冴えない「僕」がえっちオナホとして旦那様に嫁いだ日常♡

NONAME

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前日譚1 挙式(9/18)

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この結婚に、意味などないのだ。

僕は寂れた教会の中で、そうひとりごちる。
僕の目の前に立つ人並外れた美しさを持つ男は、僕に何の興味も無いのだろう。
分かっていたくせに、ひとり馬鹿みたいに浮かれていた自分が恥ずかしい。

僕より頭一つ分高い彼は、鍛え上げられた肉体を花婿の衣装に包み、僕を冷めた双瞳で見下ろしていた。
彼は出来た男だった。
同性である僕から見ても、惚れ惚れするような人間だ。その容姿は国中の淑女を虜にすると謡われ、その魅力は外見だけではない。彼は騎士団長として先の戦争で成果を上げ、今ではこの国で知らぬ者はいない英雄だ。
対して僕は平均より少し低い身長に、特筆することもないような外見をしている。不細工ではないがお世辞にもかっこいいとは言われない。肌は白いが雀斑が散って、筋肉は付きづらいがかと言って煽情的な身体をしているわけではない。
歴代最年少で騎士団長を勤めた彼と違って剣術もてんでダメで、それでいて官僚になれるような頭の良さも無いために、学舎を出たら実家の貿易商の手伝いでもしようかと怠惰に考えていたほどだ。
女心も分からず婚約の話も無かったし、男爵家の三男のために引き継げる遺産など無いに等しい。いつか時期が来れば、家長である兄に言われるがまま実家の商いに有利になる商人の娘とでも結婚するのだと思っていた。
それが──、何の運命の導きか。僕は彼の結婚相手に
政治的に後ろ盾も無く爵位だって遠く及ばぬ僕の生家が、この結婚に異を唱えるなど、そんなことが出来るわけもなかったのである。


教会内には、僕と彼以外誰もいない。
分かっている。彼が僕と結婚するのは、都合のいい相手が必要だったからだ。
貴族同士の結婚であれば参列者を呼び財力と社交界の立場を示すかのような華やかな挙式を上げるのが通例で、ただの男爵家の僕の兄でさえ、首都の教会で華々しく挙式を上げていた。
それなのにこの国で有数の公爵家の当主の挙式が、こんな寂しいのは不自然であった。
最も、公爵家が確立した今の立場など挙式で示さずとも誰もが知っているものではあるのだが。──誰も口には出さないにせよ、都合だけで選んだ婚約者があまりにも冴えなくて、彼は僕の姿を人に見られるのを拒んだのではないのだろうと思う。

この国では書面を皇帝に提出し、神殿で永久の愛を誓えば結婚は成立する。
だからこそ彼は、人の目を避けてこんな寂れた教会で、神父も呼ばずに誓いの儀を済ませたのだ。

婚姻の儀式は主神に宣誓するだけなので5分もかからなかった。寧ろここまで馬車で揺らされた時間の方が長かったのではないのだろうか。宣誓が済めば彼は煩わしそうに詰まった首元を緩めて、短く「帰るよ」とだけ僕に言った。宣誓が終われば主神の前で愛の口付けを交わす慣習があるのにも関わらず、彼はそんなもの知らないとばかりに踵を返す。勿論、僕は彼に従うのみだ。頭に被ったヴェールが風に揺れ、視界を拒む。
咄嗟に立ち止まった僕を気にもかけずに先を歩く彼の背中をレース越しに眺め、僕は今後の人生を彼に捨てられないよう彼に尽くすしかないのだと悟った。

首都から馬車で1時間近くかかるこの教会は、調べれば古いながらにも長い歴史のある場所だという。
国教の主神である太陽神とその番である月神の像が祀られ、美しいステンドグラスからもたらされる色とりどりの光が堂内を照らす。今はもう月神を讃える風習は寂れたとはいえ、かつてはこの二対の神々の前で挙式を上げるのが通例だった。
生を司る太陽神と死を司る月神。二対で生と死を表し、常世から死の世界まで夫婦が永久に離れぬようにと誓うソレは、いつの間にか死は不吉だと太陽神だけの前で愛を誓うように変容していった。
公爵家の当主による世紀の結婚である。都心で行えば集まるだろうやじ馬を煩わしく考え、彼はここを選んだのだろう。求婚を受け入れてから性急に進められたこの結婚では、僕の衣装もあちらで準備されていたものを身にまとっただけだ。
しかし僕は愚かにも希望を見出そうと、藻掻いてしまう。──旦那様は僕と、永久の愛の誓いを交わしたのだ。普通の人間が行う誓いではない。死を持っても離れぬ愛を、太陽神と月神の前で誓ったのだ。それはきっと大きな楔となり、何があっても壊れぬ二人の関係を作り上げるのだろう。

きっと、そうであるといい。

旦那様は欲目無しに見ても良い男で、彼を好きにならないなんて人なんていないだろう。僕もそんな人間の一人だ。
彼の周りに群がる人間と変わりない。ただ僕と彼はあまりにも立場が違い過ぎて、彼を望むだなんて恐れ多いことは一生できないだろう。それでいいのだ。ただ側にいて愛されずともいい。あの美しい人の駒でいられるのだとしたら僕は幸せな花嫁なのだ。
そう自分に言い聞かせる。

「ここは冷える」
独り言のようにそう溢した旦那様に同調して、僕も小さく一つ頷いた。
冷たい風が身体を包む。
僕より先に、人ひとり分あいた旦那様との距離が、いつか縮まればいいなとぼんやりと思った。
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