ある日、僕は全知全能になった。

暁月ライト

文字の大きさ
22 / 189

全知全能と訪問者

しおりを挟む
 僕が今日も学校から図書館を経由して帰ると、妹がやけにそわそわした様子でリビングに居た。

「どうしたの?」

「い、いや、何でもない」

 明らかに何でもある様子の妹に、僕は全知全能でその理由を調べようかと思ったが、止めておいた。人のプライバシーを詮索したところで、碌なことなど起こらないのだ(二敗)。

「それより……兄貴、あれから茜さんには会った?」

「会ってないよ。会う機会も無い」

 そっか、と妹は答えた。やっぱり、炎の女帝こと紅蓮の女番こと茜さんのことが気になるんだろう。そわそわしているのも、それが原因かな。

「分かんないけど、あんまり詮索しない方が良いと思うよ」

「……何で?」

「そりゃ、茜さんって怖いからね。不良だってビビり散らすくらいなんだから、一般人の僕らが関わるべきじゃないでしょ」

「えぇ、それって酷くない? 茜さんは悪い人じゃないのに、悪い奴がビビってるってだけで私たちがビビってたら可哀想だと思う」

 うーん、一理ある。実際、助けて貰った立場で僕は茜さんにちょっと薄情なところはあるかも知れない。でも、僕の秘密の一端を知っている存在が怖いのは仕方ないと思う。別に、僕は茜さんがヤンキーの女帝だからビビっている訳じゃない。

「でも、迷惑かも知れないよ。少なくとも、僕は自分のことを知ろうとする人間なんて居ない方が嬉しいね」

「……それって、寂しくない?」

「うんにゃ、別に」

 僕は机の上に置かれていた袋入りのクッキーを一枚取って、二階の自室に戻った。





 ♦



 兄が自室に戻ったのを見て、柚乃は懐から小さな紙を取り出してまた眺めた。それは兄である宇尾根 治が茜より受け取った事務所の位置が記された紙であり、柚乃にとってはついさっき学校帰りのその足で向かった場所が記された紙であった。

 兄の態度におかしな部分を目敏く見つけた柚乃は、この紙こそが茜に繋がる鍵であると確信して今日の放課後にそのまま御岳相談事務所へと向かった。


 事務所の入り口が見える位置で人を待っているフリをして携帯を弄りながら立っていた柚乃は、誰かがその事務所へと入っていくのを見た。
 小さいのが一人と、同じくらいの高さの人が二人、少し間をおいてから、更にもう一人が事務所へと入っていくのを見た。

 だが、どうにもその入っていた人間の顔を、思い出せなかった。髪の色も、目の色も、髪型も美醜も、思い出せない。

 何かがおかしい。でも、周囲の人間は誰も気付いていない。自分だけがその異常に気付いているのは何故か。それすらも分からずに、柚乃は期待と不安を胸に事務所のブラインドで内側の見えない窓に近付いた。

「ッ!?」

 閉め切られたブラインドの僅かな隙間から、事務所の中を覗き込んだ。そこには、厳めしい顔つきの体格の良い男と、鮮烈な赤髪の美しい少女が向かい合ってソファに座っていた。そして、柚乃の頭の奥で直感的に最後に事務所に入った人間とこの少女が、茜が結び付く。

 なんで? どうして、どうやって?

 疑問は恐怖に変わり、窓から飛び跳ねるように顔を離した柚乃は、跳ね回る心臓を抑えて逃げ帰って来たのだ。

 茜は何者なのか? 他の人間は? そもそも、あの事務所は一体何なんだ? この異常を、兄は知っているのか? 湧いて出る無数の疑問を解決することは出来ず、一人になるのも怖くなった柚乃は明るいリビングでクッキーを貪っていた。

「……どうしよう」

 このまま居れば、心臓の動悸は収まるのだろうか。この不安は、そわそわとした気持ちは治るのだろうか。だとして、自分はそれで満足できるのか。
 少女は再び立ち上がり、リビングを三周歩き回った後に二階の自室へと戻り、着替えと支度を済ませて家を出た。

 足は未だに震えているが、大丈夫だ。転んだりはしないし、外からは不格好にも見えていない筈だ。そうして、緊張と恐怖に歩く速度が鈍っても、結局のところ事務所へは到着してしまった。

「よ、よしっ!」

 相談事務所と書いてあるからには、何かしら相談を受ける仕事をしてる場所の筈だ。話す予定のことはもう決めていた。

 柚乃は窓も全てブラインドで閉じられた事務所の、細い路地にある薄汚れた扉に手を掛けた。普段なら絶対に関わりたくないような佇まいのこの事務所に、柚乃は勇気を出して一歩踏み出そうと、ドアノブを回して押し込んだ。

 ガチャっと、つっかえる音がして扉には鍵がかかっていることに気付いた柚乃は、そこで扉の隣にインターホンがあることに気付いた。

「あ、あっ……」

 焦る柚乃だったが、もうここまで来たなら行ってしまえとインターホンも押し、扉の前でじっと待った。

「どうした?」

 出て来たのは、ゴツい男だった。体格が良く、背も高く、厳めしい顔をした中年の男。その顔には深い傷が入っており、明らかにカタギでは無いことを知らせていた。

「あ、いゃ、えっと、間違え……」

 柚乃は迷った。ここで退くのは簡単だ。でも、そうすれば二度とチャンスは来ないかも知れない。ここが、正念場である。

「じゃ、ないです。あの、相談って、何を聞いてくれるんですか?」

「うちは話を聞いてやる場所じゃなくて、悩みを解決してやる場所だ。アンタの悩みが俺達に解決できそうなものなら、報酬次第で受けてやる」

 低い声で言われた柚乃は、悩んだ末に答えた。

「……学生料金って、付きますか?」

 彼女の財布には、二万円しか入っていなかったからだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺だけ✨宝箱✨で殴るダンジョン生活

双葉 鳴
ファンタジー
俺、“飯狗頼忠(めしく よりただ)”は世間一般で【大ハズレ】と呼ばれるスキル【+1】を持つ男だ。 幸運こそ100と高いが、代わりに全てのステータスが1と、何をするにもダメダメで、ダンジョンとの相性はすこぶる悪かった。 しかし世の中には天から二物も三物ももらう存在がいる。 それが幼馴染の“漆戸慎(うるしどしん)”だ。 成績優秀、スポーツ万能、そして“ダンジョンタレント”としてクラスカースト上位に君臨する俺にとって目の上のたんこぶ。 そんな幼馴染からの誘いで俺は“宝箱を開ける係”兼“荷物持ち”として誘われ、同調圧力に屈して渋々承認する事に。 他にも【ハズレ】スキルを持つ女子3人を引き連れ、俺たちは最寄りのランクEダンジョンに。 そこで目の当たりにしたのは慎による俺TUEEEEE無双。 寄生上等の養殖で女子達は一足早くレベルアップ。 しかし俺の筋力は1でカスダメも与えられず…… パーティは俺を置いてズンズンと前に進んでしまった。 そんな俺に訪れた更なる不運。 レベルが上がって得意になった女子が踏んだトラップによる幼馴染とのパーティ断絶だった。 一切悪びれずにレベル1で荷物持ちの俺に盾になれと言った女子と折り合いがつくはずもなく、俺たちは別行動をとる事に…… 一撃もらっただけで死ぬ場所で、ビクビクしながらの行軍は悪夢のようだった。そんな中響き渡る悲鳴、先程喧嘩別れした女子がモンスターに襲われていたのだ。 俺は彼女を囮に背後からモンスターに襲いかかる! 戦闘は泥沼だったがそれでも勝利を収めた。 手にしたのはレベルアップの余韻と新たなスキル。そしてアイアンボックスと呼ばれる鉄等級の宝箱を手に入れて、俺は内心興奮を抑えきれなかった。 宝箱。それはアイテムとの出会いの場所。モンスタードロップと違い装備やアイテムが低い確率で出てくるが、同時に入手アイテムのグレードが上がるたびに設置されるトラップが凶悪になる事で有名である。 極限まで追い詰められた俺は、ここで天才的な閃きを見せた。 もしかしてこのトラップ、モンスターにも向けられるんじゃね? やってみたら案の定効果を発揮し、そして嬉しい事に俺のスキルがさらに追加効果を発揮する。 女子を囮にしながらの快進撃。 ステータスが貧弱すぎるが故に自分一人じゃ何もできない俺は、宝箱から出したアイテムで女子を買収し、囮役を引き受けてもらった。 そして迎えたボス戦で、俺たちは再び苦戦を強いられる。 何度削っても回復する無尽蔵のライフ、しかし激戦を制したのは俺たちで、命からがら抜け出したダンジョンの先で待っていたのは……複数の記者のフラッシュだった。 クラスメイトとの別れ、そして耳を疑う顛末。 俺ができるのは宝箱を開けることくらい。 けどその中に、全てを解決できる『鍵』が隠されていた。

現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!

おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。 ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。 過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。 ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。 世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。 やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。 至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!

異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕 タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】 3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!

この世界にダンジョンが現れたようです ~チートな武器とスキルと魔法と従魔と仲間達と共に世界最強となる~

仮実谷 望
ファンタジー
主人公の増宮拓朗(ましみやたくろう)は20歳のニートである。 祖父母の家に居候している中、毎日の日課の自宅の蔵の確認を行う過程で謎の黒い穴を見つける。 試にその黒い穴に入ると謎の空間に到達する。 拓朗はその空間がダンジョンだと確信して興奮した。 さっそく蔵にある武器と防具で装備を整えてダンジョンに入ることになるのだが…… 暫くするとこの世界には異変が起きていた。 謎の怪物が現れて人を襲っているなどの目撃例が出ているようだ。 謎の黒い穴に入った若者が行方不明になったなどの事例も出ている。 そのころ拓朗は知ってか知らずか着実にレベルを上げて世界最強の探索者になっていた。 その後モンスターが街に現れるようになったら、狐の仮面を被りモンスターを退治しないといけないと奮起する。 その過程で他にもダンジョンで女子高生と出会いダンジョンの攻略を進め成長していく。 様々な登場人物が織りなす群像劇です。 主人公以外の視点も書くのでそこをご了承ください。 その後、七星家の七星ナナナと虹咲家の虹咲ナナカとの出会いが拓朗を成長させるきっかけになる。 ユキトとの出会いの中、拓朗は成長する。 タクロウは立派なヒーローとして覚醒する。 その後どんな敵が来ようとも敵を押しのける。倒す。そんな無敵のヒーロー稲荷仮面が活躍するヒーロー路線物も描いていきたいです。

距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚
恋愛
 かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。  だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。  それは気にしてない。俺は深入りする気はない。  人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。  だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。  ――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。

ダンジョン学園サブカル同好会の日常

くずもち
ファンタジー
ダンジョンを攻略する人材を育成する学校、竜桜学園に入学した主人公綿貫 鐘太郎(ワタヌキ カネタロウ)はサブカル同好会に所属し、気の合う仲間達とまったりと平和な日常を過ごしていた。しかしそんな心地のいい時間は長くは続かなかった。 まったく貢献度のない同好会が部室を持っているのはどうなのか?と生徒会から同好会解散を打診されたのだ。 しかしそれは困るワタヌキ達は部室と同好会を守るため、ある条件を持ちかけた。 一週間以内に学園のため、学園に貢献できる成果を提出することになったワタヌキは秘策として同好会のメンバーに彼の秘密を打ちあけることにした。

俺の家に異世界ファンタジーガチャが来た結果→現実世界で最強に ~極大に増えていくスキルの数が膨大になったので現実世界で無双します~

仮実谷 望
ファンタジー
ガチャを廻したいからそんな理由で謎の異世界ガチャを買った主人公はガチャを廻して自分を鍛えて、最強に至る。現実世界で最強になった主人公は難事件やトラブルを解決する。敵の襲来から世界を守るたった一人の最強が誕生した。そしてガチャの真の仕組みに気付く主人公はさらに仲間と共に最強へと至る物語。ダンジョンに挑戦して仲間たちと共に最強へと至る道。 ガチャを廻しまくり次第に世界最強の人物になっていた。 ガチャ好きすぎて書いてしまった。

ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった

仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。 そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?

処理中です...