ある日、僕は全知全能になった。

暁月ライト

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全知全能と呪われた地下室

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 依頼書に書かれた住所を見て(もとい、全知全能によるナビゲートで)、僕はその屋敷へと向かった。屋敷と言っても大して大きくはなく、二階建てではあるが広さはあまり無いような建物だった。

「あのー、すみません!」

 扉をノックして呼びかけると、暫くしてから扉が開いた。現れた中年の男にはクマが出来ており、やつれているように見えた。その健康状態が悪そうな顔のせいで、僕はちょっとびっくりしつつもにこりと営業スマイルを浮かべた。

「えっと、依頼を受けて来たんですけども」

 僕は丸めていた依頼書を見せて、ギルドの押した印を指差した。

「ん……? あ。おぉ、来てくれたのか!」

 こいつ、絶対忘れてただろ。と思った僕だが、顔には出さずに話を続ける。

「はい。地下室の解呪ということでよろしいでしょうか?」

「あぁ、頼むよ。地下室なんてあんまり使わないから、呪われたままでも良いかとも思ってたんだが……あの値段で解呪してくれるならそれに越したことはねぇ」

 それ、あんまり僕に言わない方が良いと思うけどなぁ……こっちの人は、口が軽い傾向にあるんだろうか。それとも、単に教育レベルが日本ほど高くないから、知能がそんなに高くないとか?

「いやぁ、でもアレだな。最近は何だか地下室に近付かなくても体調が悪くなってるような気がしてたから、本当に来てくれて助かったよ」

「……なるほど」

 この人、めちゃくちゃズボラなんだね……危機感が無さ過ぎるとも言うかも知れない。それって、完全に呪いが地下室から広がってきてるってことだよね?

「因みに何ですけど、呪いっていうのはいつから地下室に……」

「最初っからだなぁ。ていうか、元々は地下室に撤去出来ない呪いの箱があるみたいな話で、それで凄いこの家安かったから買ったんだけどなぁ、どうにも呪いが溢れ出てるみたいな感じで、地下室にもまともに入れなくなっちまったんだよな」

 馬鹿だこいつ……いや、結果的に僕が解呪出来れば、格安で二階建ての家をゲットできた人ってことになるのか?

「取り敢えず、解呪しに行くんで安全な場所で待っといてください」

「安全な場所ってぇと?」

「あー、外で待っててくれれば安心ですね。一応、直ぐに終わるとは思いますけど」

「おぉ、本当かい! アンタ、まだ若いのに凄いんだなぁ」

 僕は適当に流し、そして男を外に追い出したまま家の中に入り込んだ。今更だけど、泥棒し放題だねこれ。

「えっと、地下室は……探さなくても分かるね」

 呪いの気配が、溢れ出してきている。白蛇様との戦いを超えて、呪いというものをちょっとは理解した僕には、それがどちらから流れてきているのかも簡単に分かった。

「ここか」

 呪いの発生源を辿って行くと、直ぐに僕は地下室への階段に辿り着いた。階段を下りようとすると気分が凄く悪くなる感じがしたので、全知全能で呪いを無効化しつつやけに長い階段を下りて地下に向かった。すると、何度も補強された形跡のある金属製の扉があったので、そのドアノブに僕は手をかける。

 が、開かない。鍵はかかっていないようだけど、開かなかった。なので、僕は全知全能の力によって無理やりに扉を開いた。

「ッ!」

 瞬間、中から凄まじい圧力というか、風のようなものを感じた。呪いだ。閉じ込められていた呪いが溢れ出して来たんだ。
 そもそも、これは正確には呪いじゃない。呪いを構成するエネルギー的要素、呪力だ。それがここまで溢れ出しているのは、何か理由がある筈だ。

「……箱」

 話にもあったけど、アレが呪いの根源である箱なのだろう。確かに、凄まじい呪力を感じる。多分、全知全能による保護が無かったら十回は卒倒してるところだ。

「まぁ良いや、取り敢えずパパッと解呪しちゃおう」

 あの箱、かなりの代物っぽいけど、年月が経ち過ぎてるのか劣化しちゃってる。というか、この地下室自体も封印の機構が組み込まれてるみたいだ。どうやら、扉が開かなかったのはこの呪いのせいじゃなくて、地下室の機構による緊急措置的なものらしい。本当にちゃんと詳しい人が来てたら正規の方法で開扉も出来たんだろうけど。

「ッ!」

 僕の体に、更に強く風が襲い掛かる。きっと、凄まじい呪力だ。無効化状態である僕にはあんまり分からなくなってるけど、生身なら今のだけで千回は気絶してる。とは言え、即死するような感じでは無さそうだ。

「怖いなぁ」

 正直言って、このレベルの呪いを解呪する魔術は習得していない。いや、使える奴はあるかもだけど、流石に全知全能の力に頼った方がスマートだ。

「よっこいしょ」

 僕は箱の前に屈みこみ、手を掛けた。同時に全知全能の力によって、呪いを浄化していく。瞬間、箱がガバッと開いて中から一冊の本が飛び出してきた。

『ヒヒッ、ヒヒヒッ、ヒヒヒヒヒッ!』

 小物っぽい笑い声をあげて出て来た本は、バッと開くとそこに描かれていた魔法陣が光り輝き、魔力の奔流が僕に襲い掛かった。

「ッ!」

 僕は目を見開き、しかしその余りの速度に回避することも叶わずに魔力の奔流に呑み込まれた。

「……驚いたよ。本当に」

『ヒヒッ、今の程度でやられるタマじゃねぇとは思ってたが、まさか掠り傷もねぇとはなァ?』

 残念ながら、大外れだ。僕は今の程度でやられるタマでしかない。それでも僕が生きているのは、予め作っていた保護機能が働いたことで、内部の僕を安全な状態に保つ機能を持つバリアが展開されたからだ。所謂、無敵状態と思ってくれても構わない。

『だが、迂闊だったなァ……オレ様の呪いを浄化しようとしたことで、箱の封印機能はその瞬間だけオレ様を呪物として認識出来なくなった。その一瞬さえあれば、あんなチンケな箱から抜け出すなんてオレ様にとっちゃ簡単なのさ』

「それにしては、ずっとあの箱の中に居たみたいだけどね」

『ッ、しゃあねえだろうが! あのクソカスさえ居なければオレ様は……!』

「口が悪いなぁ……」

 まぁ、取り敢えず話を聞こうか。折角、話が出来る存在みたいだからね。
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