ある日、僕は全知全能になった。

暁月ライト

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全知全能と正々堂々

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 白山が迫る。自身の敗北など、微塵も疑っていないような自信に満ちた足取りで。悠々と、少しずつ距離を詰めて来ている。

「さ、二度と生意気な口を利けないようにしてやるよ」

「……黒崎さんが好きなら、勝手に告白でもしたら良いじゃないか。それか、もうフラれたけどまだ諦めきれてないとか?」

 遂に僕の目の前まで来た白山に、僕はそう尋ねた。返って来たのは、拳だった。

「ッ!」

 拳は回避し、僕は一歩退く。ミスは出来ない。まだ、身体中に痛みが走っている。向こうは僕の攻撃を食らったところで大したダメージを食らわないだろうけど、こっちは一発食らうだけでも致命的なことになりかねない。

「あのな、俺だって何も知らない訳じゃないんだよ」

「……何が?」

 僕が目を細めて言うと、白山は溜息を吐いた。

「黒崎ちゃんは可愛いだろ? 俺も欲しいからな。だが、そう思う奴は別に他にも居たって訳だ。特に、ここら辺なんかはしょうもねぇ不良も多いだろう」

 お前もしょうもねぇ不良だろ、と言いたくなった僕だが、一先ずは話を聞くことにした。

「だがな、そうやって粉をかけようとする奴らは軽く撥ね退けられて、それでもしつこく付き纏おうとしていれば……いつしか、ボッコボコにされて目が覚めてるって訳だ」

「何それ……?」

 黒崎さん、そんなに強いの……?

「俺も元々は年下のガキになんか興味無かったんだけどな、下の奴の話を聞いて報復でもしてやろうと調べていく内に……俺のモノにしたくなったんだよ」

「黒崎さんは誰かのモノになるような人じゃないと思うけどね」

 僕が言うと、白山はフッと笑った。

「だからこそだろ? ああいう女こそ、捻じ伏せてモノにしたいって思うのさ。男ならな」

「あはっ、僕も一応男なんだけど……全く、共感できないや」

 自分のモノにしたところで、その人の価値が落ちるだけだ。今の僕には……その考えは、共感できない。

「そうか。ま、兎にも角にも……そうやって馬鹿みたいに手ぇ出して手ひどい目に遭うのも馬鹿らしいからな。今は調べながら、黒崎ちゃんが誰かとくっついたりしないように俺も手を尽くしてんのさ」

「黒崎さんがそんなに強いなんてのは知らなかったけど……どっちにしろ、お前のその気持ち悪いやり方はここで止めさせたいね」

「ハッ、俺をはっ倒してから言えよ……あぁ、それとな、別に強いのは黒崎ちゃんじゃない」

 言いながら、白山は突然に足を突き出してきた。僕は不意を打たれたような気持ちになりながらも何とか反応して回避した。白山は舌打ちをしてから、言葉を続ける。

「黒崎ちゃんを守ってるのは、黒崎ちゃんの弟らしい。姉思いの弟で素晴らしいことだが、俺に取っちゃタダの報復対象だ。弟分がやられたケジメは、きっちり付けないとな?」

「……そこまで分かってるのに、その弟さんに手を出してないんだね。ビビってるのかな?」

「うるせぇな」

 白山の拳が迫る。僕はそれを回避し、カウンターを叩き込もうとして……それを誘っていることに気付いて、踏みとどまった。

「ただのガキならもうボコって片腕くらいは二度と動かねぇようにしてやってるよ。それで脅して無理やりお姉ちゃんの方を手に入れるってのもアリだな?」

 最早、清々しい程に下衆だね。悪事を働くことを悪と認識しながらも罪悪感は抱かないようなタイプなんだろう。最悪な奴だ。

「だが、まぁ……どうやら普通じゃないみたいでな。そこら辺の調査が終わらねぇと、俺も動けないって訳だ。不自由な身で困ったな、全く」

 白山の顔に笑みが浮かんでいるのが見えた。少しずつ、テンションが上がってきているのか……声色も最初より弾んでいる気がする。

「ほら、かかって来いよ。逃げてばっかりじゃ……しょっぱいだろ?」

「ッ!」

 そう言って両手を広げた白山に、僕は息を呑んだ。避けてばかりの僕に、向こうは動く気を無くしたのか……僕が動くのを待っている。明らかに、罠だ。罠でしかない。

「……これは、ウィーに教わったんだ」

 僕は屈みこんで地面に転がっている僕のリュックを路地裏の壁際に寄せながら、地面に触れた。

「あ? 何言ってんだ?」

 僕はそう言うと、待ち構えている白山に向けて走り出した。白山はにやりと笑みを強めて、その目が硬く握られた僕の拳を見た。

「ッ!?」

「武器を持ってない時は、石を投げて砂をかけてから戦えってねッ!」

 石を投げるのは流石に危ないからね。僕は足元の石を蹴り飛ばして白山の脛に当て、更に面食らった白山の顔に手に握っていた砂を投げつけた。

「テメェ、卑怯過ぎだろ……ッ!」

「正々堂々、冒険者スタイルだよッ!」

 僕はそう言いながら、目を細めている白山の腹を思い切り殴りつけた。

「ぐぇッ」

「らァッ!」

 怯んだところに、更に蹴りを入れる。殴りも入れる。

「ざ、けんな……」

「よっとッ!」

 流石に体勢を崩して地面に膝を突いた白山の頭を、僕は全力で蹴り飛ばした。大丈夫、人間はこのくらいじゃ死にはしない。普通の高校生よりも、僕はその辺にはちょっと詳しいからね。

「ぐ……ッ」

 恨めし気な目線でこちらを睨んだ白山だったが、そのまま立ち上がることは無く、地面に倒れ伏したまま動かなかった。

「悪いね」

 喧嘩で砂をかけるくらい、異世界じゃあ常識なんだよ。僕はふっと息を吐いて壁際に寄せていた通学用のリュックを背負い直した。
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