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#1 レツオウガ起動
Chapter01 邂逅 01-11
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辰巳の左掌は、確かに切れていた。人差し指の根本から斜めに走る傷が、掌を一直線に横断している。
だが、それだけだ。骨は断たれていない。血もまったく流れていない。
ただ銀色の鋼が、傷口から顔を見せていただけだ。
「いつつじ、くん。それ、って」
「ん、ああ。リザードマンだな。RPGとかでよく出てくるだろ?」
「いや、あのトカゲ人間達の名前じゃなくて。そりゃそっちも気になるけどさ」
思わずツッコミを返した後、風葉は改めて辰巳の左手を見る。
「その。五辻くんの、手が……」
「ああ、そういや言ってなかったっけ。俺、実は改造人間なんだ。主に左腕が」
「嘘!?」
「うんうん。嘘だと良かったんだけどなホント」
しれりととんでもないことを言いつつ、辰巳は左腕を突き出す。
「ま、とりあえず着替えるから下がっといて」
言いつつ、辰巳は左袖を軽くまくる。
トカゲ人間――もとい、リザードマン達へ宣戦布告するかのごとく、まっすぐに突き出される手刀。手首には、鍔のようにごつい腕時計が輝いている。
色は銀。傷口から見えた色も同じだったような――と訝しむ風葉を背に、辰巳は肘を基点に左腕を翻し、握った拳を天井へと向ける。
丁度リザードマン達の方へ文字盤を向ける腕時計。辰巳はその文字盤に手をかけ、下方へスライドさせる。
カシン、と響く鉄の音。
中から現れたのは、青い光をたたえる小さな石。
直径三センチほどだろうか。宝石のように透き通ったその青が、煌々とした光を灯す。
淡い、けれども確かな存在感を発するその青色に、先頭のリザードマンはいきなり吼えた。
「GAッ!? GARAAAAAA!!」
見開かれた赤い瞳に何故か驚愕をたたえながら、リザードマン達は辰巳へ向けて走り出した。
「い、五辻くん!?」
「心配ないさ」
ぼそりと。
振り向きもせず、吐き捨てるようにつぶやく辰巳。
「これが俺の、存在意義だからな」
ため息よりも小さい、どこか悲しげな独白。
それは一体どういう意味なのかを、しかし考えている暇はなかった。
予想だにしない響きが、風葉の疑問を消し飛ばしたからだ。
それは――
「セット、プロテクター」
『Roger Get Set Ready』
――辰巳の腕時計が立てた電子音声であった。
だが、それだけだ。骨は断たれていない。血もまったく流れていない。
ただ銀色の鋼が、傷口から顔を見せていただけだ。
「いつつじ、くん。それ、って」
「ん、ああ。リザードマンだな。RPGとかでよく出てくるだろ?」
「いや、あのトカゲ人間達の名前じゃなくて。そりゃそっちも気になるけどさ」
思わずツッコミを返した後、風葉は改めて辰巳の左手を見る。
「その。五辻くんの、手が……」
「ああ、そういや言ってなかったっけ。俺、実は改造人間なんだ。主に左腕が」
「嘘!?」
「うんうん。嘘だと良かったんだけどなホント」
しれりととんでもないことを言いつつ、辰巳は左腕を突き出す。
「ま、とりあえず着替えるから下がっといて」
言いつつ、辰巳は左袖を軽くまくる。
トカゲ人間――もとい、リザードマン達へ宣戦布告するかのごとく、まっすぐに突き出される手刀。手首には、鍔のようにごつい腕時計が輝いている。
色は銀。傷口から見えた色も同じだったような――と訝しむ風葉を背に、辰巳は肘を基点に左腕を翻し、握った拳を天井へと向ける。
丁度リザードマン達の方へ文字盤を向ける腕時計。辰巳はその文字盤に手をかけ、下方へスライドさせる。
カシン、と響く鉄の音。
中から現れたのは、青い光をたたえる小さな石。
直径三センチほどだろうか。宝石のように透き通ったその青が、煌々とした光を灯す。
淡い、けれども確かな存在感を発するその青色に、先頭のリザードマンはいきなり吼えた。
「GAッ!? GARAAAAAA!!」
見開かれた赤い瞳に何故か驚愕をたたえながら、リザードマン達は辰巳へ向けて走り出した。
「い、五辻くん!?」
「心配ないさ」
ぼそりと。
振り向きもせず、吐き捨てるようにつぶやく辰巳。
「これが俺の、存在意義だからな」
ため息よりも小さい、どこか悲しげな独白。
それは一体どういう意味なのかを、しかし考えている暇はなかった。
予想だにしない響きが、風葉の疑問を消し飛ばしたからだ。
それは――
「セット、プロテクター」
『Roger Get Set Ready』
――辰巳の腕時計が立てた電子音声であった。
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