地味な雑草は眼鏡を外すと美しき薔薇だった。

梅屋さくら

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Episode3.距離だった。

パフォーマンスである。

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それからも前のように話しかけてきた梓だったが、私はもうなにがあっても動じず無視を決め込んだ。
顔を近付けられても、肩を叩かれても、ペンを拾ってもらっても私はなにも言わなかった。
感じ悪いことしちゃってる、っていうのはわかってる。
でもまた同じことを繰り返すわけにはいかない。

無視をし続けて2週間……ついに打ち合わせをしないままオーディション予選当日。
もちろん行く気はなかったのだが、楓にどうしてもと懇願され、そのままにすると土下座するような勢いだったので仕方なく行った。
梓もいたが、目を合わせても挨拶もしなかった。
楓も梓から聞いているのかそんな私たちを見てもなにも言わないでいてくれた。

会場は関東地区予選なので小さなホールで。
だが真ん中には広めの花道が設置されていて本格的だ。
私たち出場者とスタイリスト……楓は裏の控え室でメイクやスタイリングをする。
以前私が一目惚れして決めたあのワンピースにメイクをして、出番を待つ。
私は30人の出場者のうち30番と最後。
この順はエントリーした順らしいが緊張してしまう。
ここで優勝すれば全国大会に進出し、テレビに出ることになる。
前の人たちを見ていたが、服は豪華な着物やきらびやかなドレスの人が多くて私のように普通のワンピースを着ている人がいない。
ちょっと失敗したかもと思っていると、すぐに名前を呼ばれた。

《30番、RIHOリーホさん、17歳、高校生。どうぞ!》

スピーカーから響き渡る私の名前。
RIHOというのはミステリアスコンテストということで名前を伏せてエントリーするのだが、その時の仮名である。
葵は英語で『hollyhockホーリーホック』なのでその間のリーホを取ったわけだ。

高めの靴を履いた私はコツコツと良い音を鳴らしながら歩いていく。
手と足が同時に出ているのではないかと心配したものの、それはなかった。
顔を隠すための黒いヴェールは私の緊張まで隠してくれる。

ステージの真ん中に来ると、観客全員が私に注目していることを意識してしまって緊張はMAXに達してしまう。
緊張のせいか言う言葉が頭から抜けてしまい、焦る。

(どうしよう……なに、言うんだっけ?)

パニックになった私は解決策が見つからない。
とりあえず落ち着こうとして考え出した深呼吸は効果があった。
落ち着いた私はにこっと微笑んでくるっとその場で一回転した。
そこで持っているマイクをぎゅっと握りしめてすうっと息を吸う。

「きーらーきーらーひーかーるー? おーそーらーのー……?」

いきなり歌い出した私を見て審査員たちが目をぱちくりさせる。
楓が歌を歌って歌手もいけますアピールと審査員の印象に残るようにしようと言い出し、有名なこの曲は私の着ている服と合うのではないかという梓の提案により歌うことが決定した。
練習は1度しかしていないが、楓がすぐにオッケー! と言ってくれたため安心して歌いきることができた。

「私の歌声を聴いていただきありがとうございました。
今夜も皆様が良い夢を見られますように……」

こんなセリフは用意されていない。
頭から覚えた台詞セリフがすっ飛んだのでとっさに考え出したものである。

パチンッ……シャラララ……

私が指を鳴らしたのと同時に照明が消え、シャラララという柔らかい楽器の音が鳴る。
暗くなり驚いた客たちは上を向くことに必死になっていたが、すぐに照明は戻った。
その途端客の別の驚きの声が聞こえた。

「今日は雨なので星とは暫しお別れのようです。
その代わり、私の星を皆様に受け取っていただきたいのです……」

私は客に向けて放ったのは直径5?ほどの球体。
プラスチックの透明のケースにカラフルなビーズやアルミホイルの千切ったものが入った輝くもの。

「これなんだ?」
「そちらは私の星です、人の短い命、宇宙の広さや尊さを表しました」
「もらっていいの、こんな綺麗なもの……」
「はい、皆様の中に小さくとも幸せや感動を与えられたら良いのです」

わあっと歓声が上がり、拍手が沸き起こる。
そのときに私は自らこのヴェールを掴んで外し、横に投げ捨てた。
髪を結ばずに直前まで三つ編みをしていたのは正解だった。
ヴェールを外した時、ウェーブする髪はヴェールに引っかかって横にばさっとなびいた。
無表情で伏し目がちの私の顔を見た観客は騒いだ。

「すごく綺麗……」
「美しい……」

可愛いというよりも綺麗という声が多く聞こえた。
幻想的な私だけの世界に皆を引き込めたのはとても喜ばしいことだった。

なぜこんなにこの時、人前で堂々とパフォーマンスできたのかわからない。
すること以外はすべてアドリブのオーディションだった。
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