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全知全能と抜け道の先で
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踵を返して走り出したゴブリンのメイジ。後方ではゴブリンとゴーレムの乱闘が巻き起こっているが、振り返っている時間も無かった。
「クキャ……」
巣穴の中を走り抜ける。木製の杖を片手に、布切れのようなローブが走りづらいが、漸く抜け道まで辿り着いた。王が通り抜けた後だからか、既にそこには穴が開いている。
「……クキャ?」
血の匂いがする。通路の先から、血の匂いが……する。
「グ、グキャ……!」
焦りの表情を浮かべながらもメイジは急ぎ、そして抜け道の先に辿り着いた。
「グギャァアアアア……ッ!!」
「グ、グギィ……」
「グ、ギャ……」
地面に倒れ伏した二体のホブゴブリンと、身体中に枝のようなものが突き刺さって立っている長身のゴブリン……王の姿があった。
「あぶねー、先に抜け道に呼んどいて良かったぜぇ。キングとホブゴブリン二体なんざ、おれ一人じゃどうしようもねぇしな」
「君の罠のお陰でキングも傷だらけだ……これなら、二人でも問題無いね」
そして、枝が身体中に突き刺さっている王の前に立つのは、赤銅色の髪に褐色の肌をした獣人の少女と、青みがかった綺麗な黒い髪の美少年の二人だった。少年は剣を持ち、少女は片手に石と片手にナイフを持っている。
「グ、ギャァアアアアッ!!」
「ふッ」
「よっと!」
動きが鈍い。王の振り下ろした鉄製の長剣を少年は回避し、反撃の刃を王の腕に食らわせた。血が噴き出して、苦悶の声を押し殺した王の顔に投げつけられた石が小さく傷をつけ、何よりも王の冷静さを失わせる。
「クキャ……ッ!」
人間二人程度、ゴブリンの王であれば大抵蹴散らせる。だが、今の王は罠にかかったらしく傷だらけであった。その動きの鈍さから見て、刺さった枝には毒まで塗られていたのだろう。メイジは苛立ちを噛み殺し、飽くまでも冷静に杖を構えた。
「『――』ャッ!?」
魔術を詠唱しようとした瞬間、メイジのローブの中から何かが飛び出して、その首筋に噛みついた。噴き出す血に膝を突いたメイジの体を、更にそれは貪り、各所から血が噴き出す。最早、杖を握る力すらも維持できず、メイジは地面に倒れて杖を手放した。
霞む視界の中に見えたそれは、毛むくじゃらの小さな物体であった。獣のように見えるそれは俊敏に動き回って、メイジの身体中を噛み千切っていく。
「グ、ギ……ァ」
それでも、メイジは死力を振り絞って……懐から銀色の貝殻のような見た目をした何かを取り出して、何とか口を開いた。
「グ、ギ……キィ……ッ!」
貝殻を開き、何かを話していたメイジであったが……その半ばで、毛むくじゃらの獣に喉笛を噛み千切られて、メイジは遂に力尽きたのであった。
♦……side:宇尾根治
どうやら、向こうも片付いたみたいだね。抜け道を見つけたらしいウィーがアシラを連れて行った時はちょっと不安だったけど、流石は冒険者だ。勝算の無い勝負はしないということだろうか。いや、冒険者なら逆か。どっちだろう。打算的な印象もあるけど。
「まぁ、そんなことはどうでも良いの」
「……急になに?」
僕がお嬢様っぽく喋ると、ナーシャが気持ち悪そうに眉を顰めた。ひどい。
「向こうも勝ったみたいだね。ゴブリンキングは……思ったよりも、強敵だったみたいだけど」
「知ってる。私も使い魔で見たから。でも、私達が居たら余裕だったと思う。ゴブリンキングは……本当は、煌銅級の冒険者なら一人で勝てるくらいの魔物だけど、それよりも少し強く感じたかも」
「あ、普通の個体より強かったんだね」
「……多分。私もゴブリンキングをまともに見た経験なんて無いから、ちゃんとしたところは分からないけど……」
罠にかかり、毒を塗った枝に串刺しにされたゴブリンキングだったが、それでもふらつく身体でアシラ達に抗って見せた。不意を打たれたホブゴブリンは特に良い所も無く死んだらしいが、そこまで健闘したゴブリンキングが通常よりも強い個体だったってのは納得出来る。寧ろ、素であのくらい強いと怖いね。
「そうだ、途中でゴブリンのメイジが居た……」
「あー、僕も見たよ。あの、火の球撃って来た奴だよね」
「そう。あのゴブリンメイジ……死に際に、何かを落とした。しかも、それに話してた」
「……何か、って?」
ナーシャの不穏そうな言葉に僕は眉を顰め、聞き返した。
「銀色の、貝殻みたいなもの。魔道具、どんな能力かは分からないけど……」
「……通信用、とかかな」
「多分、そう」
話しかけていたということは、通信用とかそっち系っぽいけど……何だろうなぁ。
「クキャ……」
巣穴の中を走り抜ける。木製の杖を片手に、布切れのようなローブが走りづらいが、漸く抜け道まで辿り着いた。王が通り抜けた後だからか、既にそこには穴が開いている。
「……クキャ?」
血の匂いがする。通路の先から、血の匂いが……する。
「グ、グキャ……!」
焦りの表情を浮かべながらもメイジは急ぎ、そして抜け道の先に辿り着いた。
「グギャァアアアア……ッ!!」
「グ、グギィ……」
「グ、ギャ……」
地面に倒れ伏した二体のホブゴブリンと、身体中に枝のようなものが突き刺さって立っている長身のゴブリン……王の姿があった。
「あぶねー、先に抜け道に呼んどいて良かったぜぇ。キングとホブゴブリン二体なんざ、おれ一人じゃどうしようもねぇしな」
「君の罠のお陰でキングも傷だらけだ……これなら、二人でも問題無いね」
そして、枝が身体中に突き刺さっている王の前に立つのは、赤銅色の髪に褐色の肌をした獣人の少女と、青みがかった綺麗な黒い髪の美少年の二人だった。少年は剣を持ち、少女は片手に石と片手にナイフを持っている。
「グ、ギャァアアアアッ!!」
「ふッ」
「よっと!」
動きが鈍い。王の振り下ろした鉄製の長剣を少年は回避し、反撃の刃を王の腕に食らわせた。血が噴き出して、苦悶の声を押し殺した王の顔に投げつけられた石が小さく傷をつけ、何よりも王の冷静さを失わせる。
「クキャ……ッ!」
人間二人程度、ゴブリンの王であれば大抵蹴散らせる。だが、今の王は罠にかかったらしく傷だらけであった。その動きの鈍さから見て、刺さった枝には毒まで塗られていたのだろう。メイジは苛立ちを噛み殺し、飽くまでも冷静に杖を構えた。
「『――』ャッ!?」
魔術を詠唱しようとした瞬間、メイジのローブの中から何かが飛び出して、その首筋に噛みついた。噴き出す血に膝を突いたメイジの体を、更にそれは貪り、各所から血が噴き出す。最早、杖を握る力すらも維持できず、メイジは地面に倒れて杖を手放した。
霞む視界の中に見えたそれは、毛むくじゃらの小さな物体であった。獣のように見えるそれは俊敏に動き回って、メイジの身体中を噛み千切っていく。
「グ、ギ……ァ」
それでも、メイジは死力を振り絞って……懐から銀色の貝殻のような見た目をした何かを取り出して、何とか口を開いた。
「グ、ギ……キィ……ッ!」
貝殻を開き、何かを話していたメイジであったが……その半ばで、毛むくじゃらの獣に喉笛を噛み千切られて、メイジは遂に力尽きたのであった。
♦……side:宇尾根治
どうやら、向こうも片付いたみたいだね。抜け道を見つけたらしいウィーがアシラを連れて行った時はちょっと不安だったけど、流石は冒険者だ。勝算の無い勝負はしないということだろうか。いや、冒険者なら逆か。どっちだろう。打算的な印象もあるけど。
「まぁ、そんなことはどうでも良いの」
「……急になに?」
僕がお嬢様っぽく喋ると、ナーシャが気持ち悪そうに眉を顰めた。ひどい。
「向こうも勝ったみたいだね。ゴブリンキングは……思ったよりも、強敵だったみたいだけど」
「知ってる。私も使い魔で見たから。でも、私達が居たら余裕だったと思う。ゴブリンキングは……本当は、煌銅級の冒険者なら一人で勝てるくらいの魔物だけど、それよりも少し強く感じたかも」
「あ、普通の個体より強かったんだね」
「……多分。私もゴブリンキングをまともに見た経験なんて無いから、ちゃんとしたところは分からないけど……」
罠にかかり、毒を塗った枝に串刺しにされたゴブリンキングだったが、それでもふらつく身体でアシラ達に抗って見せた。不意を打たれたホブゴブリンは特に良い所も無く死んだらしいが、そこまで健闘したゴブリンキングが通常よりも強い個体だったってのは納得出来る。寧ろ、素であのくらい強いと怖いね。
「そうだ、途中でゴブリンのメイジが居た……」
「あー、僕も見たよ。あの、火の球撃って来た奴だよね」
「そう。あのゴブリンメイジ……死に際に、何かを落とした。しかも、それに話してた」
「……何か、って?」
ナーシャの不穏そうな言葉に僕は眉を顰め、聞き返した。
「銀色の、貝殻みたいなもの。魔道具、どんな能力かは分からないけど……」
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