ある日、僕は全知全能になった。

暁月ライト

文字の大きさ
181 / 189

全知全能と琥珀の中の魂

しおりを挟む
 逃走を始めた仮面の者達。だが、茜はその背に炎の鞭を伸ばして貫いていく。炎熱と電撃が臓器を焼けば、生き残ることは決して出来ない。

「逃がす訳ねぇだろ。私らの情報を持ち帰らせはしねぇよ」

 一人、二人。背を貫かれて地面に倒れ伏す。しかし、茜一人でバラバラに逃げて行く仮面の者達の全てを追い切れはしない。

「行けそうだな。じゃ、オレ様は取り逃がしそうな奴を追って来るから、頼んだぜェ」

「おう、頼むぜ」

 ユモンはそう伝えると、その場から瞬く間に姿を消した。


 ♢



 ビルの隙間に飛び込んで、階段に繋がる裏口の扉を魔術で開錠して入り込んだ仮面の一人は、即座に仮面を外して懐にしまい込んだ。上着を裏返して着直し、素知らぬ顔をしてその階段を上って行こうとする。

「よっ」

「ッ!?」

 その肩に手を置いた男に、階段を登ろうとした男は振り返る。さっきの男だ。にやりと余裕に満ちた笑みで、こちらを見ている。

「もしかして、ここに住んでるのか? ここいらは殆ど人が住んでねぇって聞いてたんだが……どこの、何階に住んでんのか、教えてくれよ」

「な、な……そ、な……!」

 動揺と焦燥、隠すことも出来ず、懐に震える手を伸ばす男だったが……それよりも先に、ユモンの手が男の胸に触れていた。

「もう少し脅かしてやりたいところだが……後がつっかえてるんでな」

「ぐ、ゥ……!?」

 ユモンの手が琥珀色に透き通り、それが男の胸の中へと、水に沈むように入り込んで行った。瞬間、男は苦悶の声を上げて一切の動きを止める。

「貰って行くぜ」

「ァ」

 引き抜かれた琥珀色の手。その中に握り締められたものを、ユモンは躊躇なく呑み込んだ。地面にばたりと倒れ込んでいる男を気にすることも無く、ユモンは悪魔のような深い笑みを浮かべる。

「あァ……最高だぜ。やっぱり、久し振りのは格別だ」

 暫く放心したように、深く味わっているように上を向いていたユモンだったが、ふぅと小さく息を吐くと視線を死体と化した男に向けた。

「襲って来てくれて、どうもありがとうなァ。お陰で、美味かったぜ」

 おっと、とユモンは声を上げて男の前で手を合わせた。

「ごちそうさま、の方がこっちだと合ってるか」

 ユモンは踵を返し、男の死体に背を向けて去った。



 ♢



 それからも次々に、ユモンは逃げ延びた者達を刈り取って行った。そして、その様子を観測していた男が一人居た。離れたビルの屋上から双眼鏡型の魔道具を手に、小さな笑みを浮かべながらそれを観察している。

「……雷撃の走る炎の鞭を操る女に、高度な転移能力に触れるだけで敵を即死させる男……中々に、奇妙だ。だが、面白いぞ……手に入れられれば、尚面白い」

 男は屋上の縁から体を離し、双眼鏡を目元から外した。

「とは言え、骨は折れそうだ。特に、あの男は……まだまだ得体が知れないか。捨て駒にするには僅かに惜しい連中だったが、奴らでこの程度しか実力を図れないなら、ケチって雑魚を送らずに正解だったというところか」

 男は双眼鏡を懐に仕舞って、屋上の扉を開けようと手をかける。

「……なに?」

 浮かんでいた小さい笑みが消えて、男は眉を顰める。扉が開かない。鍵は閉めていない筈だ。どうせ、誰も来やしない屋上……なら、誰が? 態々、このタイミングでビルの管理人でも来て鍵を閉められでもしたか?

「まぁ、良い……」

 開錠の魔術、その程度も使えない魔術士ではない。特に、自分は闇の側の魔術士なのだ。暗い用途の魔術ならば一通りは使えるというもの。

「なっ……!?」

 魔術が鍵穴を通り抜けていったが、その効果は発揮されなかった。何かに阻害されたように、対抗されたように、効果は無かった。

「よっ」

 直後、背後からの声と共に自分の肩に手が置かれていた。

「どう、やって……!」

 震えを堪えた男が、乱暴に振り返って腕を振るった。そこに立っていた時代錯誤な服を着た男は腕を避けると、にやりと楽し気に笑う。

「どうもこうも、ねぇよ」

 一歩距離を詰めて、じっと男の目を見る……悪魔は、男の体から冷や汗を噴き出させるには十分な威圧感を放っていた。

「お前がオレ様のことをじーっとずーっと見てっから、こうやって来てやったんだろ? なァ、用があるなら言えよ。見てたんなら、用があんだよなァ」

「……ッ!」

 悪魔は再び、男の肩に手を置いた。

「なァ、黙ってねェで答えろよ。先ずは、用件を言ってみろ。あ、けど嘘吐いたら直ぐ殺すぜ」

「…………お前を、俺は、お前を雇いたい。と、思う。思っている。どうだ? 金なら、十分にあるぞ。ウチは」

「ほォ? 取り敢えず、嘘は言ってないみたいだな」

「も、勿論だ。お前くらいの実力なら、上だって青天井で雇う筈だ。話は俺が死んでも付ける。支配者の立場だって、狙えるレベルだろう、お前が居れば。その筈だ」

 男の言葉に、悪魔はこくこくと興味を持ったように頷いている。

「どうだ、来てみないか!? お前は人を殺すことにも抵抗は無いだろう! うちなら、お前の才能を最大限に活かせるぞ!? 金も出るッ、女も何もかも、殺せば殺す程に思い通りだッ!!」

 男が言うと、悪魔は溜息を吐いて首を振った。

「あー、残念だが条件に合ってないな。オレ様、人殺しは出来ないんだよ。正当防衛以外は」

「な、なにを……」

 当惑する男の胸に、琥珀色に透き通った悪魔の手が沈んでいた。

「ま、後の所は魂に聞くわ。誘ってくれて、ありがとなァ」

「ァ」

 琥珀色の手が、引き抜かれる。バタリと男がその場に倒れると、その手に握られたものを悪魔は躊躇いなく口の中に放り込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺だけ✨宝箱✨で殴るダンジョン生活

双葉 鳴
ファンタジー
俺、“飯狗頼忠(めしく よりただ)”は世間一般で【大ハズレ】と呼ばれるスキル【+1】を持つ男だ。 幸運こそ100と高いが、代わりに全てのステータスが1と、何をするにもダメダメで、ダンジョンとの相性はすこぶる悪かった。 しかし世の中には天から二物も三物ももらう存在がいる。 それが幼馴染の“漆戸慎(うるしどしん)”だ。 成績優秀、スポーツ万能、そして“ダンジョンタレント”としてクラスカースト上位に君臨する俺にとって目の上のたんこぶ。 そんな幼馴染からの誘いで俺は“宝箱を開ける係”兼“荷物持ち”として誘われ、同調圧力に屈して渋々承認する事に。 他にも【ハズレ】スキルを持つ女子3人を引き連れ、俺たちは最寄りのランクEダンジョンに。 そこで目の当たりにしたのは慎による俺TUEEEEE無双。 寄生上等の養殖で女子達は一足早くレベルアップ。 しかし俺の筋力は1でカスダメも与えられず…… パーティは俺を置いてズンズンと前に進んでしまった。 そんな俺に訪れた更なる不運。 レベルが上がって得意になった女子が踏んだトラップによる幼馴染とのパーティ断絶だった。 一切悪びれずにレベル1で荷物持ちの俺に盾になれと言った女子と折り合いがつくはずもなく、俺たちは別行動をとる事に…… 一撃もらっただけで死ぬ場所で、ビクビクしながらの行軍は悪夢のようだった。そんな中響き渡る悲鳴、先程喧嘩別れした女子がモンスターに襲われていたのだ。 俺は彼女を囮に背後からモンスターに襲いかかる! 戦闘は泥沼だったがそれでも勝利を収めた。 手にしたのはレベルアップの余韻と新たなスキル。そしてアイアンボックスと呼ばれる鉄等級の宝箱を手に入れて、俺は内心興奮を抑えきれなかった。 宝箱。それはアイテムとの出会いの場所。モンスタードロップと違い装備やアイテムが低い確率で出てくるが、同時に入手アイテムのグレードが上がるたびに設置されるトラップが凶悪になる事で有名である。 極限まで追い詰められた俺は、ここで天才的な閃きを見せた。 もしかしてこのトラップ、モンスターにも向けられるんじゃね? やってみたら案の定効果を発揮し、そして嬉しい事に俺のスキルがさらに追加効果を発揮する。 女子を囮にしながらの快進撃。 ステータスが貧弱すぎるが故に自分一人じゃ何もできない俺は、宝箱から出したアイテムで女子を買収し、囮役を引き受けてもらった。 そして迎えたボス戦で、俺たちは再び苦戦を強いられる。 何度削っても回復する無尽蔵のライフ、しかし激戦を制したのは俺たちで、命からがら抜け出したダンジョンの先で待っていたのは……複数の記者のフラッシュだった。 クラスメイトとの別れ、そして耳を疑う顛末。 俺ができるのは宝箱を開けることくらい。 けどその中に、全てを解決できる『鍵』が隠されていた。

現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!

おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。 ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。 過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。 ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。 世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。 やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。 至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!

異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕 タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】 3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!

この世界にダンジョンが現れたようです ~チートな武器とスキルと魔法と従魔と仲間達と共に世界最強となる~

仮実谷 望
ファンタジー
主人公の増宮拓朗(ましみやたくろう)は20歳のニートである。 祖父母の家に居候している中、毎日の日課の自宅の蔵の確認を行う過程で謎の黒い穴を見つける。 試にその黒い穴に入ると謎の空間に到達する。 拓朗はその空間がダンジョンだと確信して興奮した。 さっそく蔵にある武器と防具で装備を整えてダンジョンに入ることになるのだが…… 暫くするとこの世界には異変が起きていた。 謎の怪物が現れて人を襲っているなどの目撃例が出ているようだ。 謎の黒い穴に入った若者が行方不明になったなどの事例も出ている。 そのころ拓朗は知ってか知らずか着実にレベルを上げて世界最強の探索者になっていた。 その後モンスターが街に現れるようになったら、狐の仮面を被りモンスターを退治しないといけないと奮起する。 その過程で他にもダンジョンで女子高生と出会いダンジョンの攻略を進め成長していく。 様々な登場人物が織りなす群像劇です。 主人公以外の視点も書くのでそこをご了承ください。 その後、七星家の七星ナナナと虹咲家の虹咲ナナカとの出会いが拓朗を成長させるきっかけになる。 ユキトとの出会いの中、拓朗は成長する。 タクロウは立派なヒーローとして覚醒する。 その後どんな敵が来ようとも敵を押しのける。倒す。そんな無敵のヒーロー稲荷仮面が活躍するヒーロー路線物も描いていきたいです。

距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚
恋愛
 かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。  だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。  それは気にしてない。俺は深入りする気はない。  人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。  だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。  ――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。

ダンジョン学園サブカル同好会の日常

くずもち
ファンタジー
ダンジョンを攻略する人材を育成する学校、竜桜学園に入学した主人公綿貫 鐘太郎(ワタヌキ カネタロウ)はサブカル同好会に所属し、気の合う仲間達とまったりと平和な日常を過ごしていた。しかしそんな心地のいい時間は長くは続かなかった。 まったく貢献度のない同好会が部室を持っているのはどうなのか?と生徒会から同好会解散を打診されたのだ。 しかしそれは困るワタヌキ達は部室と同好会を守るため、ある条件を持ちかけた。 一週間以内に学園のため、学園に貢献できる成果を提出することになったワタヌキは秘策として同好会のメンバーに彼の秘密を打ちあけることにした。

俺の家に異世界ファンタジーガチャが来た結果→現実世界で最強に ~極大に増えていくスキルの数が膨大になったので現実世界で無双します~

仮実谷 望
ファンタジー
ガチャを廻したいからそんな理由で謎の異世界ガチャを買った主人公はガチャを廻して自分を鍛えて、最強に至る。現実世界で最強になった主人公は難事件やトラブルを解決する。敵の襲来から世界を守るたった一人の最強が誕生した。そしてガチャの真の仕組みに気付く主人公はさらに仲間と共に最強へと至る物語。ダンジョンに挑戦して仲間たちと共に最強へと至る道。 ガチャを廻しまくり次第に世界最強の人物になっていた。 ガチャ好きすぎて書いてしまった。

ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった

仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。 そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?

処理中です...