ある日、僕は全知全能になった。

暁月ライト

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全知全能と喧嘩

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 僕の腹に目掛けて振るわれた拳を、僕は反射的に避けていた。

「おぉ」

 僕は思わず声を上げ、自分が少しは成長しているということに気付いて感動した。そうだよ、僕はイシとも何回だって戦ってきたし、魔物との死闘も繰り広げ、実は裏世界でも木人達からちょっとした体術なんかを教わったりしてるんだ。
 今更、ただの不良相手に……負ける訳が無い。

「ふふ、ふふふ……」

「ッ、馬鹿にしてんじゃねえよ……!」

 先輩が苛立ったように僕を睨み付け、再び拳を振るう。しかし、それは僕に当たることも無く空を切った。僕は直ぐに通学用のリュックを肩から外して、適当に放った。

「テメェッ!」

「ふふん」

 強い、強いぞ。僕は強い。どうやら、強くなっていたらしい。知らぬ間に、素の能力も高まっていたってことだね。

「何発でも避けて上げるよ。そんな鈍いパンチ、僕にげぇッ!?」

 拳を振り上げた先輩。それを見上げ、正確にその軌道を捉えようとした僕の……脛を、先輩の足が蹴りつけた。

「い、った……ぐぇッ!?」

 足に走った痛みに動きを止めた僕の腹を、先輩の拳が今度こそ殴りつけた。

「ぅ、ッ……ごほッ」

「お前、随分と舐めた口利いてくれたよなぁ」

 先輩が僕の襟首を掴み、軽々と持ち上げた。しかし、僕は腹から全身に響くような鈍い痛みに抵抗どころか動くことすら出来ない。

「先輩だぞ、俺は。敬意を持って接しろよ。それくらい出来るだろ? な?」

「ぐ、ッ……」

 片手で僕の体を持ち上げて、僕の髪を鷲掴みにする男。恐怖よりも、僕は怒りを感じ始めていた。クソ、何なんだよ、こいつは。僕の前で。

 ――――僕の前で?

「ッ!……ふざけ……んなッ!」

 何様のつもりだよ、僕は。僕なんて、ただのそこら辺に居る高校生でしか無いだろうが。痛いからって、ムカついたからって……思い上がってんじゃない。

「おいおい、あんまり暴れんじゃねえよ。もう一回殴られ、ごッ!?」

 僕は少しマシになって来た痛みに、上体を思い切り後ろに逸らして僕の体を持ち上げる先輩をこちらに引き寄せつつ、足で思い切り腹を蹴りつけてやった。

「ちょっとは、痛いでしょ」

 思わず手を離した先輩に僕はそう言った。僕だって、最近は鍛えてるんだ。

「テメェ、ボコられたいんだな……? だったら、最初っからそう言えよッ!!」

 先輩がこちらに踏み込んで来る。最初のただの拳とは違う、全力の殴りだった。体重が乗っていて、早い。僕なんかより、多分ずっと喧嘩慣れしているんだろう。

「ふっ」

「オラァ!」

 僕も来ると分かっているそれを躱すことくらいは出来た。けど、先輩は畳み掛けるように足を振るい、回し蹴りを僕に食らわしてきた。僕は咄嗟に腕でそれを防ぎ、骨に鈍い痛みが走るのを堪えた。

「ハッ、雑魚を甚振るのはスーッとするなぁ。やっぱり、気分がよ」

「ッ!」

 再び拳が迫る。僕はそれを避けるけど、間髪入れずに次の拳が迫る。避けても避けても、次々に。このままじゃ、いつかは……

「ふざけんな」

「なッ!?」

 僕は先輩の拳を正確に捉え、その手で掴んでいた。弱気になっちゃダメだ。ビビってばっかりじゃ、成長もしない。今ここで、僕は僕として勝たないといけないんだ。

「ふッ!」

「ッ!」

 僕は掴んだ腕を引き寄せて、そのまま拳を先輩の腹に入れた。けど、見え見えのパンチは、硬く力が入った先輩の腹に受け止められて、逆に先輩は懐に入り込んでいた僕のことを思い切り蹴飛ばした。

「ぐ、ぅ……」

「お前みたいなひょろいチビがさ、俺に勝てる訳ないだろ」

 僕はお腹を抑えて立ち上がり、そして先輩を睨み付けた。アレだけ怖かった相手が、今は怖くない。だけど、悔しさだけがあった。強くなったなんて言っても、所詮は身体強化に甘えていただけの雑魚だったんだ。敵の攻撃を避ける目は鍛えられていても、敵を攻撃するのは大体いっつも魔術だった。

「うるさい、な……人の殴り方なんて、知らないんだよ」

「そうか。俺は知ってるぞ」

 そもそも、誰なんだよこいつは。僕はこいつの名前も知らないのに、何でこんな殴り合いをしてるんだよ。どうして、力に頼らないんだ僕は。痛いのに。逃げれば良いのに。

「名前くらい、名乗れよ……」

「お前は、宇尾根治って言うんだろ?」

 一方的に僕の名を知っているらしい先輩は、得意げにそう言った。僕が不服そうな顔をすると、先輩は続けた。

「俺は、白山だよ。なぁ、これ以上痛い目見たくないだろ? お前の友達の黒崎ちゃんはさ、俺の彼女にする予定なんだ。邪魔、しないよな?」

「別に、自由恋愛を邪魔するような奴じゃないよ。僕は……」

「なんだ、そうか。それは良かった。話が分かる奴は嫌いじゃない」

「だけど、さ……人生初めての喧嘩が、これで終わりなんてしょっぱいだろ」

 そうか、と白山は冷たい目で僕を睨んだ。

「じゃあ、第二ラウンドだな」

 悠然と歩き出した白山に、僕は乱れていた息を整えた。
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