟を伝い、溺れてるのか泳いでるのかわからない状態でとにかく進んだ。
無事帰れたら、絶対泳ぐ練習もしなきゃと心底思う。
ああ、でも海の中って綺麗だな。すごく。
母なる海。宇宙から見て地球が青かったのはこの海のせいなんだよな……とか思ってみたり。そうとでも思わないとやってらんねぇ、ってのが現実。
そろそろホントに息がヤバくなってきた。沈んできたよな、段々。
うーん、まさかとは思うけど、こんな形でオレ死んじゃう? 帰って来たのに。
でもいいかぁ。ここ地球だし。
苦しいの通り越してなんか気持ちよくなって来たぞ。
あ、光のカーテンの中、何かこっちに泳いでくる。手を繋いで。
普通のイルカとちっちゃなイルカ?
フェイ……ルイ……迎えに来てくれたんだ。
でもゴメン、よく見えない。眠くなって来たよ……。
ただいま。
なんか異常に体軽いし。重力無い?
モニターには真ん丸の地球。
ふうん、本当に青いんだ。思ってたより綺麗だな――――。
ああ……来ちゃったよ、宇宙に。
「ううっ、酷いじゃないかぁ。オレ、もっとフェイとあんなことやこんなことしたかったのにぃ……折角ルイのパパにもなったのに……」
ここに同じような娘が寝てるけど、中身はおっさんなんだぞ。おっさんと宇宙でずーっと過ごすなんて最悪だぞっ! もう一人いるけど、美女の体はもう無いし。
泣きたい気分。
「絶対帰るって約束したのに……」
海の中くらいなら何とか帰れるよ。でも流石に宇宙からどうやって帰るんだよ?
何にもやる気もなくなって、オレは膝を抱えてぼーっとただモニターを見ている。でも、それもそう長い時間では無かった。
ミカさんの声が言う。
「忘れて無い? まだ最終コードが残ってるわよ。フェイの所に戻るんでしょ」
「へ?」
あ、今何か雲が切れてぱああっとお日様が顔を出した時みたいなカンジした。
「私は告げたはずよ。大地から生まれたものは大地から、海から生まれたものは海からは離れられないって。ここの動物達も地球に戻さなきゃ。そのためにあなたに来てもらったの。だって私、手が無いし。キーを打てないもの」
「あなたシステムの一部なんでしょ? 中からでも何とかならないんですか?」
「ふふ、ならないのよ。作った時はまだ私が生身だったから。それに、こっち側にいるの。切り離しちゃうから、ここ。あなたはモニタールームに戻って。あそこにも丁度そのスイッチが嵌る場所があるから、そこで最終解除コードを打ち込んで。もうわかってるわね? 答え」
「王冠はレイ。逆さにする。あなたはハーピィ」
「おりこうさん。なかなかの男前だし、フェイに返しちゃうの惜しいわね」
「熨斗つけて返してください」
「面白い子。生身のうちに会いたかったわ」
「オレもです」
あのカードの美しい女性が、今はこんな宇宙船のシステムだなんて。勿体無い。思ってたより話しやすい人だし、きっと仲良くなれたのにな。
「あと二回地球の周りを回ったら、元の位置に戻れるわ。その時に切り離して」
「切り離すって……こっちは何処へ行くんですか?」
「さあ。元々は先にA・Hの開拓団が入っている火星に行くつもりだったみたいだけど、あいつらは切り離す事まで計算に入れてなかったみたいだし。私が後からロックかけちゃったから。今ぱっと計算したら太陽か金星の方に向く感じね」
「感じね、って。太陽に向いたら死んじゃうじゃないですか」
「ふふ。私も父も既に死んでるのよ。忘れたの?」
「……そうだけど……」
二人の肉体は確かにもう無い。でも……生きてるって言うのはそれだけじゃないと思う。戻れると聞かされてもイマイチ嬉しくないのは何でだろう。
「翼の蛇ケツアルコアトルは金星になった。この茶番を締めくくるのにぴったりじゃない。手を出したのは妹でなくて娘だったけど。最初、ルーが作った貝殻のネックレスを見ただけで神話に結びつけるなんて悪趣味だと思ってたけど、なんだかんだで完成しちゃったわね、神話が」
死んじゃってる人がこんな人間臭い冗談言うか? 会話も出来る、姿は無くてもいるのがわかるのに……それに、中身が違ったってルーの体は生きている。
ふと気がつくと勝手に涙が出てた。
「優しいのね、あなた。でも私も父もきっとこれが一番幸せな終わりだと思うわ。喧嘩別れして小さかったルーを連れて逃げてから十五年。憎み続けるのももう飽きた。結局娘だもの、私も。目を覚ましたら最後の瞬間まで延々愚痴でも聞いてもらうわ。私が必死で守り続けて来たルーの体も一緒。あの子の心は、大好きなあの人にそっくりの息子の中で生き続ける。これ以上望むこともないじゃない。後はあなたがフェイを幸せにしてやって。この世に生れ落ちた瞬間から、私達は『キリシマ博士の子供』という重荷を背負ってきたの。ここら辺で軽くなってもいいでしょ?」
「……」
オレは返事をしなかった。何も言えなかった。
「さあ、そろそろここを出た方がいいわ。さようなら、カイ・リーズ。フェイをお願いね。あの子を絶対に幸せにするって約束して」
「……約束します」
「それから……」
ミカさんは囁くように小さな小さな声で最後に一言付け足した。
伝言。これは今は内緒にしておこう。心の中にしばらくしまっておく。伝えられる日が来るかわからないけど―――。
オレは来た道をもう一度逆戻り。
上へのエレベーターは帰りの方が怖かったが、今度は一人なので何とかなった。
あの切り離される部分以外は重力があるようだ。人工的に制御されているのかな。感覚が普通に戻った。
知識の方舟を抜け、動物達の通路も駆け足で通り抜ける。
何だかんだ言ってもオレは一人じゃない。ここにはまだ沢山の命がいるんだ。たとえこんな歪んだ形であっても。
「帰ろうな、一緒に」
ちょっと心強くなった気がした。
フェイ、待っててくれるだろ? オレ絶対帰るから!
上の階へのエレベーターは酷く長く感じられたが、きっと気が急いてるからだろう。もうこれから一生乗りたくない。こんな箱。
えっと、どっちだったっけ? もうワケわからなくなって来た。勘だけで走り抜けて、何とかモニタールームに辿りついた。まだ時間に余裕あるのかな?
一面のモニターは全部砂嵐だ。地球のどこの風景も映してない。
「ホントに帰れるのかな……」
また心細くなってきた時。
『聞える? カイ・リーズ』
遠くでミカさんの声がした。
『タイミングを見て合図するわ。今のうちにスイッチをセットしておいて』
はーい。ああ、こんな機械音声でも、人の声を聞くと落ち着くよ。
コンソールに言われたとおりにくぼみがあった。かっちりセットする。
「準備オッケーです」
オレの声、聞こえてるのかな?
沈黙の数分間。
頭の中に色々な顔が浮かんで消えた。色んな出来事も。
これでいいんだよな? 良かったんだよな? 誰も答えてくれないけど……。
『今よ。五秒以内に解除して』
ミカさんの最後の声。
「y・e・r……h・a・r・p・y!」
最終解除コード。まさかこんな形で使うものだなんて、最初に見たときには思いもよらなかった。
ガコン。何かが外れるような音がした。
『切り離し完了。居住スペースおよび推進エンジン部は一分後大気圏に突入します。危険ですので総員体を固定し……』
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「さようなら、ミカさん。さようなら、キリシマ博士」
ちょっとうるっとしながら、オレが感慨にふけっていたのはそう長い時間では無かった。
ん、待て。体が浮いてきたぞ。
げええええぇっ。しまったぁ。ベルト締めるの忘れてた。ってか、無いじゃんこの部屋って体固定する場所! ミカさんの意地悪ぅ~!
天井なのか床なのかに、オレが貼り付いていたのはどのくらいの時間だろう。その後、ふわっと体が浮いたのも束の間、今度は思いきり床に叩きつけられた。咄嗟に受身は取ったものの、普通の重力の中じゃないから体もいうことをきかなかった。どこかにぶつけたわき腹が強烈に痛い。アバラの一本くらいはいってると思う。
その後、とどめを刺すように、かなりの衝撃があった。おそらく海に落ちたんだと思う。
「いて、てて……」
砂嵐だけを映していた無数のモニターに、再び世界中の景色が戻ってきた。
帰って来たんだ……地球に。
「――――ホント、派手だったよ、ハーピィさんよぉ」
うう、もうヘロヘロのボロボロ。後から知ったのだが、あの動物や博士達の脳は液体の中だから大丈夫だったらしい。オレって一人痛い目に遭ってない?
這うように出口を探す。早くここから出たい。出て、フェイの顔を見るんだ。
実はここからが結構大変だった。オレは一つ大きなミスを犯していた。
「ミカさんに出口を訊くの忘れてた……」
一応入ってきた扉を目指したが、思いきり閉じられてた。そりゃ、宇宙に行けるんだからそう簡単には空気も漏れないように作られている。開閉装置すらわからない。
ああ、体中痛い。息しても激痛。当たり前だな、宇宙に打ち上げられて帰って来たんだから。
へへ、こんな体験したネコって、そうそういないよな。後でフェイとルイに地球は青かったぞって言ってやるんだ……。
相当の時間、方舟の中を彷徨っていたと思う。どうも丸い形してたみたいだから、ひょっとしたらぐるぐる回っていたかもしれない。もうどっちから来てどっちを向いていたのかもわからなくなって来た頃。
あ、水の音がする。外、海なんだから当たり前なんだけど。
手動式のハンドルが付いている扉がある。ハッチ? ここ、開きそうだけど床にあるんだよな。ってことは出られても海の中。うーん、困った。ほとんど泳げないんだって、オレ。
とりあえずハンドルを回してみる。重っ。それに脇が痛い。ものすごく分厚い丸いハッチが少しずつ開き始めた。うへ、やっぱ下海だ……深そう。
それでも早く外に出たい。帰りたい。皆のところに。フェイのところに。
「ま、なるようになるさ」
痛いのを我慢して、思いきり空気を吸い込み飛び込む。
海の中は痛みも忘れられて案外心地よかった。
でもなぁ……ここって、ひょっとしてど真ん中? 見上げると馬鹿でかい丸い物体が果てしなく光を遮っている。カーテンみたいに青い光が差しているのは遥か彼方。あそこまで行かなきゃいけないのか……。
オレは頭の上の方舟を伝い、溺れてるのか泳いでるのかわからない状態でとにかく進んだ。
無事帰れたら、絶対泳ぐ練習もしなきゃと心底思う。
ああ、でも海の中って綺麗だな。すごく。
母なる海。宇宙から見て地球が青かったのはこの海のせいなんだよな……とか思ってみたり。そうとでも思わないとやってらんねぇ、ってのが現実。
そろそろホントに息がヤバくなってきた。沈んできたよな、段々。
うーん、まさかとは思うけど、こんな形でオレ死んじゃう? 帰って来たのに。
でもいいかぁ。ここ地球だし。
苦しいの通り越してなんか気持ちよくなって来たぞ。
あ、光のカーテンの中、何かこっちに泳いでくる。手を繋いで。
普通のイルカとちっちゃなイルカ?
フェイ……ルイ……迎えに来てくれたんだ。
でもゴメン、よく見えない。眠くなって来たよ……。
ただいま。
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