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全知全能と魔石売り
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寂れた街の、寂れた建物。フォルテ田宇神ビルの中へと入りこんで行った二人。茜の背中を追ってユモンはそのビルの地下へと階段で降りて行った。
「よぉ、光の魔石だ。五つくれよ」
「……君か。全く、少しはお喋りでもしていけば良いのにね」
階段を下りて直ぐ、茜が声を掛けると、カウンターの中に居た初老の男が首を振りながら言った。
「しねぇよ。つか、こっちの素性に気付いても言うんじゃねー」
「ははっ、これは失礼したね……では、失礼ついでに聞いても良いかな?」
「聞くなよ」
「そこの君の連れは、どちら様かな?」
初老の男に声を掛けられたユモンは、躊躇いも無く頭に被っていたフードを外し、マスクを取って男と目を合わせた。
「オレ様ァ、ただの付き添いだ。名前までは言わねェが」
「ほう……君は、珍しい子だね。この場所で態々顔を見せて話してくれる子が居たとは」
「テメェも顔隠しちゃ居ねぇからな。認識阻害の魔術までかけてねぇし、売る側はそういうルールだったりすんのか?」
「いんや、そんなルールねぇよ。そもそも、ここは誰かが明確に管理してるなんて訳でもねェしな。自分から顔も晒して商売してる変わり者はこいつくらいだろ」
茜が言うと、初老の男はふふと小さく笑った。
「商売とは信頼あってこそだろう? 顔も名前も隠してやるものじゃない。君も、顔が見える相手の方が信頼出来るだろう?」
「そりゃ間違いないな。仮面付けた商人なんてのも結構見た記憶はあるが、どいつもこいつも胡散臭かったからよ」
「という訳で、私はここでしがない商人をやっている小宅だ。今後ともよろしく頼むよ」
「あァ、オレ様はイカダチだ。よろしくな」
ユモンが男に名乗り返すと、茜はむっと眉を顰めてユモンの裾を引っ張った。
「おいッ、簡単に名乗ってんじゃねーよ!? お、お前馬鹿か……?」
「だって、名乗られたのに名乗り返さないのはマナー違反だろ?」
「そうだよ。それに、私と君達の仲じゃないか。そこまで警戒させなくても良いだろう」
初老の男の……小宅の言葉に、茜は首を振った。
「別にテメェに名前を知られることが嫌って訳じゃねぇよ……この分だと、誰にでも顔を見せて誰にでも名乗っちまうだろうが」
「ふむ……確かに、それは問題かも知れないな」
「どっちだよ。お前は顔も名前も隠さない方が良いって側じゃねェのか?」
「個人的にはね。だが、この界隈では……正直者は美徳であれど、得はしない。魔術士とは大抵が狡猾で卑怯で慎重な生き物だ。尤も、私はそれ自体が悪であると否定するつもりは無いがね」
小宅の言葉に、ユモンは頷いた。
「オレ様も狡猾に慎重に生きてる奴が悪いとは思わねェよ。寧ろ、そっちの方が正しいとさえ思うがな……ただ、折角なら顔も名前も隠さない奴と話す方が気持ちは良いってもんだ」
「それは全く以ってその通りだと私も賛同するところだけどね。ただ、兎にも角にも誰にでも顔も名前も曝け出してしまうというのは止めた方が良い。まぁ、私は彼女とも交流があるから、その様子を見て名乗ってくれたのかも知れないがね」
「当たり前だろ。流石のオレ様でも、そのくらいの分別は付くぜ? 誰かも知らねェ奴にまで名乗りゃしねェよ」
「でも、最初は顔隠すのも嫌がってただろーが」
「それは、顔隠すのを嫌がったんじゃなくてマスクが好きじゃねェってだけな」
言い合う二人に小宅は苦笑しながらカウンターの奥に引っ込んでいくと……何かを袋に纏めて持って来た。
「はい、光の魔石を五つだったね。いつも通りので構わないよね?」
「おう、いつも通り品質は微妙で大丈夫だぜ」
「分かったよ。しかし、こんな魔石を定期的に買いに来て……何に使っているのやら」
「秘密だよ、秘密」
茜が受け取った袋を、ユモンが横から開いて覗き込むと、そこにはただの石のような見た目をした……だが、光の魔力を秘めている石があった。
「こんなしょぼいので良いのかよ?」
「良いんだよ。高いの買って来ても意味あるか分からねェし、それに光の魔石はそもそもが高いんだよ。自然に出来ることはあっても、作るのは難しいからな」
「あー、まァ、確かにな……?」
唸るような声を上げたユモンを無視して、茜はカウンターに代金を出した。小宅はそれを軽く数えると、直ぐに頷く。
「うん、確かに。毎度ありがとうね」
「こっちこそ、助かるぜ」
じゃ、と踵を返そうとした茜だが、それを小宅は呼び止めた。
「噂は色々と聞いているが……気を付けることだよ。この前も、ここら辺で騒ぎを起こしていただろう」
「へッ、何のことだかな……ま、忠告は受け取っておくぜ。あんがとな」
「構わないが、本当に気を付けてね」
心配そうに視線を向ける小宅に手を振り、今度こそ茜はユモンと共に店を出て行った。
「よぉ、光の魔石だ。五つくれよ」
「……君か。全く、少しはお喋りでもしていけば良いのにね」
階段を下りて直ぐ、茜が声を掛けると、カウンターの中に居た初老の男が首を振りながら言った。
「しねぇよ。つか、こっちの素性に気付いても言うんじゃねー」
「ははっ、これは失礼したね……では、失礼ついでに聞いても良いかな?」
「聞くなよ」
「そこの君の連れは、どちら様かな?」
初老の男に声を掛けられたユモンは、躊躇いも無く頭に被っていたフードを外し、マスクを取って男と目を合わせた。
「オレ様ァ、ただの付き添いだ。名前までは言わねェが」
「ほう……君は、珍しい子だね。この場所で態々顔を見せて話してくれる子が居たとは」
「テメェも顔隠しちゃ居ねぇからな。認識阻害の魔術までかけてねぇし、売る側はそういうルールだったりすんのか?」
「いんや、そんなルールねぇよ。そもそも、ここは誰かが明確に管理してるなんて訳でもねェしな。自分から顔も晒して商売してる変わり者はこいつくらいだろ」
茜が言うと、初老の男はふふと小さく笑った。
「商売とは信頼あってこそだろう? 顔も名前も隠してやるものじゃない。君も、顔が見える相手の方が信頼出来るだろう?」
「そりゃ間違いないな。仮面付けた商人なんてのも結構見た記憶はあるが、どいつもこいつも胡散臭かったからよ」
「という訳で、私はここでしがない商人をやっている小宅だ。今後ともよろしく頼むよ」
「あァ、オレ様はイカダチだ。よろしくな」
ユモンが男に名乗り返すと、茜はむっと眉を顰めてユモンの裾を引っ張った。
「おいッ、簡単に名乗ってんじゃねーよ!? お、お前馬鹿か……?」
「だって、名乗られたのに名乗り返さないのはマナー違反だろ?」
「そうだよ。それに、私と君達の仲じゃないか。そこまで警戒させなくても良いだろう」
初老の男の……小宅の言葉に、茜は首を振った。
「別にテメェに名前を知られることが嫌って訳じゃねぇよ……この分だと、誰にでも顔を見せて誰にでも名乗っちまうだろうが」
「ふむ……確かに、それは問題かも知れないな」
「どっちだよ。お前は顔も名前も隠さない方が良いって側じゃねェのか?」
「個人的にはね。だが、この界隈では……正直者は美徳であれど、得はしない。魔術士とは大抵が狡猾で卑怯で慎重な生き物だ。尤も、私はそれ自体が悪であると否定するつもりは無いがね」
小宅の言葉に、ユモンは頷いた。
「オレ様も狡猾に慎重に生きてる奴が悪いとは思わねェよ。寧ろ、そっちの方が正しいとさえ思うがな……ただ、折角なら顔も名前も隠さない奴と話す方が気持ちは良いってもんだ」
「それは全く以ってその通りだと私も賛同するところだけどね。ただ、兎にも角にも誰にでも顔も名前も曝け出してしまうというのは止めた方が良い。まぁ、私は彼女とも交流があるから、その様子を見て名乗ってくれたのかも知れないがね」
「当たり前だろ。流石のオレ様でも、そのくらいの分別は付くぜ? 誰かも知らねェ奴にまで名乗りゃしねェよ」
「でも、最初は顔隠すのも嫌がってただろーが」
「それは、顔隠すのを嫌がったんじゃなくてマスクが好きじゃねェってだけな」
言い合う二人に小宅は苦笑しながらカウンターの奥に引っ込んでいくと……何かを袋に纏めて持って来た。
「はい、光の魔石を五つだったね。いつも通りので構わないよね?」
「おう、いつも通り品質は微妙で大丈夫だぜ」
「分かったよ。しかし、こんな魔石を定期的に買いに来て……何に使っているのやら」
「秘密だよ、秘密」
茜が受け取った袋を、ユモンが横から開いて覗き込むと、そこにはただの石のような見た目をした……だが、光の魔力を秘めている石があった。
「こんなしょぼいので良いのかよ?」
「良いんだよ。高いの買って来ても意味あるか分からねェし、それに光の魔石はそもそもが高いんだよ。自然に出来ることはあっても、作るのは難しいからな」
「あー、まァ、確かにな……?」
唸るような声を上げたユモンを無視して、茜はカウンターに代金を出した。小宅はそれを軽く数えると、直ぐに頷く。
「うん、確かに。毎度ありがとうね」
「こっちこそ、助かるぜ」
じゃ、と踵を返そうとした茜だが、それを小宅は呼び止めた。
「噂は色々と聞いているが……気を付けることだよ。この前も、ここら辺で騒ぎを起こしていただろう」
「へッ、何のことだかな……ま、忠告は受け取っておくぜ。あんがとな」
「構わないが、本当に気を付けてね」
心配そうに視線を向ける小宅に手を振り、今度こそ茜はユモンと共に店を出て行った。
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