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7 - 初日
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浴室から戻ると、部屋は以前の姿に戻っていた。
俺が作った染みもなければ、あの鼻につくアンモニア臭もしない。体感で三十分ほどしか経っていないのに。貴族の屋敷に仕えるプロのメイドたちの手際に、俺はただ圧倒されるばかりだった。
ダミアン様は「臭くなくなってよかったね」と揶揄うように言った。
「……はい」
無視することもできず、俺はもごもごときまずい思いをしながら、声を絞り出すことしかできなかった。
俺が粗相をしたことで中断させてしまったが、部屋に置いてあったリードは想像通り、俺に使うために用意させたらしい。
前世でSMプレイの一環でこういうものを付けた経験はあるが、プレイを超えて普段からこんなものをつけられて生活するのは初めてだ。初心者のようにドキドキする。
「じゃあ、そこに跪いて」
ダミアン様は首輪を片手に床を指さした。俺はそれに迷うもなく従う。
彼の用意した首輪は、愛玩動物用なのだろう。ダミアン様の瞳と同じ水色の、パステルカラーの可愛らしい首輪だった。
それに、首輪をつける彼の手つきは、暇つぶしのペットを扱うにしては随分と優しかった。
バッドエンドルートで見た鬼畜さの欠片も見えない。俺個人としてもこれだけ綺麗な男にそんな優しい扱いをされると、性癖抜きにしてもときめいてしまう――と。 俺が淡い期待に胸を高鳴らせていた、その時だった。
「あれ、期待してる?」
「ぉぐッ……!」
囁きと共に、首輪が強引に締め上げられた。
首が閉まって、急に喉がせき止められる。喉の奥から意図しない言葉が漏れて、吸えないはずの酸素を吸おうとして口がぱくぱくと開く。
どうしよ俺、酸欠の鯉みたいにキモくなってるかも──、とやけに冷静な自分が考える。じんわり顔に熱が集まってきた頃に、す、と緩められて俺は大急ぎで酸素を吸った。
「はぁっ、はぁ……っ!」
俺は大急ぎで過剰なほどに肺を膨らまし、肩で息をする。そんな俺を尻目に、ダミアン様は首輪に指を添えながら程よいキツさでベルトを締めた。
「あは。顔、真っ赤だね」
楽しそうで何よりである。 ダミアン様は首輪の金具にリードを繋ぐと、それをくいっと短く引っ張った。
「動かないでね」
13歳の発達のいいダミアンと、10歳の貧乏育ちの俺。更に俺は跪いているせいで、見上げないとダミアン様の顔すら見えない。そんな状況で、ぐ、ぐ、と色んな方向にリードを引っ張られ、首が締まる衝撃に身体が本能的に逃げようとして、それほど強い力でもないのに倒れそうになる。
「動いちゃダメだよ」
く、と真後ろから引っ張られるのが、一番キツかった。もろに気管が締まる。
主導権はダミアン様にある。だから俺はただ命令に従えばいいのに、この身体はついつい逃げに走ろうとする。それを、ダミアン様は上擦った声で注意するのだ。
ダミアン様が先に指摘した通り、俺の顔はきっと面白いくらい真っ赤になっているだろう。前世でも呼吸管理ハメ撮り配信したことあるけど、モザイクつける作業の間、ずっと自分の顔にどんどん血が集まっていってるのを見て、終わったことなのに不安になったもん。なんか日常では絶対に見ない色味だし。実際首絞めって、毛細血管やばいらしいし。
ついでに、頭に血が上ってボーっとする。ダミアン様がリードを引っ張るのに、どうにか耐えようとするのだけれど、酸欠が続いていて、もうふらふらして自分の身体が傾いてるのかどうなのかも分かんないし。
ダミアン様って、生粋のサディスト。今日だけで数え切れないほど実感する。
普通、首絞めとかってサディスト気取りの粗チンは、ヤッってるあいだ気持ち良くなるためにすることだし。ついでに加虐性に溢れてるDV男は、ひとを恐怖で支配するためにやる。
なのに、ダミアン様は俺の様子を見て、その反応を愉しんでいるのだ。齢13歳のプレイではないだろう。この人絶対、虫のあしを捥いだりするのを愉しむひとだ。
ゴトン。
遠くで何かが崩れる音がしたかと思えば、視界が90度傾いていた。脳みそがホワイトアウトしているせいで、何が起きたのか分からない。多分、俺が倒れたのだ。
最初に思ったのは、ダミアン様の命令に背いてしまったという後悔。でもそれも深くは考えられない。だから、ゆっくりゆっくり思想は移り変わる。
次に、倒れたわりに痛まない身体への疑問。その答えはすぐに分かった。俺の頬をくすぐるふわふわとしたクッションは、ダミアン様が用意してくれた俺のベッドに敷かれていたものだ。俺の身体はベッドに預けられるように倒れたから、痛みがなかったのだ。
指先も酸欠で痺れていた。どうにか起き上がろうとベッドに手をつくと、ダミアン様が支えて上半身を起き上がらせてくれる。
「ごめんね。面白くて。遊びすぎちゃった」
ダミアン様は頬をほのかに染め、まるで悪戯を成功させた子供のような笑みを浮かべながらそう言った。
✦・┈┈┈┈┈┈┈┈ ・✦
♡応援&お気に入りありがとうございます!
執筆の気力になります!
俺が作った染みもなければ、あの鼻につくアンモニア臭もしない。体感で三十分ほどしか経っていないのに。貴族の屋敷に仕えるプロのメイドたちの手際に、俺はただ圧倒されるばかりだった。
ダミアン様は「臭くなくなってよかったね」と揶揄うように言った。
「……はい」
無視することもできず、俺はもごもごときまずい思いをしながら、声を絞り出すことしかできなかった。
俺が粗相をしたことで中断させてしまったが、部屋に置いてあったリードは想像通り、俺に使うために用意させたらしい。
前世でSMプレイの一環でこういうものを付けた経験はあるが、プレイを超えて普段からこんなものをつけられて生活するのは初めてだ。初心者のようにドキドキする。
「じゃあ、そこに跪いて」
ダミアン様は首輪を片手に床を指さした。俺はそれに迷うもなく従う。
彼の用意した首輪は、愛玩動物用なのだろう。ダミアン様の瞳と同じ水色の、パステルカラーの可愛らしい首輪だった。
それに、首輪をつける彼の手つきは、暇つぶしのペットを扱うにしては随分と優しかった。
バッドエンドルートで見た鬼畜さの欠片も見えない。俺個人としてもこれだけ綺麗な男にそんな優しい扱いをされると、性癖抜きにしてもときめいてしまう――と。 俺が淡い期待に胸を高鳴らせていた、その時だった。
「あれ、期待してる?」
「ぉぐッ……!」
囁きと共に、首輪が強引に締め上げられた。
首が閉まって、急に喉がせき止められる。喉の奥から意図しない言葉が漏れて、吸えないはずの酸素を吸おうとして口がぱくぱくと開く。
どうしよ俺、酸欠の鯉みたいにキモくなってるかも──、とやけに冷静な自分が考える。じんわり顔に熱が集まってきた頃に、す、と緩められて俺は大急ぎで酸素を吸った。
「はぁっ、はぁ……っ!」
俺は大急ぎで過剰なほどに肺を膨らまし、肩で息をする。そんな俺を尻目に、ダミアン様は首輪に指を添えながら程よいキツさでベルトを締めた。
「あは。顔、真っ赤だね」
楽しそうで何よりである。 ダミアン様は首輪の金具にリードを繋ぐと、それをくいっと短く引っ張った。
「動かないでね」
13歳の発達のいいダミアンと、10歳の貧乏育ちの俺。更に俺は跪いているせいで、見上げないとダミアン様の顔すら見えない。そんな状況で、ぐ、ぐ、と色んな方向にリードを引っ張られ、首が締まる衝撃に身体が本能的に逃げようとして、それほど強い力でもないのに倒れそうになる。
「動いちゃダメだよ」
く、と真後ろから引っ張られるのが、一番キツかった。もろに気管が締まる。
主導権はダミアン様にある。だから俺はただ命令に従えばいいのに、この身体はついつい逃げに走ろうとする。それを、ダミアン様は上擦った声で注意するのだ。
ダミアン様が先に指摘した通り、俺の顔はきっと面白いくらい真っ赤になっているだろう。前世でも呼吸管理ハメ撮り配信したことあるけど、モザイクつける作業の間、ずっと自分の顔にどんどん血が集まっていってるのを見て、終わったことなのに不安になったもん。なんか日常では絶対に見ない色味だし。実際首絞めって、毛細血管やばいらしいし。
ついでに、頭に血が上ってボーっとする。ダミアン様がリードを引っ張るのに、どうにか耐えようとするのだけれど、酸欠が続いていて、もうふらふらして自分の身体が傾いてるのかどうなのかも分かんないし。
ダミアン様って、生粋のサディスト。今日だけで数え切れないほど実感する。
普通、首絞めとかってサディスト気取りの粗チンは、ヤッってるあいだ気持ち良くなるためにすることだし。ついでに加虐性に溢れてるDV男は、ひとを恐怖で支配するためにやる。
なのに、ダミアン様は俺の様子を見て、その反応を愉しんでいるのだ。齢13歳のプレイではないだろう。この人絶対、虫のあしを捥いだりするのを愉しむひとだ。
ゴトン。
遠くで何かが崩れる音がしたかと思えば、視界が90度傾いていた。脳みそがホワイトアウトしているせいで、何が起きたのか分からない。多分、俺が倒れたのだ。
最初に思ったのは、ダミアン様の命令に背いてしまったという後悔。でもそれも深くは考えられない。だから、ゆっくりゆっくり思想は移り変わる。
次に、倒れたわりに痛まない身体への疑問。その答えはすぐに分かった。俺の頬をくすぐるふわふわとしたクッションは、ダミアン様が用意してくれた俺のベッドに敷かれていたものだ。俺の身体はベッドに預けられるように倒れたから、痛みがなかったのだ。
指先も酸欠で痺れていた。どうにか起き上がろうとベッドに手をつくと、ダミアン様が支えて上半身を起き上がらせてくれる。
「ごめんね。面白くて。遊びすぎちゃった」
ダミアン様は頬をほのかに染め、まるで悪戯を成功させた子供のような笑みを浮かべながらそう言った。
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