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第1章:本物の魔女だった?

第2話 異世界逗留決定ですか!

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「うわっ、すげぇ!」
 思わず声をあげる祐二。
 ここは召還魔法師ミラの居る第7軍の本部。ミラの私室から少し歩くと執務室を越えて3階部分のテラスに出た。どうやらこの建物は木材と石材を使った、6階建てのビルのようだ。
 そこからの景色は圧巻のひと言。

 背後に高山を控える、おそらくは盆地のような広い敷地に、外側から平屋か2階建てくらいの建物がみっちり、次に石造りのような3階建て以上の建物がみっちり、さらに5階建て以上の今居る建物のようなものが飛び飛びにあり、王城へと連なっている。もちろん王城の巨大さ、荘厳さは言わずもがな。
 この第7軍「暁の魔法団」本部ビルが、魔王城を中心とした扇状都市の王城寄り最東部にあるお陰で、その全てを見渡すことができるのだ。
 それがまたVRデバイスを介して見るイメージとはまた違い、リアルはやはり違う。背景の「絵」という感じではなく、まさに都市! まさに王城! といった迫力というか威圧感というか、半端ない。
「釈迦に説法、とでも言いますか、南の方から一般都民区、公的施設区、行政軍隊施設、そしてゼファール王城という区画分けになっております」
 ミラの秘書という魔族男性、ソートンが説明してくれた。
 確かにデザイン画はどこかで見せてもらった気がする祐二。しかし実際に見れば感動も違う。デザイン画は広さとか密度とかの概念が読み取れないものだし。


 さて、なぜ祐二がまたミラの許を訪れているのか。
 それは先程のログオフ時のこと。
「え? 何で?」
 祐二には2つの記憶があった。1つはゲーム内で中ボスのミラに会いに行き面会してきたもの。ゲーム内のミラは平静を装いつつも喜び、祐二のおかしな設定への謝罪を受け入れて、また会いに来て欲しいと求められた。
 ほんの1時間少々だったが、帰る際にはミラの許へ移動できる特殊アイテムを受け取って、ログアウトしたもの。
 もう1つは異世界のミラとの邂逅である。
 記憶の混濁というか、2件の面会が同時にあったような、おかしな感覚を感じたのだ。
 しばらくはVRヘッドホンも外さず、呆然としていたけれど、何度思い返しても夢とか幻のたぐいとは思えなかった。そんなに深酒はしていないが、酒に酔った状態でログインしたのはマズかったかなとはちょっとだけ思ったけれど。

 ともあれ、だ。
 本物のミラの居る異世界に興味があった。似ているとはいえ、全く同じ世界では無いだろうし、こんなチャンスはそうそう有るものでもない。
 何より明日(0時を回っているし正確には今日)から3週間のお休みだ。ログイン時間ギリギリまで異世界に居たって良い。
 と、いう訳で再度ログインした次第。
 ミラに確認したところ、本体がログアウトしても問題はないとのことで、祐二はしばらく異世界に滞在することにした。
「そうか、私生活に問題が無ければこちらに居ると良い」
 ミラも冷静に対応してくれているが、おそらく尻尾があればブンブン振り回しているであろうくらいに喜んでくれたようだ。祐二もそれくらいは空気が読める。
 よくある主人公の「鈍感設定」は無い。

「届いてる?」
『うわ、ビックリした! 自分からチャットトークとか、どうなってんの、これ?』
「よしよし、届いてるね。問題ないみたいだから、こっちしばらく居ることにする。そっちも問題ないね?」
『おー。仕事始まるまでには‥‥って、それも関係ないか』
「まあ記憶が混乱しない程度には戻るし」
『了解、死なないように楽しんでこい』
 驚いたことにゲーム内でのメニューが異世界でも使えるようで、祐二は本体へとチャットを飛ばしてみた。これもちゃんと届くようだ。原理がどうなっているのかも不明だけれど。
 とりあえずフレンドリストに本体を登録。多分、本体も祐二を登録しているはず。しばらくすると本体のオンライン表示が消えたため、ログアウトしたのだろう。


 会議があるとかで、ミラは渋々と後を秘書であるソートンに任せて退室した。
 祐二のことは『異世界の賢者だ』と紹介してくれ、詳しいことは伏せてくれている。
 そして街が見たいと祐二が望んだ結果が、冒頭のテラスからの遠景である。
「凄いね、人口はどれくらい?」
「はい、流入者や冒険者の出入りもありますが、おおよそ150万人といったところです。周辺の王都管轄の町村部まで含めると、200万人くらいですね」
「うわ、本当に大都市だ!」
 設定では魔王国は周辺の人間の国と戦争状態であったはずだが、祐二がそれを尋ねると、やはりいくつかの国家とは小競り合いを繰り返しているらしい。
「先王様も現陛下も和平主義者なので、いくつかの国とは国交もあるのです。しかしこのゼファール国は広大で肥沃な農地を持つため、それを狙った周辺国が居りまして」
 ソートンも苦笑する。
 ただ防衛は今のところ順調らしい。
 あとこの国は「魔王国」ではなく、正式には「ゼファール連合王国」という。国王の名前はウィリアム・アーネン・ゼファール。ゼファール国王領と、いくつかの魔族小国が寄り集まって連合国を成しているのだとソートンは説明した。

「ん? アーネン?」
 祐二はその名前に聞き覚えがある。先程、目の前のソートンが名乗った名前が「ソートン・アーネン」だったはずだ。
「はい、私は先の王妃様に連なる一族の末席におります」
「えっ? ってことは王族?」
「いえいえ、確かに現王陛下とは従兄弟の血縁ではございますが、我が一族は下級貴族の端くれ。しかも私は‥‥」
 少々恥ずかしそうにソートンは小声で。
「魔力も人並みで魔法に長けている訳でもなく‥‥」
 それで魔法軍団の役職でもない、秘書の立場に居るのだと語った。
「ふうん?」
 いかにも能力重視らしい魔王国だと思った。それは元々平民であるミラが第7軍副団長に居ることからもわかるけれど。


 その後も国や王都の話を聞き、ミラが会議から戻ってくるまで雑談が続いた。
 喉元まで出かかった話題を押し込めたまま。



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