つがいなんて冗談じゃない

ちか

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限界

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 あれからわたしはなるべ大人しく過ごした。わたしのせいでまた誰か辞めさせられたら怖いからだ。


 働くことも勉強することもできずそうしてただ日々を消費していた。

 ニコニコ笑ってギルフォード殿下の話を聞き、「好きだ」、「愛している」と言う彼から抱き寄せられたり、キスをされたり。

 勧められた小説を読み、勧められたドレスやアクセサリーを買う。

 ギルフォード殿下がお休みの日は、一緒に観劇を見に行く。

 劇場でも行き帰りの馬車でも常に密着している。

 事あるごとに腰に手を回されたり、手を取られたりする。

 日常的に髪やおでこや首筋にキスもされる。
 
 きっとこの国はこういう感じでスキンシップが多い国なんだろう。

 元いた世界でも海外には日本よりスキンシップ多いなって思う国もあったし。

 それでも自分がその立場になると結構つらい。

 日本はそんなにスキンシップが多い国じゃないし、わたし自身潔癖症の嫌いがあるから他人に触れるのも触れられるのも苦手だ。


 お世話になってるしあまり言わない方がいいよね?

 別に悪い人じゃないんだよね。優しくていい人だ。

 それにまた言ってもきっと伝わらない。今までこちらの人にうまく伝わった試しがない。


 本当は嫌だけど、あんまり言って気まずい感じになりたくないし。

 そんなに大袈裟に言うことじゃないし……

 大丈夫大丈夫……












 そんな日々を過ごしてもうこちらに来て三ヶ月ほどは過ぎただろうか?初めて見た日を含めあの三つの月を見たのは昨日で三回目だ。

 
 とうとう体が、いや心か?

 限界を迎えた。

 いつものように庭園で彼とお茶をしている時、腰を抱き寄せられた。

 その時、胃の中のものが競り上がってくる気がして咄嗟に顔を背け、口で手を押さえた。しかし競り上がったものを抑えることなどできず、地面に吐いてしまった。
 そのままわたしは力無くその場に倒れてしまった。

 その場は騒然とした。わたしが吐いて倒れたため、まずお茶に毒が入っていたのではないかと疑われた。

 すぐに医者が呼ばれて診察されることになったが、わたしの記憶はその騒ぎの途中で一度途切れた。

 次に目覚めたのは自室のベッドの上だった。
 そばにいた侍女がわたしが目が覚めたのに気づくとすぐにギルフォード殿下を呼びに行った。

 すると慌てたギルフォード殿下がすぐに現れた。

 彼はすぐにお茶を用意した使用人に尋問したそうだが、怪しいものはいなかったから毒の心配もないと。また医者の診断でも毒は検出されず、疲れからきたもの言われたと言う。

「本当に無事でよかった」

 そう言って彼はわたしの手を握ろうとした。しかしわたしは咄嗟に手を引いてしまった。

 彼はとても驚いた顔をしていた。

手の震えが止まらなかった。もうわたしは限界だった。そしてとうとう言ってしまった。

「さ、触らないで……下さい」

「えっどうしてですか?今までもたくさん触れ合ってきたじゃないですか?もしかして先ほどのことで汚れることを気にされているのですか?それなら大丈夫ですよ」


「あのっわたしの住んでいた国ではあまり恋人や夫婦と言ってもそんなにみだりに触れたりしないんです。人前ででは特に。キスとかハグとかスキンシップを少し減らしてもらえませんか?こちらの文化だと思ってそのうち慣れるだろうと思っていたのですが、やっぱりまだ慣れなくてとても恥ずかしいのです……」

「そ、そうだった……のです……か。わかりました。では少し触れるのを減らしますね」

「すみません。お願いします」
 
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