ある日、僕は全知全能になった。

暁月ライト

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全知全能とえらいひと

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 樹液酒を呑み干し、枝食みの肉を食べ終えた僕は満足気に椅子にもたれかかり、陽が落ち始めた空を見上げていた。あぁ、この調子だと夕飯は食べられそうにない。お母さんには、早く言っておかないと。ファミレスで食べ過ぎて気持ち悪くなったとでも言えば良いかなぁ。

「……今日は、ありがと。凄く楽しかったよ」

「なに、もう帰るの?」

 スイの言葉に、僕は微笑みながら頷いた。

「うん。僕にも家族が居るからさ。帰らないと、不安に思われちゃうんだ」

「家族、ね……」

 スイは僕の言葉を反芻し、何かを思うように目を細めていた。

「そっか。木人は僕らとは少し家族の形が違うもんね」

「えぇ。私達は皆が家族で、大抵は神樹様が母なのよ。勿論、木人の間に生まれた子も居るけどね」

 あ、やっぱり生殖自体は出来るんだ。神樹から生まれるのとで違いはあったりするんだろうか。

「私も神樹様から生まれたから……ちょっと、そういう家族が羨ましかったりするなぁ」

 ちょっと寂し気に言うスイ。確かに、木人達からは敬われ、ソラからは関心を持たれず、寂しい人生を生きて来たのかも知れない。

「……なんて、生まれ子からしたら私達の方が羨ましいのかも知れないけどね」

「生まれ子?」

「木人の間に生まれた子が生まれ子、神樹様から生まれたのが生え子。やっぱり、私達の神である神樹様から生まれることが最も喜ばしいんだって考える子も居るのよ」

「……なるほどね」

 確かに、宗教的な価値観があればそうなるのも止む無しかも知れない。敬愛し、信仰する神から直接生み出された存在の方が神聖に感じてしまうのも仕方ないだろう。というか、身体の性能的にも神樹から作られた方が良くもなりそうだし。中々に難しい話かも知れない。

「だから、私が言ってるのは贅沢なのよ。きっとね」

「……良かったら、僕の友達になってくれない? 実はまだ、木人の友達が居なくてさ」

 僕が言うと、スイは呆気に取られたような表情をして……手を伸ばしてきた。

「よろしくね、治」

「うん、よろしく」

 その手を取って、軽く振ると、スイは小さく笑った。

「治って、やっぱり優しいわね。ありがと」

「あはは、僕が友達が欲しかっただけだから」

「でも、一応言っておくと私にも友達くらい居るからね?」

「あ、そうなの?」

 僕が思わず聞くと、スイはジトっとした目で僕を見た。

「ほら、やっぱり居ないと思ってたわね」

「い、いや、そうじゃなくて……」

「ふふ、大丈夫よ。気遣いは嬉しかったから。これで、やっぱり友達はナシなんて話じゃないでしょう?」

「それは、勿論」

 それでも、スイはやっぱりどこか寂しそうに笑った。

「……私、賢者として生まれなかったらって何度も思ったわ」

 スイの言葉に、僕は不意を突かれたように固まってしまった。

「人より賢くて、何の意味があるの? 人を導くことが出来て、何の価値があるの? 導かれる人は良くても、私は苦しんでるだけじゃないのって……もっと愚かで、何も知らなくて、無鉄砲に生きられたらって、偶に思うのよ」

 愚鈍で、無知で、盲目に生きる人間はきっと楽だ。正しい方角に導いてくれる人が居るならば。だけど、その導く人はその分だけ思い悩んで、苦しんで、生きている。だからこそ、人は偉くなっても馬鹿らしくなって腐ってしまうのかも知らない。

「やっぱり、スイは優しいよ」

「そんな訳ないでしょ。皆が羨む賢者になったのに、賢者として生まれたのに……こんな愚痴ばっかり吐いてるなんて、最低なのよ」

「……これは、僕の世界の話なんだけど……偉くなった人は、腐ってしまうことが多いんだ。民のお金を使って贅沢したり、自分を有利にする為に平気で嘘を吐いたり、そんなことばっかりだよ」

 必死に努力して賢くなって偉くなっても自分が傷付くだけならば、搾取する方がマシに思えるんだろうか。僕は偉くないから分からないけれど、きっと偉くなるなんてことは大抵が割に合わないことだと思う。

「それなのに、腐らずに皆の為に頑張ってるスイは、きっと凄く偉いよ」

「何よそれ、偉い人が頑張るなんて当たり前じゃない。そうじゃないと、みんな大変なことになるんだから……」

「その当たり前が、偉いんだよ。頑張ることは、偉いんだ。人より頑張ってない僕だから、そう思うのかも知れないけど。誰かの為に頑張れる人は、物凄く偉いよ」

「……そう、かな?」

 僕はこくりと頷いた。実際、スイは凄いよ。僕なんかよりも。そう、自信を持って言える。

「まぁ、造物主様が言うなら間違いないかも知れないわね?」

「そ、その呼び方は勘弁してよ……」

「あはは、そうね。治が言うなら、間違いないわ」

 にやりと笑うスイは、さっきよりも自信を取り戻しているように見えた。

「うん、間違いないさ。君は……」

「ッ!」

 スイの表情が変わる。何かに気付いたような、危機感に満ちた表情に。

「いきなり、どうした……ぁ」

 そして、遅れてから僕も気付いた。その気配に。迫り来る、その強大な存在感に。
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