12 / 13
後日談2 異国の花は戯れる
しおりを挟む
「私が見てもドキドキしちゃうわ。ちょっと触ってもいいかしら?」
「リリア様! 触るのはなしですっ」
「いいじゃない! 減らないわ!」
セドリックとリリアの結婚式が終わり、一ヶ月が過ぎた。
フリュージア王国では新しい王太子夫婦の誕生に国を上げてのお祭り騒ぎが続いていた。
リリアの母国であるファタニアからのキャラバンが滞在し、珍しい生地や宝石、陶器や食料などを販売し、お祝いムードを盛り上げていた。
異国からの王太子妃の誕生に、国民の中には戸惑いもあったが、キャラバンがもたらす新しい文化への興味と関心は、リリアに好意的に働いていた。実に商売上手なお国柄らしい王女への後押しだった。
数日前に結婚式参列の為に訪れていたファタニアの王族が国へ戻ると、キャラバンもそれに続き引き上げの準備が進み、お祭り騒ぎだった王都も少しづつ日常に戻りつつある。
祖国からの招待客や祝いの挨拶に訪れる貴族の対応に追われていたリリアも、少し落ち着きを取り戻していた。
専属侍女であるカトリーヌもリリアの一大イベントに、張り詰めていた緊張が解かれ、やっと戻ってきた日常に安堵していた。
そんな中、リリアの姉であるラミア王女から、結婚祝いのプレゼントが届けられた。
ラミア王女はちょうど出産を終えたばかりで、長距離の移動は難しく、結婚式への参列は叶わなかった。
リリアに会いたかったという内容の手紙が次兄であるハリオス殿下から直接届けられていた。
「お祝いにとっておきを贈るわね」といった内容であったのだが、それが届いたらしい。リリアの部屋は大量の包箱で溢れていた。
豪華な装飾がされた大小様々な包箱があり、試しに、一つ開けると、シルクとレースが使われたなんともセクシーな下着が出てきた。
「お兄様のお店の品ね! とっても素敵なのよ!」
目をキラキラさせたリリアが箱の中からそっと中身を持ち上げる。大事なところが全く隠れない紐のような下着があらわれ、カトリーヌは目を白黒させた。
リリアは普段からシルクのキャミソールやレースの下着など好んで着用している。
ただ、今回プレゼントされた下着は、手触りが他とは比べものにならないほど上質なものや、布面積が極端に少ない、パートナーの目を楽しませるだけに作られたものであり、確かにとっておきが集められている。
「まだ夕食までには時間があるわね。せっかくだから着てみましょう!」
弾んだ声で包箱を見まわしたリリアの合図で、試着大会が始まろうとしていた。
「こんな繊細な下着があるのですね」
カトリーヌは、もの珍しさに、とても手触りのいいキャミソールを撫でた。
胸元はレースで花模様に飾られ、ストラップ部分は葉の模様が刺繍されている。胴体部分はシンプルで、柔らかく肌に吸い付く様な生地が使われていてずっと触りたくなるような質感だ。ただし、セットで入れられていたブラジャーとパンツらしきものはほぼ紐でできており、何も支えていないし、隠してもいない。これを使用してキャミソールを着ても、ただ輪郭を強調された胸がレース部分から丸見えである。
「じゃあカトリーヌはそれを着てみてね」
「えっ?」
「こんなにあるのよ?私一人で全部試せというの?」
「少しずつ見られたらよいのでは……?」
「だぁめ! カトリーヌ。お願いよ、ね? ね?」
キラキラとした目でお願いされればそれ以上断ることは出来ず、渋々ながら一着だけと了承したのだった。
リリアが色々丸見えのお互いの姿を見て、キャーキャーとはしゃいでいる。ここ最近の忙しさもあり、こんな事で喜んでくれるなら付き合って良かったと、カトリーヌは、きっかけをくれたラミア王女とハリオス殿下に感謝した。
リリアは嬉々として箱を開けていく。小さめの箱にはストッキングやガーターベルトなどが入っていた為、あーでもないこーでもないと悩みながら他の下着と合わせていく。
結局、全ての箱を開け、一つ一つその繊細な作りに感動し、ファタニアの洗練された職人達の様子を語り、兄であるハリオス殿下の生地へのこだわりやラミア王女との買い物の思い出などを楽しそうに語っていた。
「こんなにはしゃいだのは久しぶりよ。カトリーヌ。付き合ってくれてありがとう」
リリア渾身のコーディネートが出来上がり、鏡の前でくるりと回転し満足そうに微笑んだ。
「セドリック様にお見せするのはいつになるかしらね」
箱の装飾をなでながら笑うリリアは、どこか寂しげで、リリア様にこんな顔をさせるなんてセドリック殿下は何をしているのかしらと、カトリーヌは眉を寄せた。
新婚だというのに、なかなか会う事が出来ない王太子への不満を胸に押し込む。
カトリーヌはリリアにガウンをそっとかけ、夕食のお誘いに使いを出しておきますねと言えば嬉しそうに頷いてくれた。
少し休憩しようと、お茶の準備に取り掛かるが、流石にセクシーすぎる下着のままでは恥ずかしく、もともと着ていたデイドレスをサッと羽織った。
リリアの好きな紅茶とカトリーヌが常備しているファタニアの砂糖菓子を一緒に出せば、リリアが笑顔を見せた。
その時、ドアからコンッとノックの音がした。返事をする間も無くガチャリと扉がひらき、セドリックが入室してくる。
「リリア! ラミア王女から手紙がきたぞ。とっておきを贈ったからリリアに会いに行け……と……」
話しながら入ってきたセドリックが、広げられた包箱とガウン一枚の姿で座るリリアを見た。
咄嗟に後ろに立つアルバールの目を塞ぎ、騒ぎ出す。
「見るな! リリアがへる!」
「目は瞑りました。それにあなたの後頭部で何も見えていません」
アルバールの目の前で手を振り、見えていない事を確認すると、そのままズンズンと部屋の中に入ってくる。
カトリーヌはガウン姿のリリアや、開けたままの箱の中身や散らかって見える部屋など何から隠したらいいのか分からず咄嗟に動く事ができなかった。
セドリックがリリアの前まで来ると、ガウンから覗いているキャミソールの刺繍を撫でた。
「ファタニアの職人はやはり腕が良いな。とても繊細だ。私に見せてくれるんだろう?」
セドリックは、リリアを優しく見つめる。一瞬で破顔したリリアが「ええ!もちろんよ」と飛びつき、そのままだき抱えて寝室に向かっていく。
カトリーヌは、突然のセドリック登場に驚いたが、二人のやり取りに思わず顔が緩む。
やっと会えた二人をこのままそっとしておこうと、退室するために、入り口にいるアルバールに近づいた。
まだ目を瞑ったまま立っているアルバールの手にそっと触れた。触れた手の温もりに、思わず会いたかったとポツリと言えばギュッと握り返された。
見上げれば視線が絡み、こちらを見下ろす金の目は優しく細められている。
「リリア様の方を見たらだめですよ」
「カトリーヌしか見えないよ」
「っ……! もうっアルバール様っ!」
「ははっ! なかなか会えなくてそろそろ限界だと思っていた所だったんだ。同じ気持ちでいてくれて嬉しくてね」
カトリーヌも寂しかったのだと実感し、繋いだ手をしっかりと握り返す。
二人が寝室に入るのを見届け、そのまま退室しようと思っていたところ、セドリックに抱きついているリリアが肩越しにカトリーヌに呼びかけた。
「カトリーヌ! ソレはあなたに差し上げるわね。そのまま着て行ってね!」
固まってしまった私を見てニッコリと微笑む。
部屋中にセクシーな下着が散らばった状態である。アルバールもソレが何をさすか気づいただろう。
「へえ?」
繋いだ手に力が入った事に気づいたが、アルバールの方を見る事ができない。
「アルバール様! 追加のご注文は兄の商会からできましてよ」
ふふふっと笑ったリリアの声は寝室の中に消えていく。
カトリーヌは、ドアが閉まると同時に踵を返したアルバールに、引きずられるようにニコラ侯爵邸に向かう馬車に乗せられたのだった。
「リリア様! 触るのはなしですっ」
「いいじゃない! 減らないわ!」
セドリックとリリアの結婚式が終わり、一ヶ月が過ぎた。
フリュージア王国では新しい王太子夫婦の誕生に国を上げてのお祭り騒ぎが続いていた。
リリアの母国であるファタニアからのキャラバンが滞在し、珍しい生地や宝石、陶器や食料などを販売し、お祝いムードを盛り上げていた。
異国からの王太子妃の誕生に、国民の中には戸惑いもあったが、キャラバンがもたらす新しい文化への興味と関心は、リリアに好意的に働いていた。実に商売上手なお国柄らしい王女への後押しだった。
数日前に結婚式参列の為に訪れていたファタニアの王族が国へ戻ると、キャラバンもそれに続き引き上げの準備が進み、お祭り騒ぎだった王都も少しづつ日常に戻りつつある。
祖国からの招待客や祝いの挨拶に訪れる貴族の対応に追われていたリリアも、少し落ち着きを取り戻していた。
専属侍女であるカトリーヌもリリアの一大イベントに、張り詰めていた緊張が解かれ、やっと戻ってきた日常に安堵していた。
そんな中、リリアの姉であるラミア王女から、結婚祝いのプレゼントが届けられた。
ラミア王女はちょうど出産を終えたばかりで、長距離の移動は難しく、結婚式への参列は叶わなかった。
リリアに会いたかったという内容の手紙が次兄であるハリオス殿下から直接届けられていた。
「お祝いにとっておきを贈るわね」といった内容であったのだが、それが届いたらしい。リリアの部屋は大量の包箱で溢れていた。
豪華な装飾がされた大小様々な包箱があり、試しに、一つ開けると、シルクとレースが使われたなんともセクシーな下着が出てきた。
「お兄様のお店の品ね! とっても素敵なのよ!」
目をキラキラさせたリリアが箱の中からそっと中身を持ち上げる。大事なところが全く隠れない紐のような下着があらわれ、カトリーヌは目を白黒させた。
リリアは普段からシルクのキャミソールやレースの下着など好んで着用している。
ただ、今回プレゼントされた下着は、手触りが他とは比べものにならないほど上質なものや、布面積が極端に少ない、パートナーの目を楽しませるだけに作られたものであり、確かにとっておきが集められている。
「まだ夕食までには時間があるわね。せっかくだから着てみましょう!」
弾んだ声で包箱を見まわしたリリアの合図で、試着大会が始まろうとしていた。
「こんな繊細な下着があるのですね」
カトリーヌは、もの珍しさに、とても手触りのいいキャミソールを撫でた。
胸元はレースで花模様に飾られ、ストラップ部分は葉の模様が刺繍されている。胴体部分はシンプルで、柔らかく肌に吸い付く様な生地が使われていてずっと触りたくなるような質感だ。ただし、セットで入れられていたブラジャーとパンツらしきものはほぼ紐でできており、何も支えていないし、隠してもいない。これを使用してキャミソールを着ても、ただ輪郭を強調された胸がレース部分から丸見えである。
「じゃあカトリーヌはそれを着てみてね」
「えっ?」
「こんなにあるのよ?私一人で全部試せというの?」
「少しずつ見られたらよいのでは……?」
「だぁめ! カトリーヌ。お願いよ、ね? ね?」
キラキラとした目でお願いされればそれ以上断ることは出来ず、渋々ながら一着だけと了承したのだった。
リリアが色々丸見えのお互いの姿を見て、キャーキャーとはしゃいでいる。ここ最近の忙しさもあり、こんな事で喜んでくれるなら付き合って良かったと、カトリーヌは、きっかけをくれたラミア王女とハリオス殿下に感謝した。
リリアは嬉々として箱を開けていく。小さめの箱にはストッキングやガーターベルトなどが入っていた為、あーでもないこーでもないと悩みながら他の下着と合わせていく。
結局、全ての箱を開け、一つ一つその繊細な作りに感動し、ファタニアの洗練された職人達の様子を語り、兄であるハリオス殿下の生地へのこだわりやラミア王女との買い物の思い出などを楽しそうに語っていた。
「こんなにはしゃいだのは久しぶりよ。カトリーヌ。付き合ってくれてありがとう」
リリア渾身のコーディネートが出来上がり、鏡の前でくるりと回転し満足そうに微笑んだ。
「セドリック様にお見せするのはいつになるかしらね」
箱の装飾をなでながら笑うリリアは、どこか寂しげで、リリア様にこんな顔をさせるなんてセドリック殿下は何をしているのかしらと、カトリーヌは眉を寄せた。
新婚だというのに、なかなか会う事が出来ない王太子への不満を胸に押し込む。
カトリーヌはリリアにガウンをそっとかけ、夕食のお誘いに使いを出しておきますねと言えば嬉しそうに頷いてくれた。
少し休憩しようと、お茶の準備に取り掛かるが、流石にセクシーすぎる下着のままでは恥ずかしく、もともと着ていたデイドレスをサッと羽織った。
リリアの好きな紅茶とカトリーヌが常備しているファタニアの砂糖菓子を一緒に出せば、リリアが笑顔を見せた。
その時、ドアからコンッとノックの音がした。返事をする間も無くガチャリと扉がひらき、セドリックが入室してくる。
「リリア! ラミア王女から手紙がきたぞ。とっておきを贈ったからリリアに会いに行け……と……」
話しながら入ってきたセドリックが、広げられた包箱とガウン一枚の姿で座るリリアを見た。
咄嗟に後ろに立つアルバールの目を塞ぎ、騒ぎ出す。
「見るな! リリアがへる!」
「目は瞑りました。それにあなたの後頭部で何も見えていません」
アルバールの目の前で手を振り、見えていない事を確認すると、そのままズンズンと部屋の中に入ってくる。
カトリーヌはガウン姿のリリアや、開けたままの箱の中身や散らかって見える部屋など何から隠したらいいのか分からず咄嗟に動く事ができなかった。
セドリックがリリアの前まで来ると、ガウンから覗いているキャミソールの刺繍を撫でた。
「ファタニアの職人はやはり腕が良いな。とても繊細だ。私に見せてくれるんだろう?」
セドリックは、リリアを優しく見つめる。一瞬で破顔したリリアが「ええ!もちろんよ」と飛びつき、そのままだき抱えて寝室に向かっていく。
カトリーヌは、突然のセドリック登場に驚いたが、二人のやり取りに思わず顔が緩む。
やっと会えた二人をこのままそっとしておこうと、退室するために、入り口にいるアルバールに近づいた。
まだ目を瞑ったまま立っているアルバールの手にそっと触れた。触れた手の温もりに、思わず会いたかったとポツリと言えばギュッと握り返された。
見上げれば視線が絡み、こちらを見下ろす金の目は優しく細められている。
「リリア様の方を見たらだめですよ」
「カトリーヌしか見えないよ」
「っ……! もうっアルバール様っ!」
「ははっ! なかなか会えなくてそろそろ限界だと思っていた所だったんだ。同じ気持ちでいてくれて嬉しくてね」
カトリーヌも寂しかったのだと実感し、繋いだ手をしっかりと握り返す。
二人が寝室に入るのを見届け、そのまま退室しようと思っていたところ、セドリックに抱きついているリリアが肩越しにカトリーヌに呼びかけた。
「カトリーヌ! ソレはあなたに差し上げるわね。そのまま着て行ってね!」
固まってしまった私を見てニッコリと微笑む。
部屋中にセクシーな下着が散らばった状態である。アルバールもソレが何をさすか気づいただろう。
「へえ?」
繋いだ手に力が入った事に気づいたが、アルバールの方を見る事ができない。
「アルバール様! 追加のご注文は兄の商会からできましてよ」
ふふふっと笑ったリリアの声は寝室の中に消えていく。
カトリーヌは、ドアが閉まると同時に踵を返したアルバールに、引きずられるようにニコラ侯爵邸に向かう馬車に乗せられたのだった。
14
あなたにおすすめの小説
狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。
汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。
元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。
与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。
本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。
人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。
そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。
「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」
戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。
誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。
やわらかな人肌と、眠れない心。
静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。
[こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる