地味な雑草は眼鏡を外すと美しき薔薇だった。

梅屋さくら

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Episode7.恋だった。

結婚宣言である。

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私たちは手を、いわゆる恋人繋ぎで繋いで、私の家まで歩いてきた。
いかにもという雰囲気漂う、赤く塗られ、中央に白字で『POST』と書かれたポストから赤と金色が印象的なカードがはみ出していた。
普段私の家に届くことのないようなゴージャスなカード。
おしゃれに筆記体で書かれた英文を翻訳して読み上げてみる。

「『結婚式の招待状』……? って、これ」

梓が指したのは、真紅の文字。
『和泉碧、羽瀬川唯紅』と名前が縦に並んでいる。
その下には良く見たことのあるような字で『やっと決まったよ、結婚式。葵も梓くんと一緒に来たら? 美味しいものはいっぱい出す予定』……そう書いてあった。

「お兄ちゃんたち、結婚式挙げることにしたようですね!
そう言えば……唯紅さんのお誕生日、つまり、婚約届を提出するのは明後日です」
「で、結婚式は明々後日しあさって、か」
「そうですね。あの……あ、梓さん、一緒に行き……ませんか……?」

お兄ちゃんの勧め通り、私は勇気を出して梓を誘った。
すると彼は驚いたように口を丸くして、

「碧さんが良いって言ってるならもちろん行くつもりだったけど?
だって……未来のお義兄さんだしね?」
「お義兄さん……ってなに言ってるんですか……!」
「え? 葵ちゃんの中では俺と結婚するときまでに別れる予定なの?」

こういう聞き方は梓の得意技であり、ずるい手法だ。
こんな風に聞かれてしまったら首を振る他ない。

「……ずるい」
「んー? ふふっ」

にやにやしてそう言う梓は、しばらく私の顔をじっと見つめていた。

結婚式当日、私たちはきちんとした服を着て行った。
私は深青色のワンピース、髪型は軽くウェーブをかけておろしている。
梓はスーツを着ているが、その姿はまるでサラリーマンのようで、思わずどきっとしてしまった。
結婚したらこんな感じの梓が見られるのかな……? そんな妄想をしている自分に気付き、ぶんぶんと顔を横に振った。

2人の結婚式は、両家の家族だけが呼ばれていた。
白いクロスのかけられたテーブルには、座る人の名前が書かれた札が立っている。
『和泉家』『羽瀬川家』と大まかに分けられている中、1つだけ色とりどりの花で装飾を施されたピンク色の札があった。

「和泉葵さま、猪瀬梓さま専用ペアシート?」
「葵、どう? 喜んでくれるかな?」
「お兄ちゃん! ちょ、こ、これは……なに……?」
「なにってそのままだけど? 2人きりで座るために置いてもらった席。
今日は母さんたちも仕事休んでくれたらしいから、紹介してみたらどう?
ほら、父さんも母さんも来たみたいだよ」
「いや、紹介って言ってもまだそんな……」

おめでとうという祝福の言葉を言うのも忘れるほどの出来事。
これから着替えるのか、髪型だけきっちりセットされているお兄ちゃんは、すっかり新郎という雰囲気だった。

別に結婚するわけでもないのに両親と会うなんてありえないでしょう。
そう思ったが、なぜか梓は鼻息を荒くしてその気満々という感じである。
私の手をぐいぐい引っ張って、両親の前に立った。
1年半ぶりに見た両親の顔は、やっぱり年を取っていた。
さらに仕事が大変だからか、随分痩せているようにも見えた。

「お父さん、お母さん……!」
「葵! 葵も随分大きくなって……!」
「そうだなぁ。この1年、学校で頑張っていた?」

両親とも久々の再会と私の成長を喜んでくれた。
さらに母は、私に向かって走って来て、ぎゅっと抱き締めてくれた。
しばらく感じることのなかった母の温もりに、私の目はつい潤んでしまった。
すると、その様子を微笑んで見守っていた父が梓に気を留めた。

「あれ、その子は誰だい? 碧のお友達?」
「初めまして、猪瀬梓と申します。
あの、娘さんと……お付き合いさせていただいておりまして……」
「ちょっと梓さん……!」
「お付き合いぃ⁉︎ あらぁあんなに後ろ向きで恋なんて興味なかった葵がねぇ……」

いきなりそんなことをカミングアウト? した梓に驚く私。
そして驚きつつも感激し、素直に喜んでくれた母。
肝心の父は……?
そう不安に思って後ろにいた父を振り返ってみると、父は。
……泣いていた。

「葵ももうそんな歳か……小さい頃はパパと結婚することが将来の夢だったもんなぁ……」
「恥ずかしい! や、やめてお父さん!」

滝のように涙を流し続ける父にハンカチを渡す。
すると私のハンカチで鼻をかんだ。
……このハンカチはお父さんにあげよう。

梓が、おもむろに再び口を開いた。

「僕は来年18歳になります。
そのときまた、葵さんと伺ってよろしいでしょうか」
「……つまり、なんて?」
「『娘さんを僕にください』、そう言いに伺ってもよろしいでしょうか」

突然の結婚宣言に、両親が固まったのを私は見た。
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