地味な雑草は眼鏡を外すと美しき薔薇だった。

梅屋さくら

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Episode6.新たな恋と情熱だった

思惑通りである。

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演技審査の喜びを分かち合う時間もなくあっという間に次の審査に移った。
ダンス審査、歌唱力審査と続いたが、私の体の柔らかさを生かしてバレエをしたり、音域の広い『粉雪』を歌ってなにも問題なく終わった。

ついにこの1番配点の高い審査、パフォーマンス審査がやってきた。
もう一度髪型や着物をセットし直して挑む……。
緊張して肩が強張ってしまっている私に対し、楓はあったかい羊のような上着を羽織らせてくれた。
名前を呼ばれたとき、彼女に背中をばしんと叩かれた。
びっくりして振り向くと、

「大丈夫、葵ちゃんなら……って信じてるよ!
自信持っていってらっしゃい、自分のやりたいことを全力でして来なさい!」

とガッツポーズしてにかっと歯を見せた。

私は明るいステージへと歩みを進めた。
ステージの真ん中に立つと、和の音楽が流れた。
観客は驚いているが、これも私のパフォーマンスの一部である。
私は目を丸くして上を見る観客は気にも留めず、ゆっくりと盆踊りを踊り始めた。
優雅で落ち着いた流れるような踊り、伏し目がちな瞳、少し恥ずかしがるような乙女の素振り……これらはすべて計算した結果だ。

私がその音楽の1番を踊り終えたとき、綺麗だねという声もあったが、

「でもさ、あのほぼ無地みたいな星柄の着物、地味すぎない?」

という残念がるような声も多かった。

私はその声を聞いて、にやりとした不敵な笑みを浮かべてしまった。
思惑通り、観客たちがざわついてくれているから。

私は観客席の方に飛び降りた。
ステージから観客席まではたいした段差はなく、着物ながらも楽々と降りられた。
最前列の観客が、

「わあっ」

と歓声を上げ、それを聞いて後ろの方までどよめきが伝わって起きた。
席と席の間は意外にも幅が広く、真っ暗。
そこまで手を伸ばして触れてくる観客たちを上手くかわして歩んでいく。
観客席中央まで来たとき、先ほどとは違う意味のどよめきが沸き起こった。

「すげぇ、光ってるぞ、あの着物!」
「ただの地味な着物だと思ってたけど……蛍光塗料、かな?」

私はその声を聞いてマイクを手にこう言った、とびきりの笑顔で。

「大正解! このお着物は……蛍光塗料を塗ってみたんです。
皆様に少しでも驚きと感動を覚えていただけたら……その思いを、込めて」

と目をつぶると、さりげなく止まっていた音楽が再び流れる。
先ほどのステージ上でのパフォーマンスよりもダイナミックに、大きく幅を取って回ったりステップしたりしながら踊った。

そう、この着物には全体に蛍光塗料が塗ってあった。
以前開いた茜のバースデーパーティーからヒントを得たものだ。
星のところだけ紙をくっつけて青い蛍光塗料に浸し、紙を剥がしてそこにだけ筆で細々と黄色を塗った。
帯には白を塗り、すべて乾かして完成。
単純だが不意を突かれるし、工夫を凝らしているパフォーマンスだと評価を受けられるだろう、そう思っての衣装だった。

中央で盆踊りを踊り終えたあと、またゆっくり歩いてステージへ戻ろうとした。
そのとき、最前列の男性が、

「ウェーブやりませんかー! せぇーのーぉ!」

と声をかけてウェーブを始めた。
私は前から後ろへと長く長く続く波の中を歩んでいった。

ありがとう。ありがとう。

その観客たちの自然と出たような歓声が嬉しくてたまらなかった。

途中で涙を流しながら歩く私にハンカチが投げつけられた。
その投げてくださった方のほうを見ると、それは……

「お兄ちゃん!?」
「あとで、また会おう。優勝しろよ、俺の可愛い妹……」

お兄ちゃんはただそれだけ言って私から遠ざかった。
お兄ちゃん。私の大好きなこの世界でたった1人のお兄ちゃん。

私はお兄ちゃんがくれたハンカチでぐいっと涙を拭い、晴れ晴れとした笑顔になるように努めながらステージに戻った。

ステージ上でぺこりとお辞儀をすると、今までで一番大きな歓声が上がった。
私も誰かに感動を与えられた。
それがなによりも嬉しかった。

そのとき、舞台袖からじっと見ていた楓にピースサインをした。
その隣にいる梓もどこか嬉しそうで、また涙が目に溜まって来た。
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