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前世の俺は、何の特徴もない凡人だった。
それなりの大学を出て、それなりの中小企業に入って、毎月の給与は"それなり"。社歴は中堅になっても給与は上がらず、ボーナスは不況のあおりを受けて雀の涙。その結果、生活費が足りず、裏垢で売春しながらハメ撮りを販売していたところ、元カレにそのことを会社に暴露されてクビにされた。
うわ~どうすんだよこれ親にも友達にも言えないよと今までの希薄な人間関係に後悔しつつも、現実をどうしようもなく公園で頭を抱えていると「危な~い!」という悲鳴。
ふと視界に影がかかり見上げた先、公園の隣のマンションの足場が崩れ、鉄骨が今まさに崩れようとしていた。──ぐしゃり。
前世の記憶はそこで終わった。
目を覚ました俺は、見知らぬ天井を見上げていた。
え、なにこれ。昭和のラブホ?
視界に飛び込んできたのは、ヨーロッパ趣味全開の室内装飾。あの瞬間、確実に死んだと思ったのだが、俺は目を覚ますと見知らぬ部屋の見知らぬベッドで寝ていた。
軋む木製のベッドに、草臥れてシミも残るリネンのシーツ。壁は色褪せた花柄の壁紙が剥がれかけ、隙間から冷気が忍び込んでくる。しかもこの部屋の装飾、ぜんぶなんかちょっと古いんだけど。
いそいそとベッドから降りて、目についた鏡に近づくと──色素の薄い瞳が俺を覗き返す。痩せた頬、猫背、やや長すぎる前髪。特に特筆すべき点のない、薄ぼんやりした顔。小さな少年が白いネグリジェを着て、俺を見つめかえしていた。
……む。この顔、知ってる。
脳裏に、前世で何度も見たシーンが蘇る。
生前の俺がやり込んだBLゲーム【LOVE ONE】序盤の名物イベント──主人公ミランが、モブキャラ・エリオットに裏切られるド鬼畜シーンだ。
【LOVE ONE】は耽美なスチルイラストと豪華声優陣、そして衝撃的な鬼畜展開で一世を風靡したBLゲームである。よくある貴族の学園ものの逆ハーレム展開。類まれなる美貌を持った主人公は学園内の多様なイケメンと関係を持ちながら、運命の一人を選ぶ。
そんなゲームの中で、この顔が登場するのは──攻略キャラとの親密度が著しく低いと発生するルートだ。
攻めの庇護を失った主人公は友人のエリオットに呼び出され、モブ攻めたちの前に突き出される。口を塞がれ、腕を押さえつけられ、絶望で泣き叫ぶミラン。エリオットはそんな主人公を無視して、早々に背を向けて立ち去る。
主人公の友人であるエリオットは貴族ではあるものの生まれが貧しかった。それ故、上流貴族たちに強請られると逆らうことも出来ず、友人を安全な学園生活のための生贄にするのだ。
主人公はこの学園で唯一の友人に裏切られたことに絶望しながら、──ユーザーとしては可哀想勃起が止まらない壮絶なモブレを経験するのだ。
ちなみに、当然ながらこのイベントは回避可能だ。
攻めキャラと適切に信頼を築き、エリオットと縁を切れば、主人公を呼び出せなかったエリオットがモブたちに犯される“因果応報”ルートになる。
このシーンは主人公よりももっと壮絶だ。
ゲーム作者の性癖が詰め込まれたモブレはもうここが本編でいいのではと思うほど。複数プレイは勿論、NG無しの変態プレイのオンパレード。普段、長い前髪と瓶底眼鏡で隠された顔は白濁液に汚され、果ては学園の中庭で──と、ただのスチルと文字で済まされるには物足りなさすぎる、神展開であった。
しかも、どちらのルートでもエリオットは序盤で退場する。それがこのモブキャラの運命だ。
俺がエリオットを覚えていたのは、そのモブレシーンを数え切れないほどオカズにしていたからに他ならない。
影の薄い瓶底眼鏡のモブキャラ。彼が主役のスチルはただ一枚、モブレシーンのみ。
そんなキャラに転生したからといって落ち込む気にはならなかった。
俺は自分のハメ撮りをSNSにばら撒けるような男だ。しかも今はまだ子供。会社をクビになった前世よりよっぽどマシだった。エロゲーだってどんとこい!
この世界に転生したのだから、俺には叶えたい夢がある。
【LOVE ONE】の悪役──ダミアン・クロス様に、一度でいいから抱かれること。
ダミアン・クロス様は、【LOVE ONE】のファンの間でも人気が分かれる癖強キャラクターだ。
美しい銀髪に、淡いブルーの瞳。貴公子然とした風貌で、ダミアンは王族にも並ぶほどの権力を持つ辺境伯領の公子であった。
主人公よりも3歳年上の彼は、ゲームでは頼れるお助けキャラだ。主人公とは1年しか学年が被らないものの、卒業後も度々登場しては攻略キャラとの関係をサポートしてくれる好青年。
しかし、その実態は加虐趣味の変態サイコパスなのだ。
彼の神髄が発揮されるのが、主人公が誰とも親密な関係にならずエンディングを迎えた時。ノーマルバッドエンドで、彼は衝撃的な本性を見せる。このシーンも俺は数え切れないほどお世話になった。
退屈しのぎに卒業後の主人公を拐かし、主人公は彼を信用してまんまとついてゆき、表世界から姿を消す。彼は辺境伯の地下室で主人公を躾け、弄び、飽きたら奴隷市場に放り出す。
その間、主人公は喉が嗄れるほどその他の攻略キャラに助けを求めるものの、その声は誰にも届くわけもなく──。王家でさえ機嫌を窺う辺境伯に、意見できる貴族など存在しない。最終的に捨てられた主人公は、アナルプラグの挿られた尻をぶるんぶるんと揺らしながら奴隷市場で新たな主を待つことになる。
この通り、実に鬼畜なエンドなのだ。
ちなみに、裏ルートではダミアンも攻略キャラになるのだが、そのルートはナニコレ美味いの?ってくらいの甘々溺愛ルートで、変態プレイの「へ」の字もない。だから、俺は早々にそのルートの周回を諦めた。
と、まあ、俺からダミアン・クロス様への燃え滾る熱い想いはこの通りである。
折角この世界に転生したのだから、彼に、弄ばれたい……♡
そんな俺の想いは、早々に花開くことになる。
✦・┈┈┈┈┈┈┈┈ ・✦
応援などいただけたらHAPPYになります♪
それなりの大学を出て、それなりの中小企業に入って、毎月の給与は"それなり"。社歴は中堅になっても給与は上がらず、ボーナスは不況のあおりを受けて雀の涙。その結果、生活費が足りず、裏垢で売春しながらハメ撮りを販売していたところ、元カレにそのことを会社に暴露されてクビにされた。
うわ~どうすんだよこれ親にも友達にも言えないよと今までの希薄な人間関係に後悔しつつも、現実をどうしようもなく公園で頭を抱えていると「危な~い!」という悲鳴。
ふと視界に影がかかり見上げた先、公園の隣のマンションの足場が崩れ、鉄骨が今まさに崩れようとしていた。──ぐしゃり。
前世の記憶はそこで終わった。
目を覚ました俺は、見知らぬ天井を見上げていた。
え、なにこれ。昭和のラブホ?
視界に飛び込んできたのは、ヨーロッパ趣味全開の室内装飾。あの瞬間、確実に死んだと思ったのだが、俺は目を覚ますと見知らぬ部屋の見知らぬベッドで寝ていた。
軋む木製のベッドに、草臥れてシミも残るリネンのシーツ。壁は色褪せた花柄の壁紙が剥がれかけ、隙間から冷気が忍び込んでくる。しかもこの部屋の装飾、ぜんぶなんかちょっと古いんだけど。
いそいそとベッドから降りて、目についた鏡に近づくと──色素の薄い瞳が俺を覗き返す。痩せた頬、猫背、やや長すぎる前髪。特に特筆すべき点のない、薄ぼんやりした顔。小さな少年が白いネグリジェを着て、俺を見つめかえしていた。
……む。この顔、知ってる。
脳裏に、前世で何度も見たシーンが蘇る。
生前の俺がやり込んだBLゲーム【LOVE ONE】序盤の名物イベント──主人公ミランが、モブキャラ・エリオットに裏切られるド鬼畜シーンだ。
【LOVE ONE】は耽美なスチルイラストと豪華声優陣、そして衝撃的な鬼畜展開で一世を風靡したBLゲームである。よくある貴族の学園ものの逆ハーレム展開。類まれなる美貌を持った主人公は学園内の多様なイケメンと関係を持ちながら、運命の一人を選ぶ。
そんなゲームの中で、この顔が登場するのは──攻略キャラとの親密度が著しく低いと発生するルートだ。
攻めの庇護を失った主人公は友人のエリオットに呼び出され、モブ攻めたちの前に突き出される。口を塞がれ、腕を押さえつけられ、絶望で泣き叫ぶミラン。エリオットはそんな主人公を無視して、早々に背を向けて立ち去る。
主人公の友人であるエリオットは貴族ではあるものの生まれが貧しかった。それ故、上流貴族たちに強請られると逆らうことも出来ず、友人を安全な学園生活のための生贄にするのだ。
主人公はこの学園で唯一の友人に裏切られたことに絶望しながら、──ユーザーとしては可哀想勃起が止まらない壮絶なモブレを経験するのだ。
ちなみに、当然ながらこのイベントは回避可能だ。
攻めキャラと適切に信頼を築き、エリオットと縁を切れば、主人公を呼び出せなかったエリオットがモブたちに犯される“因果応報”ルートになる。
このシーンは主人公よりももっと壮絶だ。
ゲーム作者の性癖が詰め込まれたモブレはもうここが本編でいいのではと思うほど。複数プレイは勿論、NG無しの変態プレイのオンパレード。普段、長い前髪と瓶底眼鏡で隠された顔は白濁液に汚され、果ては学園の中庭で──と、ただのスチルと文字で済まされるには物足りなさすぎる、神展開であった。
しかも、どちらのルートでもエリオットは序盤で退場する。それがこのモブキャラの運命だ。
俺がエリオットを覚えていたのは、そのモブレシーンを数え切れないほどオカズにしていたからに他ならない。
影の薄い瓶底眼鏡のモブキャラ。彼が主役のスチルはただ一枚、モブレシーンのみ。
そんなキャラに転生したからといって落ち込む気にはならなかった。
俺は自分のハメ撮りをSNSにばら撒けるような男だ。しかも今はまだ子供。会社をクビになった前世よりよっぽどマシだった。エロゲーだってどんとこい!
この世界に転生したのだから、俺には叶えたい夢がある。
【LOVE ONE】の悪役──ダミアン・クロス様に、一度でいいから抱かれること。
ダミアン・クロス様は、【LOVE ONE】のファンの間でも人気が分かれる癖強キャラクターだ。
美しい銀髪に、淡いブルーの瞳。貴公子然とした風貌で、ダミアンは王族にも並ぶほどの権力を持つ辺境伯領の公子であった。
主人公よりも3歳年上の彼は、ゲームでは頼れるお助けキャラだ。主人公とは1年しか学年が被らないものの、卒業後も度々登場しては攻略キャラとの関係をサポートしてくれる好青年。
しかし、その実態は加虐趣味の変態サイコパスなのだ。
彼の神髄が発揮されるのが、主人公が誰とも親密な関係にならずエンディングを迎えた時。ノーマルバッドエンドで、彼は衝撃的な本性を見せる。このシーンも俺は数え切れないほどお世話になった。
退屈しのぎに卒業後の主人公を拐かし、主人公は彼を信用してまんまとついてゆき、表世界から姿を消す。彼は辺境伯の地下室で主人公を躾け、弄び、飽きたら奴隷市場に放り出す。
その間、主人公は喉が嗄れるほどその他の攻略キャラに助けを求めるものの、その声は誰にも届くわけもなく──。王家でさえ機嫌を窺う辺境伯に、意見できる貴族など存在しない。最終的に捨てられた主人公は、アナルプラグの挿られた尻をぶるんぶるんと揺らしながら奴隷市場で新たな主を待つことになる。
この通り、実に鬼畜なエンドなのだ。
ちなみに、裏ルートではダミアンも攻略キャラになるのだが、そのルートはナニコレ美味いの?ってくらいの甘々溺愛ルートで、変態プレイの「へ」の字もない。だから、俺は早々にそのルートの周回を諦めた。
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