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プロローグ
第0話 理想の女性魔女を作ろう!
しおりを挟む大江祐二はコンピュータ技術者。
技術者とひと括りに言うが、その内容は雑多である。ハードウェアを扱う者、ソフトウェアを扱う者、さらに細かく分類すればシステムを設計する者から、実際にプログラムを書く者など職種は多岐に亘るのだ。
祐二はその中でもけっこう特殊な、システム間パッシングという部署を担当していた。主任とか責任者とかではなく、いち技術者としてだけれど。それでもまだこのジャンルでは熟練者が少なく、ほとんど少数精鋭というか掛け持ち上等というか、少ない人数で数多い問題点や用途手順を調整しまくる、便利屋みたいに駆け回っていた。
バーチャルリアリティ技術が確立されてそろそろ5年。
先駈けとして小回りの効く中小企業が、ネットワークを介したVRタイトルをリリースしていたが、某大手ソフトウェア会社がVRゲームサービスに参入を決めた。それは大規模多人数同時参加型オンライン(MMO)ゲームであり、VRネットゲームとしては初の本格的マルチプレイヤーシステムとなる。
それまでは個人でシナリオを進めたり、状況を打開していくようなゲームであり、ゲーム中でチャットができたり、アイテムのゲーム内売買ができる程度の「似非マルチプレイヤー」でしかなかった。
しかし本作はプレイヤーだけでなく、大勢のN P Cが存在し、膨大なゲーム世界を支える役割を担っている。これには高度なコンピュータシステムが必要なのだ。
そもそもいくらコンピュータが発達したとはいえ、ユーザーに不自然を感じさせないような人工知能を稼動させるためには、1台のコンピュータで20人程度のNPCしか動かせない。これまでのゲームのような、定型のガイドNPCとは違うのだから。
さらにはシナリオ進行、条件分岐判断、ユーザーインターフェイスなど、既存のシステムでは全く役に立たない運営が求められる。
難しい話はざっくりまとめるとして、新しいVRゲームを始めるには新しいシステムをゼロから作らなければならない、ということだ。
そんな訳で。
スーパーコンピュータ用に研究されていた、極小コンピュータを数万、数億のオーダーでひとつのシステムとするVRゲーム専用のサーバが作られたのである。
開発費は天井知らず。大手だからできる所業。
そんな開発スタッフの中の1人が祐二なのだった。
ハードウェアは各研究機関の成果の横流し。もちろんコストダウンも見込む。
問題は安定運用と、扱うソフトウェア側への技術指導。
祐二も数多くの企業へ走り回り、指導を重ねた。
その甲斐もあって管理者の育成やシステムマニュアル作成、各種開発ツールの充実などが整う。それこそ10年単位で行う仕事を、2年に押し込んだような密度で。
あらゆるテストを経て、やっとこさのリリース。
ユーザーへの開放、ベータテストへとこぎつけた。
そんな頃。
「大江さん、ひとつキャラ作ってみません?」
とある会社のチームリーダーに誘われた。
「3次シナリオの中ボスなんですけどね、特に条件分岐にも関わりませんし、大江さんの趣味丸出しのキャラを、お遊びで」
指導だけでは面白くない、関わった記念にユーザーにわからない部分でやってみませんか、とのこと。
確かに、シナリオ部分については門外漢だが、製作サイドのお遊びとしては悪くない。祐二は面白半分でそれを引き受けた。大した時間がかかる訳でもないし。
魔法使いとだけ決まっていたその中ボスを、ツールを使って作成していく。
(見かけはこんなものかな。魔法は‥‥そう、召還魔法で色んなモンスターをぶつけてくるってことで。魔族と人族のハーフで‥‥)
説明し慣れたキャラ作成ツールを使い、設定項目を埋めていく祐二。
「マジックポイントはいくらまでOKです?」
「レベル3の中ボスですよね? 設定が済んでいるなら、ツールが上限を決めてくれますよ」
数値設定のスライドバーが、確かに一定値以上に上がらなくなっていた。
しかし、だ。
「えっ? 5万?」
「ええっ? 中ボスですよね?」
武器・魔法の種別や攻撃手段にもよるが、このクラスのキャラなら5千くらいのはずだとリーダーは言う。
「ツールのバグですかね?」
祐二がそう苦笑していると、リーダーも。
「バグ潰してアップデートするよう、報告しときますよ」
と笑っていた。これまでにもちょくちょくあったらしい。
突貫のプロジェクトだしな、そういうことも珍しくないと祐二も納得する。
「ははあ、サモナーですか。召還数上限が決まっているなら、手数で押し切るタイプですかね。それならびっくり魔力量もキャラ固有数値ってことで良いんじゃないですか?」
別の職員が祐二の端末を覗き込んで言う。
「なるほど、ユーザーが中ボスのステータスを確認したら驚くパターンか」
問題はないだろうとリーダーがOKを出した。なので祐二は残りの項目を埋めていく。
(魔王様が大好き‥‥と)
性格の特記欄にそう記入し、ちょっと考える。
お遊びだし、もうちょっと変な設定にしとくか。
そして魔王様を削除、制作者の祐二が大好き、と書き直した。
テストプレイの時、もしくは正式実装の後に、祐二がこのキャラに出会うとどう反応するか興味ある。そう説明したらリーダーは笑ってくれた。
今から考えるとちょっと痛いが。祐二は別に二次元オタクではない。
ゲーム本体のベータテストも順調、1回目のバグフィックス&アップデートの日程も決まり、全体の調整が済んだところで、祐二の仕事は終わりとなった。
初期開発グループの打ち上げも終え、3週間の休暇をもぎ取る祐二。
これまで2年弱、ほとんど無休で働き詰めだったのだ。これくらいの休暇は当然である。さて、寝て過ごそうか、それとも旅行に行くのも良いかも。
3次会に行くぞ!という同僚を笑って見送り、日付が変わる頃に帰宅した。自室に置いてあるVRヘッドホンを何気なしに見る。
そういえば第3回追加シナリオのテストが始まっているはずだ。
自分たちは担当ではないけれど、そういうデバッグ・テストプレイ担当部署からの報告を情報共有ページで見た。
祐二もテストプレイアカウントを持っている。実装前のテストプレイは多ければ多い程有効なので、希望者にはアカウントが発行される仕組み。そうそうプレイする暇もなかったけれど、祐二も念のために取得していたものだ。
シャワーを浴びて寝る支度を整えた上で、祐二はパソコンデスクに腰掛ける。
酒のために多少は上気しているものの、まだ眠いほどでもなく1時間くらいならと気になっている事を確認するべく、ヘッドホン型のVRデバイスを被った。
祐二のVRデバイスは初期型のもので、簡易なヘッドホンタイプ。現在の主流である全感覚ヘルメット型のものと比べて質は劣るものの、何度かのバージョンアップを経て最新の状態にはしてある。多少、VRの手触りとか匂いとかが薄く感じられる程度の差異だ。
ゲームを存分に楽しむならともかく、テストプレイ程度なら特に問題はない。
視覚や聴覚、運動はちゃんと感じられるからだ。
ともあれ、気になっていたあの「中ボス」の召還魔法使いの魔女に会おうと、テスト用ゲームを起動させ、意識内に浮かぶ「プレイを始めますか?[Yes/No]」のアナウンスにイエスと念じた。
ゲームに使用するアバターを選択し、装備やステータスを確認後、ふわりとした一瞬の無重力感を感じて祐二の意識はゲームへと投影される。
――――ハズだった。
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