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閑話:原作♡ 3-エリオットside
引き続き痛くてかわいそうな表現です。
=============
痛い痛い痛い。
許してごめんなさい助けてください誰か誰かだれか──!!!!!!
あれから、どれほどの時間が経過したのだろうか。 エリオットは全身を苛む激痛に喘ぎながら、ただひたすらに、見たこともない神に願っていた。
──早く僕を殺してください。
エリオットには、あの日から何日経過したのかもわからなかった。意識は断続的に途切れるものの、目が覚めるたびに絶望が更新される。ここが地獄であることに変わりはなかった。 ふと意識が浮上した時に誰もいないこともあれば、いきなり冷水を浴びせられ、嘲笑う男たちに囲まれていることもある。
飽きれば解放される──という楽観的な期待は、初日のうちに捨て去った。
エリオットは腫れ上がり、視界の潰れた瞳で床を見つめる。自身の汚物と血で汚れたそこは、間違いなく煌びやかな学園の床で間違いがなかった。
いつ目覚めても、あの日、入った空き部屋から抜け出せることはなかった。
いつの間にか膝の皿を砕かれたらしく、もはや這い蹲ることすらままならない。逃げ出そうという意志すら、暴力という圧倒的な恐怖の前に霧散していた。 飲まず食わずで何日経ったのか。出すものも出尽くせば、エリオットはただの、貧弱で物言わぬサンドバッグに過ぎなかった。
もう全身で痛くない場所なんてどこにもないだろう。
このまま死ぬのだろうという予感と、いっそ一思いに殺してほしいという切望が、混濁した意識の中で混ざり合う。
コツ、コツ。
静まり返った廊下に、乾いた足音が響いた。エリオットは反射的に身を縮こまらせ、奥歯を鳴らす。 いま目が覚めてから、周囲に人の気配はなかった。ならば、この足音の主こそが、次の暴力を執行する者だ。 涙さえ枯れ果てた眼球を、恐怖が支配する。
ガチャリ、と外から鍵が開けられる音がした。
「……酷い格好だ」
降ってきたのは、これまで俺を嬲ってきた下卑た連中のそれとは異なる、理性的で、冷徹な響きを含んだ声だった。
「しかも死にかけか。……ハズレだな」
男の気配が近づく。伸ばされた手に、エリオットは怯え、びくりと身体を跳ねさせた。だが、震える肌に触れたその掌は、驚くほど温かかった。
「お前はもう、私のものだよ」
その言葉が、蜘蛛の糸のように降りてくる。 たとえこれが更なる地獄への誘いだとしても、構わない。俺をこの痛みから連れ出してくれるのなら、悪魔の手に縋ってもいい。 これは天からの迎えなのだと、エリオットはただ、その温もりに意識を委ねた。
そうして、エリオットは表の世界から跡形もなく姿を消した。
両親がどれだけ学園へ問い合わせようと、彼の消息を辿れる者は誰一人としていなかった。かつて唯一の友人だったミランでさえ、あの日を最後に、裏切り者の彼を記憶の隅へ追いやり、二度と気に留めることはなかった。
エリオットは人間としての名前すら失い、ただ一体の「愛玩物」へと姿を変えた。
彼を拾った主人のことを、実はよく知らない。あの日、頭を執拗に殴打されたせいか、あるいは自身の吐瀉物やら精液やらの汚物が眼球を侵したのか、次に目覚めた時、ただでさえ悪かった彼の視力は完全に失われていた。 だが、暗闇の中で再開した世界は、ふかふかのベッドと清潔な消毒液の匂いに満ちていた。
「お前の膝が割れていたのは、ちょうどよかった」
主人の声は、低く落ち着いた魅力的な響きをしていた。
「あえてそのままにしておいたよ。医師の見立てでは、お前はもう二度と歩けない。……いいことだろう?」
逃げ出す脚を奪われたという宣告。それは常人ならば絶望する事実だが、目覚めるたびに地獄を繰り返していたエリオットにとっては、福音に等しかった。 もはや、誰からも逃げる必要はない。この暗闇の中で、この声に従ってさえいればいいのだ。
「……はい、ご主人様」
エリオットは、自分を地獄から引き上げた「温かい手」の感触だけを信じ、深い闇の中へと身を沈めた。
✦・┈┈┈┈┈┈┈┈ ・✦
番外編:終了です。
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痛い痛い痛い。
許してごめんなさい助けてください誰か誰かだれか──!!!!!!
あれから、どれほどの時間が経過したのだろうか。 エリオットは全身を苛む激痛に喘ぎながら、ただひたすらに、見たこともない神に願っていた。
──早く僕を殺してください。
エリオットには、あの日から何日経過したのかもわからなかった。意識は断続的に途切れるものの、目が覚めるたびに絶望が更新される。ここが地獄であることに変わりはなかった。 ふと意識が浮上した時に誰もいないこともあれば、いきなり冷水を浴びせられ、嘲笑う男たちに囲まれていることもある。
飽きれば解放される──という楽観的な期待は、初日のうちに捨て去った。
エリオットは腫れ上がり、視界の潰れた瞳で床を見つめる。自身の汚物と血で汚れたそこは、間違いなく煌びやかな学園の床で間違いがなかった。
いつ目覚めても、あの日、入った空き部屋から抜け出せることはなかった。
いつの間にか膝の皿を砕かれたらしく、もはや這い蹲ることすらままならない。逃げ出そうという意志すら、暴力という圧倒的な恐怖の前に霧散していた。 飲まず食わずで何日経ったのか。出すものも出尽くせば、エリオットはただの、貧弱で物言わぬサンドバッグに過ぎなかった。
もう全身で痛くない場所なんてどこにもないだろう。
このまま死ぬのだろうという予感と、いっそ一思いに殺してほしいという切望が、混濁した意識の中で混ざり合う。
コツ、コツ。
静まり返った廊下に、乾いた足音が響いた。エリオットは反射的に身を縮こまらせ、奥歯を鳴らす。 いま目が覚めてから、周囲に人の気配はなかった。ならば、この足音の主こそが、次の暴力を執行する者だ。 涙さえ枯れ果てた眼球を、恐怖が支配する。
ガチャリ、と外から鍵が開けられる音がした。
「……酷い格好だ」
降ってきたのは、これまで俺を嬲ってきた下卑た連中のそれとは異なる、理性的で、冷徹な響きを含んだ声だった。
「しかも死にかけか。……ハズレだな」
男の気配が近づく。伸ばされた手に、エリオットは怯え、びくりと身体を跳ねさせた。だが、震える肌に触れたその掌は、驚くほど温かかった。
「お前はもう、私のものだよ」
その言葉が、蜘蛛の糸のように降りてくる。 たとえこれが更なる地獄への誘いだとしても、構わない。俺をこの痛みから連れ出してくれるのなら、悪魔の手に縋ってもいい。 これは天からの迎えなのだと、エリオットはただ、その温もりに意識を委ねた。
そうして、エリオットは表の世界から跡形もなく姿を消した。
両親がどれだけ学園へ問い合わせようと、彼の消息を辿れる者は誰一人としていなかった。かつて唯一の友人だったミランでさえ、あの日を最後に、裏切り者の彼を記憶の隅へ追いやり、二度と気に留めることはなかった。
エリオットは人間としての名前すら失い、ただ一体の「愛玩物」へと姿を変えた。
彼を拾った主人のことを、実はよく知らない。あの日、頭を執拗に殴打されたせいか、あるいは自身の吐瀉物やら精液やらの汚物が眼球を侵したのか、次に目覚めた時、ただでさえ悪かった彼の視力は完全に失われていた。 だが、暗闇の中で再開した世界は、ふかふかのベッドと清潔な消毒液の匂いに満ちていた。
「お前の膝が割れていたのは、ちょうどよかった」
主人の声は、低く落ち着いた魅力的な響きをしていた。
「あえてそのままにしておいたよ。医師の見立てでは、お前はもう二度と歩けない。……いいことだろう?」
逃げ出す脚を奪われたという宣告。それは常人ならば絶望する事実だが、目覚めるたびに地獄を繰り返していたエリオットにとっては、福音に等しかった。 もはや、誰からも逃げる必要はない。この暗闇の中で、この声に従ってさえいればいいのだ。
「……はい、ご主人様」
エリオットは、自分を地獄から引き上げた「温かい手」の感触だけを信じ、深い闇の中へと身を沈めた。
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番外編:終了です。
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