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その名はスズカゼ
4.公的な観点から見れば、敵対関係にあります
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「アレがインターポールの……」
「ああ、M案件対策員。本当にお目にかかる日が来るとは」
「そもそも警官じゃないんだよな。確かエルガディア・グループとかいうとこの」
「らしいな。にしちゃあ良い動きをしてる」
「そらそら無駄口を叩くな、引継ぎは終わったから――」
口々に囃し立てる所轄警官や消防員達の声を、星山道彦は扉を閉じて遮断した。
「うーん。僕達思った以上に人気みたいですよ先輩」
「直に慣れるわ。それより星山クン、現場調査で第三者を可能な限り締め出した次にする事は?」
「ああ、えっと」
エルガディア・グループへスカウトされて半年、現場へ出て来たのは今回が初めてである星山は、必死に記憶を手繰り寄せる。
やがて思い出し、懐から取り出す。スマートフォンと、コンパスに似た金属機器。即ちマジック・ディバイダを。
「魔法を用いた現場の封鎖、でしたね」
星山はスマートフォンを操作。実行されるはアプリケーション、ではなく魔法だ。
連動するディバイダ先端から放たれた光は、扉を突き抜けて外の警官達を包む。ごく弱い催眠魔法。これで余程の事が起きない限り、彼らが非現実的な光景を見て驚く事はなくなった。
「よろしい。では検証を始めましょう」
そう微笑ましたのは、星山より背が高い金髪の女性である。
彼女の名はチェルシー・キーン。シニヨンでまとめた髪に、赤ぶちの眼鏡と緑の瞳。外観通り、チェルシーは日本人ではない。そもそも地球人ですらない。ミスカ・フォーセルと同じエルガディア人なのだ。
ミスカや星山と同じデザインのスーツに身を包む彼女は、おもむろに懐から取り出す。四辺を金属で補強された、小さい透明の一枚板。つまりプレートを。
慣れた手つきでチェルシーはプレートを操作し、魔法を起動。プレートそのものが宙へ浮かぶと、彼女の右肩少し上で静止。更にその画面へ男の顔が表示される。
「繋がったか。こちらはエルガディア・グループM案件対策室所属のミスカ・フォーセルだ。そちらは――」
映りこむ男――ミスカはプレートの画面越しに、チェルシー達の居場所を見た。
焦げた畳。割れた壁。散乱する家財の数々。様相は随分変わったが、見間違える筈がない。
そこはつい昨日、ミスカが地球から離れる原因の起点となった場所。つまり加藤一郎が借りていた部屋だった。
「――これはこれは」
「ハロー? こちらは同じくM案件対策室所属、チェルシー・キーンよ。珍しく下手を打ったみたいね、フォーセル捜査員?」
「キーン捜査員か。やむにやまれぬ事情があってな」
「へえ、どんな?」
「行方不明だったギガントアーム・ランバと接触した」
チェルシーの顔から微笑が消える。
「それは確かに、やむにやまれぬ事情のようね」
「ああ。そちらは現場検証か? 収穫はあったか?」
「これから始めるところよ。どんなお宝が」
軽く部屋を見回すチェルシー。うつ伏せの冷蔵庫と目が合った。
「出て来るやら」
「そうか。こちらはこれまでの経緯を纏めてある。そちらの彼に送れば良いんだな?」
「えっ? あっ、はい! 星山道彦です。初めましてよろしくお願いします」
「ああ、こちらこそよろしく。で、これが僕のレポートだ」
ミスカが言うと同時、星山のスマートフォンとチェルシーのプレートへデータが着信。星山は画面を見る。
「確認しました、ええと」
星山がスマートフォンを操作すると、画面からホロモニタを投射。チェルシー共々まず最初の情報、そもそも何故この部屋で爆発が起きたのかを確認する。
「成程。想像以上に大変な事になってるみたいね」
「ああ。今はその部屋の住人、加藤一郎と共に、現地で知り合ったアクンドラ人達と行動している」
「その辺もレポートに?」
「そうだ」
「成程、楽しみね」
小さく息をつくチェルシー。形の良い眉が少し歪む。
星山も眉間に皺寄せたが、こちらは別の理由だった。
「でも、何かヘンですね」
「? どうしたの星山クン?」
「この部屋の有様ですよ。それ程の爆発が起きたにしては、何というか」
言われて、チェルシーも気付く。グラウカの攻撃に加え、次元の亀裂が消失したのだ。なるほど爆発は起きただろう。
だが、それにしては。
「確かに、被害が少な過ぎるわね」
「やっぱ先輩もそう思いますか」
「ええ。このレポート通りの事が起きたなら、この部屋どころか建物の大部分が吹っ飛んでいてもおかしくない筈」
「そんなにですか!?」
「そうよ。でも、そうはならなかった。という事は」
「どこかに原因がある――」
言って、ミスカは思い出す。一郎が言っていた壁紙の話を。
「キーン、壁紙を調べてみてくれるか」
「壁紙を? 良いけど」
チェルシーは手近の壁により、焦げた壁紙をめくる。その下から現れたのは、やや大きなヒビが走る壁と。
明らかに魔法陣と思しき、幾何学的な文様であった。
「これは」
「防護魔法ね」
「二か月間、この部屋にはギガントアーム・ランバから魔力が流入していた。この魔方陣は、それを動力にして動いていたんだろう」
「でも、いつから? 誰が、何の目的で?」
「それを調べるのが、私達の最初の捜査方針ね」
「よろしく頼む。こちらも――む、そうか」
不意に、画面内のミスカが誰かに答えた。
「どうしたの、フォーセル捜査員」
「こちらの事情だ。そろそろ通信安全圏を抜けるという話でな」
「移動中、なんですか?」
「ああ、その辺の経緯もレポートへ纏めてある。最後の方だがな」
「解ったわ、じゃあそろそろ切った方が賢明ね。幸い、アナタと依頼人の加藤一郎さんの無事は確認できたし」
「ああ、速やかに合流を果たしたいものだ」
「難しそうだけどね、位置的に。ともあれ、幸運を祈るわ」
「ありがとう、そちらも幸運を。ではまた」
通信切断。ミスカの顔が消え、元の透明に戻るプレート。それを透かして、チェルシーは星山を見た。
「今、通信回線は何番を使ってたのかしら」
「え? ええと四番ですが」
「では、今後ミスカ・フォーセル調査員から来る通信は全て四番を使うように」
「え、良いんですか? 確か通信回線はエルガディア本国からの傍受を警戒して、たくさん用意してた筈では?」
「もう既にされてるわ」
「エルガディアにですか!?」
「違うわ。アクンドラ共和国によ」
星山は記憶を掘り起こす。アクンドラ。確かに今までのやり取りで一度、ミスカはその単語を口にしていた。
「エルガディアと対立関係にある国家、でしたっけ」
「正確にはそのうちの一つ、ね。まあ、色々とややこしい状況になってるんだけど……」
疑問は尽きない。だが取り急ぎ、チェルシー達がやるべき事は変わっていない。
「……その辺は、この部屋を調べてからにしましょうか」
「それもそうですねえ」
星山は改めて見回す。加藤一郎。涼しさと引き換えに異世界のいざこざへ巻き込まれた、不憫な被害者が居た部屋を。
◆ ◆ ◆
「フォーセル様ー! 聞いてますかー!? そろそろ通信警戒地帯に入りまーす! 中にお入りくださーい!」
呼び声を背に感じながら、ミスカ・フォーセルは手元へ視線を落とした。プレート。スマートフォン大の透明な板。それを介して今し方まで地球に繋がっていた通信回線は、四番を除いて接続不可となっていた。
「当然の処置だな」
「フォーセル様ー!」
「解っているとも」
振り向くミスカ。がたりと車体が少し揺れたが、歩みはまったく乱れない。
そう、車体だ。ミスカは今まで、走る大型車両の背中で通信していたのだ。
深い白色を基調としているこの大型車両は、一言で言えばアメリカで使われる大型輸送トレーラーに似ている。本体がコンテナ上の大型ユニットを牽引する構造なとまさにそれだ。しかして中身は全く違う。
「ようやく来られましたか! 先に行きますからね!」
牽引ユニットの中央、開いたハッチから顔を出していた赤髪の少女が、勢いよく引っ込んだ。彼女に倣い、ミスカもハッチへ入る。梯子を下りる。待っていたのは先程の少女と、長い通路だ。
等間隔に照明が並ぶ通路は車体と同じ白色で、床だけは鈍色の金属タイルが敷き詰められている。魔力循環合金。それだけでも驚きだが、特筆すべきはこの通路がそれぞれミスカの右手、左手、正面に伸びている事だろう。明らかに車外コンテナよりも長い。それだけ莫大な空間が、牽引ユニット内部には折り込まれているのだ。
それにしても、果たしていかほどの広さだろうか。設備から逆算するに戦艦一隻分あったとしても不思議ではないが、それにしては人が少ない――。
「さ、こちらです。若様がお待ちですよ」
思考を中断させたのは、先程からミスカを呼んでいた少女だ。確認もせずすたすたと歩いて行ってしまう。言葉こそ丁寧だが、応対はぶっきらぼう……と言うより、困惑と恐怖が邪魔をしている様子か。アクンドラ人によるエルガディア人への応対なのだから、これでも相当に丁寧な方とは言えるのだが。
故に、あえてミスカは彼女の名を呼んだ。
「ありがとう、シューカさん」
そう、彼女の名はシューカ。ギガントアーム・スズカゼをめぐって呉越同舟する事になってしまったアクンドラ人の少年、ジットに仕えるメイドの一人である。
「……」
ちらりと一瞥し、会釈するシューカ。それからまた歩いていく。背丈、恐らくは年齢もジットより小さいだろう彼女のヘッドドレスを眺めていると、すぐに目的の部屋へ辿り着いた。
「こちらです」
「ありがとう」
自動ドアを潜るミスカ。ちょっとしたオフィスくらいの大きさがある室内には、シューカが言った通りにジットと、他数名の姿があった。
「や、やった勝ったァーッ!!」
「くうっ、あそこで棒ブロックが来れば……!」
「これで一郎様の一勝五敗ですな」
「ほほー、まぐれとは言え若から一本取るとはやりおるのう」
そして、何やらパズルのゲームで盛り上がっていた。
ミスカの正面には大きな机があり、飲み物などいかにも会議する準備が整っている。
しかしてジットや一郎達が居るのは部屋の左手側、衝立で区切られた談話用のスペースだった。
「何をしているんだ」
「あ、フォーセルさん! 待ってましたよ!」
「おう遅いぞフォーセル。大分盛り上がってたから良いけどさ」
「それは申し訳ない。だがこちらも色々とやる事があってな」
あるいは、わざと泳がされていたか。少なくとも先程の通信は傍受されているだろう。そもそも現在の身体の再構成に使った魔力自体、ジットからの提供なのだ。自主スキャンでは特に問題は無かったが、それでも何か身体に仕込まれている疑いを、ミスカは外すつもりは無かった。
「そっか、すっかり忘れてたけどビジネスマンだもんなフォーセル。かかせないよなあ本社への連絡」
うんうん、と勝手に納得する一郎。その横では黒いスーツを隙なく着こなした男が、てきぱきとゲーム機やらティーセットやらを片付けていた。青い髪を後ろになでつけるこの男の名は、アルグ・セロ。やはりジットの部下の一人だ。
「にしてもスゲーよな、このトラック。住居として普通に快適だし、物理法則を無視してとんでもなく広いし。何よりスズカゼが丸ごと収まってるのが信じられねえよ」
一郎の言に嘘はない。昨日、トーリスを退けた後。十分ほどして現れたのが、ジットの所有するこの巨大車両ウォルタールだったのだ。
思い出す。未だスズカゼから降りられず、途方に暮れていた一郎。ジットの指示でその前に停車したウォルタールは、牽引ユニットの上面に巨大な魔方陣を発生させた。そしてその中から現れた巨大な作業用アームが、スズカゼごと一郎を内部へ引き込んだのだ。
「正確には空間接続魔法を応用して、ウォルタール内部の格納庫へ移動させたんですけどね」
「まあー大変だったのはその後じゃがなあ。特殊形状じゃから普通のギガントアーム用ハンガーは使えんし。精神融合型のギガントアームからズブの素人を引き剝がさにゃならんし」
「いやホントその節はお世話になりました」
そう一郎が頭を下げたのは中年男性の名はマッツ・アリン。年季の入った作業着から分かる通り、ウォルタールに所属するメカニックである。
「さて。フォーセルさんもいらした事ですし、頃合いでしょう。皆さんご着席ください」
宣誓するジット。いつの間にか部屋中央の大机に座っていた彼の身なりは、先日とは全く違ってる。軍服なのだ。深緑を基調とし、要所へ金色の刺繡が入る高級な装い。胸にはアクンドラの国章とディナードの家紋、それから特別大尉を示す階級章。皆が座るのを見計らった後、さりげなく軍帽を机上へ置く。気品が透ける仕草。
「では、改めて。僕はティルジット・ディナード四世。アクンドラ共和国、ディナード公爵の三男です」
そう名乗るジットの姿は、以前ミスカが資料映像で見たティルジット・ディナード四世、まさにその人であった。痛感する。あんな格好だったとはいえ、最初に気付いておくべきだった、と。
「……」
「加藤さん?」
「……えっ、えっ!? 次俺? じゃあえーと、加藤一郎、日本人、二十三歳。立場は、あー……今は職が無くて」
しなびて消える一郎の声を、ミスカは最初から聞いていない。公爵。世が世ならば、そんな肩書ではあるまいに。
胸中はともあれ、ミスカは名乗る。
「……ミスカ・フォーセル。エルガディア・グループ所属の調査員だ」
瞬間、一郎は部屋の温度が下がった気がした。原因は分かっている。アルグ、マッツ、シューカ達の三人の目だ。この場に居ない面々もそうだったが、どうした訳かウォルタールのスタッフ達は、皆ミスカを見る目が冷たいのである。
「さて。加藤さんのためにもまず最初に改めておきましょう。この世界、イーヴ・ラウスがどうなっているのか。僕達の属するアクンドラ共和国と、フォーセルさんの属するエルガディア魔導国が、どのような関係なのか」
「あ、ありがたい。丁度知りたかったんだよ着の身着のままでこっちの世界に来ちゃったからさ」
「そうでしょうそうでしょう。なので、手早く結論から行きましょう。アクンドラ共和国とエルガディア魔導国は、現在戦争状態にあります」
けろりと。
ティルジット・ディナード四世は言ってのけた。
「正確には少し違う。エルガディア魔導国は、イーヴ・ラウスにあるほぼ全ての国家と敵対関係にある。そして積極的に攻めている」
けろりと。
ミスカ・フォーセル調査員も言ってのけた。
「……。えっ」
それらを飲み込んで、理解するまでに。
加藤一郎は、少し時間がかかった。
「じゃあ、なんだ、つまり。エルガディアは、世界征服の真っ最中って事?」
「ざっくり言ってしまえば、そうなる」
「だから、フォーセルとジット君達は、その」
「はい。公的な観点から見れば、敵対関係にあります」
断言するジット。一郎は理解する。昨日からずっとミスカへ向けられていた冷ややかな視線、その意味を。
しかし、そうなると。
「……ん? あれ? でもおかしくない? 昨日ロボに乗って襲って来た敵の人。何て言ったっけ」
「トーリス。トーリス・ウォルトフだな」
「そうそう。あの人もエルガディア人? なんだよな?」
「そうだ」
「じゃあ変だろ。なんでエルガディア人同士で戦いになったのさ。あの時同じ国の人間だーって名乗れば良かったんじゃないの?」
至極もっともな一郎の疑問。ジット達アクンドラ側の者達も、無言のままミスカを見ている。
「もっともな疑問だ。だがそれにも明確な答えがある」
「それは?」
「エルガディア魔導国は、現在分裂状態にある。クーデターを起こした非公式政権が、国を乗っ取っているんだ」
「はぁ!?」
「そして僕とエルガディア・グループは、いわば倒された旧体制側の者という事になる。あの場でそこまで名乗れば、トーリス機は最初から腰のライフルを使っていただろうな」
「そんな、バカな。内戦状態なのに? 更に世界全体へケンカ売ってるって事?」
絞り出す一郎。対するジットは、真顔で首を振った。
「確かにそんなバカな、と言えれば良かったんですけどねえ。色々な要件が重なって、エルガディア魔導国の世界征服は驚くほどスムーズに進んでいましてねえ。特にそれを成す最大の原動力となったのが、武器形状へ変形する新型のギガントアームでした」
「それって、つまり」
「そう。ギガントアーム・ランバ……今はスズカゼだったか? と同型の機構を備える五体の特別機。それの仕業で、イーヴ・ラウスは酷い有様になっとるのよ」
言って、マッツは椅子にもたれた。
「具体的、には?」
「そうですね、衛星画像を見た方が早いでしょう。アルグ、映してください」
「仰せのままに」
「衛星あんのかよこの世界」
一郎がツッコむ傍ら、アルグは懐から取り出したプレートを操作。大机の中央へ大きな立体映像が出現。
「……? 何?」
サッカーボール。目にした瞬間、一郎はそう判断した。
だが違う。確かに巨大な半透明球体の上に、六角形の模様が張り付いている。そもそも六角形はサッカーボールと違って離れている。
数えると、六角形は全部で五つ。更によくよく見れば、全ての六角形は頂点部分から一本、光の線が伸びている。試しにその線を一本目で追っていけば、球体の上部にある一本の棒に辿り着く事が分かる。
不意に、一郎は気付いた。
つい最近、それと似たものを見た覚えがある事に。
「ひょっとしてさ。この、光の線に繋がってる棒が、エルガディアってとこ?」
「そうです。昨日、山の向こうに見えましたよね」
「山……」
と、言う事は、つまり。
視線を巡らす一郎。程無く見つける。エルガディアから少し離れた場所。球体の一角、白く変色している箇所。
エラーの類ではない。位置を示しているのだ。つい昨日、一郎自身が迷い込んでしまった氷樹林の位置を。
そもそもジットは言っていたではないか。衛星画像を出して欲しいと。
「つまり、これが、異世界イーヴ・ラウスの姿……!?」
「そうです。衛星写真で捉えた通り、この巨大な六角形は本当に存在しています」
「どうやって? いやそもそも何の為に!?」
「さっきも言ったじゃろう? ランバの同型のせいで酷い事になっとると」
マッツもまた己のプレートを操作。球体地図上へデータを重ねる。
「およそ一年前。塔と化したエルガディアから、六機のギガントアームが放たれた。うち一体はどうした訳かつい最近まで眠りこけておった訳じゃが、他はまったくそんな事がなかった」
追加表示される幾枚ものホロモニタ。映るのは、どれも不明瞭な写真ばかり。それでも莫大な魔力の奔流や破壊の爪痕は、ありありと見て取れた。
「個体名はそれぞれシュトローヴェ、ファズゲイル、ブランケイド、ガルドラ、デュフォーン。世界各地に降り立った各ギガントアームは、まず手始めに破壊活動を行った。写真の通りにの」
「そして、如何なる方法なのか。各機は六角形のフィールドで世界を切り取り、エルガディア魔導国の世界征服を盤石のものにしようとしている……」
マッツの言を引き継ぎながら、ジットはミスカを見据える。
「……僕は、おおむねこのような情勢だと認識しています」
「そうだな、おおむね正しい。だが先程も言ったように、この状況はクーデター派による凶行だ。正当なエルガディア魔導国政府筋に掛け合えば、大多数が否を唱えるだろう」
「カァ! 言うも言うたりよな!」
吐き捨てるマッツ。ミスカは表情を動かさない。
どころか、マッツへ敢えて水を向けた。
「そうだな、このままではずっと平行線だ。よろしくない。よって、こちらから切り出させていただく」
「えっまだ本題じゃなかったの」
「そりゃそうだろう。イーヴ・ラウスの話をするだけなら、加藤をこの場に呼ぶ必要はないからな」
「あー……釈然としないけど、成程。逆に俺が必要って事は、やっぱスズカゼ絡み?」
「そうですね。加えて此方の主メカニックであるマッツ・アリンが同席しているとあれば、まあ分かり切った事ですね」
「すみません俺はわかんないんですが」
小さく挙手する一郎を、ミスカは一瞥。すぐに視線を戻す。
「そうだな、なら端的に言おう。彼らはこのまま、スズカゼを用いて六角形の一つへ強襲をかけようとしている。その為に僕が邪魔なんだ」
「えっ? なんで?」
「ギガントアーム・スズカゼの起動システムは特殊なものでな。登録されたパイロットでなければ、動かす事が出来ない」
「そうなの!?」
「そうとも。そしてそのシステムへ、僕は少し割り込みをかけさせて貰った」
「どんな」
「簡単な話よ。加藤一郎だけでなく、ミスカ・フォーセルも居らねば動かんのさ。ギガントアーム・スズカゼはな」
会議が始まってからずっとしかめ面だった理由を、マッツはこの時ようやく吐き出した。
「ああ、M案件対策員。本当にお目にかかる日が来るとは」
「そもそも警官じゃないんだよな。確かエルガディア・グループとかいうとこの」
「らしいな。にしちゃあ良い動きをしてる」
「そらそら無駄口を叩くな、引継ぎは終わったから――」
口々に囃し立てる所轄警官や消防員達の声を、星山道彦は扉を閉じて遮断した。
「うーん。僕達思った以上に人気みたいですよ先輩」
「直に慣れるわ。それより星山クン、現場調査で第三者を可能な限り締め出した次にする事は?」
「ああ、えっと」
エルガディア・グループへスカウトされて半年、現場へ出て来たのは今回が初めてである星山は、必死に記憶を手繰り寄せる。
やがて思い出し、懐から取り出す。スマートフォンと、コンパスに似た金属機器。即ちマジック・ディバイダを。
「魔法を用いた現場の封鎖、でしたね」
星山はスマートフォンを操作。実行されるはアプリケーション、ではなく魔法だ。
連動するディバイダ先端から放たれた光は、扉を突き抜けて外の警官達を包む。ごく弱い催眠魔法。これで余程の事が起きない限り、彼らが非現実的な光景を見て驚く事はなくなった。
「よろしい。では検証を始めましょう」
そう微笑ましたのは、星山より背が高い金髪の女性である。
彼女の名はチェルシー・キーン。シニヨンでまとめた髪に、赤ぶちの眼鏡と緑の瞳。外観通り、チェルシーは日本人ではない。そもそも地球人ですらない。ミスカ・フォーセルと同じエルガディア人なのだ。
ミスカや星山と同じデザインのスーツに身を包む彼女は、おもむろに懐から取り出す。四辺を金属で補強された、小さい透明の一枚板。つまりプレートを。
慣れた手つきでチェルシーはプレートを操作し、魔法を起動。プレートそのものが宙へ浮かぶと、彼女の右肩少し上で静止。更にその画面へ男の顔が表示される。
「繋がったか。こちらはエルガディア・グループM案件対策室所属のミスカ・フォーセルだ。そちらは――」
映りこむ男――ミスカはプレートの画面越しに、チェルシー達の居場所を見た。
焦げた畳。割れた壁。散乱する家財の数々。様相は随分変わったが、見間違える筈がない。
そこはつい昨日、ミスカが地球から離れる原因の起点となった場所。つまり加藤一郎が借りていた部屋だった。
「――これはこれは」
「ハロー? こちらは同じくM案件対策室所属、チェルシー・キーンよ。珍しく下手を打ったみたいね、フォーセル捜査員?」
「キーン捜査員か。やむにやまれぬ事情があってな」
「へえ、どんな?」
「行方不明だったギガントアーム・ランバと接触した」
チェルシーの顔から微笑が消える。
「それは確かに、やむにやまれぬ事情のようね」
「ああ。そちらは現場検証か? 収穫はあったか?」
「これから始めるところよ。どんなお宝が」
軽く部屋を見回すチェルシー。うつ伏せの冷蔵庫と目が合った。
「出て来るやら」
「そうか。こちらはこれまでの経緯を纏めてある。そちらの彼に送れば良いんだな?」
「えっ? あっ、はい! 星山道彦です。初めましてよろしくお願いします」
「ああ、こちらこそよろしく。で、これが僕のレポートだ」
ミスカが言うと同時、星山のスマートフォンとチェルシーのプレートへデータが着信。星山は画面を見る。
「確認しました、ええと」
星山がスマートフォンを操作すると、画面からホロモニタを投射。チェルシー共々まず最初の情報、そもそも何故この部屋で爆発が起きたのかを確認する。
「成程。想像以上に大変な事になってるみたいね」
「ああ。今はその部屋の住人、加藤一郎と共に、現地で知り合ったアクンドラ人達と行動している」
「その辺もレポートに?」
「そうだ」
「成程、楽しみね」
小さく息をつくチェルシー。形の良い眉が少し歪む。
星山も眉間に皺寄せたが、こちらは別の理由だった。
「でも、何かヘンですね」
「? どうしたの星山クン?」
「この部屋の有様ですよ。それ程の爆発が起きたにしては、何というか」
言われて、チェルシーも気付く。グラウカの攻撃に加え、次元の亀裂が消失したのだ。なるほど爆発は起きただろう。
だが、それにしては。
「確かに、被害が少な過ぎるわね」
「やっぱ先輩もそう思いますか」
「ええ。このレポート通りの事が起きたなら、この部屋どころか建物の大部分が吹っ飛んでいてもおかしくない筈」
「そんなにですか!?」
「そうよ。でも、そうはならなかった。という事は」
「どこかに原因がある――」
言って、ミスカは思い出す。一郎が言っていた壁紙の話を。
「キーン、壁紙を調べてみてくれるか」
「壁紙を? 良いけど」
チェルシーは手近の壁により、焦げた壁紙をめくる。その下から現れたのは、やや大きなヒビが走る壁と。
明らかに魔法陣と思しき、幾何学的な文様であった。
「これは」
「防護魔法ね」
「二か月間、この部屋にはギガントアーム・ランバから魔力が流入していた。この魔方陣は、それを動力にして動いていたんだろう」
「でも、いつから? 誰が、何の目的で?」
「それを調べるのが、私達の最初の捜査方針ね」
「よろしく頼む。こちらも――む、そうか」
不意に、画面内のミスカが誰かに答えた。
「どうしたの、フォーセル捜査員」
「こちらの事情だ。そろそろ通信安全圏を抜けるという話でな」
「移動中、なんですか?」
「ああ、その辺の経緯もレポートへ纏めてある。最後の方だがな」
「解ったわ、じゃあそろそろ切った方が賢明ね。幸い、アナタと依頼人の加藤一郎さんの無事は確認できたし」
「ああ、速やかに合流を果たしたいものだ」
「難しそうだけどね、位置的に。ともあれ、幸運を祈るわ」
「ありがとう、そちらも幸運を。ではまた」
通信切断。ミスカの顔が消え、元の透明に戻るプレート。それを透かして、チェルシーは星山を見た。
「今、通信回線は何番を使ってたのかしら」
「え? ええと四番ですが」
「では、今後ミスカ・フォーセル調査員から来る通信は全て四番を使うように」
「え、良いんですか? 確か通信回線はエルガディア本国からの傍受を警戒して、たくさん用意してた筈では?」
「もう既にされてるわ」
「エルガディアにですか!?」
「違うわ。アクンドラ共和国によ」
星山は記憶を掘り起こす。アクンドラ。確かに今までのやり取りで一度、ミスカはその単語を口にしていた。
「エルガディアと対立関係にある国家、でしたっけ」
「正確にはそのうちの一つ、ね。まあ、色々とややこしい状況になってるんだけど……」
疑問は尽きない。だが取り急ぎ、チェルシー達がやるべき事は変わっていない。
「……その辺は、この部屋を調べてからにしましょうか」
「それもそうですねえ」
星山は改めて見回す。加藤一郎。涼しさと引き換えに異世界のいざこざへ巻き込まれた、不憫な被害者が居た部屋を。
◆ ◆ ◆
「フォーセル様ー! 聞いてますかー!? そろそろ通信警戒地帯に入りまーす! 中にお入りくださーい!」
呼び声を背に感じながら、ミスカ・フォーセルは手元へ視線を落とした。プレート。スマートフォン大の透明な板。それを介して今し方まで地球に繋がっていた通信回線は、四番を除いて接続不可となっていた。
「当然の処置だな」
「フォーセル様ー!」
「解っているとも」
振り向くミスカ。がたりと車体が少し揺れたが、歩みはまったく乱れない。
そう、車体だ。ミスカは今まで、走る大型車両の背中で通信していたのだ。
深い白色を基調としているこの大型車両は、一言で言えばアメリカで使われる大型輸送トレーラーに似ている。本体がコンテナ上の大型ユニットを牽引する構造なとまさにそれだ。しかして中身は全く違う。
「ようやく来られましたか! 先に行きますからね!」
牽引ユニットの中央、開いたハッチから顔を出していた赤髪の少女が、勢いよく引っ込んだ。彼女に倣い、ミスカもハッチへ入る。梯子を下りる。待っていたのは先程の少女と、長い通路だ。
等間隔に照明が並ぶ通路は車体と同じ白色で、床だけは鈍色の金属タイルが敷き詰められている。魔力循環合金。それだけでも驚きだが、特筆すべきはこの通路がそれぞれミスカの右手、左手、正面に伸びている事だろう。明らかに車外コンテナよりも長い。それだけ莫大な空間が、牽引ユニット内部には折り込まれているのだ。
それにしても、果たしていかほどの広さだろうか。設備から逆算するに戦艦一隻分あったとしても不思議ではないが、それにしては人が少ない――。
「さ、こちらです。若様がお待ちですよ」
思考を中断させたのは、先程からミスカを呼んでいた少女だ。確認もせずすたすたと歩いて行ってしまう。言葉こそ丁寧だが、応対はぶっきらぼう……と言うより、困惑と恐怖が邪魔をしている様子か。アクンドラ人によるエルガディア人への応対なのだから、これでも相当に丁寧な方とは言えるのだが。
故に、あえてミスカは彼女の名を呼んだ。
「ありがとう、シューカさん」
そう、彼女の名はシューカ。ギガントアーム・スズカゼをめぐって呉越同舟する事になってしまったアクンドラ人の少年、ジットに仕えるメイドの一人である。
「……」
ちらりと一瞥し、会釈するシューカ。それからまた歩いていく。背丈、恐らくは年齢もジットより小さいだろう彼女のヘッドドレスを眺めていると、すぐに目的の部屋へ辿り着いた。
「こちらです」
「ありがとう」
自動ドアを潜るミスカ。ちょっとしたオフィスくらいの大きさがある室内には、シューカが言った通りにジットと、他数名の姿があった。
「や、やった勝ったァーッ!!」
「くうっ、あそこで棒ブロックが来れば……!」
「これで一郎様の一勝五敗ですな」
「ほほー、まぐれとは言え若から一本取るとはやりおるのう」
そして、何やらパズルのゲームで盛り上がっていた。
ミスカの正面には大きな机があり、飲み物などいかにも会議する準備が整っている。
しかしてジットや一郎達が居るのは部屋の左手側、衝立で区切られた談話用のスペースだった。
「何をしているんだ」
「あ、フォーセルさん! 待ってましたよ!」
「おう遅いぞフォーセル。大分盛り上がってたから良いけどさ」
「それは申し訳ない。だがこちらも色々とやる事があってな」
あるいは、わざと泳がされていたか。少なくとも先程の通信は傍受されているだろう。そもそも現在の身体の再構成に使った魔力自体、ジットからの提供なのだ。自主スキャンでは特に問題は無かったが、それでも何か身体に仕込まれている疑いを、ミスカは外すつもりは無かった。
「そっか、すっかり忘れてたけどビジネスマンだもんなフォーセル。かかせないよなあ本社への連絡」
うんうん、と勝手に納得する一郎。その横では黒いスーツを隙なく着こなした男が、てきぱきとゲーム機やらティーセットやらを片付けていた。青い髪を後ろになでつけるこの男の名は、アルグ・セロ。やはりジットの部下の一人だ。
「にしてもスゲーよな、このトラック。住居として普通に快適だし、物理法則を無視してとんでもなく広いし。何よりスズカゼが丸ごと収まってるのが信じられねえよ」
一郎の言に嘘はない。昨日、トーリスを退けた後。十分ほどして現れたのが、ジットの所有するこの巨大車両ウォルタールだったのだ。
思い出す。未だスズカゼから降りられず、途方に暮れていた一郎。ジットの指示でその前に停車したウォルタールは、牽引ユニットの上面に巨大な魔方陣を発生させた。そしてその中から現れた巨大な作業用アームが、スズカゼごと一郎を内部へ引き込んだのだ。
「正確には空間接続魔法を応用して、ウォルタール内部の格納庫へ移動させたんですけどね」
「まあー大変だったのはその後じゃがなあ。特殊形状じゃから普通のギガントアーム用ハンガーは使えんし。精神融合型のギガントアームからズブの素人を引き剝がさにゃならんし」
「いやホントその節はお世話になりました」
そう一郎が頭を下げたのは中年男性の名はマッツ・アリン。年季の入った作業着から分かる通り、ウォルタールに所属するメカニックである。
「さて。フォーセルさんもいらした事ですし、頃合いでしょう。皆さんご着席ください」
宣誓するジット。いつの間にか部屋中央の大机に座っていた彼の身なりは、先日とは全く違ってる。軍服なのだ。深緑を基調とし、要所へ金色の刺繡が入る高級な装い。胸にはアクンドラの国章とディナードの家紋、それから特別大尉を示す階級章。皆が座るのを見計らった後、さりげなく軍帽を机上へ置く。気品が透ける仕草。
「では、改めて。僕はティルジット・ディナード四世。アクンドラ共和国、ディナード公爵の三男です」
そう名乗るジットの姿は、以前ミスカが資料映像で見たティルジット・ディナード四世、まさにその人であった。痛感する。あんな格好だったとはいえ、最初に気付いておくべきだった、と。
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「加藤さん?」
「……えっ、えっ!? 次俺? じゃあえーと、加藤一郎、日本人、二十三歳。立場は、あー……今は職が無くて」
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瞬間、一郎は部屋の温度が下がった気がした。原因は分かっている。アルグ、マッツ、シューカ達の三人の目だ。この場に居ない面々もそうだったが、どうした訳かウォルタールのスタッフ達は、皆ミスカを見る目が冷たいのである。
「さて。加藤さんのためにもまず最初に改めておきましょう。この世界、イーヴ・ラウスがどうなっているのか。僕達の属するアクンドラ共和国と、フォーセルさんの属するエルガディア魔導国が、どのような関係なのか」
「あ、ありがたい。丁度知りたかったんだよ着の身着のままでこっちの世界に来ちゃったからさ」
「そうでしょうそうでしょう。なので、手早く結論から行きましょう。アクンドラ共和国とエルガディア魔導国は、現在戦争状態にあります」
けろりと。
ティルジット・ディナード四世は言ってのけた。
「正確には少し違う。エルガディア魔導国は、イーヴ・ラウスにあるほぼ全ての国家と敵対関係にある。そして積極的に攻めている」
けろりと。
ミスカ・フォーセル調査員も言ってのけた。
「……。えっ」
それらを飲み込んで、理解するまでに。
加藤一郎は、少し時間がかかった。
「じゃあ、なんだ、つまり。エルガディアは、世界征服の真っ最中って事?」
「ざっくり言ってしまえば、そうなる」
「だから、フォーセルとジット君達は、その」
「はい。公的な観点から見れば、敵対関係にあります」
断言するジット。一郎は理解する。昨日からずっとミスカへ向けられていた冷ややかな視線、その意味を。
しかし、そうなると。
「……ん? あれ? でもおかしくない? 昨日ロボに乗って襲って来た敵の人。何て言ったっけ」
「トーリス。トーリス・ウォルトフだな」
「そうそう。あの人もエルガディア人? なんだよな?」
「そうだ」
「じゃあ変だろ。なんでエルガディア人同士で戦いになったのさ。あの時同じ国の人間だーって名乗れば良かったんじゃないの?」
至極もっともな一郎の疑問。ジット達アクンドラ側の者達も、無言のままミスカを見ている。
「もっともな疑問だ。だがそれにも明確な答えがある」
「それは?」
「エルガディア魔導国は、現在分裂状態にある。クーデターを起こした非公式政権が、国を乗っ取っているんだ」
「はぁ!?」
「そして僕とエルガディア・グループは、いわば倒された旧体制側の者という事になる。あの場でそこまで名乗れば、トーリス機は最初から腰のライフルを使っていただろうな」
「そんな、バカな。内戦状態なのに? 更に世界全体へケンカ売ってるって事?」
絞り出す一郎。対するジットは、真顔で首を振った。
「確かにそんなバカな、と言えれば良かったんですけどねえ。色々な要件が重なって、エルガディア魔導国の世界征服は驚くほどスムーズに進んでいましてねえ。特にそれを成す最大の原動力となったのが、武器形状へ変形する新型のギガントアームでした」
「それって、つまり」
「そう。ギガントアーム・ランバ……今はスズカゼだったか? と同型の機構を備える五体の特別機。それの仕業で、イーヴ・ラウスは酷い有様になっとるのよ」
言って、マッツは椅子にもたれた。
「具体的、には?」
「そうですね、衛星画像を見た方が早いでしょう。アルグ、映してください」
「仰せのままに」
「衛星あんのかよこの世界」
一郎がツッコむ傍ら、アルグは懐から取り出したプレートを操作。大机の中央へ大きな立体映像が出現。
「……? 何?」
サッカーボール。目にした瞬間、一郎はそう判断した。
だが違う。確かに巨大な半透明球体の上に、六角形の模様が張り付いている。そもそも六角形はサッカーボールと違って離れている。
数えると、六角形は全部で五つ。更によくよく見れば、全ての六角形は頂点部分から一本、光の線が伸びている。試しにその線を一本目で追っていけば、球体の上部にある一本の棒に辿り着く事が分かる。
不意に、一郎は気付いた。
つい最近、それと似たものを見た覚えがある事に。
「ひょっとしてさ。この、光の線に繋がってる棒が、エルガディアってとこ?」
「そうです。昨日、山の向こうに見えましたよね」
「山……」
と、言う事は、つまり。
視線を巡らす一郎。程無く見つける。エルガディアから少し離れた場所。球体の一角、白く変色している箇所。
エラーの類ではない。位置を示しているのだ。つい昨日、一郎自身が迷い込んでしまった氷樹林の位置を。
そもそもジットは言っていたではないか。衛星画像を出して欲しいと。
「つまり、これが、異世界イーヴ・ラウスの姿……!?」
「そうです。衛星写真で捉えた通り、この巨大な六角形は本当に存在しています」
「どうやって? いやそもそも何の為に!?」
「さっきも言ったじゃろう? ランバの同型のせいで酷い事になっとると」
マッツもまた己のプレートを操作。球体地図上へデータを重ねる。
「およそ一年前。塔と化したエルガディアから、六機のギガントアームが放たれた。うち一体はどうした訳かつい最近まで眠りこけておった訳じゃが、他はまったくそんな事がなかった」
追加表示される幾枚ものホロモニタ。映るのは、どれも不明瞭な写真ばかり。それでも莫大な魔力の奔流や破壊の爪痕は、ありありと見て取れた。
「個体名はそれぞれシュトローヴェ、ファズゲイル、ブランケイド、ガルドラ、デュフォーン。世界各地に降り立った各ギガントアームは、まず手始めに破壊活動を行った。写真の通りにの」
「そして、如何なる方法なのか。各機は六角形のフィールドで世界を切り取り、エルガディア魔導国の世界征服を盤石のものにしようとしている……」
マッツの言を引き継ぎながら、ジットはミスカを見据える。
「……僕は、おおむねこのような情勢だと認識しています」
「そうだな、おおむね正しい。だが先程も言ったように、この状況はクーデター派による凶行だ。正当なエルガディア魔導国政府筋に掛け合えば、大多数が否を唱えるだろう」
「カァ! 言うも言うたりよな!」
吐き捨てるマッツ。ミスカは表情を動かさない。
どころか、マッツへ敢えて水を向けた。
「そうだな、このままではずっと平行線だ。よろしくない。よって、こちらから切り出させていただく」
「えっまだ本題じゃなかったの」
「そりゃそうだろう。イーヴ・ラウスの話をするだけなら、加藤をこの場に呼ぶ必要はないからな」
「あー……釈然としないけど、成程。逆に俺が必要って事は、やっぱスズカゼ絡み?」
「そうですね。加えて此方の主メカニックであるマッツ・アリンが同席しているとあれば、まあ分かり切った事ですね」
「すみません俺はわかんないんですが」
小さく挙手する一郎を、ミスカは一瞥。すぐに視線を戻す。
「そうだな、なら端的に言おう。彼らはこのまま、スズカゼを用いて六角形の一つへ強襲をかけようとしている。その為に僕が邪魔なんだ」
「えっ? なんで?」
「ギガントアーム・スズカゼの起動システムは特殊なものでな。登録されたパイロットでなければ、動かす事が出来ない」
「そうなの!?」
「そうとも。そしてそのシステムへ、僕は少し割り込みをかけさせて貰った」
「どんな」
「簡単な話よ。加藤一郎だけでなく、ミスカ・フォーセルも居らねば動かんのさ。ギガントアーム・スズカゼはな」
会議が始まってからずっとしかめ面だった理由を、マッツはこの時ようやく吐き出した。
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