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全知全能と繋がぬ鎖
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男の体を壁に刺し止めているのは、天冥炎鎖だ。とは言え、別に物理的に固定する効果がある訳じゃない。この魔術の効果はただ触れたものを燃やすだけだからだ。但し、燃やすものは僕が自由に選ぶことが出来る。
「動かないで。動いたら、きっと全身が燃え尽きるよ」
「小僧……ッ! そんな魔術、お前のどこに扱える魔力があるッ!?」
僕の言葉を無視して……いや、そもそも聞こえてすら居ないようで、男はそう叫んでいた。だが、僕の意図は通じているようで、男は腕を炎の鎖に貫かれたまま動こうとはしなかった。
「なんだ……何だ、これは……まさか、ここまでとは……!?」
「……治」
レティシアの声には、心配するような色が滲んでいた。
「お前は……お前は、何だ……?」
「僕は確かに弱者だ。君の価値観の中では、そうだと思う」
誰かを傷付け、痛めつけることに怯え、躊躇い、恐怖する僕は……確かに、弱いのかも知れない。
「だけど、相手を尊重して、慈愛を持って、自分を犠牲に出来ることも……きっと、別の価値観の中では強さだと思う」
「……下らない。下らないな、宇尾根治とやら。それの何が強さだ? 余裕の表れとでも言いたいのか?」
「違う。違うよ。全然違う。自分の強さのアピールの為に他人を気遣う訳じゃない。寧ろ、その逆だよ」
僕は首を振って、男の言葉を否定した。
「どれだけ自分に余裕が無くても、誰より苦しい思いをしていても、それでも他人を気遣ったり、優しく出来る奴が……本当に、強くて格好良い奴だと僕は思う」
幸運なことに、僕の友達にはそんな奴が居る。ぶっきらぼうなところはあるし、目つきも悪かったりするけど、善斗はそういう奴なんだ。絵空だってそうだ。いっつもふざけてるけど、アイツは苦しい時でも余裕なフリをしてる。誰かを心配させて不安がらせない為に、自分の痛みを隠し通してる。
「……ならば、どうする」
男は、僕の目を睨み付けてそう言った。
「君に、選んで貰う」
「俺に、だと……?」
僕は頷き、頭の中で漸く纏まった考えを、その選択肢を吐き出すことにした。
「僕は初めて魔物を殺す時……ここで見逃せば僕以外の人が犠牲になるからって理由で、殺した」
「ほう、つまりそれに倣って俺も殺すという訳か?」
「違うよ。いや、違わないとも言えるけど」
「……何が言いたい?」
きっと、選んで欲しい。僕が望む答えを、選んでくれ。
「君は言葉が通じる、人間だ。魔族って言う、別の種族ではあるけどさ……言葉は通ずるし、話し合いは出来る。今みたいに」
「それが、どうした」
男の目が、冷たく僕を睨み付けていた。
「だから、魔物と違って君には伝えられる。言葉で。もう、これから悪いことをせずに、今まで犯した悪事の分まで償って生きていけるならって」
「黙れ」
男は、両腕に刺さった炎の鎖……それから、腕を離して僕へと歩き始めた。当然だ。動いたら燃える機能なんて、付けちゃいなかったから。
「悍ましい。やはり、人間は。気色が悪い……! 死ねッ、死んでしまえば良いッ! お前達は、一匹残らずなッ!!」
「……そっか」
男の表情に満ちていたのは、本物の怒りだった。僕への絶対的な殺意が、薄ら寒く体を通り抜けていく。多分、ダメなんだ。もう。
「この世は強い者が正義だッ!! 助け合いなど馬鹿らしいッ、慈悲などッ! 慈愛などッ、以ての外だッ!! それを俺に説いて、何のつもりだったッ! 俺という存在を思うように扱って良い気にでもなりたかったのか!? 聖人君子でも気取って、悦に浸りたいだけだろうッ! 所詮はッ!!」
「お金や地位なんかの為なんかだったら、醜い行動なのかも知れないけど……僕はただ、殺したくないだけだ」
「ッ、それがお前の言う強さかッ! 優しさのつもりかッ!? 地獄で、それが役に立つのかッ!」
男の手に、気付けば灰色の剣が握られていた。濃密な魔力がその刃に満ち満ちていく。あぁ、ダメだ。もう、駄目なんだ。
「殺してやる……お前も、そこの女もッ!」
動き出した男に、僕は手を伸ばし……黄金色の魔法陣から伸びる、黄金色の炎の鎖が剣を持った男の腕を横切り、斬り裂いた。
「がぁッ!?」
「殺さなきゃ、いけない……」
黄金色の炎が、傷口から男に絡み付く。野放しには、出来ない。魔物を殺した僕は、男を殺さないといけない。蛇神を殺した僕は、男に報いを与えなければならない。ちゃんと、全部一貫しないと。僕は、そうじゃないと……!
「お、前はァ……絶対、に、殺してェ……!」
黄金色の炎に取り付かれて、再生することも無い腕を見た男は、反対の手を僕に伸ばして……
「『身魔一貫』」
矢が、その手を貫いた。男の頭を、心臓を、腕を、足を、貫いて行った。
「が、ァ……ッ」
「治」
一瞬にして矢だるまになった男を最後の矢が穿つと同時に、レティシアは僕に声を掛けた。
「辛い時は、頼りなさい」
男の体が崩れ落ちると同時に、レティシアはゆっくりと弓を降ろして僕の方を見る。
「なんもかんも、自分でやらなくたって良いんだから」
震える体で、レティシアは僕に笑いかけていた。
「この師匠に、頼りなさいよ!」
「レティシア……弟子になった覚えは、無いんだけど」
僕も笑みを返し、それから自分の体が震えていることに気付いた。
「動かないで。動いたら、きっと全身が燃え尽きるよ」
「小僧……ッ! そんな魔術、お前のどこに扱える魔力があるッ!?」
僕の言葉を無視して……いや、そもそも聞こえてすら居ないようで、男はそう叫んでいた。だが、僕の意図は通じているようで、男は腕を炎の鎖に貫かれたまま動こうとはしなかった。
「なんだ……何だ、これは……まさか、ここまでとは……!?」
「……治」
レティシアの声には、心配するような色が滲んでいた。
「お前は……お前は、何だ……?」
「僕は確かに弱者だ。君の価値観の中では、そうだと思う」
誰かを傷付け、痛めつけることに怯え、躊躇い、恐怖する僕は……確かに、弱いのかも知れない。
「だけど、相手を尊重して、慈愛を持って、自分を犠牲に出来ることも……きっと、別の価値観の中では強さだと思う」
「……下らない。下らないな、宇尾根治とやら。それの何が強さだ? 余裕の表れとでも言いたいのか?」
「違う。違うよ。全然違う。自分の強さのアピールの為に他人を気遣う訳じゃない。寧ろ、その逆だよ」
僕は首を振って、男の言葉を否定した。
「どれだけ自分に余裕が無くても、誰より苦しい思いをしていても、それでも他人を気遣ったり、優しく出来る奴が……本当に、強くて格好良い奴だと僕は思う」
幸運なことに、僕の友達にはそんな奴が居る。ぶっきらぼうなところはあるし、目つきも悪かったりするけど、善斗はそういう奴なんだ。絵空だってそうだ。いっつもふざけてるけど、アイツは苦しい時でも余裕なフリをしてる。誰かを心配させて不安がらせない為に、自分の痛みを隠し通してる。
「……ならば、どうする」
男は、僕の目を睨み付けてそう言った。
「君に、選んで貰う」
「俺に、だと……?」
僕は頷き、頭の中で漸く纏まった考えを、その選択肢を吐き出すことにした。
「僕は初めて魔物を殺す時……ここで見逃せば僕以外の人が犠牲になるからって理由で、殺した」
「ほう、つまりそれに倣って俺も殺すという訳か?」
「違うよ。いや、違わないとも言えるけど」
「……何が言いたい?」
きっと、選んで欲しい。僕が望む答えを、選んでくれ。
「君は言葉が通じる、人間だ。魔族って言う、別の種族ではあるけどさ……言葉は通ずるし、話し合いは出来る。今みたいに」
「それが、どうした」
男の目が、冷たく僕を睨み付けていた。
「だから、魔物と違って君には伝えられる。言葉で。もう、これから悪いことをせずに、今まで犯した悪事の分まで償って生きていけるならって」
「黙れ」
男は、両腕に刺さった炎の鎖……それから、腕を離して僕へと歩き始めた。当然だ。動いたら燃える機能なんて、付けちゃいなかったから。
「悍ましい。やはり、人間は。気色が悪い……! 死ねッ、死んでしまえば良いッ! お前達は、一匹残らずなッ!!」
「……そっか」
男の表情に満ちていたのは、本物の怒りだった。僕への絶対的な殺意が、薄ら寒く体を通り抜けていく。多分、ダメなんだ。もう。
「この世は強い者が正義だッ!! 助け合いなど馬鹿らしいッ、慈悲などッ! 慈愛などッ、以ての外だッ!! それを俺に説いて、何のつもりだったッ! 俺という存在を思うように扱って良い気にでもなりたかったのか!? 聖人君子でも気取って、悦に浸りたいだけだろうッ! 所詮はッ!!」
「お金や地位なんかの為なんかだったら、醜い行動なのかも知れないけど……僕はただ、殺したくないだけだ」
「ッ、それがお前の言う強さかッ! 優しさのつもりかッ!? 地獄で、それが役に立つのかッ!」
男の手に、気付けば灰色の剣が握られていた。濃密な魔力がその刃に満ち満ちていく。あぁ、ダメだ。もう、駄目なんだ。
「殺してやる……お前も、そこの女もッ!」
動き出した男に、僕は手を伸ばし……黄金色の魔法陣から伸びる、黄金色の炎の鎖が剣を持った男の腕を横切り、斬り裂いた。
「がぁッ!?」
「殺さなきゃ、いけない……」
黄金色の炎が、傷口から男に絡み付く。野放しには、出来ない。魔物を殺した僕は、男を殺さないといけない。蛇神を殺した僕は、男に報いを与えなければならない。ちゃんと、全部一貫しないと。僕は、そうじゃないと……!
「お、前はァ……絶対、に、殺してェ……!」
黄金色の炎に取り付かれて、再生することも無い腕を見た男は、反対の手を僕に伸ばして……
「『身魔一貫』」
矢が、その手を貫いた。男の頭を、心臓を、腕を、足を、貫いて行った。
「が、ァ……ッ」
「治」
一瞬にして矢だるまになった男を最後の矢が穿つと同時に、レティシアは僕に声を掛けた。
「辛い時は、頼りなさい」
男の体が崩れ落ちると同時に、レティシアはゆっくりと弓を降ろして僕の方を見る。
「なんもかんも、自分でやらなくたって良いんだから」
震える体で、レティシアは僕に笑いかけていた。
「この師匠に、頼りなさいよ!」
「レティシア……弟子になった覚えは、無いんだけど」
僕も笑みを返し、それから自分の体が震えていることに気付いた。
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