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第3章「迷宮へ行こう!」
第26話「チームの成果」
しおりを挟むギルドに入り、迷宮を終えたことを報告する4人。
すると偶然ギルドのカウンターに居合わせた支部長が話し掛けてきた。
「おう、お前ら。初迷宮はどうだった?」
「どうもこうも、けっこうキツかったです」
「そうよねー、オーク20匹は無いわ」
「何層まで降りたんだ?」
「自分らでは6層までが精々ですね」
「そうかあ。10層より下なら、けっこう稼げるんだけどな」
そんな雑談を交わしていると、やはり気になるのかそば耳を立てている連中も居る。実力か資金かの問題でまだ迷宮に行けない者か、彼らと同じく浅層しか行けない者だろう。
そんな中、支部長はシンジに耳打ち。
「お前なら単独で奥まで行けるんじゃないか?」
「でも、まあ、チームですし、鍛錬が目的ですし」
「そうか。で、トラブルは無かったのか?」
そりゃもうてんこ盛りに、とシンジは笑う。
支部長もカウンター嬢も、なんとなく話を聞きたそうではあったが、サニアが依頼の掲示板を見てメンバーを呼ぶ。「またいずれ」とシンジはその場を後にした。
「オークの集落排除だって。行けるかな?」
「ちょっと待て、そりゃランク5の依頼だ」
「でも、今のあたしたちなら行けそうじゃない?」
ルイーザの「調子に乗せちゃダメな種類の人よね」の耳打ちに、思わずシンジも噴き出す。その様子に自分のことだと気付いたサニアは膨れっ面。
「何よ、もー!」
「おいおい、お前らそんな自信あんのかよ」
「そりゃもう、たっぷり修行してきましたから~」
顔見知りの冒険者のツッコミに、平然と言ってのけるサニア。
ジミーは頭を抱えている。
「これからのチーム夜明けの星にご期待下さい!」
サニアの宣言に「こりゃどこかでシメとかなきゃ」、と決意を新たにするシンジなのだった。そしてカウンター嬢も面白がって拍手をするのはヤメて欲しい、と思ったりもする。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
しかしサニアの宣言通り。
夜明けの星のメンバーは皆ランクが8なのだが、チームやパーティーなどであれば1つ上のランク7の依頼が受けられる。
堅実なジミーが自らの自信と、メンバーの実力の手応えで以って、着実に依頼をこなしていったのだ。これまでなら2~3日かかっていたであろう内容を1日で済ませたり、ランク7の中でも難しいであろう難物にチャレンジしてクリアしたり。
そりゃもう支部長がシンジに「お前ズルしてないだろうな?」と確認に来るくらいであった。
さらには大掛かりな依頼に、他のチームとパーティーを組んで挑んだ際、「あいつら絶対にランク8じゃ無ぇ」と言われるくらいの快進撃であった。
「まぁ初迷宮で、第6層まで行っちゃう連中だ。実力はあるだろうよ」
という、支部長のヒゲだらけの笑みに違わない成果であった。
迷宮経験者はその言葉に頷き、未経験者は「いつかは俺たちも」とさらに迷宮への羨望を募らせる。
もちろん、お約束のチョンボもあった。
戦闘中にサニアが調子に乗り、前進し過ぎたのである。
これはしっかりとジミーがお灸を据えたらしい。どういう手段かはシンジもルイーザも聞かなかった。何だかちょっと怖くて。
ただでさえ2組ラブラブで有名な夜明けの星だが、それ以来サニアがさらにジミーにベッタリなのだ。そりゃもう、他の冒険者が引くくらい。
「サニア? その‥‥人前だから、ね?」
「嫌ッ!」
シンジとルイーザは、人の振り見て我が振り直せと肝に銘じた程だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
トラブルと言っていいのか、こんな騒ぎもあった。
「ちょっと! 傷が残ってないんだけど?! どういうことよ!」
迷宮を引き上げてきたサンドラたちのチームである。
実は治癒魔法では、小さな傷でなければ傷跡が残る。これは治癒魔法自体が「自身の治癒力を利用したもの」であるためで、傷も残らないような軽傷ならまだしも、重傷であればそれなりの傷跡が残るという理由だ。これは魔法薬でもある「治癒薬」でも同じこと。
ちなみに病気の場合は治癒魔法や治癒薬では改善せず、別の「治療薬」が必要になる。治癒魔法などでは体力を損耗するだけでなく、下手をすれば病状が進んでしまうからだ。もちろん「治癒薬」に比べて「治療薬」は非常に高価だ。
逆に「治療薬」では怪我は治らない。理由は判明していないが、これが定説。
ついでに体力を回復する「強壮薬」、魔力を回復する「魔力薬」などもあるが、こちらはけっこうお手軽な価格。シンジたちも常に持ち歩いている。
で、そのサンドラだが、これが素なのだろう、えらい強気で攻めてくる。
とはいえ非難ではない、どちらかというと贖罪だ。
「‥‥どういうことって、なぁ? 迷宮でドロップした謎の薬だったし」
「謎の薬って‥‥そんな物、どうやってお返しすりゃいいの!?」
もちろんシンジの誤魔化しだ。
シンジが大量に所持する沼の泥は、元々ヒト族には効かず、治療魔法と併用することで絶大な効果を生み出すことがわかった。おそらく泥の内包魔力の関係だろうと思われるが、治癒魔法の消費魔力削減、及び効果倍増といったところか。
しかも重傷者に対して使用したのは、実はサンドラが最初だったりする。なのでまさか傷跡も残らないとは、というのがチームメンバーの正直な驚きだった。
なぜならこれまで、メンバーが大怪我するとかシンジが許さなかったから。
そしてどう誤魔化すかは、シンジに一任。丸投げとも言う。
「元々、迷宮で拾った物だし。それに人助けに見返りなんて求めてないから」
「そーゆー訳にはいかないでしょ! 何万ギル払えばいいのよ~!!」
どうやらサンドラの中ではそれくらいの価値らしい。
サンドラのチームの2人も同じ気持ちらしく、グイグイとシンジたちに迫ってくる。
「お礼とかは良いです。その代わり、これからも僕たちと仲良くしてください」
「そんなことで良いの~? お姉さん、がんばっちゃうわよ~?」
そう言うと、サンドラはシンジを抱き締めてきた。
仲良く、ってそういう意味ではなかったのだが、シンジも逃げる隙がなかったようだ。
皮鎧越しではあるが、ぽわんぽわんでムギュムギュだ。これはルイーザでは味わえない感触であった。食糧事情的な問題か、この世界ではスレンダーな女性が多く、とりたててルイーザが貧相な訳ではない。
まだ、これからの希望もあるだろうし。
ちなみにサニアはまずまず、といったところ。
さすがにルイーザも、サンドラの行為は許せなかったらしく、シンジは早々に引き剥がされた。サンドラに威嚇する様子から事情を察したようで、サンドラはルイーザに謝っていた。
「何か色々と納得いかないけど‥‥これからもよろしくね」
そうチーム同士で握手して、その場は終わった。
チーム“疾風怒濤”はジェンド、インディ、サンドラの3人で、デニスが亡くなったため現在はジェンドがリーダーなのだそう。20代前半のランク6と7のメンバー構成だ。いわゆる中堅というところ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そうして数日が過ぎた頃、シンジたちはサンドラに夕食に招かれる。
大規模依頼の時などに知られているようで、サンドラの料理好き、腕前は割と有名らしい。ギルドでも多くの人に羨まれた。
「聞いたわよ! シンジ君も料理するんだって? 感想も聞きたいな!」
招かれた宿屋の一室には、数多くの料理が並んでいた。
サンドラは遠方の田舎出身だそうで、その地方の料理やエルゲでの家庭料理などが揃えられ、見た目にも豪華。マスの香草焼き、季節野菜のスープ煮、野ウサギの漬け焼き、茶色イノシシのカツレツなど、普段の宿屋や食堂では味わえないような手間のかかる料理ばかり。
この世界は簡素な料理ばかりだと嘆いていたシンジには、目の覚めるようなメニューが多かった。
皆で料理を味わいながら、思わずシンジも料理について話し込んでしまう。
うっかり前世の料理知識も交えて。
「えっ? 揚げ物? それどんな調理法なの??」
しまったと思ったが、もう遅い。遠い別大陸の料理だけど、と断って説明するしかなかった。
てっきりサンドラの用意したカツレツが揚げ物料理だと思ったら、砕いた穀物をまぶして油で焼いたものだったという、よくあるカツレツとトンカツの勘違いである。
それとシンジの知った事実。甘味はほとんど無いが調味料は割と揃っているらしい。それに香草も種類が多く、塩味メインになるがかなり味付けの幅は広いようだ。
驚きなのはしょうゆに似たものがあること。漬け焼きの香ばしさからそれっぽいと思っていたが、まさかのしょうゆであった訳だ。
発酵系の技術があるなら、同じような麹菌を利用した味噌や日本酒、味醂などの調味料から水飴などの甘味料まで作れるかも知れないな、とシンジは夢想する。
とりあえず入手に手っ取り早いのは、蜂蜜かなとも思うけれど。
料理を褒め、雑談に花を咲かせ、有意義な時間を過ごした。
そして次回はシンジの料理を振舞うと約束させられる。もちろんサンドラも知らない調理法を使って、だ。
メンバーは食べ過ぎたお腹を抱え、幸せな気分で宿に帰るのだった。
もちろん、雑談の中にも出てきた、元リーダーのデニスの死を悼みながら‥‥。
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