ある日、僕は全知全能になった。

暁月ライト

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全知全能と依頼

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 ……ちょっと寝不足だ。晩飯の後、絵空から送りつけられてきた大量のネット小説を読み漁っていたせいで夜更かししてしまった。何だこれと思うようなものもあったけど、面白い奴は結構面白くて一気に読み進めてしまった。
 一応、さっきサクッと収納用の空間魔術も習得してきたし、出発しようと思う。と言っても、外でご飯を食べて来るという体にしたいから、外に出るんだけどね。

 着替えを終えた僕は、部屋を出て階段を下りる。

「じゃあ、行ってくるよ」

「はいはい、気を付けなさいよ」

 僕は手を振り、外に出た。スマホは異世界でも連絡が届くようにしてある。

「良し……行こうか」

 路地裏に潜り込んだ僕は手を伸ばし、この世界から姿を消した。





 ♦



 視界が入れ替わり、僕は宿屋の中に居た。聖域と化したこの部屋には、もう虫は一匹も入れない。安心の空間である。

 さて、正午にはギルドに行かなきゃいけないけど……まだ、数時間は余裕があるね。

「じゃあ、外で魔物でも狩ってみようかな」

 それをお金にしたら、今の一文無しの状態からは抜け出せるだろう……と、思ったけど、待てよ。

 僕、一文無しじゃん。外出て魔物狩っても、入門料払えないから、お金に変えられないじゃん。

 ……え、どうしよう。詰んだ? いやいや、僕は全知全能だ。外で魔物を狩って、転移で戻って来るくらいのことは造作も無い。けど、バレたら面倒臭いか……?

 良し、一旦ギルドに行こう。もしかしたら、街中で達成可能な依頼があるかも知れない。それをこなして入門料を払えるくらい稼いでから、正午に備えれば良いかな。

 鍵をポケットに入れて、僕は部屋を出た。一応、荷物なんて何も無いから閉めなくても良いんだけど、念の為に鍵は閉めておく。
 一階に降りると、カウンターに居た宿屋の主人の男と目が合った。

「すみません、ちょっと出かけますね」

 このまま無視して行くのも若干気まずいので、そう声をかけて出ようとすると、男はおいおいと止めた。

「鍵は置いてってくれよ。帰って来た時にまた渡すからな」

「あ、はい」

 現代のホテルでも大体鍵は預けていくものだよね。僕は鍵をカウンターに置き、ぺこりと頭を下げて宿を出た。

 そうして街を眺めながら歩き、冒険者ギルドに辿り着いた僕は若干の緊張と共にスイングドアを開いて中に入る。
 そして、依頼の貼り出されている壁際を眺め、僕は絶望した。壁際に並ぶ冒険者達の群れを超えられる気がしなかったからである。それぞれ自分のパーティとあーでもないこうでもないと話している彼らに割り込んで依頼を奪い取ることは出来そうになかった。

 と、僕が呆然と眺めている横を受付嬢さんが通り、貼られている紙の一つを綺麗に剥がしてカウンターの方に持って行った。そこには、冒険者が一人待っており、受付嬢と話した後に何かを渡されてギルドを去って行った。

 ……もしかして、依頼ってああやって受けるの? 自分で剥がして持って行くのかなぁって勝手に思ってけど、そういう訳じゃないんだ。

 そう思って、全知全能に聞いて見ると肯定が帰って来た。勝手に剥がすと良くないらしい。そこら辺、ガイドを読んでおけば分かるんだろう。お金を稼げたら、後で読もう。

「……よし」

 そうと決まれば、ここからでも依頼を読めば良い。全知全能の僕ならば、近付くことなく依頼を読むなんて造作も無いことである。冒険者の背中でチラチラと隠れていても、簡単に読めるのである。

「おい、お前新参か?」

「え? うん、昨日登録したばっかりだよ」

 後ろから声を掛けられたので振り返ると、三十代くらいの男が居た。革の装備を纏い、腰には剣を差している。

「文字が読めねぇなら受付に言いな。条件を教えたらそれに合ってる依頼を教えてくれるぞ。それに、あそこに貼り出されてない依頼もあるからな。貼り出し期間の終わった依頼は自分で調べないと出会えねぇ。まぁ、受付嬢から勧められることもあるが」

「なるほど……ありがとうございます。あ、でも字は読めます」

「なんだ、そうなのか。こんな所でボーっと突っ立ってるから、てっきり文字が読めなくて困ってんのかと思ったぜ。俺の勘違いだったな」

「いやいや、ご心配頂きありがとうございます」

 しかし、文字が読めない人も珍しく無いのかな。まぁ、そうだよね。中世なら識字率なんて高い印象は無い。でも、こんだけ本とか紙とかがあるなら、中世ヨーロッパみたいに低くは無いんだろう。いや、ここが都市だからってのもあるのかな? 本とかの需要が低そうな農村だと、殆ど文字を読めなくても不思議ではない。
 と、考察している僕を男は目を細めて見ていた。

「あー、お前がどんな生まれかは知らねえが、冒険者をやってくなら丁寧過ぎる喋り方は止めた方が良いぜ。舐められるし、高貴な生まれだと思われれば嫌われることもある。貴族嫌いの冒険者なんてのは珍しくないからな」

「……分かったよ」

「良し、それでいい。勿論、舐め腐って話せって訳じゃないぜ? 別に敬語くらいは使う奴も居なくはないが、丁寧過ぎるのも良くねぇってだけだ」

「なるほど」

 つまり、畏まり過ぎると気持ち悪がられるってことだね。確かに、レティシアもそういう態度を嫌っている感じだった。

「良いことを聞けたよ。ありがとう」

「おう、頑張れよ。それと、無理だけはすんなよ」

 男は手を振り、去って行った。名前くらいは聞いとけばよかったかな? まぁ、いっか。同じ街に居れば、どうせまた会うだろう。
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