ある日、僕は全知全能になった。

暁月ライト

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全知全能の力にこの世の秘密を聞いてみた。

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 僕は帰りながらも、矢継ぎ早にこの世の全ての興味を尋ねた。いや、この世のことだけではない。あの世のことについても聞いた。あの世はあるのか、地獄はあるのか、天国はあるのか。
 全知全能はその全ての質問について答えた。正確に、一切の迷いも無く。

 ――――地獄も天国もあの世も無いよ。でも、あった時代もあるらしいね。

 ――――輪廻転生はあるよ。君も既に相当生まれ変わってるんだからね?

 ――――魂もあるよ。魂は記憶を保持し、単体で思考能力も持つよ。でも、肉体を動かすには肉体側にも記憶装置や思考能力、つまり脳みそが必要になるね。

 ――――宇宙の始まりは仮定だよ。意味分からない? 理解できるように脳みそ改造してあげよっか?

 気付けば、僕は家に帰り着いていた。夢中だった。勿論、こんな風にフランクに答えていた訳では無い。そもそも、全知全能には人格なんて無い。声すらも無い。ただ、僕の頭の中に滔々と答えが返されるだけだ。でも、中々に面白かった。余りにもあっさりと答えるものだから、僕もあっさりとその全てを聞き終えた。ただ、分からないことも相応に多かった。僕の脳みそでは理解できない内容を、理解できるように改造することも簡単だし、理解できないまま理解することもきっと出来たが、怖いのでやめておいた。僕は慎重派だからだ。

「ただいま」

 僕は小さく呟いて家に上がり、二階にある僕の部屋でさっさと制服を着替えた。僕は家ではパジャマ派なんだ。動きやすく寝やすいことが何よりも重要である。

「あ、おかえり」

「うん、ただいま」

 一階に降り、洗濯機へと向かう際中に母親と擦れ違い、挨拶を返した。余りにもいつも通りで、僕はなぜだか眩暈がした。
 洗濯機に靴下やらを放り込み、ずっと感じていた尿意からトイレへと向かい、用を足した後はリビングへと向かった。喉が渇いたからだ。
 リビングと繋がったダイニングキッチンに向かい、コップに水を注ぎ、ごくりと飲んだ。母親の意向で、蛇口には浄水器が取り付けられている。実際、水道の水をそのまま飲むのは若干抵抗があるので僕も妹も賛成派ではある。ただ、父親はいちいち浄水にレバーで切り替えなければならないのを面倒がっていた。

 コップ一杯を直ぐに飲み干した僕は、自分の喉がとても乾いていたことに気付いた。一瞬能力の副作用なんてことを考えたが、全知全能さんに尋ねるとどうやら違うらしい。
 全知全能の力を得たことで、緊張とストレスを感じていたようだ。その為、交感神経が刺激されて優位となって、唾液腺の活動が低下してしまっていたらしい。交感神経が有利になると唾液が抑制され、副交感神経が優位になると唾液が分泌されるんだとか。

 でも、これって半分くらい全知全能の副作用なんじゃないかと思ったが、とても文句を言えるような立場では無いので心の中に呑みこんでおいた。

 小腹が空いていた僕は冷蔵庫を開き、さっさとカルパスを取り出した。父親は夜遅くまで帰ってこない。今さっと食べれば、犯人は僕か姉か妹か母親の四択だ。きっとバレはしないだろう。

 だが、僕は前提である善良な神様のことを思い出した。多分、これを食べるとお父さんは悲しむだろう。前にお母さんに楽しみにしていた酒を呑まれた時、悲しそうな目で問い詰めていたのを覚えている。

 僕はカルパスをそっと冷蔵庫の中に戻した。仕方ないので、外になにか買いにでも行こうか。コンビニなら、家からほど近い場所にある。とは言え、着替えるのはそこそこ面倒だ。折角パジャマに着替えたばかりなんだから、もう家でぐだぐだしておくかという気持ちもある。

 ……あるじゃん。

 一瞬にして着替えを済ませ、何なら移動すらも短縮してしまえるような全知全能の力が、僕にはあった。僕は誤魔化す為に二階に向かいつつ、母親が一階の洗濯機辺りに居ることを確認して二階に登った瞬間に着替えた。一瞬にしてパジャマが僕のお気に入りの白い服に入れ替わっていた。ズボンもしっかり入れ替わっているし、靴下まできちっと履いている。

 僕は脳みそに登ってきた全能感と高揚感ににやけ出すのが止められなかった。

 マジかぁ。これ、マジじゃん。現実世界に物理的影響を確かに及ぼした全知全能に、僕は実感よりも先に何というか体がふわふわするような浮遊感を味わった。長風呂から上がった時の立ち眩みに似ていた。
 今までは、飽くまでも僕の脳内で完結していたのだ。全知全能の力を得たことは、その瞬間に当然の如く理解し、本物であると確信していたが、その能力の行使に際する現象に関しては、ただの僕の妄想や幻覚であると考えることも出来た。

 だが、これはどう考えても本物だ。僕は急いで自分の部屋に向かうと、ベッドの上にパジャマが広がっているのを見た。自分の部屋で着替えて来たという僕の設定を汲んだからだろう。とは言え、完全に再現されている訳でも無い。
 いつもならば、無造作に僕のパジャマは投げ捨てられているところだが、今は丁寧と言っても良い程にベッドの上に広げられているのだ。

 とは言え、これが原因でバレることは無いだろう。待て待て、そもそもバレるなんてありはしないんだ。どこの誰も、家族が突然全知全能になったなんて思わないし、疑いもしない。目の前でテレポートして見たり、さっきの着替えを見せたりしない限りは大丈夫だ。

 僕は浮ついて高鳴る心臓に警戒して、手すりを掴んで慎重に階段を下りた。それから、玄関から一番近い場所にある洗面所に(洗濯機もそこに置いてある)居る母親に声をかけてから家を出た。


 そして、五分ほど歩いたところでコンビニに辿り着いた僕は、買い物かごにさっさと食べたいものを入れてレジに突き出した。大した量でもないのにかごに商品を入れたのは、両手いっぱいに商品を持ってレジに出すのが何となく恥ずかしいからだ。

「こちら四点で、八百九十二円のお買い上げになります」

 その言葉を聞き、僕はすかさずズボンのポケットに手を伸ばして……気付いた。

 財布が無い。

 思わず僕が店員の目を伺うと、その動作で察したのか店員は目を細めた。焦りが込み上げて来た僕だが、この状況の解に僕は直ぐに思い至った。

「えっと、はい、八百九十二円ですね」

 何事もなかったかのように、僕はズボンのポケットから財布を取り出したのだ。そして、誤魔化すように店員の言葉を復唱したのちに丁度でお金を差し出した。

「八百九十二円丁度、お預かり致します」

 コンビニ店員は若干違和感を抱いていたようだったが、財布がポケットに引っかかっていたとでも思ったのだろう。特に言及することも無くお金を受け取った。まぁ、ちょっとレジで固まったくらいで言及してくる訳なんて無いだろうけどさ。

「ありがとうございました。またお越し下さいませ」

 僕は軽く会釈をして、その場から直ぐに離れた。因みに、丁度で渡したのはお釣りを受け取る時間が嫌だったからだ。

「ふぅ……」

 外に出た僕は、息を吐き出しながら自分のスマートな能力の行使を思い出してにやけを浮かべた。


 それから直ぐに鍵を忘れたことに気付いた僕は、渋面で自室から鍵を取り寄せた。
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