ある日、僕は全知全能になった。

暁月ライト

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全知全能とパン

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 その後、塩バターパンを食べ終えた僕と、メロンパンを食べ終えた黒崎さんは解散し、僕は小走りで教室に戻った。理由は怖いからである。

「ふぅ……」

 襲われても大丈夫、とは分かっているけども、それでも襲われるのは怖い。扉を足のスレスレになるようにして凄い勢いで開け閉めするのとか、絶対に当たらないとは分かっていても怖いじゃん? それと同じだ。
 取り敢えず、無事に教室には戻れたので良しとしよう。

「なぁ、お前黒崎さんと飯食ってたってマジなん!?」

「えっ」

 僕はかけられた声に机に伏せていた顔を上げた。

「いや……別に」

「別にって何だよ! 谷中が見たって言ってたぞ!」

 畜生、なんで見てんだよ。まぁ、見られてても全然おかしくない場所どころか、一緒に歩いてるところはかなりの人数に見られてるからバレてて当然なんだけどさ。

「……黒崎さんの気まぐれで呼ばれただけだよ。別に、何も無いからね?」

「本当か~?」

 僕は溜息を吐き、首を振った。そもそも、誰なんだ。僕はこの人のフルネームすら覚えていないけど。やはり、普通の人間というのは殆ど話したことの無い相手にもこのテンションで躊躇なく話しかけられるというのか。ちょっと、ショックである。

「ちぇっ、なんか進んだら教えてな」

「気が向いたらね……」

 僕は世界を拒絶するように、集まっているような気がする視線から逃れる為に、再び机に突っ伏した。

『んで、どうなんだよ。好きなのか? さっきの奴はよぉ』

『ッ、別にだよ。僕はまだ人を好きになったことは無いからね!』

『自分じゃ気付いてねぇだけだろォ? なァ、人間だれしもあるもんだぜェ。欲望っつーもんはよォ』

『残念だけど、僕は最近そういうのが薄くて悩んでるんだよ』

 暗く語りかけてくるようなユモンの言葉に、僕は心の中で首を振った。

『本当かよ? 思わねェのかよ? アイツを自分のモノにしてやりてェとか、思ってんだろォ?』

『いや、発想すら無かった。そもそも、誰かを自分のモノにするほどつまらないことは無いんだよ。僕に見えてる世界では、ね』

 誰かを無理やり抑え付けて、捻じ曲げて、書き換えて、僕のモノにして何の意味があるんだろう。口先どころか、指先一つも使わずに僕はそれを成し遂げられる。だからこそ、無価値で空虚なことにしか思えないんだ。僕が言葉巧みに他人の精神を隷属させられるような人間だったなら、それを楽しめていたのかも知れないけど、僕に出来ることはそうじゃないし。

『……ハァ、偶には悪魔っぽいことをしようと思ったってのにつまらねぇ奴だ。悪魔甲斐がねぇな』

『残念だったね。僕は元からそんなに欲深くない方なんだ』

『そうかよ。ま、無欲な奴の方が悪魔と契約するには向いてるぜ? ただ、無欲な奴はそもそも悪魔と契約しようなんざ思わねぇんだけどな』

『だったら、悪魔と契約してる僕は意外と欲深いかもね?』

 星を超えて世界そのものを作ってしまった僕だ。これで無欲なんて言うのは、ちょっと無理があるかも知れない。自分の世界を欲しがるなんて、最大級の欲張りだったね。



 ♢



 あれから、何度もクラスメイトが僕と黒崎さんの話をしてるのを耳にしつつ、凄く居づらさを感じながら時間が過ぎていくのを待ち、漸くホームルームも終わり、僕は学校を飛び出せた。

「はぁ、やっと帰れるよ……」

 僕は言いながら、帰りにコンビニでも寄らないといけないことを思い出した。

「あれ、コンビニ以上だっけ?」

『そうだよ』

 僕は制服の内側のポケットに隠された黄金色の指輪から聞こえて来た威張ったような声に、げんなりとして肩を落とした。

『……牛丼でもテイクアウトすれば良いかな』

 あ、それかハンバーガーにしようかな。僕もちょっと食べたいし。ついでにコーラでも飲ませておけば黙るだろう。


「――――なぁ、ちょっとこっち来てくれよ?」


 後ろから聞こえた声に、背筋を冷たいものが走った。

「ちょっとで済むんだよ。だから、早く」

 振り返ると、そこには背の高い男が立っていた。ガタイが良く、怖い顔に浮かぶ冷たい目が、こちらをじっと睨んでいる。

「なぁ、あんまり待たせないでくれよ」

 突っ立ったままの男の方に、僕は自ら足を進めて行った。足が震えている。やっぱり、僕は不良とかそういうのにはビビってしまうタチらしい。いや、別に誰だってそうか。

『なんだよ、ビビってんのか?』

『うるさいよ。余裕だし』

 僕は念話で言い返して、そして少しだけ心を落ち着けた。そうだ、ユモンも付いてるんだ。僕は制服の内側のポケットから、こっそりと指輪を取って握り締めた。

『んだよ、ビビってんじゃねえか』

『ッ!』

 そ、そうだった。ユモンが入ってる指輪を握ってユモンにバレない訳が無かった。僕は顔を赤くしながらも、ポケットを外側のポケットに隠した。まぁ、怖い先輩には見られてないから一応セーフだ。僕の尊厳が若干失われただけで。

「おぉ、ポケットに手入れて……寒いのかよ?」

「い、いや……そういう訳じゃ、無いですけど」

 僕は直ぐにポケットから手を出し、そして先輩の顔を見上げた。

「それで、どうしたんですか。僕に、何の用ですか」

 しっかりと先輩の目を見て、僕はそう聞いた。瞬間、先輩の拳が僕の腹に目掛けて振るわれるのを見た。
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