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「ふふ、そんなに泣いて。赤ちゃんみたいだね」
ぐずぐず。泣いても泣いても涙が溢れて、だらだら溢れそうになる鼻を必死にすすって、それでも追いつかなくて、俺の顔はぐしゃぐしゃだ。
ダミアン様は泣きじゃくる俺を酷く甘い声色で慰め、撫でながら、使用人を呼ぶ。
「これを片付けてくれる?」
何人ものメイドたちが掃除道具を持って、ダミアン様の部屋に入ってきた。
この部屋を充満する臭いの原因は、誰がどう見ても明らかだった。
ツンと鼻につくアンモニア臭。そしてズボンに大きな染みを作っている、見慣れぬ子ども。
ダミアン様は慣れた様子で使用人に指示を出しているが、俺はとてもじゃないが平常心ではいられない。
そもそも自分の粗相を第三者に片付けさせるなんて発想、俺には無かった。
前世では勿論、転生してからもあの極貧実家では使用人などいなかったから。ダミアン様に投げ捨てられた瓶底眼鏡をかけなおして、かけたことを凄まじく後悔した。
この汚れの正体を察しながらも表情を変えず染み抜きを始める使用人たちが、今まさに窓を開けた使用人が、脳内でどんな目で俺を見ているのか──考えるだけで、心が冷える。
ダミアン様と二人っきりの瞬間はあんなに恥ずかしくて、みっともなくて、興奮した行為も、熱の冷めた今では後悔しか芽生えない。賢者タイムと一緒だ。性欲に溺れて過激になるプレイは、平時に戻った時後悔がひどい。前世で会社をクビになった時と同じく。
すべての窓が開かれ、新鮮な空気が室内に流れ込む。メイドたちが床にしゃがみ込んで染み抜きをしている。彼女らの手元にある古布が、俺の出したもののせいで黄色く染まってゆく。
それから目を逸らしてしまいたいのに、思わず目が奪われてしまう。
──あ、やば♡ またMのスイッチ入っちゃうかも♡
使用人たちを動かし、ダミアン様の部屋を汚しておいてそれは無いだろう。興奮を押し込めるように、頭を振って煩悩を飛ばした。
「さて、エリオットくんも脱ぎなさい」
「は、はい」
ダミアン様は俺のせいで汚れた革靴を履き替えていた。
さきほどの淫猥な雰囲気から一気に切り替わったこの空間に、いつしか俺の涙も止まってきた。
ダミアン様の命令に従って、靴を脱ぎ、靴下を脱ぎ、ズボンも、下着も脱ぎ捨てた。
濡れたせいで布が肌に張り付き、なかなかスムーズに脱げない。しかも布を掴む度にじゅわ、と尿が染み出し、一層惨めな気持ちにさせられた。脱ぎ切った頃には両手がべとべとになり、見苦しい状態だっただろう。
僕が下を全て脱ぎきったタイミングで、メイドがバスタオルで俺の下半身を隠す。そして濡れたタオルで俺の両手を拭った。
「さて、湯の準備もできたから、先ずは身体を洗いに行こうか」
先ほどからダミアン様の機嫌はすこぶる良い。どうやら、俺の粗相が彼にとっては愉快な余興だったらしい。
浴室に到着すると、メイドたちが待ち構えていた。ダミアン様は、俺がメイドに洗われる様子を、楽しげに淡碧の瞳で眺めていた。
洗われてほかほかになった僕は、メイドが用意した着替えに着せ替えられて、ダミアン様に受け渡される。
到着早々、乱れて、漏らして、部屋を汚して、それなのにこんなに至れり尽くせり。ボロ実家では体験できない使用人付きの入浴に、ダミアン様の従者としてこの屋敷に来た僕には過分な待遇に思えた。
「……さて、綺麗になったし、途中で辞めてしまっただろう。部屋に戻ろうか」
「ひゃいっ!」
ダミアン様の予想外の言葉に、思わず飛び上がった。
え。あれで、終わりじゃなかった? つ、続きを望んでいいんですか……?
部屋に戻るまでの道すがら、ダミアン様は楽しげに語り出した。
「あの日、君と話して、欲しくなったんだ。君は私の一挙一動に怯えて、それでいて興奮していただろう。全身で“虐めてほしい”と懇願していた。だから、使い捨てにするよりももっといい使い方をしようと思ったんだ。領地に戻ってすぐに手配した。退屈しのぎに、ちょうどペットが欲しかったんだ。一度で壊れるようなつまらない玩具じゃなく、じっくり遊べる子が」
嬉々として語るその口ぶりは恐ろしい。だがその時の彼は、妙に年相応に見えた。俺がこれまで見てきた限りでは、彼は13歳とは思えないほど支配者然として落ち着いていたのに、今はプレゼントを貰ったばかりの子供のように声は弾み、足取りは軽い。──これは新しい発見だった。
「……それが、僕ですか?」
「ああ。想像以上だったよ。君は私と話すとき決まって怯えながら──、今だって、私にどう虐げられるか想像して、期待しているだろう?」
「え……っと」
「ふふ。君は分かりやすいね。私への憧れが直ぐに見て取れる。しかも従順だ。爵位も平民並みに低いし、使い勝手がいい。
先に言っておくと、私のペイジはもういるよ。だから君のことは、最初から遊ぶために呼び寄せたんだ」
ごくり。俺が息を飲む音が大きく響いた気がした。
✦・┈┈┈┈┈┈┈┈ ・✦
※ペイジ=小姓(今回の主人公の建前⁼行儀見習い)のことです。
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ぐずぐず。泣いても泣いても涙が溢れて、だらだら溢れそうになる鼻を必死にすすって、それでも追いつかなくて、俺の顔はぐしゃぐしゃだ。
ダミアン様は泣きじゃくる俺を酷く甘い声色で慰め、撫でながら、使用人を呼ぶ。
「これを片付けてくれる?」
何人ものメイドたちが掃除道具を持って、ダミアン様の部屋に入ってきた。
この部屋を充満する臭いの原因は、誰がどう見ても明らかだった。
ツンと鼻につくアンモニア臭。そしてズボンに大きな染みを作っている、見慣れぬ子ども。
ダミアン様は慣れた様子で使用人に指示を出しているが、俺はとてもじゃないが平常心ではいられない。
そもそも自分の粗相を第三者に片付けさせるなんて発想、俺には無かった。
前世では勿論、転生してからもあの極貧実家では使用人などいなかったから。ダミアン様に投げ捨てられた瓶底眼鏡をかけなおして、かけたことを凄まじく後悔した。
この汚れの正体を察しながらも表情を変えず染み抜きを始める使用人たちが、今まさに窓を開けた使用人が、脳内でどんな目で俺を見ているのか──考えるだけで、心が冷える。
ダミアン様と二人っきりの瞬間はあんなに恥ずかしくて、みっともなくて、興奮した行為も、熱の冷めた今では後悔しか芽生えない。賢者タイムと一緒だ。性欲に溺れて過激になるプレイは、平時に戻った時後悔がひどい。前世で会社をクビになった時と同じく。
すべての窓が開かれ、新鮮な空気が室内に流れ込む。メイドたちが床にしゃがみ込んで染み抜きをしている。彼女らの手元にある古布が、俺の出したもののせいで黄色く染まってゆく。
それから目を逸らしてしまいたいのに、思わず目が奪われてしまう。
──あ、やば♡ またMのスイッチ入っちゃうかも♡
使用人たちを動かし、ダミアン様の部屋を汚しておいてそれは無いだろう。興奮を押し込めるように、頭を振って煩悩を飛ばした。
「さて、エリオットくんも脱ぎなさい」
「は、はい」
ダミアン様は俺のせいで汚れた革靴を履き替えていた。
さきほどの淫猥な雰囲気から一気に切り替わったこの空間に、いつしか俺の涙も止まってきた。
ダミアン様の命令に従って、靴を脱ぎ、靴下を脱ぎ、ズボンも、下着も脱ぎ捨てた。
濡れたせいで布が肌に張り付き、なかなかスムーズに脱げない。しかも布を掴む度にじゅわ、と尿が染み出し、一層惨めな気持ちにさせられた。脱ぎ切った頃には両手がべとべとになり、見苦しい状態だっただろう。
僕が下を全て脱ぎきったタイミングで、メイドがバスタオルで俺の下半身を隠す。そして濡れたタオルで俺の両手を拭った。
「さて、湯の準備もできたから、先ずは身体を洗いに行こうか」
先ほどからダミアン様の機嫌はすこぶる良い。どうやら、俺の粗相が彼にとっては愉快な余興だったらしい。
浴室に到着すると、メイドたちが待ち構えていた。ダミアン様は、俺がメイドに洗われる様子を、楽しげに淡碧の瞳で眺めていた。
洗われてほかほかになった僕は、メイドが用意した着替えに着せ替えられて、ダミアン様に受け渡される。
到着早々、乱れて、漏らして、部屋を汚して、それなのにこんなに至れり尽くせり。ボロ実家では体験できない使用人付きの入浴に、ダミアン様の従者としてこの屋敷に来た僕には過分な待遇に思えた。
「……さて、綺麗になったし、途中で辞めてしまっただろう。部屋に戻ろうか」
「ひゃいっ!」
ダミアン様の予想外の言葉に、思わず飛び上がった。
え。あれで、終わりじゃなかった? つ、続きを望んでいいんですか……?
部屋に戻るまでの道すがら、ダミアン様は楽しげに語り出した。
「あの日、君と話して、欲しくなったんだ。君は私の一挙一動に怯えて、それでいて興奮していただろう。全身で“虐めてほしい”と懇願していた。だから、使い捨てにするよりももっといい使い方をしようと思ったんだ。領地に戻ってすぐに手配した。退屈しのぎに、ちょうどペットが欲しかったんだ。一度で壊れるようなつまらない玩具じゃなく、じっくり遊べる子が」
嬉々として語るその口ぶりは恐ろしい。だがその時の彼は、妙に年相応に見えた。俺がこれまで見てきた限りでは、彼は13歳とは思えないほど支配者然として落ち着いていたのに、今はプレゼントを貰ったばかりの子供のように声は弾み、足取りは軽い。──これは新しい発見だった。
「……それが、僕ですか?」
「ああ。想像以上だったよ。君は私と話すとき決まって怯えながら──、今だって、私にどう虐げられるか想像して、期待しているだろう?」
「え……っと」
「ふふ。君は分かりやすいね。私への憧れが直ぐに見て取れる。しかも従順だ。爵位も平民並みに低いし、使い勝手がいい。
先に言っておくと、私のペイジはもういるよ。だから君のことは、最初から遊ぶために呼び寄せたんだ」
ごくり。俺が息を飲む音が大きく響いた気がした。
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