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全知全能と食事
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なるほど、おススメというだけのことはある。そう、僕は鹿肉のシチューを目の前に心中で呟いた。
「美味しい……」
はっきり言って、想像以上だ。とろみのある黒いスープには、野菜と肉の旨味が凝縮された濃厚な味わい。とろとろにスープと溶け合う玉ねぎ、柔らかく甘みのある人参、そして舌が触れるだけでほろほろと崩れそうな程に煮込まれた鹿肉、どれも濃厚なスープと絡み合って美味い。
スプーンでスープを掬上げて口元に近付けると、芳醇な香りが更に食欲を引き立てる。これは、ユモンに食べさせなかったらキレられてたかも知れない。掬ったスープを呑み込んだ僕は、器の横の木の皿の上に置かれたパンを手に取る。茶色い楕円形のパンで、触ってみた感じはちょっと硬い。千切ると、思ったより中はしっとりしていた。
「うん」
先ずはパン単体で食べた僕だが、小さく頷いた。僅かに酸味がある感じだ。パンは好きな僕だが、これはそこまで好みじゃない。でも、シチューに付けて食べればかなりいける。シチューの方の味が割と濃いから、酸味も気にならないね。
良し、これはいける。全然完食なんて余裕だ。勿論、向こうで……つまり、日本でこれ以上の料理を食べたことが無いかって言われたらあるけど、ただ間違いなく人生で結構美味しかったリストには入るね。そんなリスト付けてないから他のメニューは覚えてないけど。
「おぉ、ここか」
「ここかって何だよ。お前が選んだんだろ?」
「ヘヘッ、そうだったな」
「ずっと思ってたが、様子おかしいんじゃねえのかお前……」
ユモンが中年の男と共に宿屋の中に入って来た。中年の男の腰には巾着が吊るされている。どうやら無事に見つけ出せたらしい。
「ここで一番美味ぇ飯をくれ! 酒も頼むぜ!」
「だったら、鹿肉のシチューだな。酒は残念ながら売ってない」
「何だよ、そうなのか? じゃあ、しょうがねぇ。飲み物も適当に頼む!」
「あいよ」
「あ、俺の分も頼むぞ。同じで良いから」
「あいあい」
店主は雑に返事を返すと、裏の方に引っ込んで行って注文を伝えてから戻って来た。ユモンは僕の方にちらりと視線を寄越して、にやりと笑みを浮かべ、それから僕の席から一つ空けた席に男と二人で座った。
「ヒヒッ、アレが鹿肉のシチューか……なるほど、確かに美味そうじゃねえか」
シチューに興味が惹かれてしまったのか、もうガッツリとこちらに視線を向けて、何ならよだれを垂らしているユモンから僕は視線を逸らし、黙ってパンをシチューにつけて頬張った。美味い。
「おい、あんま他所の席の料理を見んじゃねえよ。乞食か何かと思われるぞ」
「あ? 別に良いぜ。誰にどう思われようが、オレ様は美味い飯が食えればそれで満足できるからな」
「あと、単純に迷惑だろうが……!」
「んだよ、ちょっとくらい……仕方ねぇな」
ユモンは男の言葉に反抗しようとしていたが、何かを思い出したように視線を自分の席に戻した。そうだよ、君は人を傷付けちゃいけないんだ。迷惑かけるのもあんまりよくないよ。
ま、大丈夫そうだし僕は僕のご飯を食べようかな。僕は食べるの人より遅いし、先に食べ始めてはいるけど、食べ終わるのは丁度同じくらいの時間になるだろう。
と、甘い見通しをしていた僕は、現在空の皿の置かれた席で呆然と一つ空いた席を眺めていた。
「うめぇ、うめぇッ!!」
「お、おい……そろそろ……ッ!?」
恐る恐る伸ばされた中年の男の手が、見えない力にバチンと弾かれた。
「うめぇぇぇ……! んぐ、んっ……うめぇ、おかわりだッ!」
「あいあい!」
ことんと、机の上に空になった皿が置かれ、それを店主の男が裏に持って行く。これでもう、五度目である。人に迷惑をかける行いな気はするけど……まぁ、好きなだけ奢ってやると約束したのは実際あの男の人だし。
「な、なぁ、もうそろそろこれくらいで良いんじゃないか? 俺も、手持ちにはそんなに余裕がある訳じゃないんだが……?」
「あ? んー……まぁ、しょうがねぇな。次でラストにしてやるよ」
「ほ、本当か!? 良かった……帰りの路銀も無くなっちまうかと思ったぜ」
「ヒヒッ、オレ様もそこまで悪魔じゃねぇよ」
正真正銘の悪魔だけどね。あと、そういうジョークは僕の心臓に悪いから止めて欲しい。バレたらどうするつもりなんだ。逃げるって言ってたか。
しかし、ユモンがここまでの大食らいとなると、異世界の食事も相当量を食わせないといけないかもなぁ。どうしよう。ご飯、全知全能で出すのが良いのかなぁ。あんまり気が乗らないけど……それとも、バイトでも探そうかな?
「……はぁ」
「ヒヒヒッ!」
僕が重い溜息を吐くと、悪魔が僕の方を見て哄笑した。
「美味しい……」
はっきり言って、想像以上だ。とろみのある黒いスープには、野菜と肉の旨味が凝縮された濃厚な味わい。とろとろにスープと溶け合う玉ねぎ、柔らかく甘みのある人参、そして舌が触れるだけでほろほろと崩れそうな程に煮込まれた鹿肉、どれも濃厚なスープと絡み合って美味い。
スプーンでスープを掬上げて口元に近付けると、芳醇な香りが更に食欲を引き立てる。これは、ユモンに食べさせなかったらキレられてたかも知れない。掬ったスープを呑み込んだ僕は、器の横の木の皿の上に置かれたパンを手に取る。茶色い楕円形のパンで、触ってみた感じはちょっと硬い。千切ると、思ったより中はしっとりしていた。
「うん」
先ずはパン単体で食べた僕だが、小さく頷いた。僅かに酸味がある感じだ。パンは好きな僕だが、これはそこまで好みじゃない。でも、シチューに付けて食べればかなりいける。シチューの方の味が割と濃いから、酸味も気にならないね。
良し、これはいける。全然完食なんて余裕だ。勿論、向こうで……つまり、日本でこれ以上の料理を食べたことが無いかって言われたらあるけど、ただ間違いなく人生で結構美味しかったリストには入るね。そんなリスト付けてないから他のメニューは覚えてないけど。
「おぉ、ここか」
「ここかって何だよ。お前が選んだんだろ?」
「ヘヘッ、そうだったな」
「ずっと思ってたが、様子おかしいんじゃねえのかお前……」
ユモンが中年の男と共に宿屋の中に入って来た。中年の男の腰には巾着が吊るされている。どうやら無事に見つけ出せたらしい。
「ここで一番美味ぇ飯をくれ! 酒も頼むぜ!」
「だったら、鹿肉のシチューだな。酒は残念ながら売ってない」
「何だよ、そうなのか? じゃあ、しょうがねぇ。飲み物も適当に頼む!」
「あいよ」
「あ、俺の分も頼むぞ。同じで良いから」
「あいあい」
店主は雑に返事を返すと、裏の方に引っ込んで行って注文を伝えてから戻って来た。ユモンは僕の方にちらりと視線を寄越して、にやりと笑みを浮かべ、それから僕の席から一つ空けた席に男と二人で座った。
「ヒヒッ、アレが鹿肉のシチューか……なるほど、確かに美味そうじゃねえか」
シチューに興味が惹かれてしまったのか、もうガッツリとこちらに視線を向けて、何ならよだれを垂らしているユモンから僕は視線を逸らし、黙ってパンをシチューにつけて頬張った。美味い。
「おい、あんま他所の席の料理を見んじゃねえよ。乞食か何かと思われるぞ」
「あ? 別に良いぜ。誰にどう思われようが、オレ様は美味い飯が食えればそれで満足できるからな」
「あと、単純に迷惑だろうが……!」
「んだよ、ちょっとくらい……仕方ねぇな」
ユモンは男の言葉に反抗しようとしていたが、何かを思い出したように視線を自分の席に戻した。そうだよ、君は人を傷付けちゃいけないんだ。迷惑かけるのもあんまりよくないよ。
ま、大丈夫そうだし僕は僕のご飯を食べようかな。僕は食べるの人より遅いし、先に食べ始めてはいるけど、食べ終わるのは丁度同じくらいの時間になるだろう。
と、甘い見通しをしていた僕は、現在空の皿の置かれた席で呆然と一つ空いた席を眺めていた。
「うめぇ、うめぇッ!!」
「お、おい……そろそろ……ッ!?」
恐る恐る伸ばされた中年の男の手が、見えない力にバチンと弾かれた。
「うめぇぇぇ……! んぐ、んっ……うめぇ、おかわりだッ!」
「あいあい!」
ことんと、机の上に空になった皿が置かれ、それを店主の男が裏に持って行く。これでもう、五度目である。人に迷惑をかける行いな気はするけど……まぁ、好きなだけ奢ってやると約束したのは実際あの男の人だし。
「な、なぁ、もうそろそろこれくらいで良いんじゃないか? 俺も、手持ちにはそんなに余裕がある訳じゃないんだが……?」
「あ? んー……まぁ、しょうがねぇな。次でラストにしてやるよ」
「ほ、本当か!? 良かった……帰りの路銀も無くなっちまうかと思ったぜ」
「ヒヒッ、オレ様もそこまで悪魔じゃねぇよ」
正真正銘の悪魔だけどね。あと、そういうジョークは僕の心臓に悪いから止めて欲しい。バレたらどうするつもりなんだ。逃げるって言ってたか。
しかし、ユモンがここまでの大食らいとなると、異世界の食事も相当量を食わせないといけないかもなぁ。どうしよう。ご飯、全知全能で出すのが良いのかなぁ。あんまり気が乗らないけど……それとも、バイトでも探そうかな?
「……はぁ」
「ヒヒヒッ!」
僕が重い溜息を吐くと、悪魔が僕の方を見て哄笑した。
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