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全知全能と仕込み
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そうして、帰ることにした僕たちは洞窟を出ようとする中で……僕は歩きながら悩んだ末に、一つの仕込みを決めた。
「レティシア、ちょっとごめん。先に行ってて貰えるかな? やらなきゃいけないことがあってさ」
「何よそれ? アンタ、あそこで何かしてくるって訳じゃないでしょうね」
僕は首を振ってそれを否定した。
「そうじゃないよ。ただ、僕の個人的な用事を果たして来るだけ」
「ふぅん……まぁ、何でも良いけど気を付けなさいよ」
僕は手を上げて踵を返し、その気配が消えたところで……
「よいしょ、っと」
その場から姿を消した。
そして、数分後に僕はこの場所に戻り、何食わぬ顔でレティシアに追いついた。
「何してたのよ、アンタ」
「んー、歩いてただけだよ」
実際のところ、歩いてただけだ。街に戻った僕は、門を通って森の方へと走った。出来るだけ真剣な顔で。つまるところ、アリバイ作りである。
「……ま、秘密が多いのは察してるわよ」
「あはは、ごめんね……」
僕自身は特に経験も実績も無い薄っぺら男子高校生なんだけど、持ってる物に関しては流石にありのまま伝える気にはなれない。何でも出来る全知全能だなんて、口が裂けても。
「良いのよ。誰にでも、秘密くらいあるものでしょ」
レティシアが、足を止めて眉を顰めた。僕も視線をレティシアから前に向けると、その眩さに目を細めた。
「外ね」
レティシアは少し感慨深げに呟き、外にゆっくりと歩いて出て行った。
「ふぅ、出てこれたわね……ふふっ」
「何笑ってるの?」
僕が聞くと、レティシアは笑みを湛えたまま、こっちの方を見た。
「暗い地下の洞窟で、死んで朽ちていくものかと思っていたもの。死体すら拾われずに、孤独に地下の奥底で腐っていくのかもって」
死への覚悟か、諦観か。一度は受け入れたか、想像したそれを、運命は結局否定した。いや、否定したのは僕なのかも知れないけれど。
「だから……あんまり実感なくて、笑っちゃった。馬鹿みたいに、呆気なく生き残っちゃった」
レティシアは太陽を見上げながら言うと、僕の手を取って軽く握った。
「……温かい。やっぱり、現実なのね」
「ッ」
握られた手に僕はちょっと心が緊張するのを感じたが、平静を装って一緒に太陽を眺めてみた。明るすぎて、光しか見えやしなかった。
「ありがと、治……クソみたいな世界なんて思うこともあったけれど、やっぱり生きてる方が幸せみたいね」
「……感謝なんて良いよ。僕だって、学べたことはあったし。多分」
全知全能を得てからの僕は、寧ろ人間的な学びを多く得ている気がする。けど、それは僕が人間から離れてしまったという証左なのかも知れない。
「感謝は出来るうちに出来るだけしておくようにしてるの。相手は選ぶけどね」
「まぁ、良いことかもね……?」
僕が曖昧に言うと、レティシアは眩し気に太陽を見据えたまま答えた。
「アンタも、相手が居る間に感謝は伝えておいた方が良いわよ。後悔は、してもしきれないから」
歩き出したレティシアに、僕は何も言えなかった。
「……ふふ、素直で良いわね。だけど、いつまでもそんなんじゃ冒険者なんてやってられないわよ」
「うっ」
その通りだ。メンタルも覚悟もクソ雑魚な僕は、このまま行くと冒険者も務まらなくなる時が来るだろう。誰かの生き死にに関わる……いや、誰かを殺すことで成り立つ商売なんて、心の弱い人には出来ないに決まってる。
「まぁ……うん。僕も、いつかは強くなるよ、きっと」
他者を傷付ける覚悟なんて、そもそも持つべきかすら分からないけれど……自分が傷付き続ける覚悟と、どちらが高尚なモノかは意見が割れるところだろう。僕は、自分を犠牲にする方が凄いって思う方だけど、その姿を他人に見せることだって他者を傷付けてるのと同じではあるし。
「……止まって」
レティシアの言葉に、僕は足を止めて息を呑んだ。そして、弓を構えて銀色の矢を番え……森の一点を睨み付けた。
「ッ」
大きな猿型の魔物。名前も能力も知らないが、その存在感は僕など簡単に一捻り出来そうな程であった。
「ふッ」
息が鋭く抜ける音と共に、銀色の矢が駆けて行った。それは、少し離れた猿の魔物の首筋を正確に貫き、貫通していった。
「……重心が変かと思ったけど、そういうことね」
「そうそう、壊れないからちょっと耐久性を無視して威力を上げる構造になってるんだよね」
自身の体を突き抜けていった衝撃に地面に倒れる魔物。普通の矢であれば、こうはなっていないだろう。壊れない故にぶつかっても鋭さを損なわず、砕かれもせず、折れもしない。それを活かした設計が、普通の矢よりも高い威力を齎していた。
「だけど、少し外したかしら」
「え?」
レティシアの言葉に魔物を見ると、そこには怒気を放ちながら起き上がっている大きな猿の姿があった。
「オォオオオオオオオオッ!!」
僕たちを見つけて、怒り心頭で襲い掛かって来る魔物に、レティシアは冷静に手を伸ばし、矢を呼び
戻した。
「血も落ちるなんて、便利ね」
この状況が何でも無いように、言いながら銀色の矢を撃ち放ったレティシア。その矢は、正確に魔物の額を貫いた。
「こんな感じ、かしらね」
呼び戻し、放つ。それをあと二度繰り返したレティシアによって、猿の魔物は完全に沈黙し、倒れ伏して今度こそ起き上がることは無かった。
「……三本用意した意味、無かった?」
レティシアの矢筒に入ったままの二本の銀色の矢を見て、僕は若干の無念を感じた。
「レティシア、ちょっとごめん。先に行ってて貰えるかな? やらなきゃいけないことがあってさ」
「何よそれ? アンタ、あそこで何かしてくるって訳じゃないでしょうね」
僕は首を振ってそれを否定した。
「そうじゃないよ。ただ、僕の個人的な用事を果たして来るだけ」
「ふぅん……まぁ、何でも良いけど気を付けなさいよ」
僕は手を上げて踵を返し、その気配が消えたところで……
「よいしょ、っと」
その場から姿を消した。
そして、数分後に僕はこの場所に戻り、何食わぬ顔でレティシアに追いついた。
「何してたのよ、アンタ」
「んー、歩いてただけだよ」
実際のところ、歩いてただけだ。街に戻った僕は、門を通って森の方へと走った。出来るだけ真剣な顔で。つまるところ、アリバイ作りである。
「……ま、秘密が多いのは察してるわよ」
「あはは、ごめんね……」
僕自身は特に経験も実績も無い薄っぺら男子高校生なんだけど、持ってる物に関しては流石にありのまま伝える気にはなれない。何でも出来る全知全能だなんて、口が裂けても。
「良いのよ。誰にでも、秘密くらいあるものでしょ」
レティシアが、足を止めて眉を顰めた。僕も視線をレティシアから前に向けると、その眩さに目を細めた。
「外ね」
レティシアは少し感慨深げに呟き、外にゆっくりと歩いて出て行った。
「ふぅ、出てこれたわね……ふふっ」
「何笑ってるの?」
僕が聞くと、レティシアは笑みを湛えたまま、こっちの方を見た。
「暗い地下の洞窟で、死んで朽ちていくものかと思っていたもの。死体すら拾われずに、孤独に地下の奥底で腐っていくのかもって」
死への覚悟か、諦観か。一度は受け入れたか、想像したそれを、運命は結局否定した。いや、否定したのは僕なのかも知れないけれど。
「だから……あんまり実感なくて、笑っちゃった。馬鹿みたいに、呆気なく生き残っちゃった」
レティシアは太陽を見上げながら言うと、僕の手を取って軽く握った。
「……温かい。やっぱり、現実なのね」
「ッ」
握られた手に僕はちょっと心が緊張するのを感じたが、平静を装って一緒に太陽を眺めてみた。明るすぎて、光しか見えやしなかった。
「ありがと、治……クソみたいな世界なんて思うこともあったけれど、やっぱり生きてる方が幸せみたいね」
「……感謝なんて良いよ。僕だって、学べたことはあったし。多分」
全知全能を得てからの僕は、寧ろ人間的な学びを多く得ている気がする。けど、それは僕が人間から離れてしまったという証左なのかも知れない。
「感謝は出来るうちに出来るだけしておくようにしてるの。相手は選ぶけどね」
「まぁ、良いことかもね……?」
僕が曖昧に言うと、レティシアは眩し気に太陽を見据えたまま答えた。
「アンタも、相手が居る間に感謝は伝えておいた方が良いわよ。後悔は、してもしきれないから」
歩き出したレティシアに、僕は何も言えなかった。
「……ふふ、素直で良いわね。だけど、いつまでもそんなんじゃ冒険者なんてやってられないわよ」
「うっ」
その通りだ。メンタルも覚悟もクソ雑魚な僕は、このまま行くと冒険者も務まらなくなる時が来るだろう。誰かの生き死にに関わる……いや、誰かを殺すことで成り立つ商売なんて、心の弱い人には出来ないに決まってる。
「まぁ……うん。僕も、いつかは強くなるよ、きっと」
他者を傷付ける覚悟なんて、そもそも持つべきかすら分からないけれど……自分が傷付き続ける覚悟と、どちらが高尚なモノかは意見が割れるところだろう。僕は、自分を犠牲にする方が凄いって思う方だけど、その姿を他人に見せることだって他者を傷付けてるのと同じではあるし。
「……止まって」
レティシアの言葉に、僕は足を止めて息を呑んだ。そして、弓を構えて銀色の矢を番え……森の一点を睨み付けた。
「ッ」
大きな猿型の魔物。名前も能力も知らないが、その存在感は僕など簡単に一捻り出来そうな程であった。
「ふッ」
息が鋭く抜ける音と共に、銀色の矢が駆けて行った。それは、少し離れた猿の魔物の首筋を正確に貫き、貫通していった。
「……重心が変かと思ったけど、そういうことね」
「そうそう、壊れないからちょっと耐久性を無視して威力を上げる構造になってるんだよね」
自身の体を突き抜けていった衝撃に地面に倒れる魔物。普通の矢であれば、こうはなっていないだろう。壊れない故にぶつかっても鋭さを損なわず、砕かれもせず、折れもしない。それを活かした設計が、普通の矢よりも高い威力を齎していた。
「だけど、少し外したかしら」
「え?」
レティシアの言葉に魔物を見ると、そこには怒気を放ちながら起き上がっている大きな猿の姿があった。
「オォオオオオオオオオッ!!」
僕たちを見つけて、怒り心頭で襲い掛かって来る魔物に、レティシアは冷静に手を伸ばし、矢を呼び
戻した。
「血も落ちるなんて、便利ね」
この状況が何でも無いように、言いながら銀色の矢を撃ち放ったレティシア。その矢は、正確に魔物の額を貫いた。
「こんな感じ、かしらね」
呼び戻し、放つ。それをあと二度繰り返したレティシアによって、猿の魔物は完全に沈黙し、倒れ伏して今度こそ起き上がることは無かった。
「……三本用意した意味、無かった?」
レティシアの矢筒に入ったままの二本の銀色の矢を見て、僕は若干の無念を感じた。
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