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全知全能と泣き言
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僕は、正しかったんだろうか。僕の鎖が、男を燃やし尽くしていたとして、それは果たして正しかったんだろうか。
「……レティシア」
「ん……なに?」
レティシアは地面に崩れ落ちた魔族の男を警戒するように見ながら、僕に聞き返した。
「ありがとう」
「ふふっ。寧ろ、私のセリフじゃないのそれ?」
レティシアは小さく笑って男から視線を外すと、冗談交じりにそう言いながらも僕の目をしっかりと見据えた。
「助けてくれてありがと、治」
「良いんだよ。恩返しだと思ってくれたら」
僕がそう返すと、レティシアは気を抜いたような……少し、疲れたような表情をした。
「……今日ね、死ぬかと思ったわ」
そして、ぽつりと言葉を漏らして視線を少し俯かせた。
「何でもない洞窟の調査かと思ったら、魔族が居た。警戒してなかった訳じゃないけれど、心構えなんて出来てなかったみたい」
レティシアはそう言って、自嘲するように笑った。
「驚いて、怖くて、だけど逃げるなんて出来なくて……戦うしかなかった。だけど、歯が立たなかった。言い訳も出来るわ。場所が悪かったとか、用意が足りなかったとか、ね。でも、条件が良かったってきっと勝てなかったわ。それも、分かってる」
ふっと息を吐き、レティシアは視線を僕に戻す。
「だから……ありがと」
「……うん」
多分、レティシアは自分の中に渦巻いていた恐怖を吐き出したのだろう。僕に出来ることは、ただそれを受け止めることくらいだろうか。
「ほら」
「え?」
そう思っていたら、レティシアは何かを促すように僕を見ていた。
「アンタも、話しなさいよ。アンタだって、震えてたじゃない」
「ッ」
そういうことか。僕を、気遣ってたんだ。
「……敵わないね、レティシアには」
「ふっ、なんのことかしらね。ほら、さっさと話しなさい」
僕はこくりと頷き……地面に倒れ伏したままの男に視線をチラリと向けた
「僕は、さ……」
話そう。震えの理由を。恐怖の理由を。
「この世界の人間じゃないんだ」
……あれ。
「へ? この世界の……人間じゃない?」
違う。ここまで話すつもりは無かったのに、気付けば口から漏れていた。
「……うん、そうなんだ」
でも、もう言ってしまったからには……しょうがないよね。
「僕は、異世界から来た」
「ッ」
真剣に目を見てそう言い放った僕に、レティシアは嘘や冗談などとは口にしなかった。
「そこは、平和な世界で……いや、平和な国だった。戦争も無い国で、武器を扱う訓練なんて一度もしたことが無くて、魔術だって普通は知りすらしない」
平和を渇望するこの世界の人に話したら嫉妬されるような話かも知れないけど、僕は話すことを止めなかった。
「だけど、僕はそんな世界で……不思議な力を手に入れたんだ。それは、聞きたいことを聞けたり、さっきみたいに攻撃を消したり、色んなことが出来る力だった」
全知全能だ。平和な国で生きてただけの僕に、突然降りかかった幸運だった。
「平凡に過ごしてた僕は、突然やって来た刺激に興奮した。最初こそ警戒もしてたけど、どんどんとその力を使うことに嵌まっていって……ある日、別の世界に行ってみようなんて考えた」
「……それが、ここなのね」
僕は、こくりと頷いた。
「平和な世界で生きてた僕は、反対の世界を求めてた。戦ってみたいとか、魔術を使いたいとか、そんな考えでさ」
「……うん」
レティシアは相槌を返すだけで何も言いはしなかった。批判なんて、幾らでも出来ただろうに。
「ここに来て、仲間を得て、戦って……だけど、今日。同じ人を相手にして、僕は躊躇った。恐怖した」
僕は一息置いて、言葉を続けた。
「それが、僕の震えの正体だ。あの男の人に、色々語ったけど……結局全部、平和な世界で生きて来ただけの僕の、戯言でしかない」
魔族はきっと、僕ら人間からしたら最低の倫理観を持ってる。真逆の道徳を持ってる。だけど、僕なんかよりもずっと真剣に生きてるし、ずっと苛酷に生き抜いて来たんだと思う。
「……こんな甘い考えのままで、誰かを殺すなんてしなくて良かった」
僕はレティシアから少しだけ視線を逸らして、そう独白した。
「……そう」
レティシアは小さく、返した。
「正直……全部が全部、頭の中で整理がついてはないわ」
だけど、と言葉は続けられる。
「貴方がどこの誰でも、関係ないわ。この世界で生きていくのが怖いなら……私が何でも教えてあげるから、付いて来なさい」
にやっと笑ってレティシアはそう言った。
「……ありがとう、レティシア」
「ふふ、あの日も不思議な子だって思ったけど……想像の千倍以上は不思議な子だったわね」
確かに、違う世界から来たとか想像もしてなかっただろう……ていうか、レティシアと話すのってこれで二回目だった。最初に会った人なのと、さっき起きたことの印象の大きさのせいか分からないけど……凄い、色々話しちゃったなぁ。
まぁ、でもいっか。師匠らしいからね。弟子として、心中を話すくらいは当然だろう。
「それで……どうしよう」
まだ、この状況の解決までは済んでいないのである。帰ったら僕も怪しまれるだろうし……本当、どうしよう。
「……レティシア」
「ん……なに?」
レティシアは地面に崩れ落ちた魔族の男を警戒するように見ながら、僕に聞き返した。
「ありがとう」
「ふふっ。寧ろ、私のセリフじゃないのそれ?」
レティシアは小さく笑って男から視線を外すと、冗談交じりにそう言いながらも僕の目をしっかりと見据えた。
「助けてくれてありがと、治」
「良いんだよ。恩返しだと思ってくれたら」
僕がそう返すと、レティシアは気を抜いたような……少し、疲れたような表情をした。
「……今日ね、死ぬかと思ったわ」
そして、ぽつりと言葉を漏らして視線を少し俯かせた。
「何でもない洞窟の調査かと思ったら、魔族が居た。警戒してなかった訳じゃないけれど、心構えなんて出来てなかったみたい」
レティシアはそう言って、自嘲するように笑った。
「驚いて、怖くて、だけど逃げるなんて出来なくて……戦うしかなかった。だけど、歯が立たなかった。言い訳も出来るわ。場所が悪かったとか、用意が足りなかったとか、ね。でも、条件が良かったってきっと勝てなかったわ。それも、分かってる」
ふっと息を吐き、レティシアは視線を僕に戻す。
「だから……ありがと」
「……うん」
多分、レティシアは自分の中に渦巻いていた恐怖を吐き出したのだろう。僕に出来ることは、ただそれを受け止めることくらいだろうか。
「ほら」
「え?」
そう思っていたら、レティシアは何かを促すように僕を見ていた。
「アンタも、話しなさいよ。アンタだって、震えてたじゃない」
「ッ」
そういうことか。僕を、気遣ってたんだ。
「……敵わないね、レティシアには」
「ふっ、なんのことかしらね。ほら、さっさと話しなさい」
僕はこくりと頷き……地面に倒れ伏したままの男に視線をチラリと向けた
「僕は、さ……」
話そう。震えの理由を。恐怖の理由を。
「この世界の人間じゃないんだ」
……あれ。
「へ? この世界の……人間じゃない?」
違う。ここまで話すつもりは無かったのに、気付けば口から漏れていた。
「……うん、そうなんだ」
でも、もう言ってしまったからには……しょうがないよね。
「僕は、異世界から来た」
「ッ」
真剣に目を見てそう言い放った僕に、レティシアは嘘や冗談などとは口にしなかった。
「そこは、平和な世界で……いや、平和な国だった。戦争も無い国で、武器を扱う訓練なんて一度もしたことが無くて、魔術だって普通は知りすらしない」
平和を渇望するこの世界の人に話したら嫉妬されるような話かも知れないけど、僕は話すことを止めなかった。
「だけど、僕はそんな世界で……不思議な力を手に入れたんだ。それは、聞きたいことを聞けたり、さっきみたいに攻撃を消したり、色んなことが出来る力だった」
全知全能だ。平和な国で生きてただけの僕に、突然降りかかった幸運だった。
「平凡に過ごしてた僕は、突然やって来た刺激に興奮した。最初こそ警戒もしてたけど、どんどんとその力を使うことに嵌まっていって……ある日、別の世界に行ってみようなんて考えた」
「……それが、ここなのね」
僕は、こくりと頷いた。
「平和な世界で生きてた僕は、反対の世界を求めてた。戦ってみたいとか、魔術を使いたいとか、そんな考えでさ」
「……うん」
レティシアは相槌を返すだけで何も言いはしなかった。批判なんて、幾らでも出来ただろうに。
「ここに来て、仲間を得て、戦って……だけど、今日。同じ人を相手にして、僕は躊躇った。恐怖した」
僕は一息置いて、言葉を続けた。
「それが、僕の震えの正体だ。あの男の人に、色々語ったけど……結局全部、平和な世界で生きて来ただけの僕の、戯言でしかない」
魔族はきっと、僕ら人間からしたら最低の倫理観を持ってる。真逆の道徳を持ってる。だけど、僕なんかよりもずっと真剣に生きてるし、ずっと苛酷に生き抜いて来たんだと思う。
「……こんな甘い考えのままで、誰かを殺すなんてしなくて良かった」
僕はレティシアから少しだけ視線を逸らして、そう独白した。
「……そう」
レティシアは小さく、返した。
「正直……全部が全部、頭の中で整理がついてはないわ」
だけど、と言葉は続けられる。
「貴方がどこの誰でも、関係ないわ。この世界で生きていくのが怖いなら……私が何でも教えてあげるから、付いて来なさい」
にやっと笑ってレティシアはそう言った。
「……ありがとう、レティシア」
「ふふ、あの日も不思議な子だって思ったけど……想像の千倍以上は不思議な子だったわね」
確かに、違う世界から来たとか想像もしてなかっただろう……ていうか、レティシアと話すのってこれで二回目だった。最初に会った人なのと、さっき起きたことの印象の大きさのせいか分からないけど……凄い、色々話しちゃったなぁ。
まぁ、でもいっか。師匠らしいからね。弟子として、心中を話すくらいは当然だろう。
「それで……どうしよう」
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