17 / 94
Episode3.距離だった。
自惚れである。
しおりを挟む
ふと気が付けばこのリビングには梓と2人きり。
彼は気付く様子もなく宿題である数学ワークを黙々と進めているが、私はと言えば英語ノートを開いているだけでシャーペンを手に取ってもいない。
それは、オーディションについて調べてしまったからだ。
検索で『ミステリアス』といれただけで私たちの出場する『ミステリアスアイドルコンテスト』が予測変換に出る。
予選は気が付けばもう2週間後。
北海道、東北、関東、中部、中国・四国、九州・沖縄の6ブロックの優勝者が東京で行われる本選に出場でき、合格者が発表される。
そこまではまあまあ知っていた情報だったが、驚いたのはこの先だった。
本選は全国放送で生中継される。
ブロック内で準優勝だった人も次の日のニュースや新聞に名前と顔写真が載る。
そして合格した1人はテレビ番組のレギュラー1本とゲスト出演5本が約束され、6ヶ月間は確実に雑誌に載る……。
とまあ未来の職まで決まってしまうようなご褒美付きで、全国の人に顔を見せるようになるというわけだ。
誘拐されてから本当の顔を見られるのが怖い私にとっては地獄のような『ご褒美』。
でもそんな不安を抱えていることは誰にも言えない。
どうせお前なんて優勝するわけないだろ、自分のこと可愛いとか思っちゃってんの。
そう軽蔑される気がして。
宿題を進めていない私を見た梓は、眉を下げて言った。
「いつもあんなに早く終わらせちゃうのにどうしたの?
なんか今日ずっとうわの空って感じだけど熱でもあるの?」
ずいっと体ごと近付いて私の前髪を上げ、額に手を当てる。
なにもできない私をよそに、首を傾げた彼は顔を近づけて来た。
びっくりするも驚きすぎて体が動かない。
どきどきしつつも目をぎゅっとつぶった時、こつんと額同士がぶつかった。
目を開けるとそこには目をそっと閉じて私の額に自分の額をくっ付ける梓。
熱を測ってくれるだけだったのに、なにかを期待していた自分が恥ずかしい。
「ん、ないね。なにか悩み事でもある? 聞けることなら聞くよ」
「いいえ大丈夫です。ご心配おかけしてすみません」
「今俺勝手に葵ちゃんのこと心配しただけだから。
……ずっと言いたかったけどさ、やっと今言わせてもらうね?」
額は離れ、彼の手で上げられていたので跳ね上がった前髪を軽く手でとかして元に戻してくれる。
こういう女子の気持ちをわかるような小さな気遣いが出来る男子はなかなかいない。
「今まで葵ちゃんは俺に対しても敬語だったでしょ?
なんかそれって距離があるって感じするから敬語やめない?」
「いきなり敬語やめるとか……むりです」
「まずやってみようよ、お願い」
そんなためて言うものだからどんなに厳しいことを言われるのかとびくびくしていたのだがそこまで怖いことではなかった。
普通なら簡単すぎる話だが、私にとっては難易度星5。
私の中では敬語をやめる……イコール、ため口を使うというのはただのクラスメートから特別な友達にグレードアップするということだ。
友達とも決まったわけではない梓とそんな親しくなって良いものだろうか。
「私たち友達になってないので……そんななれなれしいことはできません」
「葵ちゃんの中で俺ら友達じゃねーの? まじで?」
「はい、まあ……友達になろう! と言ったわけでもないですし」
「普通友達になろうっていってなるもんじゃないよ、友達ってもんはさ。
気付けば心開いて話せてる、っていうのが友達なんだよ」
そんな私が普通じゃないみたいなことを言われても困る。
小さい頃から1人で過ごすことが多く、親からそんなことを教わったこともない。
それも当たり前なの? でも友達ってなんだかわからない。
なお友達ってこういうものでしょ論を展開する梓にふと怒りが込み上げて、
「友達っていうものを私に押し付けないでください。
また長い間ここにいてすみません、ではさようなら」
「ちょ、葵ちゃん!」
机の上のワークを閉じてバッグに適当につっこみ、適当に掴んで猪瀬家を出る。
追いかけて来る気配も感じたが、後ろを振り返って睨むと困ったようにその場で止まって追いかけて来るその足を止めた。
なんでこんなにいらいらするのかぜんぜんわからない。
梓が無理矢理友達だと言ってきたから?
私の価値観が普通ではないと否定されたから?
ううん、違う。
自惚れちゃってる自分に嫌気がさして、八つ当たりしてるだけなんだ。
彼は気付く様子もなく宿題である数学ワークを黙々と進めているが、私はと言えば英語ノートを開いているだけでシャーペンを手に取ってもいない。
それは、オーディションについて調べてしまったからだ。
検索で『ミステリアス』といれただけで私たちの出場する『ミステリアスアイドルコンテスト』が予測変換に出る。
予選は気が付けばもう2週間後。
北海道、東北、関東、中部、中国・四国、九州・沖縄の6ブロックの優勝者が東京で行われる本選に出場でき、合格者が発表される。
そこまではまあまあ知っていた情報だったが、驚いたのはこの先だった。
本選は全国放送で生中継される。
ブロック内で準優勝だった人も次の日のニュースや新聞に名前と顔写真が載る。
そして合格した1人はテレビ番組のレギュラー1本とゲスト出演5本が約束され、6ヶ月間は確実に雑誌に載る……。
とまあ未来の職まで決まってしまうようなご褒美付きで、全国の人に顔を見せるようになるというわけだ。
誘拐されてから本当の顔を見られるのが怖い私にとっては地獄のような『ご褒美』。
でもそんな不安を抱えていることは誰にも言えない。
どうせお前なんて優勝するわけないだろ、自分のこと可愛いとか思っちゃってんの。
そう軽蔑される気がして。
宿題を進めていない私を見た梓は、眉を下げて言った。
「いつもあんなに早く終わらせちゃうのにどうしたの?
なんか今日ずっとうわの空って感じだけど熱でもあるの?」
ずいっと体ごと近付いて私の前髪を上げ、額に手を当てる。
なにもできない私をよそに、首を傾げた彼は顔を近づけて来た。
びっくりするも驚きすぎて体が動かない。
どきどきしつつも目をぎゅっとつぶった時、こつんと額同士がぶつかった。
目を開けるとそこには目をそっと閉じて私の額に自分の額をくっ付ける梓。
熱を測ってくれるだけだったのに、なにかを期待していた自分が恥ずかしい。
「ん、ないね。なにか悩み事でもある? 聞けることなら聞くよ」
「いいえ大丈夫です。ご心配おかけしてすみません」
「今俺勝手に葵ちゃんのこと心配しただけだから。
……ずっと言いたかったけどさ、やっと今言わせてもらうね?」
額は離れ、彼の手で上げられていたので跳ね上がった前髪を軽く手でとかして元に戻してくれる。
こういう女子の気持ちをわかるような小さな気遣いが出来る男子はなかなかいない。
「今まで葵ちゃんは俺に対しても敬語だったでしょ?
なんかそれって距離があるって感じするから敬語やめない?」
「いきなり敬語やめるとか……むりです」
「まずやってみようよ、お願い」
そんなためて言うものだからどんなに厳しいことを言われるのかとびくびくしていたのだがそこまで怖いことではなかった。
普通なら簡単すぎる話だが、私にとっては難易度星5。
私の中では敬語をやめる……イコール、ため口を使うというのはただのクラスメートから特別な友達にグレードアップするということだ。
友達とも決まったわけではない梓とそんな親しくなって良いものだろうか。
「私たち友達になってないので……そんななれなれしいことはできません」
「葵ちゃんの中で俺ら友達じゃねーの? まじで?」
「はい、まあ……友達になろう! と言ったわけでもないですし」
「普通友達になろうっていってなるもんじゃないよ、友達ってもんはさ。
気付けば心開いて話せてる、っていうのが友達なんだよ」
そんな私が普通じゃないみたいなことを言われても困る。
小さい頃から1人で過ごすことが多く、親からそんなことを教わったこともない。
それも当たり前なの? でも友達ってなんだかわからない。
なお友達ってこういうものでしょ論を展開する梓にふと怒りが込み上げて、
「友達っていうものを私に押し付けないでください。
また長い間ここにいてすみません、ではさようなら」
「ちょ、葵ちゃん!」
机の上のワークを閉じてバッグに適当につっこみ、適当に掴んで猪瀬家を出る。
追いかけて来る気配も感じたが、後ろを振り返って睨むと困ったようにその場で止まって追いかけて来るその足を止めた。
なんでこんなにいらいらするのかぜんぜんわからない。
梓が無理矢理友達だと言ってきたから?
私の価値観が普通ではないと否定されたから?
ううん、違う。
自惚れちゃってる自分に嫌気がさして、八つ当たりしてるだけなんだ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです
藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。
家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。
その“褒賞”として押しつけられたのは――
魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。
けれど私は、絶望しなかった。
むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。
そして、予想外の出来事が起きる。
――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。
「君をひとりで行かせるわけがない」
そう言って微笑む勇者レオン。
村を守るため剣を抜く騎士。
魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。
物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。
彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。
気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き――
いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。
もう、誰にも振り回されない。
ここが私の新しい居場所。
そして、隣には――かつての仲間たちがいる。
捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。
これは、そんな私の第二の人生の物語。
前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。
前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。
外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。
もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。
そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは…
どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。
カクヨムでも同時連載してます。
よろしくお願いします。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる