ある日、僕は全知全能になった。

暁月ライト

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全知全能と忙しい人

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 僕は帰り道をぼんやりとした顔で歩きながら……内心では物凄く焦っていた。

 思いっ切り殴り飛ばして蹴り飛ばしちゃったけど、僕大丈夫かな!? 一応、ヤバい怪我とかはしてないと思うけど……警察に言われたらどうしよう。明らかに正当防衛の範囲は逸脱してるよね。別に全然逃げられたし。逃げる機会もあったし。

『どうしよう、ユモン……!』

『何がだよ』

 僕の言葉に、ユモンはぶっきらぼうに答えた。こいつ、さっきの喧嘩を見て無かったのか!? 反応鈍すぎだろうが。

『さっきの僕の雄姿を見てなかったの!?』

『何が雄姿だよ。腰が引けてたぜ』

『うるさいなぁ……あんだけ体格差がある相手に勝ったんだから褒めてくれても良いじゃん!?』

『相手が舐めてただけだろ。拳をブラフに足で攻撃なんざ、寧ろ自分が最初にやってたことだってのに、見え見えの砂拾いにも気付かずに……ハァ、どさんぴんだな』

 いつの間にか新しく覚えたらしい日本語を自慢げに披露してきたユモンに、僕は溜息を返すことしか出来なかった。

『そんな話はどうでも良いんだよ……この現代日本じゃ、喧嘩で相手をぶっ倒すなんて許されないんだから』

『じゃあ、なんでやったんだよ……』

 呆れたように言うユモンに、僕は何も言えやしない。全くもってその通りであるからだ。クソ、喧嘩するにしてもあそこまでやらなきゃ良かった。起き上がって来るのが怖すぎて、ちゃんと倒してしまった。

『……あー、本当にどうしよう!? 警察沙汰になったら嫌だし、更に怖い人が出て来ても嫌だし……!』

 何が冒険者スタイルだよッ、何が異世界じゃあ常識だよ!? 僕は高校生でここは日本だッ! クソ、マジでやっちゃったかも知れない……。

『逆に聞くけどよ、あの喧嘩買わずに尻尾巻いて逃げる選択肢あったのかよ? オレ様ならねぇけどな』

『……昔なら、逃げてたと思うけど』

 今なら、無いかも知れない。今の僕にとっては、あそこで立ち向かうのが……最も重要な選択であったとは今も思っている。だとすれば、後悔するべきじゃ無いかも。

「……よし」

 僕は頬をパチッと叩き、気持ちを締め直した。

『これからどうするかを考えよう』

『別に、大して心配もねェと思うけどな。ああいう、面子が大事な奴が警察やらに泣きついたりなんかしねぇだろ』

『まぁ、確かに?』

『それに、警察が来たとしても……お前なら全員倒せるだろ?』

 いや、倒せるかも知れないけどさ。そういう話じゃないんだよね。

『僕はこの国で生きていくんだから、倒せるとかそういう話じゃなくて敵になった時点で負けみたいなもんなんだよ』

『ま、そりゃそうか』

 言ってみただけだったらしい。適当な悪魔め。

『でもな、世の中どうにもならないことだってあるぜ。その時に、何を敵にして何を大事にするのか……最終的にはそういう選択肢も考えておいた方が良いぜ。本当に大事なモノを守りたいならな』

『……そんな大袈裟なことに、僕がなるとは思えないけど……まぁ、考えてはおくよ』

 適当でも無かったらしい。けど、流石にそんなことになるとは思えないし……そんなことには、ならないように出来る力も持っている。国や世界が敵に回るような事態は、流石に全知全能で回避すると思う。その時にならないと分からないけどね。

『ま、警察なんかよりもアイツの報復について考える方が建設的だな。面子を大事にする奴なら……絶対に、復讐は狙って来るぜ。なまじ、普通のやり方で勝ったから警戒も特にしてないだろうしな』

 確かに、変な力を使って勝った訳でも無い以上、普通に数集めてボコりに来る可能性はかなり高い。もしかしたら、今度は本気でタイマンしてくるかも知れないけど……そこまで正々堂々ってタイプでも無さそうだよね。あ、でも数集めるのも恥をかくことになるからやらないとかも有り得るか。

『うーん、どうなるか分からんなぁ……』

『ま、どっしり構えて待っとけよ。一応、お前の家族に手を出されないかは見張っとくべきだと思うけどな。それと、学校の仲良い奴もな』

『確かに、そこら辺も警戒しないとだよね……周りから手を出されるのが一番面倒臭いな』

『けど、相手がお前を舐めてるなら普通にそんまま襲って来るとは思うぜ。手を出す相手を増やすと、その分相手も面倒が増えるからな』

 それもそうか。襲う相手を増やすだけ、相手からすればリスクも増える。警戒はすべきだけど、本命は僕個人を襲って来るとして見るべきか。

『まぁ、そんなしょうもない奴らのことよりも……お前はもっと考えるべき現状の問題がある筈だぜ?』

『あー……』

 そっか。そうだった。御岳相談事務所の問題もあったんだった。光ちゃんの身柄と周りの人間の命が狙われている深刻な問題である以上、こっちの方がよっぽど早急な対処が必要な案件である。

「……僕、忙しいなぁ」

 異世界の方も結構きな臭いことになってるし、平和なのは裏世界くらいのものだ。いっそ、全知全能で全部一息に解決してしまおうか。

「……なんてね」

 己が身一つで戦ってやるとさっきまで意気込んでた奴の言うことじゃないよね。僕は小さく息を吐き、ポケットの中で黄金の指輪を弄んだ。
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