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Perfume2.過去への疑問と子供の感情。
29. 体験のお手伝い。
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十分紅葉を楽しんだなと感じた頃に、計算されているかのようにゴール地点に到着する。
昼食に名物の天ぷら蕎麦を一人前ずつ食べて、メープルシロップの採取体験ができるログハウスへと早足で向かった。
ちなみに、イオリはマコトの分まで半分近く食べてしまった。
その上ちなみに、ログハウスへ早足で向かったのはヒカルが駆け足で先に行ってしまいそれを皆で追いかけたからだった。
ログハウスでは予約していた彼らを男性が待っていた。
その男性は身体がとても大きく、真っ黒で剛毛な髭が口のまわりを囲んでいる、一言で言えば怖そうな人物だ。
「いらっしゃいませ。今日は案内をさせていただきます、竹山《たけやま》と申します」
響くような低音でそう言ってからは無言かつ無表情で、お世辞にも愛想が良いとは言えない彼に一行は怯えていた。
しかしそんな一行には構わずタケヤマは採取体験の説明を淡々と続けていく。
「“採取体験”とは言ってもメープルウォーターを採るのは危険なので、少量のメープルウォーターを煮詰めて濾過する過程を体験していただきます」
では1人5mLずつお渡しします、こちらにある鍋で作業を行うのでついてきてください。
そう言って彼は大きな体を揺らし、大股で調理器具が揃っている家庭科室のような場所に入っていった。皆が彼の雰囲気に気圧されたまま無言で(背の低いイノウエ親子は小走りで)ついていく。
「火をつけ、この鍋にメープルウォーターを入れましょう。そうですね、中火くらいで」
ヒカルはプラスチック製の小さなコップに入った液体を照明に透かしてじっと見ていた。
さらさらしていて透明。
普通の水のようなその見た目の液体が、煮詰めていくとあの黄金色でとろとろと粘り気のあるメープルシロップになるというのがどうも信じられない気持ちである。
はっと周りを見るとすでに彼以外はその液体を鍋に注いでヘラでゆっくりとかき混ぜていた。
そして目の前には口を真一文字に結んで彼を見るタケヤマがいた。
まずい、ぼーっとしてた、怒られる?
そう思って慌ててヒカルも液体を鍋に入れる。
1分くらい経ったとき、その液体が少し彼の指に跳ねた。
短時間ですごく熱くなっていて、思わず手を素早く引っ込め「熱っ!」と叫ぶ。
するとタケヤマがすぐに1つの保冷剤を持って駆け寄ってきて、保冷剤を指に当てながら、鍋のほうを見る。
「大丈夫ですか? これでは火が強すぎます」
初めて目にするメープルウォーターに興奮し、タケヤマの説明を聞いているとき上の空だった。
それが彼に悟られるのではないかと怯えた目で火を調節しているタケヤマの様子を見る。
そのとき彼と視線が行き交い、ヒカルは慌てて視線を逸らした。
「あの」
聞いていなかったことを怒られるのかとひやひやしながら「ひゃい」と間抜けな返事をすると、タケヤマは困ったように頭を掻いて顔を歪める。
「怖がらせていますかね、すみません。お前は無愛想で高圧的に見えるから接客向いてないってよく言われるんです」
従業員からも客からも。
そう言った彼の表情はとても暗く、落ち込んでいるように見えた。
「でも私、こんな見た目ですけどメープルシロップが大好物で、体験のお手伝い、すごくやりがいがあるからやめたくないんですけどね。……ああすみません、こんな話をお客様に」
「いえいえ、気にしないでください。ううんそうだな……」
ヒカルはメープルシロップを掻き混ぜる手を止めずに思案する。少しずつとろみがついていっているのが手に伝わる重みからわかる。
考え込む彼を見てマコトが会話に加わった。
「緊張しすぎかもしれません。あとタケヤマさん、声が低いからもっと柔らかく言葉を発したほうが良いかも」
タケヤマは何度も頷いて、すぐにパンツのポケットからメモ帳を取り出す。そこにはびっしりとボールペンの黒い文字が並んでいた。
彼はマコトのアドバイスをすべて書き留めていく。
メモ帳から顔を上げて何かを言おうとしたとき、イオリが叫んだ。
「重くなってきた、というか固まってきた! 焦げそうどうしよう!」
彼は1番初めにメープルウォーターを鍋に注いでいたからであろう。
たしかに鍋の中の液体は琥珀のような色味と綺麗な球形の気泡をその中に含んでいて、鍋を傾けてもなかなか動かなくなっていた。
タケヤマはメモ帳をまたポケットにしまい、イオリの鍋に近寄った。作業をしながら次の指示を出す。
「これくらい色が濃くなって掻き混ぜられないくらいとろみがついたら火を止めて、こちらの瓶にこの器具で濾過しながらゆっくり移してください。火傷に気を付けて。入れ終わった後の瓶はとても熱いので、このカバーを濡らしてから巻いてください。カバーが冷たいとメープルが固まってしまうので水はしっかり絞ってくださいね」
イオリに続いて他の皆が煮詰め終わった。
香ばしく、甘ったるい香りが立ち上り、ヒカルとマコトの鼻をくすぐる。目に見えて熱そうで、ぼこぼこと地獄のようなメープルに全員が怯えていた。
小さな瓶に入れ替えて蓋をするとそれはまるで置物のように美しく、思わず皆が見惚れる。
「下の階のフードコートコーナーで買える焼き立てのパンケーキに今煮詰めたメープルシロップかけられますよ。そちらも寄っていかれます?」
「はい! ……あ、ちょっと失礼します」
ヒカルはメープルシロップを纏ったパンケーキを想像してにやにやと怪しい笑いを必死に堪えていたが、ログハウスの外にヒカル宛てのモモンガが見えて仕方なく外に出る。
お預けを喰らったような気持ちでモモンガに付けられた手紙を見ると、そこにはヒサシのクリニックで長年看護師をしている女性からの連絡があった。
「じいちゃんが倒れて入院……⁉︎」
彼の頭からはもうパンケーキのことは抜け落ちていた。
その手紙を握り締め、ログハウスの中でメープルシロップの瓶を楽しそうに眺めて何かを話しているマコトたちのところへ走っていった。
昼食に名物の天ぷら蕎麦を一人前ずつ食べて、メープルシロップの採取体験ができるログハウスへと早足で向かった。
ちなみに、イオリはマコトの分まで半分近く食べてしまった。
その上ちなみに、ログハウスへ早足で向かったのはヒカルが駆け足で先に行ってしまいそれを皆で追いかけたからだった。
ログハウスでは予約していた彼らを男性が待っていた。
その男性は身体がとても大きく、真っ黒で剛毛な髭が口のまわりを囲んでいる、一言で言えば怖そうな人物だ。
「いらっしゃいませ。今日は案内をさせていただきます、竹山《たけやま》と申します」
響くような低音でそう言ってからは無言かつ無表情で、お世辞にも愛想が良いとは言えない彼に一行は怯えていた。
しかしそんな一行には構わずタケヤマは採取体験の説明を淡々と続けていく。
「“採取体験”とは言ってもメープルウォーターを採るのは危険なので、少量のメープルウォーターを煮詰めて濾過する過程を体験していただきます」
では1人5mLずつお渡しします、こちらにある鍋で作業を行うのでついてきてください。
そう言って彼は大きな体を揺らし、大股で調理器具が揃っている家庭科室のような場所に入っていった。皆が彼の雰囲気に気圧されたまま無言で(背の低いイノウエ親子は小走りで)ついていく。
「火をつけ、この鍋にメープルウォーターを入れましょう。そうですね、中火くらいで」
ヒカルはプラスチック製の小さなコップに入った液体を照明に透かしてじっと見ていた。
さらさらしていて透明。
普通の水のようなその見た目の液体が、煮詰めていくとあの黄金色でとろとろと粘り気のあるメープルシロップになるというのがどうも信じられない気持ちである。
はっと周りを見るとすでに彼以外はその液体を鍋に注いでヘラでゆっくりとかき混ぜていた。
そして目の前には口を真一文字に結んで彼を見るタケヤマがいた。
まずい、ぼーっとしてた、怒られる?
そう思って慌ててヒカルも液体を鍋に入れる。
1分くらい経ったとき、その液体が少し彼の指に跳ねた。
短時間ですごく熱くなっていて、思わず手を素早く引っ込め「熱っ!」と叫ぶ。
するとタケヤマがすぐに1つの保冷剤を持って駆け寄ってきて、保冷剤を指に当てながら、鍋のほうを見る。
「大丈夫ですか? これでは火が強すぎます」
初めて目にするメープルウォーターに興奮し、タケヤマの説明を聞いているとき上の空だった。
それが彼に悟られるのではないかと怯えた目で火を調節しているタケヤマの様子を見る。
そのとき彼と視線が行き交い、ヒカルは慌てて視線を逸らした。
「あの」
聞いていなかったことを怒られるのかとひやひやしながら「ひゃい」と間抜けな返事をすると、タケヤマは困ったように頭を掻いて顔を歪める。
「怖がらせていますかね、すみません。お前は無愛想で高圧的に見えるから接客向いてないってよく言われるんです」
従業員からも客からも。
そう言った彼の表情はとても暗く、落ち込んでいるように見えた。
「でも私、こんな見た目ですけどメープルシロップが大好物で、体験のお手伝い、すごくやりがいがあるからやめたくないんですけどね。……ああすみません、こんな話をお客様に」
「いえいえ、気にしないでください。ううんそうだな……」
ヒカルはメープルシロップを掻き混ぜる手を止めずに思案する。少しずつとろみがついていっているのが手に伝わる重みからわかる。
考え込む彼を見てマコトが会話に加わった。
「緊張しすぎかもしれません。あとタケヤマさん、声が低いからもっと柔らかく言葉を発したほうが良いかも」
タケヤマは何度も頷いて、すぐにパンツのポケットからメモ帳を取り出す。そこにはびっしりとボールペンの黒い文字が並んでいた。
彼はマコトのアドバイスをすべて書き留めていく。
メモ帳から顔を上げて何かを言おうとしたとき、イオリが叫んだ。
「重くなってきた、というか固まってきた! 焦げそうどうしよう!」
彼は1番初めにメープルウォーターを鍋に注いでいたからであろう。
たしかに鍋の中の液体は琥珀のような色味と綺麗な球形の気泡をその中に含んでいて、鍋を傾けてもなかなか動かなくなっていた。
タケヤマはメモ帳をまたポケットにしまい、イオリの鍋に近寄った。作業をしながら次の指示を出す。
「これくらい色が濃くなって掻き混ぜられないくらいとろみがついたら火を止めて、こちらの瓶にこの器具で濾過しながらゆっくり移してください。火傷に気を付けて。入れ終わった後の瓶はとても熱いので、このカバーを濡らしてから巻いてください。カバーが冷たいとメープルが固まってしまうので水はしっかり絞ってくださいね」
イオリに続いて他の皆が煮詰め終わった。
香ばしく、甘ったるい香りが立ち上り、ヒカルとマコトの鼻をくすぐる。目に見えて熱そうで、ぼこぼこと地獄のようなメープルに全員が怯えていた。
小さな瓶に入れ替えて蓋をするとそれはまるで置物のように美しく、思わず皆が見惚れる。
「下の階のフードコートコーナーで買える焼き立てのパンケーキに今煮詰めたメープルシロップかけられますよ。そちらも寄っていかれます?」
「はい! ……あ、ちょっと失礼します」
ヒカルはメープルシロップを纏ったパンケーキを想像してにやにやと怪しい笑いを必死に堪えていたが、ログハウスの外にヒカル宛てのモモンガが見えて仕方なく外に出る。
お預けを喰らったような気持ちでモモンガに付けられた手紙を見ると、そこにはヒサシのクリニックで長年看護師をしている女性からの連絡があった。
「じいちゃんが倒れて入院……⁉︎」
彼の頭からはもうパンケーキのことは抜け落ちていた。
その手紙を握り締め、ログハウスの中でメープルシロップの瓶を楽しそうに眺めて何かを話しているマコトたちのところへ走っていった。
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