神影鎧装レツオウガ【小編リマスター版】 #1

横島孝太郎

文字の大きさ
89 / 162
#1 レツオウガ起動

Chapter03 魔狼 03-04

しおりを挟む
「ッ!?」
 ギノアは、吹き飛んだ。
 辰巳に殴り飛ばされたから、というだけでは無い。
 切磋に発動させようとしたコートの跳躍術式が、肘打ちの直後に発動したためだ。かくてギノアは進行上の建物をすり抜けながら、実に数十メートルのアーチを描いた後、日乃栄高校グラウンドの真ん中に叩きつけられた。
 大きな、鈍い音が辰巳の耳に届く。幻燈結界が無ければ、きっと巨大な砂埃も巻き上がって見えただろう。
「すぅ――」
 残心して拳を解く辰巳は、まず最初に自動拳銃の制御を切った。
「カット、ハンドガン」
『Roger Handgun Return』
 光の粒となってこぼれ落ちていく自動拳銃を放りながら、辰巳はギノアの落下地点へ向かって歩き出した。いつもの渡り廊下を斜めに横切り、校舎をすり抜けながら、辰巳は少し右肩を回す。
 ケガという程では無いが、やはり少し違和感はあった。
 ラピッドブースターもそうだが、酒月さかづきが造った術式は強力な分ピーキーすぎる。パイルバンカーのように嗜好が強すぎるのも色々とアレだと辰巳は思う。
 まぁ、文句を言っても聞かない人種だという事も分かりきっているので、辰巳は早々に考えるのを止めた。
「それにしても……」
 辰巳は別の疑問を思考する。ギノアは分霊に、どうやってあれだけの霊力を使わせる事が出来たのか。
 前回フェンリル化していた時は、日乃栄の霊地から抽出した莫大な霊力があった。だが今回はそれがない。だというのにギノアは高火力の霊力弾を連射し、跳躍と防御の術式を二重に刻んだコートを装備していた。
 どちらか片方ならまだ分かる。だがその両方を行使する事など、本体ではない一介の分霊に可能なのだろうか――。
「――うん?」
 そう考えていた矢先、辰巳は足下に変なものを見つけた。
 砂の上、グラウンドの隅っこ。そこにあったのは薄黄色く古ぼけた、小指の先くらいしかない小さな塊。
 ただの石、ではないだろう。もしそうなら幻燈結界の薄墨に染まっているはずだ。
 程度はともかく霊力を帯びているらしいそれは、つまみ上げてみると予想以上に軽い。
 察するに、この塊がギノアの分霊の霊力源だったのだろう。
「しかし、こりゃ一体なんだ? キャラメルじゃないのは確かだが」
 いぶかしむ辰巳。だが検分する暇も無く、塊は辰巳の指をすり抜け、薄墨色に染まりながら地面に落ちる。残っていた僅かな霊力が拡散し、ただの塊に戻ってしまったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

処理中です...