つがいなんて冗談じゃない

ちか

文字の大きさ
12 / 39

晩餐にて ギルフォードside

しおりを挟む
 神子様との初めての晩餐だ。

 とても楽しみだ。普通晩餐くらいではエスコートなんてしないが、待ちきれずに神子様を部屋の前まで迎えに行ってしまった。

 滞りなく晩餐は進む。だが無言だった。昼餐では屋敷のさまざまなことについて説明しなくてはいけなかったから事務的な会話ばかりになってしまった。だから今回は神子様に話しかけ色々お聞きしたいが、何から話そうかそんなことを考えていたらいつのまにか無言になっていた。しかし、気がつくと神子様が何か言いたそうにこちらを見ている気がする。そうしてしばらくすると可憐な声が聞こえて来た。

「あの、すみません。わたしはあなたのことをなんとお呼びしたらいいでしょうか?」

 えっ?まさかだった。俺は神子様であり、最愛の番に自身の名も伝えてなかったのか?!

「えっ?あっあぁ、そうですね。私としたことが。まだきちんと名乗っていなかったですね。番の神子様に出会えたことで思った以上に浮かれていたようです。そんな大切なことがすっかり抜け落ちるなんて……では改めましてこの国の王の弟であり、狼の獣人でメレヴィス公爵ギルフォード・イアン・フレイザー・アーヴィンと言います」

 食事の途中だったが、失礼と断りを入れて徐に立ち上がり、ボウ・アンド・スクレープをしながら名乗った。

 そうして神子様から殿と呼ばれた喜びといったら。何と幸せなんだ。

 そして神子様のお名前もお教えいただけた。というのだと言う。あまり聞いたことのない響きであり、名字が先とは珍しい。だが何と可愛らしいお名前か。

「ミオ様、改めてよろしくお願いします」

「はい、よろしくお願いします。あのそれで本当にわたしが番なんですか?出会ったらわかるものなんですか?」

ん?どうしてミオ様はこんな当たり前のことをお聞きになるんだ?

「はい。ミオ様はわたしの番で間違いありません。出会うというか、まず近くに番がいると匂いでわかります」

「匂い?どんなですか?」

「うーーん、説明が難しいのですが簡単に言うといい匂いです」

ミオ様も感じておられるはずだが?

「いい匂い……?」

「はい。昨夜も扉を開ける前からいえ、謁見の間に続く廊下を歩いている時からとてもいい匂いがしてとても不思議でした。ですがその疑問はすぐに解決いたしました。なぜなら扉の開けるとミオ様がおられ、一目見て私の番だとわかりましたから」

 いい匂いも一目見てピンと来たという俺の言葉になぜか難しい顔をしていらっしゃる。一体どうして?あっもしかして?

「もうずっと見つからなかった私の番が急にいらっしゃって、つい気が急いてあの様な場で儀式を行ってしまい申し訳ありませんでした」

 あぁ、きっとこのことをミオ様は怒ってらっしゃったのだ。だからあんな難しい顔をされていたのだ。

 どうしてもっとちゃんとやれなかったのか。一生に一度のことなのに。ミオ様も番との出会いや婚姻の儀に夢みていらっしゃったろうに。

 しかし、なぜミオ様はこんな当たり前のことをわざわざお聞きになったのだろうか?謁見の間でも常識を知らないかのようだった。我々のことを試しているのだろうか?

「でも、どうしてわざわざ確認をされたのですか?ミオ様にも私の番の匂いがお分かりになりますよね?」

 たしか、宰相や神官が言うにはこの国遣わされた際のお疲れが出てきっと記憶が混乱してしまったのだろうとのことだったな。まだお疲れが取れていないのだろうか?
 
「いえ、わたしにはギルフォード殿下が番かどうかわかりません。匂いも……」

「っ!!……番がわからない?ミオ様、それは一体どう言う……」

「えっ?そのままの意味です……けど……そもそもわたしたちの世界、国に番なんてものはないですし」

「そんな……番がいない?……ミオ様が番がわからないなんて……」

 一体どういうことだ?番が見つからないということはあるだろうが、と断言出来ることではないはず。万が一出会う前に亡くなってしまったということはあるがしれないが……

 それに番がわからないなんて。一体どう言うことだ?出会えば必ずわかるはずだ。ミオ様から何の獣人かなんてわざわざお教えいただいていないが耳を見るに猿の獣人だろう。今まで他の猿の獣人で番がわからなかったなんて聞いたこともないが……

 帰りたいとおっしゃっていた国の名前も何だったか。聞いたこともないような名前だったな。その国はこの国からはよほど遠く辺鄙なところにあるのだろう。もしかしたら街の名前の可能性も……

 きっと小さな国でしかし、周辺に他の国も近くにはない。だから、番という存在に出会えない確率が高く、そんな辛さを抱えるよりも最初から教えないのかもしれないな。

 これではそもそも初夜についても知らないかも知れないな。


 何ということだ。


 俺は気を取り直して咳払いをした。

「コホン、神子様という存在は何か我々と違いお体も特別なのかも知れませんね。ですが私は番だとわかっているので安心して下さい」

 とりあえずこう言うしかなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幸せな番が微笑みながら願うこと

矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。 まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。 だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。 竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。 ※設定はゆるいです。

ただの新米騎士なのに、竜王陛下から妃として所望されています

柳葉うら
恋愛
北の砦で新米騎士をしているウェンディの相棒は美しい雄の黒竜のオブシディアン。 領主のアデルバートから譲り受けたその竜はウェンディを主人として認めておらず、背中に乗せてくれない。 しかしある日、砦に現れた刺客からオブシディアンを守ったウェンディは、武器に使われていた毒で生死を彷徨う。 幸にも目覚めたウェンディの前に現れたのは――竜王を名乗る美丈夫だった。 「命をかけ、勇気を振り絞って助けてくれたあなたを妃として迎える」 「お、畏れ多いので結構です!」 「それではあなたの忠実なしもべとして仕えよう」 「もっと重い提案がきた?!」 果たしてウェンディは竜王の求婚を断れるだろうか(※断れません。溺愛されて押されます)。 さくっとお読みいただけますと嬉しいです。

番(つがい)と言われても愛せない

黒姫
恋愛
竜人族のつがい召喚で異世界に転移させられた2人の少女達の運命は?

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

番が見つけられなかったので諦めて婚約したら、番を見つけてしまった。←今ここ。

三谷朱花
恋愛
息が止まる。 フィオーレがその表現を理解したのは、今日が初めてだった。

気がつけば異世界

波間柏
恋愛
 芹沢 ゆら(27)は、いつものように事務仕事を終え帰宅してみれば、母に小さい段ボールの箱を渡される。  それは、つい最近亡くなった骨董屋を営んでいた叔父からの品だった。  その段ボールから最後に取り出した小さなオルゴールの箱の中には指輪が1つ。やっと合う小指にはめてみたら、部屋にいたはずが円柱のてっぺんにいた。 これは現実なのだろうか?  私は、まだ事の重大さに気づいていなかった。

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

処理中です...