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第1章:本物の魔女だった?
第4話 魔法を指導しますか!
しおりを挟む祐二の元のゲーム世界では“メニュー”が使用できた。
ゲームとしては当たり前であるが、自身のステータス確認であるとか、アイテムの管理に始まり各種情報の表示やコミュニケーション機能など、いろんな機能がある。
さらに祐二はテストプレイにも関われる開発の人間だ。デバッグやパラメータ管理、設定変更、状況変更など普通のテストプレイヤー以上の機能を使いこなせる。もちろんシステム根幹に関わるプログラムなどは迂闊に触れないが、ある程度のパラメータや条件分岐などは変更できるようになっていた。
そして先の祐二本体へのチャットトークが出来たように、この異世界でも“メニュー”は使用可能になっている。
そのテストプレイ用メニューの中に、相手のステータスを確認できるものがある。もちろん一般のプレイヤーには無い機能。その機能が示していた。
名前:ソートン・アーネン
種族:魔族
性別:男性
年齢:142歳
体力:1240/1248P
魔力:14875/14878P
・
・
・
祐二が進言できると言った魔法について、ソートン自身は怪訝な表情を見せる。
細身で背が高く、小さいが山羊のような巻角を黒髪から生やす魔族。瞳も横長で山羊っぽく、一見して山羊の獣人に見えるが魔族である。角を持つ獣人は居らず、角があれば魔族とみなされる。
オーガなどの鬼族はまた違うけれど。
そんな青年が首をひねり、今更何をといった雰囲気をにじませていた。
「今朝も言いましたが、私の魔力量は‥‥」
諦めなのか、言葉尻に力はない。
そう、人並みなのだ。それも一般人並み。火を熾すとか水を出すだとかの生活魔法や、せいぜいがそこそこの攻撃魔法を数発、出せるくらい。ソートンはそう認識していた。
「魔力量は石で量られたんですよね? だから勘違いしたのだと思いますよ?」
祐二は説明した。
自分が相手のステータスを見る事ができるのは伏せておいて、ソートンに大きな魔力を感じると、出口が細いせいで魔力放出量が少ないことなどを伝える。
「大きな容器でも口が細いとチョロチョロとしか出ませんよね? それと同じなんですよ」
「そ、そうなのですか?」
祐二は力強く頷いた。
アーネン家は王族に連なる家系で、優秀な魔法師を多く輩出していた。なのでソートンにもかなり期待が寄せられていたのだけれど。
思春期にはある程度、魔力が増減する。ソートンは思春期を過ぎても子供の魔力量のままだった。
両親には幻滅されたが、それでも魔法師以外の道もあると慰められた。
学校の友人達にもバカにされたりもした。
家のつてで魔法師集団である第7軍に文官として勤めることができたが、魔法師たちには「アーネン家の残念な文官」と陰で笑われた。
それなのに。
目の前の召還されたという賢者は「あなたには素質がある」と言う。
戸惑うのも当然だ。
ミラが制服に着替え、執務室に戻ってきた。グレーの詰襟にタイトスカート、金糸銀糸で美麗な刺繍の施された、華やかな服装である。
一般兵卒は黒、上級官は紺と色分けされていて、団長は白ということだった。まだ祐二は目にしていないが。
ちなみにソートンは執事のような服装で色はグレー。
山羊なのに執事ってこれ如何に、ってやかましいわ!
「話は聞いている。鍛錬法を聞き、明日から3日間の鍛錬に励め。サーニャ導師が付いてくれる」
ミラはそう、ソートンに告げた。もちろん祐二の進言からだ。
最初はミラもいぶかしんでいたが、良い効果があるならと了承してくれた。
この世界で魔力を量るには、計測石という魔石の一種を使用する。魔力を通すとその強さに応じて光るものだ。
ところがこれは、電池をテスターで計るようなもので、強さは計れても肝心の容量は正確に量れない。それを勘違いして、ソートンは魔法適性小と思われていた訳で。
なので祐二は、使える大きな魔法を連続で、絶え間なく使用するように指導した。
「最初は出口が細いので苦労するでしょうが、体力を鍛えるのと同じで、だんだんと大きな魔力が使えるようになりますよ」
3日もあれば効果は充分に期待できるだろう、とも。
「ユージのその力は、秘匿しておいた方が良いな」
時刻も過ぎ、暗くなったので祐二は誘われるままに、ミラの家に世話になることにした。
実際の家は街の外れ、住宅街の一角にあるのだが、第7軍本部ビルにあるミラの私室からは転移魔方陣で徒歩3歩である。忙しい時には本部の私室に寝泊りすることも多いそうだが。
石造り平屋の4LDK。
王国軍の幹部としては小さな屋敷ではあるが、独り者が寝たり休んだりするには充分ということで、ずいぶんと前からここで暮らしているのだと言う。
週に2日、通いの女中さんが掃除や洗濯をしてくれているそうで、小奇麗であった。
最初はどこか宿に滞在するつもりだった祐二だが、ミラに「もてなさせてくれ」と強引に連れて来られたりして。
そして外の酒場だか食堂だかわからない店で夕食を済ませ、リビングのソファーで軽く酒を酌み交わしつつ雑多に話し合っていたところだ。
「聞いていた通り、ユージのことは賢者ということにしてある」
ゲームのプレイヤーである身分の“冒険者”よりは聞こえが良いし、うかつに戦力と捉えられて王国軍に組み込まれるのもやっかいという考えだ。
何せ‥‥
「そうだよなぁ、こんなメニューを使いこなしたら、それこそ独り大隊は間違いないしな」
そもそも一般的なプレイヤーのメニューとは違う。
テストプレイヤー用のメニューは、冒険者としてのレベルも改変自在、体力や魔力などのパラメータさえも変更できる。武具や魔法、アイテムさえ所持個数を変えられ、さらに祐二の場合は開発者権限で条件分岐やある程度のスクリプトまで変更できるのだ。
本気でやるなら、1国を相手に戦えるかも知れない。
「ふふふ、でもユージは戦争や政治に関わる気は無いのだろう? ならば私はユージの意向に沿うまでだ」
そして話し合い、賢者として求められれば条件付きで応じる、ということにした。
そうしていると時間も過ぎ、酒も深まってきた。
おそらく酒の力を借りたのだろう、ミラがかしこまった様子で祐二を見る。
「私はユージに会うのが夢だった。そして偶然にもそれは適った。ユージが認めてくれるならば、私は全力をもってユージに応えよう」
ゆっくりと対面のソファーを立ち、祐二の隣に腰掛ける。
「覚えておいてくれ、私の‥‥‥‥私の身も心も、あなたの物だという事を‥‥」
そんな言葉と視線に、祐二は抗えるはずもない。
その夜は実に濃密な夜だった‥‥。
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