スライムの、のんびり冒険者生活

南柱骨太

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第3章「迷宮へ行こう!」

第23話「チームのお泊り」

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 迷宮修行7日目。
 チーム夜明けの星は4勤2休なので、オーク横丁での滞在は9日目になるが、それは余談として。

 とうとうチームは第6階層に突入していた。短期間ながら5階層ではすでにやり尽くした感が出てきたためだ。そしてサニアの弓も解禁。元の「夜明けの弓」を携え、力加減も順調に大活躍であった。

 第6階層ではオークグループや、コボルトが出現するようになる。
 オークグループは10体以上のオーク集団で、4人で戦うには過ぎた相手なのだが、明らかにヤバい場合はシンジが本気でいくので問題はないだろうという判断だ。
 コボルトは2足歩行の犬魔物で、遭遇率は低めだが高度な技能職を持つため、かなりの強敵だ。技能の高い、剣士とか盾士とか魔法師、弓師という同じ構成だとチーム夜明けの星にとって、すごく対しづらい相手になる。逆に6匹全員魔法使いとかだと、非常に楽な相手だったりもするけれど。
 迷宮でのコボルトは難敵だが、実は大森林のコボルト族は魔物だが敵対種族ではない。ゴブリンやオークなどよりもはるかに知能が高く、そして臆病な種族だと知られている。
 狩猟や農耕を細々と営んでおり、もしヒト族に遭遇すれば逃げていくくらいなので、冒険者たちにも手を出さないよう通達されていた。
 またその知能の高さから、片言ながらもヒト族の言葉を解しており、エルゲの街には現れないが周辺の集落には物々交換に姿を見せることがあるらしい。

 そんな7日目、相変わらず勝利して喜び合ったり、退却して反省会をしたりして、そろそろ今日は終わろうかと思っていたところで騒ぎが起きた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 基本的に安全を考慮し、第6層の上り階段付近でしか活動しないのだが、通路の先も先の方で悲鳴が上がった。
 どうするかジミーに判断を求めると、行くだけ行って様子を見ようということになる。
 十字路の角から様子を窺うと、6人のパーティーがオークグループとコボルトたちに襲われていた。
 おそらくは状況的にオークかコボルトと戦闘したが、撤退中にもう一方に襲われて挟み撃ちになったのだろうと思われる。

 迷宮に限らず冒険者のマナーとして「早い者勝ち」というものがある。先に敵と接触したチームなりパーティーなりが、戦う権利を有するという意味で、後から戦闘に混じり、ドロップ品を掠め取っていく不心得者が居たためにマナーとして広められたものだそうだ。
 他にもチームやパーティーの一部が死亡した場合の持ち物は、元のメンバーに所有権があるとか、全滅の場合は発見者に権利があるとか。
 ただし遺体同様、装備も迷宮に吸収されてしまうことが多いので、迷宮での遺留品の発見は運次第でもあるけれど。
 また迷宮内の部屋で魔物を倒した場合、倒したメンバーが立ち去らない限りその部屋で魔物が湧くことはないため、安全地帯として使用されることがあるが、安全地帯は所有権利のあるメンバーの許可がないと後から来た者が使用できないとか。
 まあ色々とルールやマナーがある訳だが。
 こういう明らかに不利な戦いをしている場合、手伝いが要るかどうか確かめたり、手に負えそうにない場合等は無視するのがマナーである。
 わが身の危険を冒してまで他者を助ける義理も責任も無いのが、冒険者という危険な職業なのだから。


「シンジ、どうする?」

 ジミーはシンジに丸投げした。
 如何にしても、チーム夜明けの星には荷が重そうだったからだ。
 その点、人間としてのシンジではなく、スライムとしてのシンジであれば、軽くひねれそうな感じなので聞いてみた訳で。

「やめとこう。ここは迷宮だ、関わらないのが基本だし」
「ちょっと待って、あっち!」

 シンジが断ると、ルイーザが反対側の右方を指差した。

「うわ、追加オーダーかよ」

 ジミーが唸る。
 十字路の左手では他パーティーとオークにコボルト。そして右手からは騒ぎを聞き付けたのか、別のオークグループがやって来たのだ。
 あいつら死んだな、とジミーが階段方向へ撤退をサインすると、4人はこっそりと逃げ出した。
 ところが。

「‥‥私らの事は大丈夫だよ? 行きたいなら行けば?」

 どうやらシンジの足が重かったようだ。それに気付いたルイーザが、シンジを促す。
 シンジはルイーザの言葉に、「すまない」と駆け出した。あのパーティーの所に向けて。まあ普段のシンジならそうだよな、とジミーも後を追う。もちろんサニアとルイーザも、だ。
 シンジ自身も「まだ甘いよなぁ」とか苦笑いをしつつ叫ぶ。

「お前ら! 助けは要るか?」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「助かった。礼にもならんが、ドロップは全て受け取ってくれ」

 パーティーのリーダー代理はジェンドと名乗り、ジミーにそう勧めた。彼らにしても生き残れただけで幸運だったのだ。金額の知れたドロップ品にこだわる必要もない。
 魔法師の修行としていたから、シンジは5層6層のオークグループに手間取っていたのだ。身体能力の高い剣士としてのシンジには、先程の魔物に増援が加わったとしても敵ではなかった。
 もっともスライムの触手を他人に見せる訳にもいかず、ヒトの姿ではそれなりの時間はかかってしまったが、チームの援護もあって楽勝だったのは違いない。

「お前ら、まだ若いのに強いな!」
「いやいや、強いのはコイツだけでね、残りの俺たちは鍛錬目的だよ」

 ジェンドという男に言われても、ジミーとしてはむず痒いだけである。実際、シンジの指導でここ10日程の間に、かなり形になってきただけなのだ。

「もう少し早く来てくれれば‥‥」
「おい、サンドラ、やめろ!」

 やめろと言われても、いや言われてしまったからこそ、サンドラという女性は止まらなかった。助かったというのに喜びもせず、うずくまっていた女性だった。

「もう少し早く来てくれれば! デニスも! 助かったのに!」

 助けてもらえただけ幸運だったのだ、パーティーが全滅していてもおかしくない状況だった。それはサンドラもわかっているだろうが、悲しみは止むものではない。
 こういったチームやパーティーは、実はカップル率が高い。常に命がけの状況だからだろう、実際に夜明けの星もカップル2組だし。なのでサンドラと死んだデニスという男性も恋人同士だったと想像できた。
 またデニスはパーティーのリーダーでもあったようで、それでジェンドはリーダー「代理」なのだろう。

「‥‥すまない」

 シンジの言葉に、大声で泣き崩れるサンドラ。
 こんな時に他人がかけられる言葉など、あるものではない。
 大声に魔物が寄って来るかも知れなかったが、誰もサンドラを止めなかった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 第6層から5層へ上がってすぐの小部屋、ここが安全地帯となる。
 中に居たゴブリン6匹を倒せば、その後はなぜか人が立ち去らない限り魔物が湧かないので、石のドアを閉めてしまえば安全地帯に出来るのだ。

 迷宮というのは不思議な場所で、魔物をどれだけ倒しても尽きることなく湧いてくるし、魔物の湧く瞬間というのは誰も見たことが無いという。こうした小部屋でもいつの間にか魔物が発生し、居座っているのだから不思議な現象だ。
 学者の考えた一説によると、迷宮自体が巨大な魔物であり、迷宮内の魔物は入り込んだ異物を排除するための「迷宮の部品」だと言う。シンジにとってみれば、迷宮が血管で魔物が白血球だと考えれば、その通りなのかも知れないと思えるから案外正解なのかも知れない。
 また迷宮に挑む冒険者や、迷い込んだ魔物や動物たちを養分として、長い年月をかけて迷宮は大きく、そして深く成長するのだそうだ。本当に学者の言う「迷宮は魔物」は言い得て妙である。
 亡くなったデニスの遺体は、数分で溶けて消えた。迷宮で死んだ者は魔物と同じように、冒険者でもこうやって装備ごと消えるのだそうだ。残るのはドロップ品と同様の死者の装備品がいくつかだけである。

 正確な時間はわからないけれど、今から地上の町に戻っても夜半過ぎになり、宿に泊まれない恐れがあったので、チーム夜明けの星とジェンドたちのパーティーはここで野宿を決めたという訳だ。
 泣いていたサンドラは、今も同じパーティーの女性に宥められていた。
 そんな気まずい雰囲気の中、ジミーたちは遅い夕食を済ませ、毛布にくるまって睡眠を取る。こういった事態に備え、シンジは体内に食料やら毛布等のお泊りセットやらを準備していた。
 普通なら乾燥パンや干し肉や干し果物などの干物が携帯食の定番だが、シンジがスライムの体内庫に保存している間は時間経過が無いのか、店や屋台で買った食品も温かいまま取りだせるので、メンバーには好評である。それは食事の満足感だけでやる気も変わってくるというものだ。
 食品だけでなく、雑貨とか他にも色々と取り揃えているが、チーム以外の人間には内緒である。噂に聞く、見た目以上の容量を仕舞える「魔法鞄」なども存在するらしいけれど、本当に噂だけで実物を見たことが無いので、下手に誤魔化すよりは内緒にしておいた方が楽というものだ。
 そしてシンジが大量に抱える分、ジミーたち3人の装備は背嚢を含めて軽装になっていた。好評の理由その2である。

 眠る必要はないけれど、シンジも他に倣って毛布にくるまり、横になった。

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