12 / 189
全知全能と魔術士
しおりを挟む
何とか無事に帰り着いた赤髪の少女は、くたびれたソファに座り込んで溜息を吐いた。
「ふぅ……何とかなったぜぇ」
少女はソファの背に腕を広げて肘を置き、解放的な姿勢で天井を見上げた。シミのある汚れた天井はしかし、少女の心を落ち着かせた。
それから少女は視線を下ろし、自身のポケットからそれを取り出した。
「七割くらいはこいつのお陰だけどな」
腕輪のような形状に纏められた炎の鞭は、その熱気を外に漏らしてはいなかった。
「――――ッ、茜! 大丈夫だった!?」
連絡を聞いて駆け付けた水色の髪の少女が、ボロい二階建ての建物の中に飛び込んで来た。一階のソファに腰かけていた赤髪の少女、茜はにへっと笑みを浮かべて片手を上げる。
「おぉ、瑞樹か。余裕だぜ? コイツのお陰でな」
腕輪くらいの大きさの炎の輪を茜は見せ、それを振るって鞭の形状に戻した。
「だから外を歩くときはちゃんと偽装の魔術を使ってって……ッ、何それ!? 魔術、みたいだけど」
「あぁ、単なるエネルギーの癖に安定し過ぎてて消える気配はねぇ。こういう系の魔術にしちゃ、こんだけ持続時間を伸ばしてる奴は珍しいよな」
「珍しいどころじゃないでしょ……って、それよりケガしてるじゃん! 処置もしないで何で座ってるの!?」
「ん、あぁ……そういや、そうだったな」
茜は肩と足に開いた穴に意識を向け、自身の負ったダメージを思い出した。今更感じ始めた痛みに眉を顰めるが、それ以上に気にかかったことを茜は口にした。
「護衛はどうした。光は何処にいる?」
「光ちゃんは大丈夫だよ。今は御岳さんと黒崎君が見てるから」
「あぁ、御岳が戻って来たのか。それなら安心だな……」
茜は瑞樹の話を聞くと安堵したように息を吐き出し、ゆっくりと目を瞑った。
「ちょっと疲れちまったからよ……治療、頼んだ」
そう言うと、茜はソファに横たわって意識を失った。
「ちょっと、もう……仕方ないんだから」
瑞樹は柔らかく笑うと、入り口をしっかり施錠して茜の体に触れた。
「『清浄の導きは、澄み渡る清流の如く』」
瑞樹の指先、茜の体に触れる部分に青色の魔法陣が展開された。
「『血潮を流れ、穢れを祓い、巡り行く』」
青い光が魔法陣から発せられ、薄暗い建物の中を照らす。
「『清浄なる治癒』」
その青い光は茜の内側に入り込むと、血の流れに乗るようにして身体中を巡り、傷を癒していく。
「ふぅ……これで良し、かな」
目を瞑り、暫く茜の体に手を当てていた瑞樹は目を開き、自身に額を伝った汗を軽く拭った。青い光は消えており、茜の体に付いていた傷も無くなっていた。とは言え、疲労まで消し去れる訳では無い。
茜はぐっすりとソファで眠ったままであり、瑞樹はその様子を穏やかな笑みで眺めていた。
♦……side:宇尾根 治
久し振りに三人で遊ぶことにした僕たちは、カラオケに向かっていた。都市部から少し離れた場所にあるそこのカラオケボックスは、安い上に人が少ないので僕たちは良く利用していた。
「うわぁ、カラオケ久し振りだわ。マジで歌えっかな」
「そんなこと言ったら僕も久々だよ。ここで遊ぶ時くらいしかカラオケなんて行かないし」
「俺もだな……そもそも、歌は得意じゃないからな俺」
自信無さげに言う善斗だが、この中で歌が一番下手なのは僕なのであった。歌うこと自体は好きなんだけどね、如何せん上手くはならない。歌ってる時は気付かないんだけど、録音して聞き直すと結構酷くて凹む。
「……!」
善斗が何かを見つけたように表情を変えたので、その視線の先を僕も見ると、そこには近くのヤンキー校……というか、柄の悪い奴らばかり居る高校の生徒に絡まれている女子高生が居た。ここら辺を通るとああいうヤンキーみたいな奴を見かけることは少なくなかったが、こうして誰かが絡まれている場面に遭遇するのは初めてだった。
「お前ら、何やってんだよ?」
善斗がつかつかと近付いて言うと、不良達は一斉に善斗の方を向いた。
「あ? なんだよ……見たら分かんだろ? ナンパだよナンパ!」
「この子カワイイからさ、ちょっと一緒に遊ぼうぜって誘っただけだけど? お前は何?」
「関係ねぇ奴はさっさと消えろや。マジで邪魔ェ」
威嚇する不良達だが、女子が泣きそうな顔で善斗に助けを求めると、善斗は女子高生の手を引いてさっと自分の後ろに隠した。
僕と絵空は目を見合わせて、どうする? と小声で呟いた。善斗が手当たり次第に人助けをしたがるのはいつものことだったが、今日のこれは不味い。周りに人は居ないし、相手は三人だ。しかも、一人は結構喧嘩慣れしていそうに見える。
「取り敢えず、行くしかないっしょ。三対三だって思ったら相手も引くかもしんねぇしさ」
「確かに」
僕は短く頷き、絵空と共に善斗の下に馳せ参じた。
「手出す気なら警察通報するけど? 良いの?」
「あ? 誰だテメェ……あんま舐めんなよ。通報する暇とかやんねぇよ馬鹿」
「マジでくらすぞテメェ。つか、後ろのひょろい奴なんや?」
警察への通報をちらつかせてみた絵空だったが、効果は無く寧ろ相手は怒りを露わにするだけだった。そしてついでのように僕がディスられた。え、これどうなんの?
「あー、もう良いわ。プッツン来たわ。殺す」
先頭の男が、遂に我慢の限界に達したのか善斗に向かって殴り掛かった。
「ふぅ……何とかなったぜぇ」
少女はソファの背に腕を広げて肘を置き、解放的な姿勢で天井を見上げた。シミのある汚れた天井はしかし、少女の心を落ち着かせた。
それから少女は視線を下ろし、自身のポケットからそれを取り出した。
「七割くらいはこいつのお陰だけどな」
腕輪のような形状に纏められた炎の鞭は、その熱気を外に漏らしてはいなかった。
「――――ッ、茜! 大丈夫だった!?」
連絡を聞いて駆け付けた水色の髪の少女が、ボロい二階建ての建物の中に飛び込んで来た。一階のソファに腰かけていた赤髪の少女、茜はにへっと笑みを浮かべて片手を上げる。
「おぉ、瑞樹か。余裕だぜ? コイツのお陰でな」
腕輪くらいの大きさの炎の輪を茜は見せ、それを振るって鞭の形状に戻した。
「だから外を歩くときはちゃんと偽装の魔術を使ってって……ッ、何それ!? 魔術、みたいだけど」
「あぁ、単なるエネルギーの癖に安定し過ぎてて消える気配はねぇ。こういう系の魔術にしちゃ、こんだけ持続時間を伸ばしてる奴は珍しいよな」
「珍しいどころじゃないでしょ……って、それよりケガしてるじゃん! 処置もしないで何で座ってるの!?」
「ん、あぁ……そういや、そうだったな」
茜は肩と足に開いた穴に意識を向け、自身の負ったダメージを思い出した。今更感じ始めた痛みに眉を顰めるが、それ以上に気にかかったことを茜は口にした。
「護衛はどうした。光は何処にいる?」
「光ちゃんは大丈夫だよ。今は御岳さんと黒崎君が見てるから」
「あぁ、御岳が戻って来たのか。それなら安心だな……」
茜は瑞樹の話を聞くと安堵したように息を吐き出し、ゆっくりと目を瞑った。
「ちょっと疲れちまったからよ……治療、頼んだ」
そう言うと、茜はソファに横たわって意識を失った。
「ちょっと、もう……仕方ないんだから」
瑞樹は柔らかく笑うと、入り口をしっかり施錠して茜の体に触れた。
「『清浄の導きは、澄み渡る清流の如く』」
瑞樹の指先、茜の体に触れる部分に青色の魔法陣が展開された。
「『血潮を流れ、穢れを祓い、巡り行く』」
青い光が魔法陣から発せられ、薄暗い建物の中を照らす。
「『清浄なる治癒』」
その青い光は茜の内側に入り込むと、血の流れに乗るようにして身体中を巡り、傷を癒していく。
「ふぅ……これで良し、かな」
目を瞑り、暫く茜の体に手を当てていた瑞樹は目を開き、自身に額を伝った汗を軽く拭った。青い光は消えており、茜の体に付いていた傷も無くなっていた。とは言え、疲労まで消し去れる訳では無い。
茜はぐっすりとソファで眠ったままであり、瑞樹はその様子を穏やかな笑みで眺めていた。
♦……side:宇尾根 治
久し振りに三人で遊ぶことにした僕たちは、カラオケに向かっていた。都市部から少し離れた場所にあるそこのカラオケボックスは、安い上に人が少ないので僕たちは良く利用していた。
「うわぁ、カラオケ久し振りだわ。マジで歌えっかな」
「そんなこと言ったら僕も久々だよ。ここで遊ぶ時くらいしかカラオケなんて行かないし」
「俺もだな……そもそも、歌は得意じゃないからな俺」
自信無さげに言う善斗だが、この中で歌が一番下手なのは僕なのであった。歌うこと自体は好きなんだけどね、如何せん上手くはならない。歌ってる時は気付かないんだけど、録音して聞き直すと結構酷くて凹む。
「……!」
善斗が何かを見つけたように表情を変えたので、その視線の先を僕も見ると、そこには近くのヤンキー校……というか、柄の悪い奴らばかり居る高校の生徒に絡まれている女子高生が居た。ここら辺を通るとああいうヤンキーみたいな奴を見かけることは少なくなかったが、こうして誰かが絡まれている場面に遭遇するのは初めてだった。
「お前ら、何やってんだよ?」
善斗がつかつかと近付いて言うと、不良達は一斉に善斗の方を向いた。
「あ? なんだよ……見たら分かんだろ? ナンパだよナンパ!」
「この子カワイイからさ、ちょっと一緒に遊ぼうぜって誘っただけだけど? お前は何?」
「関係ねぇ奴はさっさと消えろや。マジで邪魔ェ」
威嚇する不良達だが、女子が泣きそうな顔で善斗に助けを求めると、善斗は女子高生の手を引いてさっと自分の後ろに隠した。
僕と絵空は目を見合わせて、どうする? と小声で呟いた。善斗が手当たり次第に人助けをしたがるのはいつものことだったが、今日のこれは不味い。周りに人は居ないし、相手は三人だ。しかも、一人は結構喧嘩慣れしていそうに見える。
「取り敢えず、行くしかないっしょ。三対三だって思ったら相手も引くかもしんねぇしさ」
「確かに」
僕は短く頷き、絵空と共に善斗の下に馳せ参じた。
「手出す気なら警察通報するけど? 良いの?」
「あ? 誰だテメェ……あんま舐めんなよ。通報する暇とかやんねぇよ馬鹿」
「マジでくらすぞテメェ。つか、後ろのひょろい奴なんや?」
警察への通報をちらつかせてみた絵空だったが、効果は無く寧ろ相手は怒りを露わにするだけだった。そしてついでのように僕がディスられた。え、これどうなんの?
「あー、もう良いわ。プッツン来たわ。殺す」
先頭の男が、遂に我慢の限界に達したのか善斗に向かって殴り掛かった。
0
あなたにおすすめの小説
ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す
名無し
ファンタジー
ダンジョン菌が人間や物をダンジョン化させてしまう世界。ワクチンを打てば誰もがスレイヤーになる権利を与えられ、強化用のクエストを受けられるようになる。
しかし、ワクチン接種で稀に発生する、最初から能力の高いエリート種でなければクエストの攻略は難しく、一般人の佐嶋康介はスレイヤーになることを諦めていたが、仕事の帰りにコンビニエンスストアに立ち寄ったことで運命が変わることになる。
現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!
おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。
ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。
過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。
ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。
世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。
やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。
至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!
ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった
仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。
そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?
追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました
KABU.
ファンタジー
「記録係なんてお荷物はいらない」
勇者パーティを支えてきた青年・ライトは、ダンジョンの最深部に置き去りにされる。
彼のスキル《記録》は、一度通った道を覚えるだけの地味スキル。
戦闘では役立たず、勇者たちからは“足手まとい”扱いだった。
だが死の淵で、スキルは進化する。
《超記録》――受けた魔法や技を記録し、自分も使える力。
そして努力の果てに得たスキル《成長》《進化》が、
《記録》を究極の力《アカシックレコード》へと昇華させる。
仲間を守り、街を救い、ドラゴンと共に飛翔する。
努力の記録が奇跡を生み、やがて――
勇者も、魔王も凌駕する“最強”へ。
天城の夢幻ダンジョン攻略と無限の神空間で超絶レベリング ~ガチャスキルに目覚めた俺は無職だけどダンジョンを攻略してトップの探索士を目指す~
仮実谷 望
ファンタジー
無職になってしまった摩廻天重郎はある日ガチャを引くスキルを得る。ガチャで得た鍛錬の神鍵で無限の神空間にたどり着く。そこで色々な異世界の住人との出会いもある。神空間で色んなユニットを配置できるようになり自分自身だけレベリングが可能になりどんどんレベルが上がっていく。可愛いヒロイン多数登場予定です。ガチャから出てくるユニットも可愛くて強いキャラが出てくる中、300年の時を生きる謎の少女が暗躍していた。ダンジョンが一般に知られるようになり動き出す政府の動向を観察しつつ我先へとダンジョンに入りたいと願う一般人たちを跳ね除けて天重郎はトップの探索士を目指して生きていく。次々と美少女の探索士が天重郎のところに集まってくる。天重郎は最強の探索士を目指していく。他の雑草のような奴らを跳ね除けて天重郎は最強への道を歩み続ける。
距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる
歩く魚
恋愛
かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。
だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。
それは気にしてない。俺は深入りする気はない。
人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。
だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。
――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。
どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-
すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン]
何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?…
たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。
※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける
縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は……
ゆっくりしていってね!!!
※ 現在書き直し慣行中!!!
素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。
名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる